ギルド地下の仲間たち
お目覚め
「んむぅ……?」
甘いリンゴのような香りで目が覚めた。食いしん坊みたいだなぁ、私。
「! 起きたか。今、みんなを呼ぶ」
「レキ……?」
どうやら医務室で眠っていたらしい。えーと、確か……そうだ。声の精霊と契約したんだった! 契約出来たんだよね……? うーん、実感がないから不安だ。
「起き上がれるか」
「? あい! あ、いたた」
起き上がろうとしたんだけど妙に身体が重いし少し目眩がする。まだ魔力が回復しきってないのかな? レキに支えられながらゆっくりと起き上がり、座らせてもらった。うう、しんどいけどそれはつまり、契約は出来たって信じていいんだよね?
「……飲め」
「ありがとー!」
不安だけども目の前に出されたアップルティーの香りには勝てません。レキが飲みやすい温度で淹れてくれたお茶はとても美味しかった。暖かいお茶が全身に染み渡るようだ。心なしか疲れも取れる! 目覚めにお紅茶だなんて、なんだかセレブリティ!
「メグ!!」
「! ギルしゃん」
穏やかにお茶の時間を楽しんでいると、医務室のドアが乱暴に開けられ、バァンッ! と大きな音がした。ドア、壊れてないだろうか。レキが医務室内では静かにっ! と怒鳴ったけど、大きな音を出した当の本人、ギルさんはすまんと一言だけ呟いて風のような速さで私の元へと駆け寄った。んな大げさな!
「どこも痛いところはないか? 苦しいところは? 熱は?」
「え? ちょっと怠いくらいでしゅけど……」
焦ったようにギルさんは私のおでこや頰を触って確認しながら矢継ぎ早に質問してくる。な、なんで? 疑問に思いながらもされるがままにしていると、ようやく私の無事が納得できたのか、ギルさんは長く深いため息とともに良かった、とこぼした。
「僕たち、医療担当が信頼出来ないのかよ」
「いや、信頼はしている。だが……」
腕を組んで機嫌悪そうにレキが言うと、ギルさんは困ったような顔になった。
「心配なものは心配なんだよ。理屈じゃなくて、ね。そうだろう? ギル」
「あ、ああ……」
「全く、冷静沈着なギルがそんなに慌てるなんて。よほどメグが大切なんだね。気持ちはわかるけどね」
戸惑うギルさんの言葉を引き継いだのは、医務室奥のカーテン裏から出てきたルド医師だった。ええ? そんなに!? 心配っていったって、精霊と契約するのに魔力をたくさん使って倒れてしまうのは、ギルさんだって知ってただろうに。そう思って首を傾げていたんだけど、それが甘いことだったとルド医師の言葉で気付かされる。
「メグ、わかっていないみたいだね。仕方ないか。君はね、精霊と契約してから3日半眠り続けていたんだよ。今は契約した日から4日目の朝だ」
な、な、なんだってー!? そりゃ心配するわけだわ! 起き上がるのにも苦労するわけだわ! そして今気付いたけど点滴してるし!
「その間、レキがずっと寝ずに看病していてくれたんだよ」
「レキが……?」
な、なんと……約4日間もこうしてついててくれたっていうの!? 寝ずに!? ハイスペックですね、亜人さん……思わずレキの方を凝視したけどプイとそっぽ向かれてしまった。
「ふん、仕事だから。ルド医師、書類まとめ終わったらもう休んでいいんだろ?」
「そうだね。久しぶりにゆっくり休むといい。明日は午後からでいいよ。書類もその時で構わない」
「先に終わらせたいからやっとく」
くあっと大きな欠伸をしながら医務室の奥へ去ろうとするレキ。ま、待て待て! お礼を言ってないよ!
「レキ! ありがとーでしゅ!!」
レキは振り返りもしなかったんだけど、片手を軽く上げて返事をしてくれた。まったく照れ屋さん!
レキと入れ替わるように医務室にやってきたのはシュリエさん。こちらは私がしばらく目覚めないのを知っていたからか、そこまで焦った様子は見られなかったけど、少しホッとした顔になっていたので心配してくれていたのだという事がわかった。
「シュリエしゃん」
「メグ、おはようございます。身体の調子はいかがですか?」
「えと、ちょっとギシギシするでしゅ」
「ふふ、それは仕方ないですね。子どもですから、すぐ良くなりますよ」
にこやかにそう告げたシュリエさんは、私の頭を優しく撫でてくれた。あー、このよしよしは最高です! そうだよね、今の私は子どもなんだもん。回復力はピカイチなはず! なんかここ来て私、身体の性能に頼りすぎな気がするなー。
あ、そうだ。シュリエさんが来たなら気になっていたことを確認しよう!
「あの、私、ちゃんと契約出来たでしゅか……?」
これだよ。これといって変わった感じがしないから不安で不安で。でも、シュリエさんは微笑みながら肯定をしてくれた。それだけでほっと一安心。だけど……
「でも、前と何も変わらない気がして……」
「ふふ、わからないかもしれませんが、ちゃんと変わっていますよ。魔力の質が、自然魔術向けに変わりましたから」
魔力の質。そんなものがあるのね。でも私にはちっとも違いがわからないや。しょぼん。
「そうですね、実感するためにも、精霊を呼んでみてはどうでしょう。どこにいても、召喚されるようにすぐ側に来てくれますよ。あ、もちろん、愛称で呼んでくださいね」
そう言ってシュリエさんは自身もお手本、というようにネフリーちゃんを呼び出してくれた。よ、よぉし。私も呼んでみるぞ! ドキドキ。
「ショーちゃん……?」
するとふわっと心があったかくなって、気付けば目の前に全身淡いピンク色のおかっぱちゃんが現れた。
『はいなのよー! ご主人様!』
「ご、ごしゅじんしゃま……!」
感動した。
うわーうわー、可愛いよー! 嬉しいよー! やっと実感出来た。良かった、安心したよ。私、ちゃんと精霊契約出来たんだね! 少し自信がついたよ!
『うふふ、可愛いだなんて照れるのよー! ご主人様、私も契約出来て嬉しいのよー!』
私の心を読んだのか、ショーちゃんは嬉しそうに飛び回りながらそう言った。私もなんだか嬉しくなって、もうっ、また心を読んだのね? と冗談めかしてショーちゃんを指でつつく。
「心を、読む……?」
すると、シュリエさんが突然真剣な表情でそう呟いた。んん? あれ?
「精霊しゃんは、何となく人の心がわかるんじゃないんでしゅか?」
みんなそうだと思ったんだけど……あ、あれ? シュリエさんの反応を見るに、そうじゃないらしい? ショーちゃんだから出来ることなのかな。
「……『声』の精霊ですから、人の『心の声』もわかる……?」
シュリエさんが考えるようにそう言うと。
『聞こえるのよー? 人だけじゃなくて、生きてる者ならみーんな! 樹も花も、魔物も! だってみんな声を持っているものー!』
へいへいへい、ショーちゃん? あなた、コンプレックス感じてたみたいだけど……十分凄い力持ってるじゃない!?
「……メグ。この事は人に話さないようにしてください。絶対ですよ?」
両肩に手を置かれ、至近距離の笑顔でシュリエさんに言われた私が、おもちゃのように首を縦に何度も振る事しか出来なかったのは、無理もないと察していただきたい。あ、圧が……!!
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