2つの魔術の違いを勉強しましょう


 さて! すったもんだがありましたがようやくお勉強のお時間ですよ!

 ほら、今は私に出来ることなんてほんっと、何にもないから、少しでも出来ることが増える機会は嬉しいんだよね。

 前、ギルさんには体力も魔力もない、みたいな事言われてるから自然魔術も大した事は出来ないとは思うんだけど。でもこの年齢ならこれくらいが当たり前って言ってたし、伸び代があるって事なんだよね。ならば私は頑張るしかない! それに、魔術って使うのワクワクするし!


 というわけで、私はシュリエさんに手を引かれてギルドの建物内にあるらしい訓練場へと来ていた。なんでも、これからする事の為には訓練場が適しているのだとか。別に運動したりするわけではないらしいけど……何するんだろ? ドキドキ。


 訓練場はとにかく広い。学校の校庭を彷彿とさせる。というかさ……広さ、外観に反してなんかおかしくない? こんなに建物広くなかったよね? とは思ったんだけど、待て待てここは異世界、と考えてそういうものだと思考を放棄した。まぁほら、物をたくさん詰め込めるギルさんの魔術みたいなものじゃない? 適当な思いつきだけどあながち間違ってもいないような気がする。


「さて、まずはおやつにしませんか? 簡単に食べられるスイーツをあのお店でお土産として貰ってきたのですよ」


 広場の周囲をぐるっと半円でかこむように屋根のある休憩スペースがあり、シュリエさんはその一角にある2人用のテーブル前に私を案内してくれた。至る所に「ゴミはもちかえること!」「綺麗に使うべし!」という張り紙が貼ってあって、なんというか……故郷を思い出した。変な共通点もあるのね。ま、綺麗にするのはいい事だけどね。

 私が椅子に座ってもテーブルに届かないのを見越して、今回は分厚い硬めのクッションが椅子の上に乗っている。い、いつの間に用意したんだろう? 準備がいいですね、シュリエさん。あ、抱っこで座らせてくれるんですか? 何から何までありがとうございます。


「これはシュクレームというお菓子です。ふわふわの生地の中にたっぷりクリームが入ってるのですよ。冷たいアプリィ水と一緒にどうぞ」


 私の向かい側に座ったシュリエさんは、どこからともなくお菓子と飲み物をささっと出して並べていく。ギルさんの影収納みたいな、なんかそういう魔術でも使っているのかなぁ?

 しかし今は気にしている場合ではない。私は今、とても驚いている。知らない間に異世界に来ていたり、ギルさん影鷲だったり衝撃に事欠かない近況だけど、その中でも上位に入る衝撃である。


 こ、こ、これは! シュークリームじゃないか! うわぁ、うわぁ、私シュークリーム大好きなんだよねー! まさか異世界に来てまで食べられるとは! もし元の世界に戻れなくても頑張れそうだよ! あ、涙が。


「んーっ! おいちーでしゅ!」

「ふふっ。美味しそうに食べますね。気に入ってもらえたのなら良かったです」


 遠慮なくかぶりつく幼児の口の周りはベタベタに……ならないよ! 私中身は大人なんで! でもやはりどうしてもダメなところがあるわけで。にこやかにシュリエさんに頰を拭われました。お母さんのようですね……男性だけど。


 食後にはリンゴ味の水を飲む。あ、アプリィ水だったね。ギルさんに貰った時も思ったけど、リンゴジュースと違って甘さが残らないから口当たりがサッパリするので私はジュースより好きだ。コクコクと飲み終えたところで、食後の休憩も兼ねて説明からしましょう、とシュリエさんが話し始めた。

 先生! よろしくお願いします!




「では、最初に自然魔術と普通の魔術……一般魔術とでも呼びましょうか。この2つの違いを簡単に説明しましょう」


 曰く、一般魔術は自身の魔力を変質させてあらゆる効果を具現する魔術で、自然魔法は自分の魔力を対価に精霊に魔術を行使してもらう魔術だという。各々にメリット、デメリットがあるそうだ。


 まず、一般魔術は自分の魔力を変質させるだけなので精密な扱いが出来る。こうしたい、と頭で考えた事をそのまま具現化することが出来るのだ。魔力を込めれば込めた分だけ威力も耐久力もあがり、いつでもどこでも発動可能。自由自在、それが一般魔術。

 ただし、デメリットは慣れるまでが大変、という事。習得するのには時間がかかるのだ。使うだけなら子どもでも出来るが、そこから応用しようと思うとかなりの修練と、ある程度才能に左右される。ちなみに、ただ使うだけ、というのが生活魔術と呼ばれるのだそう。ほとんどの人は生活魔術止まりなんだとか。

 それから、当然のことながら自身の魔力が尽きれば魔術は使えない。


 次に、いよいよ自然魔術。これは種族限定で使える特別な魔術らしい。エルフ、ドワーフ、妖精が主な使い手だという。自然魔術は自身の魔力を様々な精霊に分け与えることで契約が成立する。同じ魔術を使った時、一般魔術で使うのに必要な魔力より少ない量で同じ威力を出すことが出来るエコ魔術である。

 また、魔力の先払い、後払い共に可能で、先に渡しておけば後で魔術を使わせてもらったり、精霊と信頼関係が築けていれば後で魔力を渡すから力を貸してくれたりするのだそうだ。ちなみに分割払いも出来る。精霊、融通が効くわぁ……


 そしてデメリットは、あまり細かな操作は難しいという事だ。出来ない事はないが、イメージを上手く精霊に伝えられないのだ。考えても見て欲しい、自分の妄想を幼児のような無邪気な精霊に、いかに詳細に伝えられるか。こういう魔術を使いたい、というのを精霊にも覚えてもらわなければならないのだ。それから場所によっては威力に差が出るし、最悪使えない事もある。これについては逆を言えば、場所によっては馬鹿みたいな威力が出るので単純にデメリットとも言い切れないかもね!


「と、そんなところでしょうか。時間をかけて魔術の腕を磨く点はどちらも同じです。ただ、自然魔術は精霊と仲良くなるのが一番の練習と言えるかもしれませんが。さて、ここまで理解は出来ました? かなり詰め込みましたし、メグの年齢的には少々難しかったかとは思うんですけど……」


 完全に理解するには実際使って見ないといけないだろうけど、まぁ原理? みたいなものはわかったので子どもっぽく簡単に復習してみる。


「えっと……一般まじゅちゅは、じゆーじざい! れんしゅーがんばろー! んで、自然まじゅちゅはてーねんぴ! 精霊しゃんと仲良くなろー! でしゅね!」

「……これはまた見事に簡潔かつ、的を射た説明ですね。問題ないでしょう」


 褒めてくれたシュリエさんだったけど、どこか視線に呆れを含んでいるのは気のせいだろうか……でも簡単に言うとこういう事だと思うのよ。そんな視線には負けないぞっ! しょんぼり。


「さて、次はいよいよ精霊との契約について説明していきましょう。実際契約するのはもう少し後になるかと思いますが、先に説明しますね」

「あいっ! お願いしましゅ!」


 気を取り直して勉強再開だー! 私は両拳をぐっと握りしめて気合を入れ直すのだった。

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