虹色の少年
レキ少年は、見習い看護士で勉強に忙しいだろうに、私なんかのお守りをさせて良いのだろうか? そう疑問に思ったので私はサウラさんにそう尋ねた。
「レキは最近このギルドの仲間入りしたのよ。30年前くらいだったかな? だからメグちゃんの少し先輩ってところね! 医療関係の人たちは呼び出しを受ければどこであってもすぐ駆けつけなきゃいけない仕事だから、ギルド内部はもちろん、街も道やあらゆる場所を覚えなきゃいけないわけ。ひとまず今日はギルド内をちゃんと説明しながら回れるか、っていうのを試験の1つにしちゃえば断らないと思うの」
「さすがはサウラなのです! それなら絶対に彼も断れないのですよ!」
サウラさんたちの最近とか少しの基準と私の基準に差異を感じる! それはまぁ置いといて、話の流れ的にただのお守りなら断りかねない捻くれ少年ってとこかな。でもなるほど、試験ならやらざるを得ないもんね。しかもキッチリ説明してもらえそうだ。
「だからメグちゃんにも私からの依頼よ。レキの説明や案内がどうだったか、後で思った事を正直にルドあたりに報告して欲しいわ。ふふっ、初仕事よ! どうかしら?」
なんと! 私にも仕事が!? それは願ってもないことだ。そういう事ならしっかりレキ少年を観察させていただきますっ! というわけでもちろん返事は……
「あいっ! がんばるでしゅ!」
「やだ、可愛い……! ちゃんとお昼食べたらお昼寝はするのよ?」
「わかりまちた!」
くっ、張り切り過ぎると余計に噛む! でも今はいいや。だって、異世界に来てまた働けるんだもん! 働く事自体は好きなんだよ? でも今度は前みたいに無理しないように頑張るんだから!
「よし。そうと決まれば早速ルドに伝えなきゃ。メグちゃんはホールで待っててくれるかしら」
「あい!」
そんなこんなで、私たちは同時に席を立ち、食器を片付けるとそれぞれ移動を始めた。メアリーラさんは名残惜しそうに去って行く。ホールまで私を送るジュマくんへの視線のきつい事きつい事……! 結局この2人の(一方的な)因縁がなんなのかは分からずじまいだったな。ジュマくんに聞け? 分かってなさそうだから聞くだけ無駄かなって私の勘が言ってるのだ!
「お待たせ。メグ、朝ご飯はしっかり食べたかい?」
ホールの例のソファに埋まって待っていると、ルド医師と1人の少年がやってきた。ルド医師に話しかけられたというのに、私ったら一言だけ返事を返すので精一杯だった。一緒にやってきた少年に目を奪われてしまったからだ。
「きれーなの」
思わずそう呟いてしまうほど、少年の髪は幻想的で。何色、なのかな? 角度によって紫だったり黄色だったり……あらゆる色に変わるのだ。まるでシャボン玉みたい。そんな姿を初めて見たら、誰だってこうなると思うんだよ。
「ジロジロ見んなよ、チビ」
しかし、その少年から紡がれた言葉はちっとも美しくなかった。
「こらレキ! 幼子相手に何だそれは」
ツンとそっぽ向く虹色少年にルド医師が窘めるも、全く悪いとも思っていないように少年はむすっとした表情を変えない。なるほど、難しいお年頃ってやつだわ。
「いいんでしゅ。ジロジロ見たのは私だし、私が悪かったんでしゅ。ごめんしゃい」
いくら珍しいからって初対面の子どもに物珍しげに見られたらいい気分しないよね。それにきっと、この少年はそういう態度をよくされるんだろうと思う。うんざりする気持ちも理解出来るのだ。今回は確かに私が悪かった。だから、素直に謝ってぺこりと頭を下げた。……ソファから抜け出せないから間抜けな格好でごめんよ。
「……成人したばかりのレキよりメグの方がずっと大人だな」
「なっ……!」
そんな私の様子を見て、ルド医師が少年を煽る、煽る。案外S気質なのかしら、ルド医師。そして分かりやすく挑発に乗る少年。扱いに慣れてるって事なのかも。
というか成人してるって知ってはいたけど、性格的な印象と姿がまんま少年で、私の中で君は少年として定着してしまったよ。すまん。
見た目は少年、中身は成人か。い、いやっ、別に何も連想してないよ! ってかそんな事言ったら私こそ見た目は幼女、中身はアラサーだしね! ……ツラい。
「まぁいい。話が進まないから簡単に今日の予定を私から話そう。メグ、いいかい?」
「お願いしましゅ!」
少年の何か言いたげな様子を華麗にスルーしてルド医師が話し始める。穏やかな笑みを浮かべているルド医師だけど、やはり仕事となると厳しいのだろう。メリハリが付けられる人って素敵だよね!
「今日は夜、メグを医務室に連れて来るまでレキはメグと行動を共にする事」
「はっ!? 案内するだけじゃないのかよ!」
え、それ1日少年と一緒って事? そしてそれを少年は知らなかったっぽい。……これ、私的にも難易度高くない?
「レキ、君は少し黙りなさい。人の話を遮るんじゃないよ? 私だって暇なわけじゃないんだ」
「……すみません」
スッと冷気が漂った気がした。ルド医師、やる時はやる人。私も最後まで話を聞こう。自然と背筋が伸びる。
「いいかい? 今日は1日かけたレキの試験だと思ってくれ。レキは新しく来た子、しかも幼い子にギルドについて分かりやすく説明しながら、仕事をこなすように。メグには後でギルドがどういうところか聞くからね。どの程度伝わっているかで判断させてもらう」
う、これ私、責任重大じゃない? そう思って表情を引き締めていると、ルド医師はふわりと微笑んで大丈夫、と声をかけてくれた。
「メグは頑張って覚えようとしなくていいよ。あくまで自然な状態で、レキがどのくらい伝えられるのかが知りたいだけだから。後はレキが、ギルドの事をどの程度理解しているか、だね」
「……監視付きなのか」
「当たり前だろう。メグ1人に負担をかけるわけにはいかないよ。君は素直じゃないしね」
「ふんっ……」
あ、そっか。私だけが少年を見るわけじゃないんだよね。試験って言うくらいだし、少年の様子を見守る人がいて当たり前だ。ふぅ、なんでも1人でやろうと頑張ってしまう私の悪い癖が出るところだった。危ない、危ない。
「それからレキ。メグの事については先ほど説明したね? 医療に携わる者として、
「……わかった」
おお、さり気なく私が疲れないような監視も任されているのか。上手い事私を利用した試験である。もちろん、否やはないよ。
「では、今この瞬間から試験を開始するよ。2人とも、頑張ってね。メグは遠慮なく思う事をレキに伝えるといい。気楽にね。じゃ、私は医務室に戻るよ」
「あい! ありがとーごじゃいました!」
最後くらいはしっかり返事をしてルド医師を見送る。姿が見えなくなるまで見送ったところで、漂う微妙な沈黙。
「おい」
「あい」
呼びかけられたので返事をしたけど、何この締まらないやり取り。少年も似たような事を思ったのだろう、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「早く立ってくれないと案内できないだろ」
あー。それね。うん、そうだよねー。わかってる。けどね? このソファは自分では座れるし、座り心地抜群なんだけどさ、重大な欠点があってね?
「……沈んじゃって、下りられないんでしゅ」
「…………」
この通り、とどうにか下りようと足掻いてみせた。本当なんだよ! 遊んでるわけじゃないんだよ! ってかなぜこのソファを選んでしまったんだ、私! 自分のアホさ加減に落ち込む。
「僕が下ろすのかよ……」
盛大なため息を吐きながらも、少年は私の脇の下に手を入れてひょいと下ろしてくれた。あら、細くて小柄なのに力持ち。……じゃなくて!
「ごめんしゃい……ありがとーごじゃいましゅ」
「……行くぞ」
うう、ファーストコンタクトから先が思いやられるよ! 私は慌てて少年の後について行った。
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