ギルドとは


「んにゃ……」


 いい香りを感じてふわりと意識が覚醒していく。んー、この香りはハーブかな。でも何で? そう思ってむくりと上半身を起こした。くあっ、と大きな欠伸を1つ。それから伸びをして周囲を見渡すと、部屋の片隅で足を組んで座るレキの姿を発見。


「……はよーごじゃいましゅ」


 ひとまずそう声をかけると、レキはチラとこちらに目をやり、それからカップを手にとって口につけてから返事をした。何なの、その間?

 まあ、いいかと思いつつ、寝起きで働かない頭なのでそのままぼんやりしていたら、私がお茶を欲しがっているように見えたのか、レキが飲むか? と尋ねてきた。


「あい。ハーブティー、でしゅか?」


 香りで想像がついたので聞いてみると、肯定が返ってくる。そのまま黙ってポットにお湯を注ぐレキ。部屋中に広がるハーブの香りが何とも爽やかで、目がスッキリ覚めそうだ。ミント系かな?


「そこじゃ飲めないだろ。こっちに来い」


 淹れ終えたのか、レキがぶっきらぼうにそう告げた。私は慌てて手櫛で髪を整え、ベッドから下りて軽く服装を確認してからとっとこレキの元へと向かった。


「椅子はそれしかないから、気を付けて飲めよ。零されると面倒だからな」

「あい。ありがとーごじゃいましゅ」


 レキの物の言い方にも大分慣れてきた。やはりこれはいわゆるツンデレだ。ただ、ツンの比率が高いけど。

 渡されたカップはほんのり暖かく、口に含んだお茶は適温であった。熱いかな、と思ってふぅふぅしたんだけど、その必要もないくらいだ。レキってば、お茶淹れるの上手いんだなぁ。

 ミント系のハーブの香りが鼻に抜けて、ぼんやりしていた頭がスッキリしていく。それでいてキツくはなくて、蜂蜜か何かの優しい甘みも口に広がってとても美味しい。


「これからは覚えてもらう事が多いからな。しっかり目ぇ覚ませよ」


 なるほど。だからこそのチョイスなのね。あ、チョコもある! 抜かりないな。そんな事を思いながらゆっくりとお茶の時間を楽しんだ。




「じゃあオルトゥスについて説明始めるけど、お前、ギルドってのがそもそもどんなものか、知ってるか?」


 いざ、お勉強の時間! と張り切っていると、レキはそう切り出した。勉強はこのままこの仮眠室で行うらしい。静かでちょうど良いんだとか。

 それにしてもレキ、なかなか鋭い。仰る通り私はまずギルドが何なのか知りません。その旨を正直に伝えると、レキは呆れたようにやっぱりか、と零して座り直した。


「ギルドってのは単なる集まりだ。志を同じくした仲間の集まり。だから複数存在するし、ギルドの存在意義もそのギルドによって大きく違う」


 レキから聞かされた説明によると、ギルドってのがこの世界でもザックリとした定義しかないらしい事がわかった。その形も変わったり増えたりしているようで、数人であってもギルドとして成り立つから本当にたくさんあるみたい。


「だからこそ、世界統一でギルドに等級をつけるよう定められた。初級ギルドは謂わば仮設立。決められた期間内に、決められた課題をこなせなければ、そのギルドは解散になる」


 つまり、一般ギルドと呼ばれるのは中級、上級のギルドだという。中級から上級になるには、設立年月に関わらず、その実績によって国から認められなければならないという。え、じゃあ特級って……さらにすごい事したって話?


「お前、考えてる事わかりやすいな。そう、特級ってのは世界でも4つしかない。ステルラ、アニュラス、ネーモ、そしてここ、オルトゥスだ。特級になるには所属国だけでなく、他国にも認められなきゃならない。つまり、他国で活動しても咎められないとも言える」


 それは逆に言えば、問題を起こせば責任重大でもある、とレキは続けた。そりゃそうだよねぇ。特級だからって名前を盾に好き勝手したらそれこそ名折れだろうし。


「とまぁ、等級とギルドについての説明はこのくらいにして、次はオルトゥスの説明をする。ここからが重要だ。しっかり覚えろよ」


 おぅ、そろそろノートにメモしたくなってきたよ。お、覚えきれるかな? でも気持ちで負けちゃだめだよね。きちんと背筋を伸ばして返事をした。


「まず、オルトゥスは『何でも屋』だ。どんな依頼でも受けてもらえる可能性があるギルドだ」

「どんな依頼でも……?」


 でも、それだと良からぬ依頼があったりするんじゃ。悪い依頼とか。ほら、暗殺とか? 出来る技量は確実にあるだろうし。


「可能性がある、っつったろ。受けるかどうかはギルドのメンバー次第。その前に、受付業務の人たちが寄せられた依頼の選別してるし、怪しいのは調査担当が事前に調べたりもしてる」


 なるほど。サウラさんとギルさんの仕事内容が少し見えた。特級だし、きっと依頼は山のようにやってくる。それらの依頼に全て目を通して選別していくのがサウラさんのいる受付、事務担当の人たちなんだ。

 その中でおかしいと明らかに思われるものは、依頼とは別にギルさんたち調査担当が行って、さらに選別していく、と。


 こうして通されなかった依頼は、依頼主に返し、通った依頼はあの馬鹿でかいボードに貼り付ける事になっているのだそうだ。

 気になってはいたんだよね、あのボード。掲示板か何かかと思ってたけど、依頼ボードだったのね。


 ちなみに、依頼を突き返される場合は強面たちに頼むらしい。前にチラッと会った大きい人とかかなぁ。太陽みたいな金色が印象に残る、体も性格も豪快なニカさん。見た目に反して呼び名が可愛いな、と思ったのは内緒である。

 依頼を突き返すくらいだから、そんな依頼主は碌なのがいないというのと、絶対いちゃもんつけてくるから自然とそうなるのだとか。でもそれがお貴族様の場合は、見目が良くて口の達者な人が派遣されるらしい。ああ、シュリエさんとかケイさんとかかな。というかどこの世界にも面倒な人っているのねー。大変……!


「ボードは一応、難易度別に区切られている。各々の力量を自分で判断して目的の依頼書を剥がし、受付に持っていく。受付が問題ないと判断したらその依頼をようやく受ける事が出来る」


 だから、どこのギルドも受付、事務担当の人員はかなり多いという。確かにいつも受付内は人が多いよね。でもそれ以上に、所属メンバーは多いんだろうなぁ。

 依頼の受け方とか、その辺の仕組みは物語で読んだ知識と似てるな、という印象だ。依頼が達成出来ない時は違約金が発生するけど、その時の状況に応じてペナルティも足されたりするのだそう。

 大きい組織って、その処理だけでも大変そうだぁ。だというのにいつでも元気一杯仕事をこなす統括サウラさんって、わかっちゃいたけど只者ではないよね!


「という事で、だ。うちのギルドには、というかどこのギルドもだが大きく分けて2種類の仕事があるって事だ。ギルド内部の運営をする者と、依頼を受ける者。サウラさんや食堂のチオリス、僕も含めた医療担当は前者、ケイさんやシュリエさん、バカ鬼なんかは後者になる」


 でも場合によっては依頼組も運営に回る事になるらしい。その辺は能力のある者は臨機応変に、だという。有能な人っていうのは、何やらせてもそつなくこなせるものだよね。はぁ、憧れる。

 とまぁ、そんなわけだからまずは私がそのどちらになるかを決めなければならないらしい。ギルドにいるのだから、幼児といえど役に立たなきゃ長居はさせられない、と。まぁ、納得できるしそのつもりだったから問題ない。


 でもさ、それ。聞くまでもなくない?


「……お前みたいなちんちくりんが依頼を受けられるわきゃないから、当然前者となる」


 ですよねー! わかってた!!

 そんな軽いノリで、私の大まかなギルドでの立ち位置が決定したのだった。あとは細かい部分だね!

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