特級ギルドの愉快な仲間たち

自己紹介したりされたり


 はっ! ダメだ私! せっかく挨拶してくれたのに惚けてた! 挨拶されたならちゃんと返さないとね。赤髪兄ちゃんの耳を掴んだままだけど。

 本当は自分からすべきだったんだけど、寝起きだったから許してほしい。


「は、はじめまして。メグです。えっと……シュリエレー……にょ、しゃん……」


 くっ、名前が長い! ちゃんと言える気なんて最初からなかったけど、ゆっくり言えばいけるかと思ったのに!

 地面では耳を掴まれてる兄ちゃんが「だっはっは! レチーニョ! レチーニョだって! だっはっは、痛ぇっ! いだだだだっやめっ、やめっ!!」と笑ったり苦しんだりと1人で大騒ぎしている。シュリエレツィーノさんは表情もにこやかなままで何も変わってないんだけどね。それがむしろ怖さを増している……


「いいんですよ。まだ幼子なのですから、ちゃんと言えないのは仕方のないことです。シュリエで良いですよ。皆そう呼びます」

「シュリエしゃん。ごめんしゃい、ありがとうでしゅ……」


 行動とは裏腹に優しい言葉をくれたシュリエさん。助かります……! 営業用のスマイルだったのが、少し和らいだから言葉は本心だろう。

 きっと、作られた笑顔の裏で何を考えているかわからないタイプのお人だわ……でも、それがわかっていても騙されるであろう破壊力である。要するに美しすぎる……声もそれなりに低いし、間違いなく男性なのだけど。


「さ、こんな入口で話すのもなんですから、建物内に入りましょう? ギル、私はこの馬鹿にお灸を据えなければなりませんので先に案内してあげてください」

「ああ。……後で話をしてやってくれ」

「もちろんです。メグ、ではまた後で」


 笑みを深めてそう告げたシュリエさんは、赤髪兄ちゃんをズルズル引っ張りながら、されどスマートにこの場を去って行った。ずっと耳を掴んでお仕置きしているというのにまだやるのか……綺麗な顔して恐ろしい。彼だけは怒らせないようにせねばと心にしっかり刻み込む。……千切れんばかりに掴まれてるのに軽く騒ぐだけでビクともしない赤髪兄ちゃんのタフさも恐ろしさを感じるけどね!


「入るぞ」

「あいっ」


 私の気付かぬ間に籠と布を片付け終えていたギルさんに声をかけられ、元気よく返事をする。見た目こんなだし、少しは子どもらしくしなきゃいけないもんね。とほほ。




「あ、お帰りなさいギルっ! どうだった? 私の勘は当たっ、て、た……?」


 ギルさんが建物の扉を開けると、カランと小気味いい音が鳴る。その音で中にいた人たちがこちらに注目した。人数はそんなにいないけど、驚いたようにこちらを見ていて少し戸惑う。反射的にギルさんの足にしがみついてしまった。

 そんな中、奥の方にあるカウンター内から元気な声が飛ぶ。言葉が途中から尻すぼみになったのは、私の存在に気付いたからだろう。なんか、すみません。


 時間が止まったかのように場が静まり返る。カウンターのお姉さんは私を凝視したまま。き、気まずい……そして再び時間が動き出したのは、先ほどの元気な声のお姉さんによる、おかしな発言がきっかけとなった。


「ぺ、ペット申請する……?」


 人扱いすらされなかった!




 フードとマスクを外しながら、違うだろ……と脱力したように突っ込むギルさん。ここへ来てギルさんの容姿の全貌が明らかにっ! 吸い込まれそうな漆黒の髪に瞳。やはりミステリアス系の男前……! こうして気を抜くという事は、ここはギルさんの家のようなものなのかもしれない。

 そんなギルさんの発言により、気を取り直したらしいお姉さんは、建物内にいて騒つく人たちに「追って説明するわ!」とよく通る声で宣言した。それからカウンターから出てこちらに小走りで向かってくる。


 綺麗なエメラルドグリーンの長い髪。ポニーテールにしたそれは、走るたびにサラサラ揺れる。……ついでにけしからんくらいに実る2つの双丘も揺れる……く、悔しくなんかないんだからねっ!

 ウエストは引き締まり、お尻はツンとしている抜群なプロポーション。そこそこ露出の激しい若草色のワンピースを着ていて目のやり場に困る。だというのに髪と同じ緑の瞳がぱっちりしており、元気っ娘! といった顔立ちなのもあって、エロスよりも爽やかでスポーティーな印象を受けた。彼女の明るいであろう性格が滲み出ているのかもしれない。


 そんなボン・キュッ・ボンなお姉さんは……


「はじめまして! 私は小人族のサウラディーテよ。サウラって呼んでね!」


 幼女でギルさんの腰以下な身長の私と、さして背丈の変わらないサイズでありました……! 小さいっ!


 まぁ、なんと言いますか? 控えめに言って可愛すぎるってところでしょうか……! でも大人な私は、興奮した気持ちを上手にしまい込んで、自分の名前を告げてからペコリと頭を下げておいた。


「メグちゃんね! んーっ! それにしても可愛いっ! ハグさせてぇーっ!」


 ダイナマイトボディなミニマム美女を前にして目を丸くしていたら、突如その人物に抱きすくめられる。まだ良いって返事してないよ!? それに貴女の方がずっと可愛いですからっ!

 ……でも、悪くない。巨乳に思うところはあるが、巨乳に顔を埋められるのはまたとない機会である。ちょおーっと苦しいけどね!


「サウラ、メグが溺れてる」

「あら、失礼。だってこんな風に丁度いいサイズでハグできる相手って同族か子どもくらいなんだもん。つまり、最近めっきりお目にかかってないのよ! それにメグちゃんはとびきり可愛いしっ! だから最初はつい取り乱しておかしな事を口走ってしまったわ……」


 ギルさんの助け舟により、巨乳による圧迫死は免れたものの、今度はほっぺに頬擦りされている。ああ、わかるよ。子どもの肌ってすべすべで良いよね……でもギルさん、溺れてるって表現が的確すぎて笑いを堪えるの大変だよ!


「やだ、ごめんねメグちゃん。そんなに震えちゃって。取って食ったりなんかしないわよっ! ケイじゃあるまいし」

「ケイ、しゃん?」


 笑いを堪えて震えているのを勘違いさせてしまったよ……なんかすみません。個人的には美女に頬擦りしてもらえて役得でした。

 そして新たな名前に思わず聞き返す。ギルドって会社みたいなものっていう程度の認識だけど、そりゃたくさん人がいてもおかしくないよね。実際建物内に入った時に何人かいたわけだし。名前……頑張って覚えよう。新人は先輩たちの名前を覚えて挨拶する事でコミュニケーションを図るのだ!!


「……ギルドで1番のイケメンよ。可愛い女の子が大好きなの。メグちゃんの危機だわ……ギル!」

「当然だ。死守しよう」


 鬼気迫る様子でギルさんに確認するサウラさん。そして同じように真剣な眼差しで即答するギルさん。……いや、それ単純にプレイボーイってやつなだけじゃ? 女好きのイケメン……泣かした女の数はいくつなのかって事? っていうか、それならやっぱりお子ちゃまな私はむしろ安全なのでは。

 そして1番引っかかるのはここだ。ギルドでナンバーワンの、っていうけどさ……


「ギルしゃんも、シュリエしゃんも、赤い髪のおにーちゃんも、みんなイケメンさんでしゅよ……? サウラしゃんも、美人さんだし……」


 ほんと、これだよ。会う人会う人ほんっとに見目が麗しくて困る! 何? 特級ギルドにもなると、外見もそれなりじゃなきゃダメなわけ? それ私アウトなんじゃない!?

 私が訝しげにしていると、サウラさんは良い子ね、と私の頭を撫でながら、でも違うのよ……と長く、そして重々しいため息を吐いた。


「確かにうちのギルドは見た目良いのが結構多いし、ケイもかなりの美形ではあるの。あ、でも見た目厳ついのも残念なのもいるわよ!」


 残念なのって……サウラさん、言い方……とやや顔が引き攣る。歯に衣着せない物言いをする人なのね。そして私は今のところ美形さんにしか出会っていないってことは……なかなかの引きの良さである。遠い目になっていると、そんな私の様子に気付くことなくサウラさんは続けた。


「ケイのイケメンっぷりはね……見た目だけじゃないの! むしろその言動と思想こそがイケメンのそれなのよ! 本人は単純に可愛いものを大切に大切に愛でているに過ぎないんだけど、それが余計にタチ悪くてっ……!!」


 サウラさんが自分の身体を抱き締めながら身震いする。天然系タチ悪イケメンきたこれ。聞いただけで落とされた女の子に同情してしまう為人である。会いたくはないけど非常に気になる。……同じギルドにいるんだから、いずれ会うこともあるだろうし……まぁ、その時考えよう。


 3人で暫し遠い目をしていると、ギルドの扉が開いてカランという音が聞こえてきた。3人揃って入口に目を向けると、爽やかな笑みのシュリエさんと、顔色悪くげんなりしている赤髪兄ちゃんがこちらに向かって歩いてきた。……耳、髪の色と同じになってマスネ。


「お待たせいたしました。が、サウラ? いつまで小さなお客様を立たせているおつもりですか? もうとっくに来客室へ案内しているものかと思っていましたが」

「え、えへっ! うっかり! 仕方ないのよ、メグちゃんが可愛いからつい」


 笑顔で窘めるシュリエさんに屈することも悪びれることもなく、サウラさんは軽く舌を出した。この恐ろしい微笑みに対抗出来るなんて、サウラさんは密かに強者であると心のメモに書き記す。そして茶目っ気のある姿もとても可愛いです。


「ごめんったら! 私が悪かったわ。そんなに睨まないでよー、シュリエ!」

「はぁ……謝る相手が違います」

「それもそうね。ごめんね、メグちゃん。疲れてるでしょうに……今すぐ案内するわ! とっておきのお茶請け出しちゃう」

「まじで!?」

「……なんで一緒に来る気でいるのよ、ジュマ」


 この人たちの会話は聞いてて楽しいなぁ……きっと日常でこんな漫才みたいなやり取りしてるんだろうな。真面目そうなシュリエさんには頭痛の種だろうけど……いつもお疲れ様です。


 結局、私とギルさん、サウラさん、シュリエさんと赤髪兄ちゃんも合わせて5人が来客室へと向かうことになったのだった。

 お茶請け何かなー?

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