お勉強は続く


「まぁ、お前の所属はもう少し後に決まるだろ。僕があれこれ言うことでもないし、そもそも業務外だからな」


 あ、そうなの? いよいよ決まるのかなって思ってたよ。そう簡単に決まらないとは思ってたけど、ほら、仮所属みたいにあれこれ体験出来たらなぁなんて思ったんだよ。にしても、業務外だからって……まるで派遣社員のようだ。


 こうして続くお勉強の時間。次にレキから教えてもらったのは、オルトゥス以外の特級ギルドについてだった。うん、確かに気になる。


「まずステルラ。ここは正統派ギルドだな。国からの依頼をメインで受けるが一般依頼も請け負ってる。融通きかないとこがあるが、真面目。良くも悪くもな」


 規則は規則、と言って譲らないとかそういう事だろうか。まぁ、規則ってものは確かに大事だし、特例を許してたらキリがないもんねぇ。ある意味必要な姿勢とも言えるよね。


「次にアニュラス。ここは完全な商業ギルドになる。大手商会は大体ここの所属だ。うちもよく世話になってるから良い関係を築けてる」


 なるほどー。商業にのみ力を注いでいるんだね。そういう場所も確かに必要! オルトゥスでもお世話になってるなら、覚えておこう。アニュラス……うわー、ちゃんと言える気がしない!


「最後にネーモだ。ここは……名前を聞いたらとりあえずお前は関わるのをやめた方がいい」

「なんででしゅか?」


 ネーモという名が出ると、レキの顔が歪んだ。何だろう、問題があるのかな。


「ネーモは簡単にいうと人材派遣だ。うちも広い意味では人材派遣なんだけど……ネーモが扱うのは文字通り人。その人の能力のみを貸すわけじゃなく、人そのものを貸すギルドだ」


 人そのものを……? あまり違いがわからないけど、何となく嫌な予感がする。


「この国では基本的に奴隷制度を禁止している。けど、未だに取り入れている国も多い。奴隷を大切に扱うルールがあるとこならまだいいけど、そうじゃないとこもある。……裏の世界では扱いの酷い奴隷が今でも売り買いされてる」


 それでも表立った人の売り買いは基本的には禁止されているらしい。何というか、すごく曖昧。抜け道なんかいくらでも作れそう。つまり、ネーモっていうのはその抜け道を行ってるんじゃなかろうか。


「ネーモは人を貸してる。独自で貸し出せる人材を集めてるんだけど、色々とキナ臭い。けど貸し出しという体制をとってるせいで、突き出すことも出来ないし、何より証拠をうまく隠してるって話だ」


 黒に近いグレーってやつだ。そうなると、貸し出された人の扱いが少し気になる。その点を恐る恐る聞いて見たけど。


「……詳しくは知らない方がいい。けど、よくない目にもあってるってとこだな」


 貸し出される側も、高額な報酬をもらえる代わりに引き受けている、あくまで合意の上の「仕事」だから何も言えないらしい。

 仕事、かぁ。そりゃ貧富の差があって当然だよね。みんながみんな幸せで、3食しっかり食べられるわけじゃないもん。その日食うのも精一杯な家庭が、こういうギルドを利用するのを止める権利なんか誰にもない。胸糞悪い話ではあるけど、そのネーモというギルドもこの世界には必要なのかもしれないな……少なくとも、酷い目にあったとしてもご飯が食べられるんだもん。


 そう考えると、私もそうなる可能性があったって事だよね。その時になってみなければわからないけど、死ぬくらいなら何でもやる! って思うのかな。自分1人なら死んだ方がマシ、とか思うかもしれない。

 けど、家族がいたら? 大切な人がいたら、選ぶ道は1つだ。何とも言えないぐるぐるした気持ちが胸に重くのしかかってきた。


「……この件に関しては、いくら考えたって仕方ない事だ。どうにかしたいと思っても、力がなきゃなにも出来ない」


 力があっても、どうにも出来ない領域もあるしな、とレキは言う。その小さな呟きに確かな重みを感じたけど、これ以上踏み込む事は出来なかった。




 重苦しい空気を感じながらも、レキは最後にオルトゥスの絶対ルールを説明すると言う。お、これは今日のお勉強の中で最も大切な事じゃないか? 脳内メモの準備はオーケイだ!


「1つ、心を動かされた依頼は受ける事。ただし、実力に見合わない場合は必ず仲間に相談せよ」


 心を動かされた依頼、か。なんかこう、熱いなオルトゥス。でも実力に見合わない場合は、ってところが安心出来るよね。根性論持ち出されたらたまったもんじゃないからね。これ、ほんとに。


「1つ、常に成長する事。成長を止めた者はギルド所属権限を失う」


 おぉ、つまりは向上心を持てと言う事だろうなあ。成長しているかどうかはハッキリ目に見えるものじゃないからね。例え伸び悩んでいたとしても、歩みさえ止めなければ僅かであっても成長してると言えるもの。私はそう思ってる。


「1つ、仲間を裏切らない事。仲間を大切にする事。これがオルトゥスにおいて1番重要な点だな。どれだけ人数が増えても仲間同士の本気の争いは御法度。ま、小突き合いは日常茶飯事だけどな」


 確かにジュマくんとかいつも誰かしらにお仕置きされてたりするもんね。扱いが酷いなぁとは思うけど、たぶん彼らにとってはじゃれ合いっぽいし。あ、シュリエさんとかはガチで叱ってる感じするけど。でもそれも言ってみれば愛だよね。どうでもいい人には注意すらしないし、そういう事だろう。


「仲間が困ってたら助け合う。うちのギルドは絆の強さでも有名だ。特級ギルドとしては人数も少ないし」

「少ないでしゅか?」


 たくさんの人が働いてる気がするけど……


「圧倒的に少ない。ギルドルールに仲間を裏切らない、がある以上、信用できない奴は入らないからな。言っておくが、誰でも簡単に仲間入り出来るわけじゃないんだぞ? 何もしてないように見えて、新入りはあらゆる場面で篩にかけられてる」


 そ、それはつまり、私も篩にかけられてる途中って事かな? おおう、なんだか突破できる気がしないんだけど!

 そんな私の思考を読んだのか、レキはため息を吐いて不機嫌そうに付け足した。


「お前はまだ子どもだからってんで、色々世話焼かれてるだけだ。あまり勘違いすんなよ!」


 ですよねー。まだ戦略にすら数えられてないって事か。でも、油断はしてられない。大人になった時にちゃんと仲間に入れてもらえるように努力しなきゃね!


「……ほぼその篩は突破してるっぽいけどな」


 レキがブツブツと不服そうになにやら呟いていたけど、よく聞こえなかった。うーん、レキはレキでかなり苦労したのかな? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る