ギルド1のイケメン


 はっ! 放心してる場合じゃない! 気を取り直して慌てて挨拶を返しつつ自己紹介。そんな私に嫌な顔1つせず、ケイさんはにっこりと微笑んで握手を求めてくれた。その手は白くてすべすべで。……お姉さん不覚にもドキドキしたよ!


「でもほんっとケイは気配消すの達人級よね。ギルと同じくらい。私やシュリエでさえ気を張ってないと気付けないもの」

「まあ、そういう種族だからね」


 腰に手を当てながらボヤくサウラさん。やっぱりケイさんって凄腕なんだなぁ。というかそんな事を言えるサウラさんやシュリエさんも実は相当の手練れとみた。私には未知の世界のお人だわ……


 大人たちが話し始めたのでケイさんを改めてこっそり観察。

 ギルドで1番のイケメンと噂のケイさんは、真っ白な髪を襟足だけ長めのショートカットにしている。黒縁のお洒落な眼鏡の奥に見える紅い瞳は怖いように思えるが、本人の柔らかな人柄ゆえか、怖さよりもゆるっとした脱力感の方が強い気がする。でも全体を客観的に見れば、スラっとしていて、とても洗練された美を感じる。服装といい、身に付けている小物といい、とてもスタイリッシュだ。

 まあ、そんな事はいい。問題はそこじゃないのだ。


 目元に泣きぼくろがあり、長身でスレンダーなケイさんは……十中八九女性・・であった。


「……ギルドでいちばんの、イケメン、しゃん?」


 中性的な顔立ちとスタイルではあるけど、肩や腰の曲線や声からして、やっぱり女性だと思うんだよねぇ。まさかイケメンが女の人だとは思わなかった。


「ちょっと。サウラディーテだね? どんな説明してるんだい?」


 思わず口にして言えば、困ったように笑いながらケイさんはそう零す。口では文句を言っているけど、本気で不服と思っているわけではなさそうだ。……自覚はあるのか。


「だって本当の事だもの。街の女の子たちが口を揃えて理想はケイだと言う、って泣きを入れにくるギルド員の多いこと多いこと。そういうのを私に言いにくるのよ。業務妨害もいいとこなんだから!」

「それこそボクに言われてもねぇ。ボクはボクで普通に生きているだけだし」

「女の子たちの理想が高すぎて、そんじょそこらの男じゃ太刀打ち出来ないのよ……男側にしても、女の子側にしても、婚期を逃す原因になるってのよ」

「女の子は可愛いし、ボクとしてもそう言われるのは悪い気しないんだけどね。でも婚期を逃すっていうのはちょっと問題だね」


 まあそれはさておき、とケイさんが話を無理矢理ぶった切り、視線をこちらに向けた。


「話しは聞かせてもらったよ。今日のメグちゃんの泊まる場所で揉めてるんだね?」


 一体いつから話をきいていたのだろう。サウラさんもシュリエさんも嫌そうに顔を歪めている。そんな事を気にも止めずにケイさんは続けて口を開いた。


「今日知り合った人って条件なら、ボクも対象に……」

「ならないっ!」

「なりません!」


 ケイさんが最後まで言うのを待たずに2人から待ったがかかった。いや、そこまで拒否らなくても! 確かに今出会ったばかりで少しは慣れる時間欲しいなーとは思うけどさ!

 そんな雑な対応をされているのに、ケイさんに堪えた様子は見られない。それは残念、とあっさり引き下がっている。んん? からかっただけなのかな? サウラさんやシュリエさんをからかえるだなんて、この人かなりの大物なのでは……!?


「ま、冗談は置いておいてさ。ボクに良い案があるんだけど」

「何となく許すのが癪だけど、ケイは良案をだすからね。聞かせてもらうわ」


 やはり態度が少し酷いサウラさん相手に、そんな顔しなくても、とケイさんがサウラさんに近付く。そして、警戒しながら一歩下がったサウラさんの顎を人差し指でクイと上げて自分の方に顔を向けさせた。


「可愛い顔が台無しだよ? サウラディーテは、笑った顔が1番似合う」


 こ、これはっ!? 顎クイだぁぁぁぁ!!!?


 リアルでやる人初めてみたよ! 2次元の世界だと思ってたよ!! しかしながらそれが似合う! 不自然さを感じないとは……! なるほど、ケイさんってば本物のイケメンなのね。納得。


「う、あ、あ、いやあぁぁぁぁっ!!」


 みるみる顔を真っ赤に染めて叫び出すサウラさん。案外純情なのね。

 そんな様子をやれやれ、と言わんばかりに溜息交じりに眺めるシュリエさん。どうやらいつもの光景らしい、と察した。私は空気の読める幼女。


「だからっ! 私はっ! あんたが苦手なのよっ! 頭じゃわかってるのにぃっ! 小っ恥ずかしすぎて無理ぃぃぃぃっ!」


 顔を両手で覆ってイヤイヤするように顔を振るサウラさん。御乱心である。お、落ち着いて!


「んー、やっぱ可愛いな、サウラディーテは。サイズ感といいその反応といい。……ボク好みだ」

「だからやめろってのよっ!!」


 こんなにもサウラさんが取り乱しているというのに、悪気なく、しかもこの件に関してはからかってる様子もない、至って本気(マジ)なのが見ていてわかった。ああ、こりゃタチ悪いわ……サウラさんがケイさんの話をする時、身震いしたのも無理はない。




「さあ、そろそろ良い案とやらをお聞かせ願えませんか?」


 まだ少し顔の赤いサウラさんを余所に、シュリエさんが冷静に話を進め始めた。


「シュリエレツィーノもせっかく綺麗な顔してるんだから、そんなムスっとした顔してない方が良いのに」

「私にそういうのは結構ですから」


 シュリエさんに対しても相変わらずなケイさんに、それをバッサリ切り捨てるシュリエさん。この勝負はシュリエさんに軍配が上がったようだ。口をへの字にして不思議そうに首を傾げながらも、ケイさんは自分の案を話し始めた。


「この子、メグちゃん。ボクは詳しい事を知らないから何とも言えないんだけど、痩せすぎだし見ているだけで危なっかしい感じあるよね。診察は受けたと思うけど……暫くは夜に何が起こるかわからないんじゃない?」

「…………」


 ケイさんの言葉に2人は揃って口を閉ざした。確かにこの身体は痩せすぎだ。ルド医師に一見して健康上の問題はないとは言われているけど、無理しないようにと釘を刺されているし、何が起こるかなんてわからない。すぐ眠くなるし、一度に食べられる量も少ない。それは幼子だからそんなものなのかと思ってたけど、それは素人判断に過ぎないわけだし、ルド医師だって「一見して」と言っただけで、身体に残る疲労が幼子の身体にどんな影響を与えるかわからないもんね。熱を出したりとかも充分あり得るのだ。


「失念していたわ。そうよね、メグちゃんはまだこんなに小さい子どもなんだもん。うちの頑丈すぎるやつらみたいに扱ったらダメなの、当たり前なのに……」

「そうですね……私は同族の子どもに出会えて浮かれていました。子どもと関わる上での注意点をしっかり調べる必要がありますね。それが出来なければメグと共にいる権利はありません」


 あぁぁぁ、2人が目に見えて落ち込んじゃったよ! ケイさんの指摘は正しい。それに2人が落ち込むその理由も納得できる。でも当事者である私は非常に気まずい!

 私がもっと、疲れたとか休みたいとか言わなきゃいけなかったんだ。でも、疲れ具合が良くわからなくてさ。ほら、私ってば社畜歴長いから、無理が普通というか……悲しくなってきた。


「仕方ないさ。幼い子どもなんて珍し過ぎて、恐らくこの中の誰も縁がない生き方してただろう? 失敗は胸に刻んで、次に生かそう。さ、その可愛い顔をあげて?」


 素晴らしいお言葉だ、と思っていたけど最後の一言でなんか、こう、台無しだ。でもそれがケイさんなのかもね。うん、慣れよう。


「そういうわけで、今日は医務室にお泊まりで決まりだと思うんだ。明日以降の事は……ボクたちの勉強次第、かな」

「……そうですね。そうしましょう。ルドなら幼子の相手も経験していますし、適任かもしれません」

「よし、じゃあ私はルドに伝えてくるわ!」


 こうして、私の今日の寝る場所が確保されました。医務室だし、ある意味入院? とも思うけど。私のことで忙しい中色々と時間を割いてもらって申し訳ないけど、してもらった事については素直に甘えさせていただこう!

 それにしても、ケイさんって客観的に物事を見られる人なんだなぁ。性格は置いといて、素直に感動したよ。


 ギルド1のイケメンは、内面、外見、共にその名に恥じぬ人物でありました。

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