エルフの郷
こうしてフウちゃんという新たな心強い仲間が出来たわけだけど、結局連絡手段はどうなったのかしら? と考えていると、シュリエさんはまさにその説明をし始めた。この人、ショーちゃんみたいに心を読めるのかっ!? 驚愕してたらショーちゃんに、ご主人様はわかりやすいのよーと言われてしまった。それはそれで由々しき事態だ。
「私の最初の精霊であるネフリーはかなり強力な個体です。そして、私と魂で結びついた大切な相棒。ですから、もし何か用があれば、今名を与えた風の精霊に伝言を託してください。その子からネフリーへ、ネフリーから私へと言葉が伝わりますから」
『任せてねっ、
『いつでもおっしゃってくださいな』
頼もしい精霊ちゃんたちのお言葉にほっこりする。ネフリーちゃんとフウちゃんは並ぶと親子みたいだなぁ。癒しだ……もふりたい。
さらなるシュリエさんの説明によると、エルフ同士はこうして精霊伝いに連絡を取り合うのが主流なんだって。距離が離れすぎた場合は、どちらかが強力な個体だったり最初の精霊じゃなくちゃいけないらしいんだけど。もちろん、風以外の精霊でも出来るという。ただ、同じ系統の精霊同士しか連絡は取り合えないんだって。
「私はこれで故郷の仲間とたまに連絡を取り合うんですよ。今回は確認しなければならない事がありますから、直接赴きますけどね」
「シュリエしゃん、エルフの郷に行くんでしゅか?」
お仕事のために行くのはまさかのエルフの郷! そっか、だから暫く留守にするんだね。1、2週間だから、それなりに遠いのかな? それとも案外簡単に行けるのかしら。なんかこう、異世界っぽいよね! どんなところなんだろう……超絶美麗な集団が住む秘境……なにそれ、怖い。美人に慣れすぎて理想が高くなって、お嫁に行き遅れたらどうするんだ!
「……エルフの郷に興味がありますか?」
「あい! どんなところなんだろうなーって。あ! でもついて行きたいとかじゃないでしゅよ? お仕事の邪魔になっちゃいましゅから」
「そうですか……」
あれ、何だろう? どことなく切なげな表情だ。なんか変な事言ったかな、私。けど、そんな表情をしたのは一瞬で、すぐに笑顔を浮かべてこう言ったんだ。
「今回は無理ですが……いつか一緒に行きましょう。この辺りと違って自然豊かで素晴らしい景色ですよ。一面の花畑や神秘的な泉、その他にも色んな場所に案内しますよ」
「ふわぁ……ありがとうごじゃいましゅ!」
シュリエさんが触れずにいるのだから、私も気付かないフリをするのが正解だろう。嘘はつかないと信じてるから、それが100年先だろうといつか実現するだろうなって思ったよ。まぁ、気長に待とう。私も成長しなきゃいけないしね!
「道中は危険があるかもしれないが、エルフの郷自体は観光地になってるからな。とは言っても人でごった返す事のないよう、人数制限されてたが」
まさかの観光地!? え、エルフの郷でしょ? もっとこう……神聖な雰囲気で空気が澄んでて神秘的な秘境って感じだったりするんじゃないの? さらに言うなら排他的で他の種族を寄せ付けないような、そんなイメージすらあったんだけど!
「そこまで広くないですからね。郷の清浄な土地柄は魔力の回復にはうってつけの場所ですから。エルフだけで独り占めするのは勿体無いと郷の入り口を開き始めたと聞いています。もちろん、エルフ以外の他種族が入れない区域もありますけどね」
なるほどー。エルフさんたちは多種族に優しいんだね! それに、話のわかる種族っぽい。勝手なイメージ持ってたらダメだね。私の持つイメージなんて、日本にいた頃の物語で植え付けられたものなんだから。現実は全然違うって事くらいあって当たり前だ。先入観は捨てなきゃね!
「さて、そろそろ私は発たねばなりませんね。メグ、しばらくお別れですが、次に会う時を楽しみにしていますよ」
ふぉう、プレッシャー! うう、でも頑張るんだからー!
「あいっ! シュリエしゃんも、気をちゅけて行ってきてくだしゃいね」
「ええ、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑みながらシュリエさんは頭を優しく撫でてくれた。しばらく会えないのでハグもー! と子どもの特権を使い、両手を伸ばして催促すると、蕩けそうな笑みでシュリエさんはそれに応えてくれた。やったー! ああ、このいい香りもしばらくお預けかぁ。……スンスン。
「では、失礼しますね。ギル、後はお願いします」
「ああ」
名残惜しいけど仕方なし。ギルさんにも軽く挨拶をしてシュリエさんは医務室を後にした。少し寂しい気持ちになっていると、ショーちゃんが寄り添ってくれた。
『私たちがいるのよー! ご主人様、元気出してなのよー』
『用がなくても呼んでねっ! お話相手もするよっ』
そんな事を言ってくれるショーちゃんにフウちゃん。う、うちの子可愛すぎか。思わずデレっとしてしまう。いい子いい子。
「……朝飯にするか?」
さらにはギルさんまで。大きくて暖かい手が頭に乗るってのはなんて落ち着くんだろう。みんな、私が寂しがらないように元気付けてくれてる。この優しさに答えるには、私は元気でいなくちゃね!
「あいっ! お腹ペコペコでしゅー! あ、いたた」
勢いよく万歳しながらそう言ったはいいんだけど、ギシギシな身体が悲鳴をあげた。くぅ、かなり重い筋肉痛のようだ……! この若さでおばあちゃんみたいだよ!
それを見ていたギルさんはクスリと笑い、軽く頭を撫でてくれた。
「朝はここで食べるか。持ってきてやる」
「いいんでしゅか?」
「ああ。だが、食後はリハビリだ。こういう時は少しずつでも動いた方が回復が早いからな」
「う、頑張りましゅ……!」
じゃあ少し待てとギルさんは言い残して医務室を去って言った。ぼんやりその後ろ姿を見ていたら医務室の奥からボソっとレキの声が響いた。
「……親バカだな」
いや、ごもっともだけどさ! 良いではないか、こんな時くらい甘やかされたって!
「お前はお前でまだまだ甘ったれって事か。ふん、年相応でよろしいじゃないか」
なぬーっ! わ、悪いかチキショー! 中身的にはアウトでも、外見的には十分アリでしょ! それとも、何? レキにも甘えていいってか?
ぐぬぬと唸っていたら、得意げな表情でチラとこちらを一瞥したレキ。ちょ、鼻で笑わないでくれる!? むうっとほっぺを膨らませて睨んだけど、レキは何もなかったかのように仕事へと戻っていった。
な、なんかお姉さんが知らない間に大人びてません?
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