えげつない攻撃
戦闘が始まった、といっても正直音声だけなので何が起こっているのかはあまりわからない。風切り音や爆音、何かを殴る音やぶつかる音など。どちらが攻撃して、どちらがやられた音なのか、どんな攻撃なのか全然わからない。
なので、ギルさんに解説をお願いしましたー! ギルさんは音声だけでなく、その場の状況を詳細に知る事が出来るらしいからね。
でも、考えてみればそのくらいがちょうどいいかもしれない。だって、実際目の当たりにしたら、幼女な私は号泣するかもしれないしね! とほり。
「ジュマがひたすら応戦してるな。エピンクが殴りかかったり、魔術で攻撃している。……サウラに向かって」
な、なんだと? 弱い方を狙うなんて卑怯者ー! でも2対1ならまず弱い方を、っていうのは作戦として仕方ないのかな……うう、でもサウラさんが心配だよ! ジュマくん? はあんまり心配してない。なんかジュマくんがやられる所を想像できないんだよね。サウラさんやシュリエさん相手以外に。
「サウラしゃんは? 無事でしゅか?」
影鳥から聞こえる怒声や爆音が聞こえるたびに、やはり不安になるのでそう尋ねると、ギルさんは少し口角を上げてもちろん、と答えた。
「サウラは完全にジュマを信じきっている。その場で目を瞑り、仕掛けに集中しているぞ」
「仕掛け?」
そういえば、前にサウラさんがジュマくんに「お仕置き」する時、新作がどうのこうの言ってたっけ。サウラさんは戦うのに道具かなんかを使うのかな?
「サウラディーテはトラップマスターなんだよ。小人族は手先が器用で魔術運用も得意な種族と言われていてね。
え、えげつない……? それはサウラさんがなのか
「その仕掛けを施す為には精密な魔術運用をする必要がある。サウラといえど時間が多少かかるんだ。その間、サウラは無防備になる。事前準備が出来る建物内や戦争と違って、今回はリスクが高い」
「でも、今回は敵が1人だし、何よりジュマがいるからね。ジュマは誰かを守りながら戦うのは苦手だから少し心配ではあるけど、エピンクに遅れはとらないと思うよ」
「何より、サウラがジュマを信じて頼り、ジュマはそれに応えた。ミスは起こさないだろう」
なるほど。確かに罠を張るっていうのは事前準備が必要だよね。それがサウラさんの武器なのかぁ。小さな小人族ならではの戦闘方法なのかもしれないなぁ。同じだけ体術が出来たとしても、どうしても身体の大きさはハンデになっちゃうもんね。魔術の威力というより、運用でカバーするっていうのは省エネで効率も良さそうだ。
私なんかも身体が小さいし魔力もさほどないわけだから、サウラさんの魔術の使い方が参考になるかもしれない。機会があれば少し勉強させてもらいたいなぁ。……えげつないのは、その、内容によりけりだけど!
「ふむ。ジュマはなかなか上手くやっている。高火力の一撃必殺系な奴だが、サウラの集中の妨げにならないよう配慮もしているようだ。あのジュマが」
「へぇ、あのジュマが!」
ジュマくん、活躍してるはずなのになんて言われようなんだ。普段の戦闘の様子を見たことがないからなんとも言えないけど、2人にそう言わせるという事は、いつもは派手に立ち回るんだろう。そんなジュマくんが、ちゃんと命令を期待以上にこなしている、ときたらむしろご褒美考えなきゃじゃない?
『あ————! しゃらくせえっ! もっとこうドカンと派手にぶっ放したいんだけど! オレが殺っちゃダメ!?』
あっ、ストレスはたまっていたらしい。
「ダメだ、ジュマ。お前がやったら奴が死ぬ」
『あーっくっそー!!』
すかさずギルさんがそう返事をした。そっか、ギルさんなら声を向こうに届けることも出来るんだね。
でもそのことでエピンクがようやく気付いたようだ。
『その声……影の奴だなー? 小人が突然来たからおかしいと思ったんだし! 一体どこから監視して……!? ま、まさか!』
ギルさんの能力を少しは知っているらしいエピンクは、監視されてることに気付き、それからすぐに捕らえたエルフの子どもが偽物かもしれないと思い始めたようだった。最初から気付かないのは3流だとケイさんは言ったけど、少しのキッカケで気付いたエピンクは、私からみたら十分凄いと思う。だって私なら最後まで気付かない自信あるもん。元社畜とはいえ、私は一般人だからね!
『に、偽物だし! なんだこれ……いつの間に!?』
『いつの間にっつったら、そりゃお前……最初からだぜ?』
エピンクの驚いた反応に、楽しそうに返事をしたジュマくん。直後に轟音が響いたので恐らくジュマくんが仕掛けたのだろうと思われる。
『よしっ! 準備オーケーよ、ジュマ! お待たせ、良くやったわ!』
『おー、早かったじゃん』
そうこうしてる間にサウラさんの準備とやらがおわったようだ。結果が気になるような、知るのが怖いような。
『くっそー! オイラただの道化じゃん! なんなんだし、もー!』
音声だけでもエピンクが地団駄踏んで悔しがっているのがわかる。そもそも、誘拐しようとするのが悪いんだぞ?
『ぜってぇ、このままじゃ終わらないんだし!』
『甘いわ。この件からは手を引きたくなるように仕向けるまでがサウラさんよ?』
『はぁ? 何言ってんだし』
手を引きたくなるように仕向ける……え、もう怖いんだけど。察して! 敵だけど何となく超逃げてエピンク!
『さあ、来るなら来なさい!』
『つって飛び込む馬鹿はいないんだし! 絶対何か仕掛けてるってわかってるのに、引っかかるのは間抜けだし!』
さすがに警戒しているようだ。散々小人だって馬鹿にしてたのに、オルトゥスのメンバーだと知っているからちゃんと警戒してるって感じかな。まぁ、さすがにこれで馬鹿みたいに飛び込んでいたら、彼の所属ギルドが本当に特級なのかを疑うところだけどね。
『まぁ、そう言わずに』
『あ』
ジュマくんの声と、続くエピンクの声。その後に響いた激しいバリバリという音。な、何があったの!?
「ジュマがエピンクの背を蹴った。トラップの中へ」
「うわぁ……」
思わずそんな声が漏れる。なんか、もう可哀想になってきた。甘いかもしれないけどさ。
『っぶねぇし! 雷撃とか馬鹿にしてるんだし! ひゃはっ、こんなんが、小人の切り札だってー? だとしたら大した事無さすぎて笑えるんだしー!』
どうやらバリバリいってたのは雷撃だったらしい。それを特に深いダメージを負うでもなく回避出来たエピンクはやはり凄腕なのかもしれない。馬鹿なのか凄いのかもうわかんないよ!
『あら、避けたのね。凄いじゃない! ジュマ以外に避ける奴がいるなんて。やるわね!』
だというのにサウラさんの声色は明るい。相手に効いて無さそうなのに、大丈夫かな……?
『ひゃははっ! 余裕ぶってるのも今の内……いっ!?』
余裕綽々な様子で笑っていたエピンクが、突然苦しみだした。え、何? なんなのー!?
『あー……やっぱりあれか。オレでもそれ治るのに丸1日かかったからなー。いってぇのなんのって!』
『普通、1日じゃ治らないからね?』
ジュマくん、まさかの経験済み!? お、お仕置きされた時のあれかな……? というか、誰か解説お願いしますっ!
『雷撃はオマケ。体内に、というか尿管に小さな石みたいなものを作り出したのよ! 随分前に
さ、サウラさん……それ、私知ってる。尿路結石ってやつじゃあ……? そ、それを魔術で人工的に作っちゃったって事!?
……怖い。サウラさん、怒らせちゃダメ、絶対!!!!
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