ギルドを知ろう!

美幼女と目が合う


 んー、よく寝た! 目覚めた事にすぐ気付いてくれたルド医師に挨拶を返し、手をググッと上にあげて伸びをする。長谷川環の時も夜は夢も見ずに寝ることが多かったけど、なんだろう、目覚めた時の爽快感が全然違う! 少なくとも起きた瞬間「もう帰りたい……」なんて思わなかったしね! 思えば軽く病んでたな、私。


「おはようなのです! よく眠れたですか?」


 すると、部屋の中に赤毛の少女がやってきて、声をかけられる。えっと……どこかで見たような?


「うふふ、あんまり覚えてないのですね? 昨日はとっても眠そうだったから、覚えてなくても無理ないのです!」


 肩下までの三つ編みを揺らしながら笑顔でそう言う少女の言葉にハッとする。確か、昨日お風呂に入れてくれたのがこの人だったような……さらには歯磨きや着替えまで! うわぁ、思い出してみればかなりお世話になってるよ!


「あの、あの、きのーはいろいろ、ありがとうごじゃいました!」

「あはっ、いいのですよ! 私もこーんなに可愛い子をお世話できてとっても楽しかったのです! だから、またお世話させてくださいなのです! 早速身支度しましょ?」


 ニコニコ笑う顔にそばかすがよく似合う。有名などこかの赤毛少女をふと思い浮かべてしまった。ちなみに名前はメアリーラさんでした。




 顔を洗い終えると、メアリーラさんが楽しそうに身支度を手伝ってくれた。こんなに嬉しそうにされると、必殺、自分で出来るもん! を発動し辛い……!


「さ、髪を整えましょう! こちらに座ってなのですよ!」


 言われるがままに鏡台前の椅子に座る。クッションで高さを調節してあって、バッチリ鏡の前の美幼女と目が合った。


 ……美幼女と、目が合った?


「メグちゃんの髪は柔らかくてふわふわで羨ましいのです! 軽く櫛を通しただけでこんなに可愛くなったのですよ!」


 そう言ってメアリーラさんはどこからともなく藍色のリボン型をしたシンプルな髪留めを取り出し、左サイドにパチンと着けた。……美幼女の後ろに立つのは間違いなくメアリーラさんで、つまりその前に座る美幼女は……私!?


 え、嘘、何? なんだこの美幼女! 可愛すぎでしょ! しかもシュリエさんが放つエルフっぽい澄んだ雰囲気を纏ってる。大きな藍色の目がくりっとしてて、睫毛も長くてああもう!

 こ、これが今の私だったのね……!


 だというのに私が最初に思ったことは、中身が社畜の残念アラサーでごめんなさい! だった。




「ルド医師! 見てくださいなのです! 可愛いでしょう!?」

「……やるな、メアリーラ。完璧だ」


 呆然としている間に終えた身支度。その後メアリーラさんに手を引かれてルド医師の元へ連れてこられた私は半分やけになっていた。

 中身はこんなだけど、仕方ないよね! これが今の私なんだから。正直まだ自分だと受け入れ難いけど、きっと時間が解決してくれるはず。私は順応性が高い女、私は順応性が高い女!


「この後はどうするですか?」

「一緒に朝食を摂ってくるといい。その後は好きにしていいよ。メアリーラは今日休みだろう?」

「わかったです! じゃあメグちゃん、行くですよ!」


 あれ? ひょっとして2人とも夜勤明けってやつじゃあ……様子を見るにルド医師はまだやる事が残っているっぽいし。まずはきちんと挨拶しなきゃね!


「ルドせんせ、メアリーラしゃん、夜の間、ありがとーごじゃいました!」


 そう言ってしっかり頭を下げてご挨拶。顔を上げると驚いたような顔をした2人と目が合う。あれ? 変な事言ったかな?


「いいえ、どういたしまして。今日も夜はここにおいで。暫くは様子を見たいからね。今日も私が夜勤だから安心していいよ」

「……いいんでしゅか?」

「医者として当然だよ。君が思っているより身体は疲れているんだ。夜中に熱が出るかもしれない。そんな時に近くにいた方が対処しやすいんだよ」


 そっか。そうだよね。今日も元気だからって油断しちゃだめだ。大人の感覚でいたらすぐに体調崩しかねないわけだもん。私は子どもだという自覚が足りないんだから、特に気をつけないと。


「わかりまちた。ありがとーごじゃいましゅ!」

「いいんだよ。さあ、しっかり朝ご飯を食べておいで」

「あいっ! いってきましゅ!」

「はい、いってらっしゃい」


 しっかり食べて、しっかり休む! この基本を守りつつ、まずは生活に慣れる事から始めよう。焦っちゃいけない、少しずつ!

 こうして自分に言い聞かせながらメアリーラさんと手を繋いで医務室を出た。




「あーもう、みんながメグちゃんを見るですよ! 鬱陶しいのです! 可愛いから仕方ないのですけどっ!」


 鬱陶しいって、メアリーラさん……案外はっきり物を言うタイプなのね。というか嘘をつけないタイプに感じる。私と同じ匂いがする。


 でも確かに、すれ違う人みんながこちらを見ている気がした。自意識過剰かもしれないけどさ!

 きっとまだ、このギルドに子どもがいるって話が知れ渡ってないんだ。だから、何でこんな所に子どもが!? っていう目だと思う。こればかりはすみません、居候させてもらうので慣れていただくしかない。


「お、メグじゃねぇか。よく寝れたかー?」


 食堂に入る時、後ろから聞いたことのある声で話しかけられた。この声は……やはりジュマくんだ! ……昨日のお仕置きは大丈夫だったのだろうか。大丈夫だったんだろうな。今のジュマくんに、昨日の事を引きずっていたりする様子は皆無である。


「ジュマにーちゃ! おはよーごじゃいましゅ! たくさん寝たの!」

「おう、そうか! なんだ、今日はいい服着てんじゃん。似合ってるぞー!」

「ケイしゃんが選んでくれたでしゅ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でられる。せっかくメアリーラさんが整えてくれたというのに台無しだ。心なしかメアリーラさんのジュマくんを見る目付きが鋭い……


「こほんっなのです! ジュマ、私たちはこれから朝食なのです! 邪魔しないでもらえますかっ?」


 わざとらしく咳き込み、分かりやすく嫌そうにそう告げるメアリーラさん。結っている三つ編みや服装からキチンとしたタイプのメアリーラさんにとって、フリーダムなジュマくんは相性が合わないのかもしれない。もしくは毛嫌いするきっかけになるような事が過去にあったか。……何となくどっちもな気がするけど。


「あ、俺もこれから朝飯なんだよ! ちょうど良」

「良くないのです! 私たちの優雅なモーニングを邪魔しないでなのです! 断固拒否です! あっちいけなのですっ!」

「なんだよそれっ!」


 何やら喧嘩勃発? 食堂の入口で2人の言い合いが始まった。……ジュマくんて、色んな人に怒られるよね。そんなに悪い人じゃないと思うんだけどなぁ。


 にしてもお腹空いたよー。ご飯食べようよー。暫し口を挟めず、遠い目になってしまったよ。……ごはんー。

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