最初の精霊契約
偶然か、必然か、声の精霊が導いたのか。辿り着いたのは私が初めて精霊がいる世界を見られるようになった場所だった。
「訓練場か……」
そう呟いて影鳥を飛ばすギルさん。きっとシュリエさんに連絡したのだろう。
その事にほっと安心した私は、早速声の精霊の元へと数歩近付いた。声の精霊は逃げることもなく、私を待っていてくれたみたいだった。
「こんにちは、声の精霊しゃん」
『……こんにちは』
精霊は誰かの声ではなく、自分の声でそう答えてくれた。思わず頰が緩む。精霊もくすりと笑っているような雰囲気が何となく伝わってきた。
「どうちて、ここまでつれてきてくれたの?」
私がそう尋ねると、精霊は少し戸惑った様子を見せた。でも、逃げることなくちゃんと答えてくれる。
『変な感じがしたのよー。貴女と、ちゃんと話をしなきゃって。そんな気がしたのよー』
この子も私と同じように思っていてくれたんだと知って嬉しい。今日はきちんとお話出来そうだ。
「あにょね、私ね、やっぱりあなたと最初に契約ちたいの」
『……でも、私は……』
もにょもにょと言い淀む精霊。自分に自信が持てないんだね。
「ちゃんと聞くよ。だからね、思ってること、話ちてみてくれないかなぁ?」
私がそう声をかけると、淡いピンク色の光がフルフルッと震えた。それから、わかったのよーとようやく精霊は話し始めてくれた。
『私は、ただの声の精霊。音の精霊なら声も音として使えるし、私よりもっと力の幅があるのよー。それに、私は歌の精霊みたいにみんなを喜ばせることも出来ないのよー? 私は、声を拾って、真似っこする事しか出来ないから……だから、あなたを守れない、力になれないのよー!』
初めてこの子の本音を聞けた。そっか、音の精霊や歌の精霊、その他の精霊たちに対してコンプレックスを抱いてたんだね。その気持ち、すごくよくわかるよ!
『でもね、私、あなたの事好きよー! 側にいると心地良いの。仲良しになりたいって思うのよー! 大好きだから、力になれないのに側にいるのは嫌なのよー!』
「精霊しゃん……っ!」
そんな風に思っていてくれたのね! てっきり嫌われたのかと思ったよ! そっか、コンプレックスとプライドと、それから側にいたいって思ってくれる気持ちとで揺れ動いていたんだ。うう、なんて可愛いの!
「じゃあ、力になって? 精霊しゃん」
『えっ』
「やってもみないうちから出来ないなんて、どーちてわかるの? だいじょぶ。あなたなら私の力になってくれる! 私はそう信じてるよ」
きょとん、とした様子が伝わってきた。それから、じわじわと嬉しい気持ちが。
『ほ、ほんとに?』
「うん」
『私で、いいの……?』
「うん! 声の精霊しゃんが、いいんでしゅ! けーやく、してくれる?」
『……! うん! 私、がんばるのよー!』
やったー! ついにオーケーもらえたよ! プロポーズが成功する気持ちってこんな感じなのかしら? ううん、何はともあれ嬉しい! そう思って両手を万歳しながらぴょんぴょん跳ねまわっていると、訓練場にシュリエさんが駆け込んできた。おぉ、なんてナイスなタイミングなんだ。
「メグ! 契約が決まるって本当ですか?」
「あいっ! 今やっと、オーケーもらったの!」
シュリエさんは、きっとかなり急いで来てくれたというのに、ふぅっと軽く一息ついただけで息を整えた。すごい、私ならしばらく話せもしないよきっと。
それからシュリエさんは真剣な眼差しで声の精霊を見つめた。精霊の戸惑う感情が伝わる。が、がんばって!
「あなたが、声の精霊ですね?」
シュリエさんが精霊の正体を口にすると、精霊はふわりと光った。あ、そうか、これでようやくシュリエさんもこの子とお話できるようになったのね。
『そ、そうなのよ!』
精霊はどもりながらもハッキリと答えた。うん、いいぞ、その調子!
「……覚悟は出来ているのでしょうね?」
『……うん。私に出来る、精一杯をこの子に、なのよ!』
暫し2人の間に沈黙が訪れる。ドキドキ……
「……いいでしょう。契約の儀式を行います」
「! お、お願いしましゅ!」
許してもらえたみたいだ! いよいよ、儀式が始まるんだね!
そして、すぐに儀式は行われることになった。ギルさんとシュリエさん以外の、訓練場にいた人たちに少しだけ席を外してもらったのがちょっと申し訳ないけど、シュリエさんの微笑み付きの「お願い」を断る人はいなかったよ。ふ、不思議だね!
「言葉に魔力を乗せて、名を与えるのです。魔力を乗せた言葉なら、メグと精霊以外に聞こえませんから真名が知られる心配はありません。たとえ聞こえても、私やギルなら問題ありませんし。大丈夫、心に従ってくださいね」
名前!? えっ、考えてないよ!? まさか契約する時に名前が必要だなんて思ってもいなかったから内心で大慌てである。えーと、えーと……
『けーやく! けーやくするのよー!』
すると声の精霊は嬉しそうに舞い始めた。辺りにおそらく魔力と思われる不思議パワーが充満し始めたのを感じる。ま、待ってー!
え、ええい、ままよ! 元社畜なめんなよっ! 無茶振りなんて慣れっこなんだからね! くすん。
ちなみに、言葉に魔力だなんてどうやってのせるの!? と本来なら思うところなんだけど、不思議とやり方がわかった。これがエルフの血……!
『声の精霊しゃん。あなたに名前を贈るね! あなたの名前は……』
えーっと、えーっと……! よ、よし、これだっ!
『
『ハセガワショウ……私の、名前……!』
その瞬間、訓練場が眩い光で覆い尽くされた。身体の中心から何か熱い力がどんどん抜けていくのがわかる。これが魔力なんだろうけど……抜けすぎじゃない!? 大丈夫かな、と心配になる。
でも、名前をもらえてとても嬉しい! といった喜びの感情が流れ込んできて、気分はとても良い。ネーミングについて安易と言うなかれ。これが私の限界よ! でも、良かった、喜んでもらえて。まさか
「これから、よろしくでしゅ。……ショーちゃん」
『よろしくなのー! うふふ、私、ショーちゃん!』
淡いピンクの光だったショーちゃんは、徐々にその姿を変えていき、人型へと変わった。眉より上で切りそろえられたパッツン前髪に、少し外側にはねているおかっぱ頭。性別を感じないスタイルで、頭のてっぺんから足の先まで淡いピンク色。
「人型の精霊ですか……これはまたなんとも珍しい」
シュリエさんがそう呟くのが聞こえたけど、質問することは出来なかった。
だって、もう限界。指先すら動かせないもん。そして物凄い睡魔。
「大丈夫ですよ。安心しておやすみなさい」
シュリエさんの優しい声を子守唄に、私は意識を手放した。
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