本日の予定は


「なーにやってんのよ、あなたたち! 入口は邪魔だから他所でやんなさーい!」


 そこへやって来たのは救世主! ミニマム美女、サウラさんだ。小さいながらも存在感が半端無い。同じサイズな私としては羨ましい……だって気を付けないと蹴飛ばされそうなんだもん。


「サウラしゃん、おはよーごじゃいましゅ!」

「おはよう、メグちゃん! 今日も可愛さ全開ね! 水色ワンピースが良く似合ってるわっ! んーっキュート!」


 サウラさんに挨拶すると、高めのテンションで頬擦りされた。サウラさん、スキンシップ好きだよね。


「2人ともー! いつまでも喧嘩してるならメグちゃんもらってくわよ?」

「ああっ! 私の癒しのモーニングがぁっ!」


 メアリーラさん、それが本音かっ!


 結局、なんだかんだでその場の4人で朝ご飯を食べることに。メアリーラさんはジュマくんが一緒なのが腑に落ちないみたいだったけど。ほんと、何があったんだ。

 まあいい! それよりも今は素敵な朝ご飯を前にしているのだからそっちに集中だ。


「今日はパンかー。腹にたまんねぇんだよなぁ……チオリス! 飯残ってねぇの?」

「もっちろんあるよー! おにぎりにする?」

「おー、頼むわ」


 そんな会話を耳にして吹き出すのを必死で堪えたよ。え、まじで? おにぎりとかあんの? すごいわ異世界。というかこの街が、かな? お米あるだけで衝撃だったけど、私の食生活は安泰だわ。本当に、和食生み出した人……ありがとう!!


 でも私の今日の朝食はパンだ。ここに住んでいればいずれおにぎりも食べられる日が来るだろうし、悔しがる事はないのだ!


「……おにぎり、欲しいのか?」


 はっ! そんなに物欲しそうな顔してたのかな? うう、だって人が食べてるの見ると美味しそうに見えるじゃない? 別に、欲しがってるわけじゃ……!


「おや、おにぎりが気になるのかい? じゃあお昼におにぎり用意してあげようか。朝ご飯に食べようと思ったら、食べきれないでしょ?」

「! ぜひ! お願いしましゅ!」


 そんな提案なら乗るしかないでしょー! 食堂のお姉さんも優しいっ! オレンジのボブショートなお姉さんの名前はチオリスさん! 覚えたよ!

 私がウキウキしていたら、生温い視線のオンパレードで居心地が悪かったけど、おにぎりの前には些細なことよ!


「いっただっきまーっしゅ!」

「ふふっ、召し上がれ!」


 ご機嫌なせいで挨拶の声も弾む。パンもパンでとっても美味しそうだしね! 選べるジャムは王道のイチゴにしました。……名前が違うといけないからこれ! と指差したんだけどね。確かイチゴはシュベリーって言ってた気がする。ふぅ、覚えることたくさんだわ。脳に糖分を補給、補給! ……うまーっ! 幸せーっ!


「……メグちゃん、美味しそうに食べるのです。私もシュベリージャムにすれば良かったかなぁ……?」


 隣でそんな風に呟くメアリーラさん。そういうあなたのマーマレードらしきオランジャムも美味しそうだよ!




「精霊とお友達に?」

「そうでしゅ!」


 朝食後、流れで今日は何をしたいかと問われた私が答えたのは「精霊と友達になりたい」であった。昨日見失った淡いピンクの精霊さんも気になるし、自然魔術を使えるようになるためにも精霊と親交を深めたかったのだ。それと今日やりたい事はもう1つ。


「あとは、ギルドの中を探検したいでしゅ。どこに何があるのか、知りたくて……」


 そうなのだ。みんなだってそれぞれ仕事で忙しいだろうし、いつも私の側に誰かがってわけにはいかないと思うんだよね。流石に外へ行くには幼すぎて引率が必要かな、と思うけど、ギルド内は1人で歩けるようになりたいのだ。


「そうね……いくつか約束事を守れるようになったら、建物内なら自由に出来た方がメグちゃんのためにも、他のみんなのためにもいいかもしれないわ」

「いつもギルド内にいるメンバーに顔を覚えてもらうの、いいと思うです!」


 ああ、外回り多い人なんかは別だけど、ギルド内で働く人もそりゃあいるよね!

 ……外回りの人、で思い出した。お昼前に会社にやってきて、きっと今日は家から客先直行だったんだろうなぁ、と思ってたのに単なる寝坊による遅刻だったとヘラヘラ笑っているのを見て殺意を覚えた記憶。こちとら朝早くからあんたに持ってってもらうあれこれを準備してたってのに! 大体社内にいないから誰も疑いもしなかったんだよね! それをこっそり私に耳打ちしてきやがって! わざとらしく「ええっ!? ただの寝坊だったんですかぁ!?」って大きめな声で反応を返した私は悪くないぞっ! まあ、内緒にする理由もなかったしね。


 思考が逸れた。せっかくなので顔を覚えてもらおうというのも理由の1つではある。あとは何と言っても、純粋に建物内に興味津々なのだ! だって明らかに空間が別の場所にある訓練場があったんだもん。他にも面白い所があるかもしれないじゃない。せっかくだから前向きに楽しみたいのだ、異世界を!


「今日空いてる適任者か……誰がいたかなぁ」


 サウラさんが腕を組んで考え始めた。なんか、すみません……そこへすかさずジュマくんが挙手をした。


「オレ暇だし案内するぞー?」

「ジュマは案内って部分で人選に不安が残るわ。一緒に遊ぶとか護衛とかなら適任だから今日任せようと思ってたけど」

「なんだよー! 案内くらい出来るし!」

「……部屋の説明と気をつけるべきルールをちゃんと教えることが出来るわけ? ルールという単語がそもそも辞書にないあんたにっ!!」

「うっ…!」


 あ、ルール破り常習犯なのね。妙に納得。破る、というよりルールを把握してないっぽいもんね。……頑張れ兄貴。


「わ、私、今日はオフなので案内出来るですよっ!」

「ダメよ。これは正式なギルドの仕事。オフは緊急時以外休む事、というのがギルドの決まりなんだから。メアリーラは夜勤明けでしょ? ちゃんと休みなさい」

「うぅ……なぜ今日休みなのでしょう、私ぃ……!」


 メアリーラさんが呻きながらテーブルに突っ伏す。お気持ちはありがたく受け取りますよ……! にしても良いルールだな。休みの日はちゃんと休ませる。……うちの会社の上層部に教えてやりたいよ!


「あ、ちょうど良いのがいたわ。でも性格に難があるわね……ルドに相談かなー」


 性格に難? というかみなさんすでに個性的過ぎるのでもう何が出てきても驚きませんよ、わたしゃ。


「ルド医師に聞くということは……ま、まさか彼です……?」


 顔を引きつらせながらメアリーラさんがそう告げた。まさかね、そんなはずないよね、と顔が物語ってるんだけど……だ、大丈夫なの? 流石にちょっと心配になってきたよ。


「そう。レキに頼むわ!」

「やっぱりですかぁっ!?」


 レキ……あ! 昨日名前だけ聞いたよ、確か。見習い看護士で年頃の少年か! だ、大丈夫かな……?

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