相談しましょ
さてさて、その後どうなったか。医務室から戻って来たレキに冷めた眼差しで「何してんだ」と声をかけられた事で現実に戻りましたとさ。
いいの、シュリエさんのいい香り堪能したから。自覚してるから残念な子を見る眼差しやめて、レキ!
「じゃあメグちゃん。明日の朝は朝食後にここで待っててくれるかい? 色々根回しは済ませておくよ」
「わかりまちたー! たのしみでしゅ」
「ふふ、ボクもだよ」
根回しってあたりは護衛とかの事かな? 笑い合って約束をすると、ケイさんはじゃあまた明日、と去って行った。まだ夕飯は食べないのかな?
「メグよ、何かあったら声かけるんだぞ? いつでも力になるからなぁ」
「ニカしゃん、ありがとーでしゅ! ゆーはん、食べないでしゅか?」
「ガハハ! 外で飲みに行くからなぁ! またな、メグよ」
ニカさんは飲みに! くっ、良いなぁ。私もビール飲みたいよ! この身体で飲める日はまだまだ、まだまだまだまだ先だよねぇ……がっくり。
「おや、今日はレキも一緒ですか」
「仕方ないだろ、これも試験の一環なんだって言われてるんだから」
そうでもなきゃ一緒に食わねぇよと素っ気ないレキ。ほほう、ならば一緒に夕飯なんて貴重な体験なのね! ラッキーと思おう。私は前向きな幼女……
「全く素直じゃない少年ですね」
「少年じゃねぇっ! もう成人してる!」
「知ってますよ、少年。さ、行きましょうか。お腹空いたでしょう?」
にこやかにレキをあしらうシュリエさん。それを悔しそうに睨むレキ。だ、大丈夫なの? 夕飯を美味しく食べられるかしら?
簡単に言うと、要らぬ心配でした!
「んーっ! おいちーでしゅっ!」
代わり映えのない感想を漏らしながら頰を抑えて食事してますっ! ごめんね、語彙力なくてさ。でも本当に美味しいのよ! だって、まさか異世界で魚の照り焼きが食べられるとは思わなかったもん。
カツがあったり、味噌汁があったりでまさかね、とは思ってたけど……ありましたよ、醤油も! あー幸せー! ビバ和食!
「美味しそうに食べますねぇ。メグは好き嫌いないのですか? 魚が苦手な人は結構いるのですけど」
そうなの? お魚美味しいよー。最近食べてなかったから余計にね! だって肉より割高だし、調理しなきゃいけないじゃない? 定食屋さんでたまに食べたけど、ついついお肉選んじゃうのよ。なぜって? ランチでエネルギー補給しなきゃ持たないんだよっ! 肉を欲していたんだよ!
チラと前を見ると、少し嫌そうな顔をしながらレキが魚を突いていた。……ここに魚が苦手な人がいたか。
「レキ、おしゃかな、苦手でしゅ?」
「……肉の方が好きなだけだ」
触れてくれるな、と言いたげに睨まれちゃった。ごめんよ。
「レキはウォルグ種ですしね。レオガー種のニカも、魚は食べた気がしないから嫌だと言っていましたね」
ウォルグ? レオガー? よくは分からないけど肉食動物系ってことなんだろう。魚も食べられるけど物足りないって事かな。まぁ、気持ちは分からなくもないけどね。
「私は大しゅきでしゅよー! おしゃか
フォローも込めて元気に魚愛を叫んだら、めっちゃ噛んだ。くっ、私の中に猫でも住んでるのかしら?
「「「ごふぅっ!!」」」
「!?」
すると、食堂のあちこちでむせ返る人が続出! そ、そんなにおかしかった? ごめんね! でも笑うなら一思いに頼むよ。そんな堪えるように肩を震わせなくても……! 私に精神的ダメージ。ぐはっ。
「お前……タチ悪ぃな」
「そう言うものじゃありませんよ、レキ。わざとなわけではないのですから。可愛らしさは罪にはなりません」
「……それがタチ悪ぃんじゃねーの?」
わかった、わかったから、もう追い討ちをかけるのやめてくれ、2人とも。すでに瀕死よっ!
回復するためにも黙々とご飯を食べ進めることにしました。くすん。
「さて、どんな用事だったかそろそろ聞きましょうか」
私が食べ終えるのを待っていてくれたシュリエさんがそう口を開いた。察したレキが私たちの食器を1人で運ぼうとするので声をかけたんだけど、良いからさっさと話をしろと返される。気の利くツンデレ、それはレキ……!
「えっと、今日レキとギルドのお2階探検してたら、気になる精霊しゃんがいたんでしゅ」
「おや、もう見つけたのですか?」
目を瞠ったシュリエさんに、声の精霊との会話について最初から説明した。シュリエさんは黙って最後まで聞いてくれたんだけど、シュリエさんが怖いと精霊が言ってたという件で少しだけ眉を顰めたのを私は見逃さなかった。声の精霊ちゃん、ごめんね……! でもちゃんと全部話さなきゃだから許してね。
全部話し終えたところでシュリエさんはほんの数瞬目を閉じて何かを考え、すぐに目を開いて話し始めた。ごくり。
「結論から言いましょう。メグはきっと、その声の精霊に運命を感じたのです。メグにとっての最初の精霊である可能性が最も高いと言えますね」
やっぱりそうなんだ。心に従った時から何となくそんな気はしてたんだけど。
「でも、精霊しゃんは、嫌がるかもでしゅ……」
私がしょんぼりしながらそういうと、シュリエさんは微笑んでそうではないのです、と告げた。
「メグ。私の意見を言うなら、声の精霊をメグの最初の精霊にするのは、少し不安が残るというのが正直なところです。他の自然を扱う精霊より、魔術の威力もあまりないですからね」
自分の身を守る為には、声だとちょっと難しいよね……私もそう思う。他の精霊とも契約を結ぶことは出来るから、魔術を扱う事は出来るけど、最初の精霊ほど精霊の力を引き出しにくいのだそう。
「私はメグを大切に思っています。ですから、出来れば威力が強く、メグを守ってくれる精霊が好ましいと思います」
シュリエさんは真剣な眼差しでそう断言した。うぅ、やっぱりそうだよね。でもあの子が気になるんだよー!
私が1人百面相しているのを見て頰を緩ませたシュリエさん。ほんの少し困ったように眉尻を下げながら続けて言った。
「けれど1番大切なのは、メグと精霊が心を通わせ、互いにどうしてもこの相手と契約したいと強く思う事なのです。メグはきっと、この1番大切な事をクリア出来たのでしょう」
それからそっと私の手を取ったシュリエさん。暖かな手からは、風の精霊ネフリーちゃんの力も感じた。
「自信を持ってください、メグ。私はあれこれ口を出しますが、それはあくまで理想の話なのです。理想通りに出来る人など滅多にいません。それよりも、貴女の心に従いなさい」
「いいんでしゅか……?」
「ええ。それがメグにとっての正解ですから」
ふわっと黄緑の鳥が目の前を通り過ぎた。シュリエさんの最初の精霊、ネフリーちゃんだ。励ましてくれているみたいで、元気が出る。
「私、あの声の精霊しゃんと、仲良しになりたいでしゅ!」
「ええ、見かけたらまた声をかけてあげましょうね。時が来たら、知らせてください」
シュリエさんの言う時というのは、契約の時の事だろう。ヘロヘロになっちゃうんだよね、確か。
「あい! わかりまちた!」
迷いが消えて、やるべき事が見えてきた。うん、今度見かけたら、戸惑ってないでどんどん話しかけよう。
あの、自分に自信を持てない声の精霊に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます