癒し効果
「お、メグちゃん。そこからの眺めはどうだい?」
ふと、下から声が聞こえた。音もなく忍び寄ってからの声かけ。うむ、だいぶ慣れてきたぞ!
ひょい、と下を見てみると。やはりそこにはケイさんがいて、手を目の上に当ててこちらを見ていた。
「色んなとこが、よく見えるでしゅ!」
「ふふ、良かったね。ヴェロニカ、泣かれない子どもは貴重だね?」
「おう、そうだなぁ!」
ガハハと嬉しそうに笑うニカさん。そんな嬉しそうにしてくれると私も嬉しくなるよ!
「ねぇ、メグちゃん? ボク、明日は休みを取ってるんだ。良かったらデートしない?」
「でぇと?」
爽やかな微笑みで軽く誘うケイさんを見て、ああ、いつもこんな風に女の子を誘ったりしてるのかな、なんて何となく思った。実に自然で嫌味がない。これで断る女の子はいないだろう。例え用事があったとしてもキャンセルしてデートを選びそうだ。
「昨日約束しただろう? 服を作りに行こうって。そのついでに街も少し案内するよ」
「いいんでしゅか!?」
「おー嬉しそうだなぁ、メグよ!」
そりゃ嬉しいですとも! 思えばここに来る時は夢の中だったから、街がどんなところか全然知らないんだよね。空の旅が快適すぎてさ……!
「ふふ、メグちゃん可愛いから、ボクみんなに羨ましがられちゃうな」
何を仰いますか、ケイさんや……私の方がケイさんのファンに羨ましがられるよ。間違いない!
「ケイよ。お前ぇだけで大丈夫かぁ? 護衛は?」
「んー、そうだね。サウラディーテに相談してみるよ」
護衛? そんなに治安悪いのかな、街って。不安に思っていると、私を安心させるようにケイさんが微笑んだ。
「んー、ボクは別に弱いってわけじゃないんだけど、誰かを守りながらだとちょっと自信がないなって。逃げ切るだけなら余裕なんだけど、万が一があったら困るからね。ごめんね? 頼りなくて……」
申し訳なさそうにケイさんが言うのでそんな事ない! という意思を伝えるためにも全力で首を横にブンブン振った。私なんか足手まといもいいとこなんだから、とんでもないっ!
「町の治安が悪ぃってわけじゃあないんだけどなぁ。良くも悪くも特級ってやつぁ目立っちまうのさ」
続くニカさんの言葉でピンときた。おーけぃ、大体把握した。つまり、良からぬ奴ってのはどこにでもいるって事だよね?
特級ギルドは世界でも4つしかない、それはその分有名でもあり、所在地や長く所属している人なんかは個人的にも有名だったりするのだろう。ギルさんも、コソコソ噂されてたしね!
それで、そんな問題とも向き合わなきゃいけないからこそ、オルトゥス所属の人たちは、みんな戦う術を持っているんだろう。つまり、最低でも自衛できるようにって事なんだ。改めてみんなが強い理由に納得した。
でも私はどうだ。突然現れて保護されることになって。見るからに弱っちいただの子ども。実際もなす術なく連れ去られるのがオチだ。ただでさえ珍しい、しかもエルフの「子ども」なんだから、きっとあっという間に噂が広がる。『特級ギルドオルトゥスに、子どもがいる』と。じゃあ良からぬ奴らは何を考える? まぁ、狙うよね。1番狙いやすい子どもを。
うーわー、私って本当に邪魔者だ。厄介者だ。頭を抱えたくなるよ……! しかも今は、自分で言うのもなんだけど見た目がかなりいい。利用価値は十分だよね。どれだけ強い人でも、1人で自分の身を守りながら私の事も守るっていうのは苦労する筈だ。だから、ケイさんがどうこうじゃないんだ。
「んー、まぁうちにケンカ売ったらどうなるかわからないような馬鹿はいないと思うけどね?」
「それでもメグを人質にでも取られたらまずいからなぁ。少しでも怖い思いなんざ、させたかねぇだろぉ?」
「もちろんさ。ただ、もしもの事があったらボクは容赦しないって話」
「そりゃあ、お前ぇだけじゃねぇだろうなぁ!」
おや? なにやら寒気が。不穏な空気が漂っているよ! 私のためを思って言ってくれてる事、重々承知してるんだけどね? えっと、被害を出さないためにも、自分でも注意しようと思います……!
それにしても落ち込むなぁ。ちょっと街に行くだけなのに人に迷惑がかかってしまうなんて。
「私も、強くなりたいなぁ……」
はふぅ、とため息を吐く。ついでぐぐっと拳を握って力こぶを作ってみた。……どこだ、こぶは。そんな事をニカさんの肩の上で1人やってたら、ケイさんがふはっと吹き出した。
「もう、メグちゃんは本当に可愛いなぁ! ボク、昨日から何回笑わせてもらったことか」
「おぅおぅ、珍しいじゃねぇか、ケイよ」
「んー、子どもっていうのは宝だよ、ヴェロニカ。実感するよ?」
片目を瞑ってそういうケイさんは、いつものミステリアスさが鳴りを潜め、なんだか可愛らしいと思った。こんな面もあるんだなぁ。
ふわりと身体が浮いて、ニカさんの腕に抱え直される。うん、肩車じゃなくても十分高いです。
「メグよ。焦る必要はねぇ。誰だってお前ぇみたいなガキの頃があんだ。最初から強ぇやつなんかいねぇからな!」
「そうだよ、メグちゃん。今から頑張ろうと思えるのなら、いくらでも強くなれるよ。ボクだってずっと頑張ってきたからこそ今があるんだよ?」
2人の言葉が暖かくてじんわりと胸に広がる。中身大人だからどうしても焦っちゃうんだよね。私ってばこれの繰り返しだなぁ。
現実を知るたびにどうにかしなきゃって焦って、励まされて、また少しずつ頑張ろうって決意する。これを何度も繰り返して、悩んだり元気になったり。実に単純で困った奴だ。
けどさ、人ってこうして繰り返し励まされたり自分を鼓舞する事で安心する生き物なんじゃないかなって。甘ったれなだけかもしれないけどね。
「でもまぁ、才能ってやつも必要ではあるがなぁ。才能がないヤツぁ人一倍努力しなきゃなんねぇからよぉ」
「んーっ、それボクの事だね」
「ガハハ! 俺もだぁ!」
2人とも努力の人なのね。今の2人しか見てない私からすると不思議。種族特有の強みを活かして必死で努力してきたんだ。……うん、私も必死にならなきゃ!
それにしても、ケイさんて男の人相手だと普通の人だよね。女の人相手だとイケメンに変身するのかしら?
「お待たせしました! ごめんなさい、メグ。長く待ちましたか?」
ギルドのドアがカランと音をたてたかと思うと、颯爽と小走りで私の元へとやってきたシュリエさん。焦ったようなその様子から、急いでくれたんだなぁって事がわかる。
「んー、シュリエレツィーノ、余裕のない顔も美しいね?」
「……貴女は少し黙った方が良いと思います」
男性相手でもケイさんだった。いや、シュリエさんが特別なのか? 美しければそれでいいというケイさんが特殊なのか? きっと両方だろうな。
まぁいい、そんな事は。今は急いで来てくれたシュリエさんに声をかけるのが先だ!
「おかえりなしゃい! シュリエしゃん! しょんなに待ってないでしゅよー!」
続けて、おちゅかれしゃまでちた! と噛み噛みながらも笑顔を心がけて言うと、シュリエさんはその動きを止めた。ん? 何? どうしたの? キョロキョロ辺りを見回してみると、ニカさんやケイさん、そして何気なくこちらを見ていたギルド内の人たちも同じように動きを止めている。な、なんなの? 緊急事態でも!?
「……ああ、疲れが吹っ飛びますね」
「んー、ボクも言われたいなぁ……」
「そうか、これが癒しかぁ!」
お、大袈裟じゃない? そんなに労われる機会が少ないの? 微妙な心境でいると、シュリエさんが手を伸ばしてきたので私も手を伸ばす。ゴツい腕のニカさんからふんわりなシュリエさんへと抱っこ移動。楽しいアスレチックからゆりかごへ移動したような感覚である。
「何か用があったのですよね? 夕飯の後にでもお聞きしましょうか」
「! あいっ!」
「ああ、心が洗われますね……」
余程今日の仕事が大変だったのかな? シュリエさんがギュッと私を抱きしめながら疲れたように呟いた。
というか、みなさんいつも大変だよね。労う事でこんなに喜んでもらえるなら、微力ながら私がみなさんに声をかけるようにしよう、と決意した。
ひとまずシュリエさん! みんなが見てるんでそろそろ離れてもらえませんか! でも役得……せっかくだからこの素敵なシュリエさんの匂いを嗅いどこう、スンスン。
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