ケイさんのお話


「あ、そうだ。肝心な事を報告し忘れていたよ。メグちゃんの服を貰ってきたんだよ」


 早っ! え、え? おかしくない? だって服を頼んだのってほんの少し前だよ? 私がどれだけの時間を精霊観察に費やしたのかはわからないけど、そこまで長時間ではなかったはずだ。私が驚いていると、ケイさんはそれを察してすぐさま説明してくれる。


「今は最低限必要なものだけをもらってきたからね。新しい下着と寝間着と明日着る服。メグちゃんの事を話したら大喜びで仕立ててくれたんだ」


 すぐに必要だからと、元々あった物を小さめサイズに調整しただけだから早かったのだと言う。にしても早いよ……職人凄い。


「とても気の良いレディでね。もっと可愛い服を作りたいから今度連れてきてほしいって言われたんだ。いいかな?」

「もちろんでしゅ! でも、お金ないでしゅ……」


 可愛い服は好きだ。これでも女だからね! でもね、社畜生活ではいつも同じような服しか着れず、休みの日に買い物に行こうと思ってウキウキするも、結局寝て終わったりして買いに行けず。着る暇ないじゃん! ってなって結局そんな意欲も失う日々……要するにお洒落には無縁だった。

 けど雑誌を見て心ときめかせるのは好きだったんだ。生活費以外にお金を使う暇がなかったから、貯金はそこそこ溜まってたけどね。

 しかし、今は逆である。買い物に行く暇も着飾ることも出来るのに……お金がないっ!


「やだなぁ、そんなこと気にしてたの。服くらいボクに買わせてよ。ボク以外にも、メグちゃんに着て欲しい服を勝手に用意する人、たくさんいると思うよ?」


 まぁ、幼子がそんな事言い出したら大人はそう言うよね。私だって小さな子にそう言われたら同じ事を言うだろうし。わかっちゃいるけど私は中身いい大人だからなかなか割り切る事が出来ない。だからここはひとつ、これだ!


「それなら、出世払いするでしゅよっ!」


 必殺「大人になって稼いだら返します」発動! 自信満々に拳を上げてそう宣言したら、ケイさんは目を丸くしていた。それからすぐに吹き出して、声を上げて笑い始めた。な、何だよう、私は本気だぞう!


「もう、可愛いなぁ。うん、わかったよ。楽しみにしてるね?」

「期待しててくだしゃい!」


 ケイさんの言葉にそう答えるとまたしても笑い始めた。ぐぬぬ、確かに働くあてはまだ見つかってないし、自分に出来ることすらわからないけど! 今に見てろよ、と私は密かにやる気を漲らせた。メラメラ!




 早速貰った洋服のチェックを2人でしてみる。寝巻きはネグリジェタイプ。クリーム色で飾り気がないけど、寝る時の服ならそれが1番だ。飾りは邪魔だし。ただポケットが1つ付いていて、あとは何と言っても生地が柔らかい。これは安眠出来そう……!


 そして明日着る服はこれまたシンプルな水色のワンピース。頭から被って着るようなストンとした形で、体型がわからない作りになっている。まあ、わからないけど幼児体型なんで隠す必要もないけどね……!

 ネグリジェよりしっかりした生地だけど、これまた触り心地が抜群だ。七分袖で、丈は合わせてみると膝が隠れるくらいかな? 袖と裾に可愛いレース飾りがついている。シンプルなのにオシャレです!


 そして下着は……意外にも元の世界とあまり大差はないようだ。もっとこう、かぼちゃパンツとかドロワーズみたいなのを想像してたけど。そういえばみんなの服装もどことなく異国感は感じるけど、縫製がいいというか、元の世界に通ずる物があるんだよね。案外女性下着がブラだったりとかするかもしれない。当分必要ないけど。……前もスポブラで充分だったけど普通のブラ使ってたからね! くっ、自分で自分にダメージ!


 微妙な心境で確認した服を袋にしまっていく。早速今日のお風呂の後に着替えよう。お店に行った時には、真っ先にこれを用意してくれた事のお礼を言おうと心のメモに書き留めた。

 一緒に片付けを手伝ってくれたケイさんは、少しボクの話をしよう、と手を動かしながら口を開いた。


「……ボクはね、華蛇はなへびの亜人なんだ。視力が弱い種族でね。あ、と言っても不便はないよ。熱を感知するから必要ないのさ」


 おぉ、いつかケイさんの種族について聞けたらいいな、とは思ってたけど、案外早く知る機会が訪れたようだ。私は黙ってケイさんの話に耳を傾ける。


「でも、人の顔はほとんど判別出来ないんだ。オルトゥスに来て、腕の良い職人たちにこの眼鏡を作ってもらった時は本当に感動したよ。世界はこんなに綺麗だったのかって。人の顔とは、なんて興味深いんだろうって。それからさ、可愛いものに目がなくなったのは。おかしいだろう?」


 ケイさんは自嘲気味に笑う。そっか、そんな事があったんだなぁ。亜人って何となく人間よりずっと優れてるってイメージがあったけど、そうじゃないんだ。

 そもそも優れても劣ってもない。それぞれに特徴があるってだけなんだよね。つまりは、個性だ。それにしても……


「はなへび、でしゅか……」

「あ、初めて聞いた?」

「はい」


 正直にそう告げると、珍しい種族だから知らなくて当然だとのお返事。何となくホッとする。

 曰く、「はなへび」とは、白い鱗の所々に黄色の鱗が混ざっており、その模様が花のようだというのと、その動きが華麗なダンスを踊っているようだというのが名の由来らしい。確かにスルスルと地面に降り立つ白蛇の姿は綺麗だったなぁ。つまり文字通り「華蛇」ってことね。

 さっきは驚いたから白いヘビという印象しかなかったけど、今度はその黄色い鱗を探してみたいな、なんて、そんな事を思った。


 その後もケイさんから色んな話を聞かせて貰った。ここのギルドに所属している者は、みんなそれぞれ担当している事が違うらしい。いわゆる部署みたいなものかな?

 ケイさんはギルさんと同じ情報や諜報担当なんだって。気配消すのすごいもんね……でも空を飛べないケイさんは、移動に時間がかかる為国内専門なんだとか。逆にギルさんは国外専門。なるほどねぇ。でもそうなると、ギルさんは外出多そうだ。ちょっと寂しいな。


「サウラディーテは見ていてわかると思うけど、統括だな。受付業務や事務、書類系の仕事が多いんだ。シュリエレツィーノは裏方ってところ。根回しとか裏工作とか、策略を考えたりとか色々やるんだ。ジュマやヴェロニカなんかの脳筋たちは実行部隊ってとこかな。指示さえ出せば何でもやってくれる」


 あとは医療担当や食事担当、武器や設備を用意する人たちや交渉する人、清掃などの施設の維持をする専門までいるんだとか。ほんと、会社みたい。


 ギルド内のあれこれを面白おかしく話してくれるので、わかりやすくて飽きない。ケイさんの話術はすごいなぁ。これはイケメンぶりによるものなのか、諜報としての仕事の影響なのかは定かではないけども。

 こうしてあれこれ話している間に、あっという間に時間は過ぎていったのだった。

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