一時ギルドへ


「ジュマ、引き続き追え。後で合流する」

「おおっ!」

「ケイ、一度ギルドに戻るぞ」

「オーケィ」




 こうして、私たち・・・は一度ギルドへ戻ってきました。うふふ!

 攫われた? 何のことかなー? この通り、私は無事です。それもこれもギルさんのおかげ。


『メグ!! いるか!?』

『! ギルしゃん! いるでしゅ……んにゃあっ!?』


 誰かに抱えられたと思ったあの時、抱っこマイスターたる私はすぐにその腕がギルさんの物だと気付いた。


『少し静かにしていてくれ』


 小さな声でそう囁かれた私は、小さく何度も頷いてギルさんのマントの下に隠された。ダンジョンを出た時の隠蔽魔術再び!


 それからはみんなの阿吽の呼吸が凄かったよ。ギルさんが影の魔術で私そっくりな幻を作り、本物の私には隠蔽魔術をかけた。そしてエピンクという人はその幻の私を捕獲したのだ。じゃなきゃ今頃ポンポンお手玉されて目が回ってたよ。危ない、危ない。

 それを視線だけで悟ったケイさんとジュマくん。かーらーのー、迫真の演技。素晴らしかったです。でもあの殺気は本物だったよね、きっと……それから最後に私はギルさんのマントの中にしっかり仕舞い込まれて真っ暗闇、というわけ。恐怖と安堵、それから悔しさで思わずギルさんにしがみついて泣いちゃったけど、大声を出して泣かなかったから私、えらい!


 こうして本気の走りを見せたギルさんとケイさんによってあっという間にギルドへと辿り着く。すごいのよ、まず地面を走らないの。家屋の屋根の上をぴょんぴょん跳んでの移動。しかも羽のように軽い動きで住んでる人の邪魔をしないという……そういえばジュマくんにいたっては空を駆けていた気がする。あれも魔術なんだろうなぁ。

 ちなみに、さきほど気絶させてしまった一般人の方々へのフォローは後で改めて行うのだそうだ。この街に住む人たちは、そういったことを心得ていて、普段街の治安を守ってもらっている事から、さほど問題にならないんだって。持ちつ持たれつだね!


「わかったわ。ご苦労様、2人とも。ギル、よくメグちゃんを守ったわね!」

「目の前で護衛対象を奪われるなんて間抜けな事しない」

「ま、当然よね。それでもよ」


 そして現在、ギルド内来客室でサウラさんへと報告が行われていた。来客室はこうした表立って話せない内容を仲間内で共有するのにも適した部屋だから、よくギルド員同士でも利用するんだって。確かに部外者が入らないから良い場所だよね。

 そしてギルさんたち、護衛対象を奪われるのは間抜けだと暗に言っているのね……これぞプロ意識だ。


「さてと。エピンクだったわね。あのカンガロ野郎、ネーモ内でも問題児らしいのよねー。全く、ギルド員の管理くらいちゃんとしなさいってのよね!」

「んー、同意。ウチに喧嘩を売ろうとするなんて、彼くらいだよね? 本物の馬鹿だと思うよ。カンガロは喧嘩っ早い種族ではあるけど、相手を選ばないようじゃ知れてるね」

「……カンガロ?」


 サウラさんがプンスカしながらそうこぼすのは違和感ないけど、ケイさんが珍しく辛辣だ。それほど人を物扱いするのが許せないのかもしれない。

 ところで2人が口にしたカンガロって……まさか本当にカンガルーの事かな? そう思ったのでカンガロとは何かを聞いてみたら、サウラさんはカンガロと、ついでにエピンクについても簡単に教えてくれた。


「カンガロはお腹に袋を持っていて、そこで子育てをする動物よ。メジャーな生き物じゃないからメグちゃんは知らなかったのかもね。そしてエピンクは泡更格驢(あわかんがろ)っていう魔物の亜人なの。ちょっと珍しいけど、そこそこいる種族よ」

「んー、泡を使った魔術と拳を使った攻撃を得意とする種族だったよね。ギルナンディオのように異空間魔術が少し使えるんじゃなかったかな」


 うわ、やっぱりまんまカンガルーだった。泡を使うカンガルーね。パンチが得意ってところにカンガルーっぽさを感じて思わず笑いそうになったよ。我慢したけど。サウラさんに続いてケイさんも自分の知る情報を教えてくれた。数少ない異空間魔術かぁ。便利そうで羨ましい。


「あんなのと一緒にするな。あいつのは時間も普通に経過するし、収納出来る量も時間も制限がある」

「あはは、ギルのプライドを刺激しちゃったわね! 大丈夫よ、同じになんかしないわ。ギル、あなた以上の異空間魔術の使い手はいないから安心しなさい。というか、隠蔽魔術だって魔術の形跡を辿るのだって、あなたの右に出る者はいないじゃない」

「……別に何とも思ってない。いらぬフォローだぞ」


 おや、少し照れた様子のギルさん、珍しい。やっぱり褒められるのって照れくさいよね! ギルさんはすごく分かりにくいけど、確かに少し照れている!


「ギルしゃん、しゅごい」


 調子にのって、私も褒め称えてみた。と言っても語彙力が足りないのでこの程度ですが。照れさせようという目論見があったはずなのに、ギルさんの優しげな目元に私の方がノックアウト。イケメン、ずるい。


「さて。ギル、向こうの様子はわかるのよね?」

「……ああ。偽物だとバレてもいないようだ」

「んー、あんなに簡単に攫わせてあげた・・・・・・・のに気付かないなんて、彼は3流だね」


 ケイさんの口撃は絶好調だ。このギルドにいる人たちは、誰であっても怒らせちゃだめだね……!


「ふぅん。ジュマは?」

「奴に追い付いてる」

「さすがね」


 おぉ、ジュマくんやっぱりすごい人なんだ。みんなに叱られたりしてて残念な人の印象しかないけど。でも殺気とか凄いもんね。今回ので2度目だけどやっぱり泣くのを我慢出来なかったし。でも、1度経験してわんわん泣かせてもらったおかげで、今回声を上げて泣くのを我慢出来たんだと思う。怪我の功名ってやつなのかしら?


「音声を流すか」

「そうね。お願い」


 ギルさんは手のひらをさっと軽く振り、1羽の小さめな影の鳥を作り出した。その鳥は近くのテーブルに舞い降りると、嘴を開けて音声を流し始めた。こんな事も出来るなんて……ギルさん万能。家に1人欲しい。


『何だよ鬼ー。そんなにお前らもこのエルフが欲しいのか?』

『何言ってんだ。ウチで保護してる子どもだぞ? それを勝手に連れてくなんざお前誘拐犯じゃん』

『そっちこそ何言ってんだし。正式な保護者がいねぇんだから、オイラが保護したっていいじゃんねー!』


 エピンクという人はなかなかに口が達者なようだ。


『っ! そ、その子どもについては、すでにウチのメンバーが色々調べてる! 依頼の横取りする気かよっ!』

『へー? じゃあ誰が依頼したわけ? 依頼者はどこだし? オルトゥスへの正式な指名依頼なのー? 違うんだろー? なら同じ特級ギルドであるネーモが引き受けたってなんの問題もないし?』

『ぐっ……』


 たぶん、正論なんだろう。私の事を探してるという保護者もいなければ、調べて欲しいという依頼者もいない。オルトゥスのみんなが優しいから、わざわざ調べてくれていたりするんだ、きっと。

 そして、ネーモは単なる優しさから調べたりなんかしない。そんな気がした。


「やれやれ。舌戦はジュマには向かないわね。……私が行くわ。ギル、影鳥を数羽貸してちょうだい。現場まで運んで」

「サウラが? いや、でも……」

「あら、心配してくれるのね? でも大丈夫。……統括命令よ。今すぐ私をジュマの元へ運びなさい」

「……わかった」


 どうやらサウラさんがこの現場に向かうみたいだ。だ、大丈夫かな……思わず心配が顔に出てしまったみたい。サウラさんは私を見るとニコッと笑って抱きしめてくれた。


「メグちゃん。貴女は私たちオルトゥスみんなの子どもよ。家族なの。それを、覚えておいてね」

「サウラしゃん……」

「ふふっ、ちょっと行ってくるわ。すぐに戻るわよ!」


 それだけ言うと、サウラさんは私から離れてギルさんに合図した。ギルさんは命令通りにサウラさんに魔術をかける。


「危なくなったら呼び戻す」

「平気よ。サウラさんを信じなさい!」


 こうして、私たちの心配をよそに、サウラさんは自信に溢れた笑顔で来客室から姿を消した。……無事に戻りますように!!

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