自分の部屋
私の部屋はギルドの3階にあった。けど、正確には3階じゃないかもしれない。
というのも、私の部屋は特殊な作りになっていて、登録した魔力を流さないとその部屋に辿り着かない仕組みになっているらしいのだ。何を言ってるのかって? 私にもわかってないから大丈夫である!
「元々は普通の部屋で、この並びにあったんだが安全を考慮して改良されたんだ。扉はここでも、部屋の場所は全く違う所にある。俺の部屋とも扉1枚で繋がるようになってる」
「しゅ、しゅごいの……」
「カーター、マイユ、ミコラーシュの合作だね? 未だ嘗てこんなに手の込んだ個人部屋なんて作られた事ないんじゃないかな」
ひぇっ! そんなに手の込んだ部屋を与えられるなんて恐縮なんですけどっ! でも今更こんなお部屋もらえないです、なんて逆に失礼になるしね……あ、ありがたく使わせていただきますよ。身が引き締まる思いと共に……
「確か元はオーウェンの部屋だったのです。広さがちょうど良かったのとアイツ、寝るたびに違う女の家に転がり込んでるって噂なのですから、部屋なんて必要ないのですよ!」
プンスカしながらメアリーラさんが話してくれた内容は、なんとも微妙な心境にさせる内容だった。なるほど、確かに部屋は必要なさそうだ。だから気兼ねなく使えるよ、って言いたかったのかな? メアリーラさんて、ちょっと潔癖な所があるのかも。真面目で純情だなんて萌えちゃう……じゃなくて、それなら大雑把なジュマくんを思わず敵視するのも分からなくないなって思ったんだよ!
「まぁまぁ、彼の本命は君なんだから心配するような事はないと思うよ?」
「はっ!? なっ、なななな……っ!?」
続くケイさんの言葉に激しく動揺するメアリーラさん。ほう? そういう事?
「オーウェンも気を引きたければ別の方法を考えるべきなのに……馬鹿な男だなって思うよ。ボクが教えた通りにすればいいのにそうしないんだから」
ケイさんは何やらオーウェンさんとやらの恋の相談に乗ったらしい。ちょっ、そのアドバイスものすごく興味あるんですけどっ!
「ち、ちちちちち違うのですよっ! 私はあんな女たらし興味ないのですよ! だらしないから嫌だってだけなのですからねっ!!!!」
「……わかった。だからそろそろ部屋を開けていいか?」
大慌てなメアリーラさんと、それを見て可愛いなぁとクスクス笑うケイさんを華麗にあしらってギルさんがそう言った。まぁ、壁の前でワーワー言ってたもんね! 恋バナは機会があれば今度こっそり聞いちゃおう。
「ももももちろんなのですよ! さぁ、メグちゃん開けるのですよ!」
「入口はここだが、登録してない者が開けようとしても、ただの壁となる。この場所を知っている者は、この魔石に呼びかけると中にも聞こえるようになってる。まぁ、ここを知る者も限られてるがな……よし、最初は魔力を流してくれ」
入口は意外にも階段を登りきったすぐ横にあった。私の手の届く高さにピンク色の石が埋め込まれていて、そこにギルさんが何か魔術を施すと、ほわっと淡い光を放ち始めた。どうやら魔力を登録するらしい。
言われたままに石に手をかざして魔力を注いでみると……
「わぁ……っ!」
壁だったはずの景色が、可愛らしい部屋へと大変身! というか扉が開いたって事だね!
ギルさんに中へ促されるまま、部屋に入って観察する。壁紙はオフホワイトで、よく見ると銀色の小花柄になっていてとてもお洒落。床はミルクティー色のフローリングになっているけど、ベッド周りの一部分は円形に淡いピンク色の絨毯になっている。
「ベッドにクロー
思わずベッドに飛び乗りそのフカフカを堪能し、クローゼットに行って中を見たり、年甲斐もなく……いや、年相応なのかな? 思わずはしゃいでしまったよ! だってね、家具は基本的に木製なんだけど、細かくて綺麗な小花模様が彫られていたり、天蓋付きベッドのフカフカお布団は薄っすらピンクだったり……さらには三面鏡がついたドレッサーまであって、それがまたお洒落な造りで、何から何までが可愛くてまるで……
「お姫しゃまのお部屋みたいでしゅー!」
室内を駆け回りながらクルクル踊っていると、フウちゃんやホムラくんも楽しそうな雰囲気を感じたのかいつの間にか現れて、一緒に踊り出した。
「きゃんわいい……きゃんわいいのですよ、メグちゃんっ……! 私、キュン死にしそうなのですぅっ!」
「落ち着いて、メアリーラちゃん。確かにこれは本当に可愛いけど」
「だって……あ、ほら! ギルさんも! 口元手で覆ってますけどあれは萌え苦しんでるのですよ!」
「……そんなことは、ない」
「うそだぁ! なのですーっ!!」
なにやらあちらでも盛り上がっている様子。その間も私は部屋のあちこちを見て回っていた。
「あ、この扉がギルしゃんのお部屋とちゅながってるんでしゅか?」
「む。ああ、そうだ」
ふぉぉ、この向こう側にギルさんのプライベート空間が!
「……開けてみていいでしゅか?」
「別に構わないが……ベッドしか置いてないぞ」
あぁ、ほとんど外での仕事でここには戻らないから、きっとあまり私物を置いてないんだろうな。そう思って扉を開けると、自分の予想がまだまだ甘かったことを悟った。
「ベッド……だけでしゅね」
「だからそう言っただろう」
言葉通りベッドしか! 置いてなかった!!
いくら殺風景な部屋だとしても、ほら、クローゼットとか「影に収納するから必要ない」えっと、テーブルとか「使わない」……なるほどね!!
「……つまらない部屋だな。これ、監獄と変わらないんじゃないかい?」
私の後ろから部屋を覗いたケイさんがそう呟いた。流石に言い過ぎ! と思ったけど、ギルさん本人はそうかもしれないと納得しちゃってるよ!
「お、男の人の部屋って初めて見たのです……!」
ドギマギしながら言うメアリーラさんは感想の方向性が違ったけど、あの、たぶんみんながこうじゃないからね? お姉さん、ちょっと心配になるよ!
そんな様々な思いをまとめて胸にしまい込み、私はそっとギルさんの部屋へと通じる扉を閉めたのだった。
それからケイさんやメアリーラさんと、小さなソファやクッションがあってもいいね、とか抱いて眠れるぬいぐるみとかはどう? などの話で盛り上がった。それいいなぁ……実はぬいぐるみとか大好きなんだよね。UFOキャッチャー見つけたらつい取っちゃって、部屋が狭くなった思い出……
「そうだ。ラグランジェに作ってもらおう。そういうの作りたいって言ってたし」
「ランちゃん、しゅごいの」
「素敵なのですっ! 私もランさんに依頼しようかなぁ……?」
メアリーラさんもぬいぐるみスキーなんだね! 仲間だっ!
そしてランちゃんで思い出したけど、ギルドの看板娘の話、まだサウラさんにしてなかったなぁ。次に会った時に話してみよう。これで採用してもらえたら、ランちゃんに洋服のお礼としてしっかりお店の宣伝するんだ! その程度じゃ全然返しきれないけど、今の私に出来る精一杯だしね。
そういった決意もこっそり固めつつ、私たちは暫しどんなぬいぐるみにするかの会話で盛り上がったのでした。
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