2階を探検


 2階は来客室や仮眠室、会議室に資料室などがあった。私が昨日お昼寝していたのは、この階にある仮眠室だったらしい。

 1階と同じく、柱を中心にした円形になっていて、仮眠室は階段を上りきった左手側すぐ、来客室は右手側すぐにあった。昨日はお昼寝の後に、何も考えず歩いてすぐ階段があったから良かったけど……あの時反対に進んでたらかなりの距離を無駄に歩いてる所だったよ。あっぶなー!


「来客室は主に依頼者を通す部屋だ。簡単な依頼なら受付で済むが、込み入った話だったり依頼主が事情を抱えていた場合には別室で話をする。そのための部屋だ。それと、ここも特殊な作りになってる」


 私がオランゼリーを食べた部屋だね。でも、特殊な作り? ここは普通の部屋に見えるけど……


「扉に魔石が埋め込んであるだろ。全部で5つ」


 レキの言うように扉を見てみると、確かに小さな石が半円を描くように、等間隔に並んで埋め込まれていた。左から2つが赤い石で、残りの3つが青い石。どちらもとても綺麗な石だ。


「部屋に入る前にはこの青い石に手を翳す。そうすることで部屋が使えるようになる」

「魔術を使うでしゅか?」

「使わない。手を翳すことで勝手に魔力に反応して扉が開く仕組みだ」


 なるほど。でもなんでわざわざそんな事をするんだろ。しかも青い石でしょ? 赤い石は? 疑問に思っていると、レキはどんどん説明を進めていく。


「この部屋は1つの部屋に見えて、全く同じ作りの部屋が5つある。赤い石は使用中、青い石は空室になってる。使用中の扉は普通のやり方では開かないようになってるから依頼主の秘密も守られる」


 出た、異世界仕様! というよりオルトゥス仕様、かな? 1つの扉が5つの別の部屋に繋がってるなんて、不思議部屋だね!

 普通よりも広い空間を作り出すだけでなく、部屋数そのものも増やしてしまえるだなんて! なんだか複雑な構造してる気がするから、単純に広い部屋になるっていうのより更に作るのに色々かかりそうだ。時間とか、お金とかね。


「使用中扉の開け方は、オルトゥスで真に認められた者しか知らされていない。だから僕も知らない。必要もないけどな」


 依頼主の秘密保持を思えば、それも当然だよね。そういえば、あの時サウラさんは普通に出入りしてた。ギルドの統括って言ってたし、やっぱりサウラさんは上から数えた方が早いくらいの実力者なんだろうな。小さい身体でも超有能なんだ。憧れるなぁ。

 それにしても気になるのは、この建物にどれだけこんな「不思議部屋」があるのか、って事である。ま、まさか全部? なんて事はないよねぇ? というわけで質問タイム。


「ギルドのお部屋は、全部そういう特殊なお部屋なんでしゅか?」

「いや、流石に全部ではないけど、ほぼ何かしら魔術が施されている。部屋自体にはかけてなくても、魔道具が設置されてたりもあるし。このギルドは防犯と過ごしやすさに命をかけてると言ってもいい」

「い、命でしゅか……?」

「決して言いすぎじゃないぞ。うちの頭領ドンはそういう人なんだ。常識に捉われない」


 そう言って話すレキの顔が少し綻ぶ。レキは頭領ドンを尊敬してるんだなぁ。素直じゃないレキにこんな顔をさせるなんて、凄い人に加えて人誑しなのかもしれない。頭領ドン……色々気になる人だ。

 でも会いたい! とかはないよ。だってさ、国のトップとか世界的に有名な人とかを知りたいとは思えど会いたいとは思わないもん。雲の上の人という感覚だからね。尊敬の念は抱くけど、遠すぎて実感わかないから、いつかチラ見くらいは出来たらなぁと思う、そんな程度だ。


 でも1つ分かったのは、頭領ドンもやはり個性的な人らしいという事だ。ギルドにおかしな……もとい、不思議な人が多いのはつまり、あれだよね。類友。


 それから仮眠室、資料室を簡単に説明してもらいながら素通りし、会議室は今未使用だとの事で特別に中にも入れてもらった。

 円卓になっていてなんだか厳かな雰囲気。会議を進行する人はいるけど、発言者はみな平等な立場である事を象徴するために円形になってるんだとか。


「それだと難しい決め事の時、意見がわかれた時ちゃんと決まるんでしゅか?」

「僕は会議に参加した事がないから知らない。でも、大体会議の進行者はサウラさんだ。……決まらないと思うのか?」

「……綺麗にまとまってそうでしゅ」


 サウラさん最強説浮上。痺れます。




「次は3階に行くが……入れる部屋はない。ぐるっと回って出て来るだけになる」

「どんなお部屋があるんでしゅか?」

「私室だ」


 丁寧に説明してもらいつつ、ギルド内の細々したルールなんかも聞きながら2階を一周した後、階段前で立ち止まったレキが口を開いた。私室? 個人的な部屋がギルド内にあるって事? ギルドに住んでいる人がいるって事で合ってるかな。そう聞いてみると肯定が返ってきた。

 なんでも、遠い地から来た人たちが仕事しやすいようにとギルドに住むことが出来る作りになっているのだそう。社宅が社内にあるのね。


「近くに住む家がある人は通ってる。後は、仕事の都合で遠方に行くことが多い人なんかは部屋が必要ない」

「ギルしゃん、みたいな……?」


 再びギルさんを思い出して気持ちが沈む。ギルさん、無理してたりしないといいなぁ。いやいや、私も頑張らないと、返って来た時に何してたんだお前ってなるのも困る! 元気を出すのよ、メグ!


「ギルさんはギルド創設の時からいる凄い人だから部屋はある。というか頭領ドンが作らせた、が正しいな」

「作らせた、でしゅか?」

「創設時からのメンバーは頭領ドンにとって家族だ。そして頭領ドンの家はここ。家族は同じ家に住むのが当たり前だって言い張ったと聞いた」


 レキから頭領ドンの言葉を聞いてハッとする。なんだか私のお父さんみたいな事を言うなぁって思ったのだ。

 私が幼い頃にお母さんは亡くなって、お父さんは少し遠い場所に仕事場が変わった事があった。でも、この家はお母さんと選んだ大切な家だからった売ることもせず、お父さんは無理に家から通ってた。

 当時はまだお爺ちゃんやお婆ちゃんがいたから、単身赴任でも良かったのに、そう言った私にお父さんが言ったのだ。


『家族なんだから、離れちゃダメだろう? みんな一緒で、同じ家に住む。当たり前の事なんだよ、メグ


 だから、どことなく頭領ドンという人を身近に感じた。


「でも、頭領ドンもここが家という割に、色んなとこから依頼を受けてて滅多に帰ってこられないんだけどな」


 なるほどねぇ。本当に忙しい人なんだ。なら心配しなくても目の前で会う、なんて事はまずなさそうだよね。……フラグとかやめてね。


「レキは? ギルドに住んでるでしゅか?」

「……ああ。帰る家もないし」


 あ、まずい事を聞いてしまったかな? そう思って言葉が途切れる。何か言わなきゃ、と思っていると、何事もないようにレキは階段を上り始めたのだった。うん、ここは黙ってるのが正解っぽいね。

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