良い子なので1人で待機
サウラさんは医務室へと向かう前に、2番目に重要な課題と言って、私の替えの服類を大至急用意せよ、とケイさんに指示を出した。いや、だからなんで私の個人的なあれこれの重要度がそんなに高いの?
微妙な顔をしていると、それを察したのかシュリエさんが説明してくれた。
「子どもというのは本当に、それはもう本当に貴重なんですよ。私たちのような種族や亜人は基本的には身体が丈夫なのですが、それでも病気や事故でその命を失う事は少なくありません。それに、幼少期いかに愛情を注がれたか、幸せだと思えたかによって、その後の長い人生が変わるのですよ。私たちにとって、子どもとは宝です。周囲の大人が力を合わせ、何に変えても守らねばならないと誰もが思っているのです」
幼い子どもが命を失いやすいのは事実だ。それがエルフだろうが亜人だろうが、変わらないんだ……全体量が少ないだけで確率で言えば変わらないのかもしれない。
私はやっぱりどこかで人間の感覚でいるから、扱いが大袈裟だと感じているんだろうな。でもこの辺りの意識改革は一朝一夕じゃいかないよね。ああ、難しい。
でも、幼少期の環境がその後の人生にっていうのは同じだ。人間以上にその生が長いんだから、その重要さもわかるというものである。
「……手始めに、ボクがとびっきり可愛い服を用意してこよう。少し採寸させてもらうね? それでまた今度、直接お店に行こう。もっと細かく採寸してもらったり、好みの生地を選んだりしよう?」
「その手のことはケイに任せれば間違いありませんね。メグ、ケイに頼りましょう」
「……あい、ありがとーごじゃいましゅ」
でもね、私としては優しくされるのが久しぶりすぎて、そして会う人会う人みんなが優しくて、涙が溢れてくるのを我慢することが出来ないんだ。もう、子どもになったからって泣き虫すぎじゃない? 私、恵まれてるなぁ……拾ってくれたのがギルさんで、オルトゥスで良かった。
私が泣いたことでなんとなくしんみりした雰囲気になってしまったけど、どこか暖かな空気が漂っている気がした。
それから私の簡単な採寸を終えたケイさんはまた後でね、と声をかけると颯爽とギルドを去っていった。足音、あんまりしないよね……そういう種族って言ってたけど、一体何の亜人さんなんだろ? 今度聞けたらいいな、と思いながらその後ろ姿を見送る。
それから少しギルドの軽食スペースのソファに座っていると、戻ってきたサウラさんに声をかけられた。
「ルドの許可を得てきたわ。ルドもそうするのがいいと思って後で言いに行くつもりだったみたい。すぐに業務を終わらせるから、夕飯一緒にどうかって。せっかくだから医師としての自分ではなく、ルドとしてご飯を一緒に食べて友好を深めたい! という超個人的な理由だったけど。お世話になることだしいいかな? って思って勝手にオッケーしちゃった。良かったかな?」
おお、なんて素敵なお誘い。私としてもお医者さんと信頼関係を築きたいところである。もちろん否やはないのですぐに首を縦に振った。夕飯なんだろー?
「ではメグ、少しここで寛いでいてください。大変申し訳ないのですが、少しやらなければならない事がありまして……1人で大丈夫ですか?」
う、そうだよね。シュリエさんにだってやる事があっただろうに、今日は私と一緒にいてくれたんだもん。ここはワガママ言っちゃダメなところだ。
けど、ちょっとさみしい。ギルさんの時ほど不安でいっぱい! ってわけじゃないけど、ついつい目が潤んでしまう。うーダメダメ我慢!
「……大丈夫でしゅ! シュリエしゃんも、夜ごはんはいっしょにたべられましゅか……?」
どうにか涙が零れないように耐えて言葉を絞り出す。するとシュリエさんは蕩けそうに顔を綻ばせて頭を撫でてくれた。あれ、変な事言ったかしら?
「これは本気を出して用事を終わらせなければなりませんね。約束しましょう。メグ、夕飯もご一緒させてくださいね」
「あいっ! でもいっぱい無理はめっ、でしゅからね!」
きっと無理させてしまったんだろうな、とは思ったけど、やっぱり嬉しいので元気にお返事。心配してますよ、アピールも忘れない。私はお利口さんに待てが出来る幼女! どんとこい!
笑顔で手を振るシュリエさんを、同じく笑顔で見送った後、ポツンと軽食スペースに取り残された私。ギルド内にはあちこちに人がいるけど、みんな忙しそう。
ふと、さっき手に入れた新しい世界に興味が向いた。うん、せっかく時間があるんだし、精霊さん観察してみようかな。そう思ってソファに寄りかかりながら周囲に目を向けてみた。……側から見ると、ただぼんやりしてるだけのように見えるだろうけど。
こうしてみると、1つ1つの光に個性があるのがよくわかる。色はもちろん、明るさや明滅の仕方も1つ1つ違っていて面白い。動きが活発な子もいるし、じっと同じ場所で動かない子もいる。どの子がなんの精霊なのかまではわからないけど、その辺はまた今度シュリエさんに聞いてみよう。
こんな風に過ごして……どのくらいだ? 結構長い事精霊観察をしていたように思う。色んな精霊さんがこちらに寄ってきては面白い動きを見せてくれて飽きる事がなかったのだ。もし声が聞けたら楽しいだろうな。やっぱり話しかけてくれてるのかな? どんな事を話してくれてるんだろ?
「ごめんねー。声まではきこえないの。おはなしできたらいーのにね」
伝わっているかはわからないけど、そんな風に声をかければ、どことなく嬉しそうに光は揺れているように思えた。簡単な感情なら伝わるみたいなんだよね。ふふっ、なんだか可愛い!
そんな中、どうも気になる精霊を見つけた。ギルドの部屋の片隅でずっと動かない、小さくてピンク色の光。光も弱々しい。
もしかして、具合が悪いのかな? 精霊も体調崩すことってあるのかしら。気になり出したら居ても立っても居られなくなって、私はその子の近くに行ってみようと行動を開始した。
……のだけど。ソファは私には背が高く、しかもふわっふわで少し動くと沈む。あ、あれ? 私どうやって座ったんだっけ? あ、抱き上げてもらったんだった。とほり。
しかし! ここで諦めるわけにはいかない! 何としてもあの子の元に行かなければ。だんだん焦り始めてきた。だと言うのにどれだけもがいても下りられないどころか、あっぷあっぷと溺れそうになる。きっと周りからはふわふわソファで戯れているようにしか見えないだろう。ち、違うんだっ!
はふぅ、とため息を吐いて途方に暮れているとスッと影がさした。なんだろう? と思って見上げると……
「何遊んでんだぁ? ちびっころ!」
ガハハと豪快に笑う金色な大男がそこにいらっしゃいました。
……デカっ!!
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