大きな人と、イタズラと
「嬢ちゃん、初めて見る顔だなぁ? どこから来たんだ? 親は?」
筋骨隆々な大男は大声でそう尋ねてくる。いや、きっと本人は大声だという認識がないのだろう。眩しいくらいの濃い金髪はまるで
だって答え辛いんだもん、質問が! それが分かってればここに来てないんだから。なのでどう答えようか考えを巡らせていると、トタタタ! という足音が近付いてきた。振り向くと物凄い形相でサウラさんがこちらに向かっている。ちょ、サウラさん、顔……!
「ニカ! ちょっと、メグちゃんが怖がっちゃうじゃない! もう少し自分の容姿と声の質を自覚してよねっ!」
「ん? 怖がらせっちまったか? そいつぁ悪かったなぁ、嬢ちゃん!」
そう言いながらまたしてもガハハと豪快に笑う大男。あ、やっぱりギルドの人でしたか。
「反省してないわね……」
ガックリと肩を落とすサウラさん。薄々勘付いてたけど、サウラさんって苦労人だよね。天真爛漫なとこあるけど責任感が強いんだろうなぁ。相反する性質が上手い事共存している!
「あ、えと、大丈夫でしゅ! こわくないでしゅよ!」
とりあえずフォローしといた。実際怖くはないしね。声と身体の大きさに驚きはしたけど、こんなに気の良さそうな人が怖いとは思わない。そりゃ怒ったりしたら怖いだろうけど、手当たり次第に暴れるようなタイプじゃないってのは、最初のコンタクトでわかるってものよ。なのでにへーっと笑顔を向けてみた。
「おう、サウラよ。どうしたんだ、このちんまいの……えっらい可愛いじゃねぇか、この野郎」
「あら、珍しい。メグちゃんの可愛さに混乱してるわね。ふむ、魔術で惑わすよりメグちゃんの可愛らしさは効果あるかもしれないわね……」
なんか話が噛み合ってなくない? どちらも気にしてないからこれが通常モードなのかもしれない。これまた薄々勘付いてたけど、ここのギルドの人たちって変な……もとい、個性的な人ばっかりじゃない? 特級だからこうなの? いや、類友なのかもしれない。
だとするとこのギルドの創設者で頭領(ドン)だというユージンさんは、変な……あ、いや、個性的な人筆頭に違いない。
「俺のこたぁ、成人した男でさえ初見でビビる奴ばっかりなのになぁ! ちびっころ! お前度胸あるんだなぁ。見直したぞ!」
「ちびっころじゃないでしゅよー! メグって言いましゅ!」
「おお、すまんなメグよ。俺ぁヴェロニカってんだ。ニカって呼んでくんな!」
「ニカしゃん! よろしくお願いしましゅ!」
やっぱりこの人、結構好きだなぁ私。陽気で明るくて体型からいって力持ち。嘘とか裏で根回しとかが嫌いで何事も直球勝負なイメージ。こういう人は信用出来る気がするんだよね。うん、個人的な妄想も入ってるけど!
「メグちゃんについては、私から各部署の責任者にきちんと説明するわ。貴方にもね、ニカ。今の依頼を終えたら私のとこに来てちょうだい」
「おお、そうか。んなら明日にでも聞けそうだな。夕飯かっ喰らってさっさと終わらしてくらぁ!」
じゃあな、とニカさんは白い歯を見せてからその場を去っていった。何というか、身体に比例して心も大きそうな人だったなぁ。大胆そうというか。偏見かな?
「ふふっ、メグちゃんってば本当に肝が据わってるのね。私も驚いちゃった!」
あと少しだからね、という言葉を残してサウラさんは戻っていく。そっか、サウラさんのとこから私の姿見えてたんだ。はっ! もしやもがいてたのも見られてた……? は、恥ずかしい!
……っていうかそうだった! 遊んでたわけじゃないのよっ! 誰か下ろしてぇっ!
頼むのをすっかり忘れていたおバカな私はしょんぼりと項垂れるのであった。ガクッ。
『クスクス。メグちゃん、ただいま』
「ひょっ!?」
耳元で突然柔らかい声が聞こえた。この声はケイさん? また忍び寄ってきたの? と思って振り向くと……
真っ白な紅い目のヘビさんと目が合いました。
「ひょ————っ!?」
これには思わず(可笑しな)悲鳴をあげて逃げようとする。が、ソファに沈んで逃げられない。いやぁぁぁーっ! ヘビさん噛まないでぇぇぇーっ!
そんな私の心境を知ってか知らずか、白ヘビさんはスルスルとソファの上を通って私の身体を通り、ソファ前の床に下りた。ヘビさんの通った感触にぞわぞわっと背筋に悪寒が走った。ひょえぇ!
ぷるぷると涙目で震えていると、またクスクス笑うケイさんの声。すると、目の前の白ヘビさんがあっという間に姿を変え、見知ったスレンダー美人さんに早変わり。
お、お、おのれぇっ!! 寿命が縮んだよっ!!
「ごめんごめん、驚かせちゃったね? メグちゃんの反応が可愛くてつい。ヘビは、苦手だったかい……?」
ニコニコ笑いつつ、悪びれた様子もないケイさんに膨れっ面を向けてしまうのは仕方ないと思う。でも続くケイさんの言葉は、どこか寂しそうに聞こえて。
「人をおどろかせるのを楽しむヘビしゃんはキライでしゅっ! でも……やさしーヘビしゃんならしゅきでしゅ!」
キチンと先ほどの行いについての反省を促しつつ、軽い調子でそう答えておいた。
自分の種族が苦手って言われたら、やっぱり悲しいだろうなって思ったから。そして、そんな経験をケイさんはたくさんしてる気がしたんだ。
でも私はヘビを直接触ったことはないし、好き嫌いを判断出来るほどヘビと接した事はない。怖いイメージはあったけど、ケイさんを怖いとは思わないから、言ったことは本心なんだよ。
「そっか。そうだよね。……ごめんよメグちゃん。もうしないよ」
「なら、しゅきでしゅ!」
「ふふ。ありがとう」
ケイさんの感謝の言葉には、色んな意味が含まれている気がした。
ケイさんは私をひょいっと持ち上げてソファから下ろしてくれた。あんなに苦労したのにこんなに簡単に!
というかやっぱり私が下りようともがいてたの、気付いてたんだ……! うわぁ、恥ずかしい!
「ところでメグちゃんは何をしようとしてたんだい? ソファから下りたがってたし、何かしたい事があったんだろう?」
あ! そうだった! ニカさんの登場とケイさんのイタズラですっかり忘れてた。慌ててさっきの小さな光の方へと目をやる。
「あれ、いない……」
ギルドの片隅でひっそりと隠れるように光っていたピンクの精霊が、そこにはもういなかった。近くに移動したのかと思ってあちこちキョロキョロしてみるも、ピンクの光はあれど探しているあの淡い色のピンクはいなかった。どこに行ったんだろう?
「誰かを探しているのかい?」
「気になる精霊しゃんがいたんでしゅけど……どこかにいっちゃったみたいでしゅ」
「精霊……そっか、メグちゃんはエルフだもんね」
精霊と聞いてピンと来ていない様子のケイさんだったけど、すぐにエルフだと思い出したようで納得の表情を浮かべた。
「また、見つけられるといいな……」
「ボクには精霊の事はあまりわからないけど……メグちゃんが会いたいと思っていればきっとまた会えると思うよ。こんなに可愛い子に会いたいと思われて嫌がる人や精霊なんかいないさ」
やはり一々発言がイケメンなケイさんだったけど、その言葉は素直に受け入れる事が出来た。そう考えていた方がより会える気もするしね!
「あいっ! 今度はちゃんと目の前で会いたいでしゅっ!」
声に出して言ったらますますその通りになる気がして元気が出たぞっ! ケイさんはニコリと微笑んで、その精霊が羨ましいね、と呟いた。何故だ。
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