いつかきっと


 こうして終わったお勉強。気付けばもう夕方になっていた。今日は1日レキと2人、という事でどうなるかと思ったけど、かなり有意義に過ごさせてもらったなぁ。レキのおかげである。その旨を自分なりに丁寧に伝えたら、ふんっとそっぽ向かれてしまったけど。

 耳が赤くなっているのを私は見逃さなかったよ! このっツンデレめっ!


「夕飯まで時間がある。何かしたい事はないか」


 そう言うので、とりあえずホールに行きたいと答えた。ホールに居ればシュリエさんに会えるかもしれないし、何より色んな人の働く姿を観察出来る。

 私に出来ることが何か、それすらまだわからない今、少しでも他の人の働く様子を見ておきたいのだ! そう主張すると、レキはふぅんと言っただけで、それなら行くぞとすぐに立ち上がってくれた。その際、私の事も椅子から下ろしてくれたんだけど、いちいち「怪我されると面倒だからな」って一言を付け加えるのがなんかもう、それでこそレキ!




「あら、お勉強は終わったの?」

「あい! いっぱい教えてもらいましたー!」

「ふふ、ご苦労様。あ、シュリエに伝えておいたわ。急いで仕事を終わらせるから夕飯一緒に食べましょうって」

「ほんとでしゅか!? サウラしゃん、ありあとー!」


 ホールに戻ると、受付カウンターにいたサウラさんがいち早く声をかけてくれた。約束をきちんと守ってくれて、忘れず伝えてくれるサウラさん、素敵! 

 え、当たり前の事だって? いや、さっきまでのお勉強によると、サウラさんってかなり、それはもうかなり忙しい人だと思うのね? 私も仕事を馬鹿みたいに抱えてたからよくわかるんだけど、口頭で頼まれたりした事って結構忘れがちになっちゃうんだよ。それで後になって頭を抱えるって事、度々あったんだよね。私が忘れっぽいってだけかもしれないけどさっ!


「なら、お前ここにいるよな。僕は1度医務室に戻る。夕飯前にはまたここに来る」

「わかりまちた! ここで待ってましゅ」

「サウラさん、いいすか」

「ん! わかったわ」


 そう言ってレキはさっさと医務室の方へと早歩きで去っていった。

 その姿を見送ってから、私は1人ホール内をブラブラ歩いてみる事にした。ちゃんとサウラさんの許可は得たよ! 蹴飛ばされないように気を付けてねっていう助言に説得力を感じたよ……同じくらいのサイズな先輩の助言だ。心しておこう、うん。




 フラグとは。どうしてこうも、こうなのか。


「にゃっ!!」

「うぉっと! 危ねぇっ!」


 いや、蹴られてはいない。蹴られそうになっただけで。

 例の依頼ボードを見てみたくて近くに行ってみたんだよ。でもあんまり近くにいると、人が多くて危ないからちゃんと少し離れた辺りまでにはしてたんだよ? けど、字までは見えないなーと思いながら口開けて上見てたら後ろから跨がれて驚いたのだ。……そう、跨がれたの。だってこの方、他の人よりも大きいからね!


「メグか! 悪かったなぁ、見えんかった」

「ニカしゃん。大丈夫れしゅ。私こそ邪魔なとこにいてごめんしゃいー」


 金髪が眩しいライオンなニカさん。いや、ライオンかどうかはしらないけど。こんだけ大きかったらそりゃ私みたいなちんまい子が見えなくても仕方ないよね。


「いやぁ、サウラにもよく注意しろって言われててなぁ。サウラがカウンターにいるのが見えたもんだからつい油断しちまってよぉ」


 なるほど。ちんまいのが他にもいた、というのを忘れてたのね! それも仕方ない事だ。昨日の今日だしさ。というか、サウラさんによく注意されてるのね。でもきっと、サウラさんにとっては死活問題だからだよね!


「んで、メグよ。何をしとったんだ? 依頼ボード見てぇのか?」

「あ、そうなんでしゅ。どんな依頼があるのかなって」


 そう答えると、ニカさんはニカッと笑って(ニカだけに)私をひょいと持ち上げた。抱っこかな? と思っていたんだけど。ちょ、高い! 高いぞー!?


「どうだ! 見やすいだろぉ?」

「ふわぁ……高いでしゅー!」


 まさかの肩車でした。いや、抱っこでも十分他の人より高い位置だから問題ないと思うんだけど……でもなんだか声が弾んでいて楽しそうなので、ニカさんなりに喜ばせてくれようとしたのだろう。うん、正直楽しいです! ついキャッキャと楽しんじゃって、周囲の注目を浴びてしまった。みなさん、お仕事中の方もいるだろうに、遊んでてすみません。でも誰もが微笑ましげに見てくれるの、本当優しい。そしてこの眩しい金髪の触り心地がふわふわで良きです。


「で、メグよ。文字は読めるんかぁ?」

「読めましゅ!」


 あ、そうだった。遊んでないでボードを見よう。その為に肩車してくれたんだからっ!

 どれどれ。……ドラゴン討伐!? い、いるんだ、ドラゴン。予想はしてたけどさ、それを討伐って考えると想像だけでぞっとする。

 気を取り直して、と。えーと、なるほど。素材の採取なのね。よく見てみると、下の方に行くほど難易度下がってる気がする。そして左から右に行くほどこれまた難易度下がってるかな? 同じ採取でも、ドラゴンの鱗だけっていうのもあるし、倒す必要はないから少し難易度が下、とかかもしれない。

 他にはゴブリン討伐、オーク討伐などの物語で見たような依頼や、薬草採集、護衛依頼、街の清掃もある。あとは孤児院で読み書きを教えて欲しいっていうのもあるなぁ。

 そうだ、せっかくなので聞いてみよう。


「ニカしゃんは、いつもどんな依頼受けるんでしゅか?」

「ん、俺かぁ? 俺はギルドから頼まれる仕事の他なら討伐だなぁ。護衛だとか採集だとか人に気を使ったり細けぇのは苦手でなぁ!」


 ガハハと豪快に笑うニカさんの回答は予想を裏切らないものであった。やはり私の思った通り、細かいことが苦手な大胆な人らしい。うんうん。

 1人納得していると、少し声のトーンを落としたニカさんが前を向いたまま話しかけてきた。


「メグよ。今日お前ぇの事聞いたぞ。色々大変みてぇだがな、俺たちはみんな、お前ぇの味方だからな? ギルドの一員だと思っていい」


 思わぬセリフに目を瞬かせる。


「で、でも……私、何にも出来ないでしゅ。ちゃんとギルドの為に働けないし、みなしゃんの手助けどころか、助けてもらうばっかりになるでしゅよ……」


 気持ちは嬉しいけど、子どもだからって特別にギルドの仲間と認められるっていうのは違う気がするんだ。そう思ってショボくれてしまう。


「ガハハ。お前ぇはまだちっこいし、何も出来ねぇだろうがそんなこたぁみんな分かってらぁ! だが、お前ぇは賢い! 俺たちでいくらでも教えられる。これからの成長に期待してるんだ」


 だからしっかり吸収しろよぉ! とニカさんは明るく笑った。そっか。そうだよね。自分でも決めたじゃないか。お世話になるなら出来る事を増やそうって!

 本当の意味でギルドの仲間と認めてもらえるまで、必死で頑張ろう!


「いつか、本当の仲間になるでしゅ!」

「おう、その意気だぞメグよ!」


 元の世界がどうとか、この身体の過去がどうとか。そういうややこしい事には少し蓋をしよう。

 だって、そういうの考えてたら前に進めないんだもん。だから、当面の間はこの先もずっとこの世界にいるだろう事を前提に考えようって踏ん切りがついた、かな? 気持ち的にはもう少し時間が必要だけど。


 切り替え、大事。問題についてはもっと色々分かってから考えよう。出来ることからコツコツと!

 そんな事をニカさんの頭にしがみつきながら考えていた。

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