オルトゥスへようこそ


「こほん。声の精霊の事は少し保留にしましょう。でもメグには宿題として、精霊の性質について知る作業をしてもらいます」

「宿題?」


 私から手を外し、仕切り直したシュリエさんがそう告げる。ショーちゃんの事は私もまだよく知らないから、当然これから少しずつ知って行こうと思ってたところだけど……どうして宿題?


「2日前の夜に頭領ドンが帰ってきました。メグ、あなたの事も見て行かれたのですよ」

「うぇっ!?」


 な、なんですってー!? なんか起き抜けに驚いてばっかだな、私。でもこれには特にビックリだよ! だって関わる事もないだろうと思ってたギルドのトップとの邂逅を、知らぬ間に果たしてたんだもん。……意識なくて良かったかも? 緊張しておかしな事口走りそうだし。


「その時、少し仕事を任されたのです。私は1週間か2週間ほど、ギルドを留守にする事になります」

「え……」


 そ、そんな! せっかくショーちゃんと契約出来たから色々聞きたかったのに! 私がわかりやすくショックを受けた顔をしていたのだろう。シュリエさんは苦笑しながら話を続けた。


「そんな顔されると決心が鈍りますね……ですが頭領ドンとの仕事ですからね。だからこそ宿題です」


 そっか、トップから出された仕事なら断れないし、何より大切なお仕事だよね。わがままなんか言ってられないや。


「わかりまちた! 私、頑張るでしゅよ! シュリエしゃんが帰ってきた時、ビックリさせちゃうでしゅ!」

「ふふ、その意気ですよ。それでこそオルトゥスのメンバーです」


 え、今なんて? オルトゥスのメンバーって、言われたような気がしたんだけど……


「……頭領ドンがお前が望むなら喜んで受け入れると。メグ、お前はオルトゥスの一員になる事を望むか?」


 不思議に思ってたらギルさんからまさかの情報。いやぁ、ほんと。今日は朝からビックリデーだよね。というか、本当にいいのか、それで!? 私、頭領ドンと話してすらいないけど!

 そんな私の心情を察したかのように、シュリエさんはクスクス笑う。さすが師匠、お見通し。


「気持ちはわかりますけどね。メグ、あなたは種族から言っても十分資格ありです。これは生まれ持ったものですし、運でしかありませんけど。だからこそ、これからの努力次第でオルトゥスにとってなくてはならない存在になり得るのです。つまり、全てはメグ次第、というわけですが……いかがですか?」


 最初の精霊契約も無事に終えましたしね、とシュリエさんは美しくウインクをした。うっかり見惚れそうになったけど、今はそれどころではない! 私の答えは決まっているぞー!


「っあい! 私、オルトゥしゅの仲間になりたいでしゅ!」


 私は迷う事なくそう宣言した。少なくともここにいる間は、私はオルトゥスのメグでありたいから。

 もし、私が元の世界に戻ったとしても……存在が消えてしまったとしても、この身体の所属は安泰って事だもん。きっと、安心して行ける。


 私の返事を聞いたギルさんとシュリエさんは一度アイコンタクトを取ると、微笑みを浮かべた。それから、では改めてと言ったんだ。


「「ようこそ。特級ギルド『オルトゥス』へ」」


 なんだか身が引き締まる思いがした。




「では、私はそろそろ出発します。大丈夫ですよ、連絡を取る手段はありますから。ネフリー」


 その後、少しだけ他愛もない話をした後、シュリエさんがそう切り出した。しばらく会えないのは寂しい、と顔に出ていたのだろう。クスリと小さく笑われつつ風の精霊ネフリーちゃんを呼び出したシュリエさん。連絡手段に、ネフリーちゃん?


「メグ、この子は風の精霊です。そう呼んで見てください」

「あい。えと、風の精霊、ネフリーちゃん?」


 すると、黄緑色の鳥なネフリーちゃんはふわりと優しい光を一瞬強めた。と同時に、何か絆みたいなものが私とネフリーちゃんの間に結ばれたような感覚がする。おぉ!?


『うふふ、メグ様とお話出来て嬉しいですわ!』

「あ! しょっか、なんの精霊しゃんか答えたから、お話出来るんでしゅね! わぁい、私も嬉しいでしゅ!」

「早速ですがネフリー。あなたの仲間を呼んでくれませんか?」

『お安い御用ですわ! 先ほど魔力を頂いた分で働きますわよ!』


 黄緑の鳥さんがお嬢様口調なのが地味にじわる。でもなんというか、シュリエさんの最初の精霊だなぁって感じだ。……それを言ったら「なのよー!」口調なショーちゃんは実に私っぽいかもしれない。なんだろう、類友なのかな?


 くだらない事を考えていると、目の前にネフリーちゃんのような黄緑色の光がふわりと現れた。ネフリーちゃんの友達かな?


『この子はわたくしと同じ風の精霊。この子ならメグ様と契約しても問題ありませんわよ? 私が保証いたします!』

「ネフリーがそこまで言うなら間違いないでしょう。メグ、この子をまた呼んでみてください」


 よくわからないけど言われるがままに私は風の精霊に呼びかけてみた。すると、目の前の精霊さんが黄緑色の小さな鳥の姿へと変わっていく。まるで小さなネフリーちゃんみたい。尾羽が少しだけ長くてモフモフな小さな鳥さんだ。


「かわいー!」

『きゃっ、ありがとっ!』


 小さな鳥さんは可愛らしい声でそう答える。ますます可愛い。


「ではこの子に名前を与えてください。呼び名で結構ですよ。最初の精霊契約と違って、僅かな魔力で済みます。今後は風魔術を使う度に魔力を渡してお手伝いしてくれますよ。呼び名は目印のようなものですから」


 こうして呼び名をつけた精霊を中心に同じ系統の精霊が仲間同士で協力して魔術を発動させるんだって。大きな魔術だと精霊1体じゃ無理だからだそう。なるほどー。


『名前っ、くださいなっ!』


 催促可愛い……っ! えーと、でも私のネーミングセンスってこう、あれなんだよなぁ。ああ、シュリエさん、そんな期待のこもった目で見ないでぇっ!


「じゃ、じゃあ……フウちゃん。あなたは今日からフウちゃん、でいいかな?」

『フウ! 可愛いねっ! 嬉しいっ、ありがとーっ』


 どうやら気に入ってもらえたらしく、ほんのりと心が暖かくなるのを感じた。絆が結ばれたのかなって思う。


「可愛らしい名前ですね。呼びやすいという面からもとても素敵な名前だと思いますよ」

「そ、そうでしゅか? えへへ」


 ギルさんも隣で良いな名だと言って頷いている。それが親心からなのか、心底そう思っているのかはわからないけど、変な笑みは見られないので心底思ってくれたのだろう。


 しかし! 日本人なら安易な発想が過ぎるとツッコミが来ること間違いなし! 悪いかっ! ……だって突然名前付けること多いんだもん。これが私の限界だよ! でも元日本人でもない限り気付かないんだから問題なしだっ!

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