ミニ会議
「でも、知る事で危険な情報もある。今後は出来るだけ聞かないようにな」
おそらく親として、ギルさんがそう付け足した事で、私は改めてまた頭を下げた。
「あい……本当にごめんしゃい……」
「いいんだ。それに、今回の件は話そうか悩んでいた内容だった。おかげで悩みが1つ解消されたから問題ない」
「悩んでた、でしゅか?」
お咎めはこの程度のものだった。けど、個人的に深く反省しているので、無闇矢鱈に聞くのはやめてね、と今度ショーちゃんにお話しようと思う。
そして今回の話は私にしようかどうか悩んでたそうで。話せば私が気に病むかもしれない、でもギルドのメンバーとして認められたからには、関わったメンバーの1人である私に聞く権利がある、と。ふむー。
「んと、これからも出来るだけ教えて欲しいでしゅ」
とりあえず自分の意思を伝える事にした。ちゃんとギルさんの目を見てお話し。
「私は、出来る事が少ないでしゅ。でも、何もわからないまま、知らない間に終わってたっていうのは嫌だなぁって。それに、ちゃんとお礼が言えましぇんから!」
そう。良い結果に終わったとしても、悪い結果に終わったとしても。やっぱり知ってたかどうかって後々胸にモヤモヤが残ると思うんだ。それに、頑張ってくれた人たちがいるなら、全てを理解した上できちんとお礼を言いたい!
「全部知ってるからこしょ、ありがとうって心から言えるでしゅよ!」
「……そうか。そうだな……わかった。今後はすぐに話すとしよう」
「メグちゃんは本当に心が綺麗だなぁ。その考え方すごく好きだよ」
褒められるとくすぐったい! 顔に熱が集まって、モジモジと照れ笑いをしてしまう。でも、言いたい事が伝わったみたいで良かったよ! 優しい空気に包まれて、とても幸せなひと時となった。
出発は今日の夜と聞いたので、それまで詳しい話を聞きたいとせがんだら、2人とも快く承諾してくれた。なので、そのままホールの軽食スペースに座ってミニ会議が開かれる。内容が内容なので、ギルさんが私たちの周囲に簡易の防音出来る結界を張ってくれた。ほんと、私のパパは万能すぎるよ……!
話してくれた内容は、概ね私も知っている内容で、今夜ニカさんとケイさんがジュマくんの足取りを追い、出来れば回収っていうのが目的なんだそう。何か問題がありそうでも、ひとまず深入りはせずにギルドへ戻るんだって。難しそうな問題の場合は前もって情報を集めてから作戦をたて、実行に移すらしい。状況によって予定は変更されるけどね、とケイさんは微笑んだ。
臨機応変な対応って事か。とても重要な判断を迫られる場合もあるよね。場慣れしてないと無理な芸当だなぁ。
「それにしても、ジュマは今どうしてるんだろうね? 例えば捕まっていたとしても、大人しくしてるような奴じゃないんだけどな」
「予期せぬ強敵が現れたか……」
「その線は濃いね。連絡がないなんてあり得ないし」
「心配でしゅ……」
脳裏にジュマくんの笑った顔が浮かぶ。応援したら嬉しそうに、おうって言ってくれたっけ。大丈夫かなぁ。うぅ、心配だ。
「大丈夫さ、メグちゃん。ジュマは本当に頑丈だからね。身体はもちろん、精神面もダイヤ並なんだから」
ダイヤ……! 鋼を通り越したね! うん、もし誰かに捕まっていたり、やられてしまったとしても、きっと悔しがって絶対やり返すとか思ってそうだ。というか、そもそも強敵がいたと決まったわけでもないしね!
「心配は心配でしゅけど……しょんぼりしてても良くないでしゅよね!」
うん、元気出そう。私が凹んでウジウジしてたって鬱陶しいだけだし。切り替え切り替え。出来ることも出来なくなっちゃうしね! そう思って拳をグッと握りしめた。
「んー、メグちゃんはポジティブだね。羨ましいな。ボクなんかいつも悪い方に考えちゃってね。これで実はボク、結構ネガティブなんだ」
ケイさんがそう言いながら肩を竦めた。へぇ、意外。いつも飄々としているから、なんでもソツなくこなしそうなイメージがあったよ。ギルさんも似たように思っていたのか、軽く目を瞠っている。
「良い方に考えようと努力はするんだけどね。いつも最悪を考えてしまうんだ。ふふ、ダメだろう?」
「? どーちて?」
いつまでもウジウジ悩んでいるだけで、行動もしないのは確かにダメだ。けど、ケイさんのネガティブは、常に最悪を想定しているってだけの話だと思う。楽観的すぎて後先考えない方が大胆な行動は出来るかもしれないけど、ケイさんのように悪い事を考えて行動するのは、ネガティブじゃなくて慎重っていうんだよ。
「ポジティブな人は、何か起きた時でも仕方ないかって思う気がするでしゅ」
自分の最善を尽くしたから、こうなっても仕方ないって割り切れるし、切り替えが上手い。それは良いことでもあるけど、諦めが早いって面もあるよね。
「ネガティブな人は、きっとこうなりたくないっていう思いが強いだけなんでしゅ。ケイしゃんは、実は負けず嫌いなんじゃないでしゅか?」
こうなったらどうしよう、こんな事になったら嫌だって思うから、最悪を考えちゃうんじゃないかなぁ? もちろんそうじゃない人もいるけど、ケイさんはこのタイプだって思ったんだよね。
人一倍、最悪を避けたいんだ。そう考える人は組織には絶対必要だと思う!
「負けず嫌い、か……確かにそうだね。目から鱗だよ、メグちゃん。君はすごいな」
「ケイしゃんの方がしゅごいでしゅ! 嫌でも怖くても、きっと諦めないで動く人でしゅもん!」
「んー、そこまで言われちゃうとボク、もう怖いからって逃げられないな」
ケイさんは恥ずかしそうに頰を掻きながらそう言った。照れてるケイさんは、いつものイケメンが鳴りを潜めてて、なんだか可愛いらしく見えた。
「あ、でも危ない時は逃げなきゃめっ、でしゅよ?」
「ふふ、そうだね。無茶はしないよ。ありがとう」
そう言って頭を撫でてくれた手は、少し冷たくて柔らかい。冷たいのはたぶん蛇さんだからだろうな。他のみんなのあったかい手も好きだけど、ケイさんのひんやりした感触も大変美味しゅうございますっ!
「まぁ、今話せる内容はこんなところだ。ケイ、まだ時間あるだろ。メグの部屋を見て欲しい」
「ん、オーケイ。意見があれば欲しいって事だね?」
「お部屋……? 私の、でしゅか?」
「……精霊から聞いてないのか?」
私のお部屋ですと? ショーちゃんから聞いたのはジュマくんが帰らないという情報だけだったから知らないよ! その意味も込めて首を横に振った。
「ふむ。ならば余計に今連れて行った方がいいな。今日からは医務室ではなく、自分の部屋で寝泊まりだ」
「あー、惜しい事をしたなぁ。黙って連れて行けばもっとメグちゃんを驚かせられたのに」
ケイさん、サプライズだなんてやっぱりイケメンの発想だ。でも自分のお部屋が出来ただなんて結構楽しみかも。
「では部屋に行くか」
「賛成でしゅー!」
こうして席を立った私たちは、一度医務室へ寄って私の洗面用具やらちょっとした着替えを取りに行き、お世話になりましたと簡単なご挨拶へ向かった。まるで遠くへ引っ越してしまうかのようにメアリーラさんに涙ぐまれながら引き止められる、というアクシデントがありつつ。入れる時は一緒にお風呂に入りましょ、という事で手を打ち。毎日一度は顔を出してくれというルド医師の言葉に返事をして、ようやく部屋へと向かうこととなりました。ルド医師もほんの少し寂しそうにしてくれたのが嬉しくもあり、ちょっぴり寂しくもありでした。
あ、あれ、メアリーラさん、ついてくるの? 乙女の部屋は乙女がチェックしなきゃね! って張り切ってるけど……メアリーラさんの中の、ケイさんの位置付けを垣間見た気がした。
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