陰謀w 1

 市川市 某所


 窓のブラインドで、外からの視界を遮っている少し薄暗い室内。


 室内には本や資料などがぎっしり入っている本棚に、応接用の不透明なテーブルクロスに一人用のソファなどがある。


 何よりも一番に目立っているのは、壁に飾られている巨大な魚拓である。


 日本ではまず見かけることがない魚で、ざっと見て二メートルはあり、鋭い牙が何十本も生えたおぞましい魚が、魚拓として飾ってある。


 その魚拓を背に、本革を仕様した高級なレザーチェアに座る、白髪混じりのレンズが厚めの眼鏡を掛けた小太りな老人な男、オフィスデスクの上に乗ってるプレートには、成瀬なるせ 社長と書かれていた。


 そして目の前には、髪の毛がオールバックに、黒縁メガネを掛け、顎髭を生やした八ーフな中年男性が立っていた。


 成瀬はハーフの男に話し掛ける。


「朝早くにすまない、どうだったかね、新潟での暮らしは?」


 成瀬はハーフな男は答える。


「中々に充実した暮らしが出来ましたよ。何より、新潟は美人が多くて、あまり苦労しなかったですね〜」


「そうか、君が復帰してくれるなら、きっと『会長』も喜んでくれるだろう。朱二郎あけじろう君、いや『朱鬼あかおに』と呼ぶべきかな」


「朱鬼、そんな呼びなありましたね〜」


「君がいなくなってからからというもの、我が組織『ムベンガ』は、君の穴を埋めようとあれから人材を増やした。だが『あの事件』をキッカケにおよそ半分は戦力は失い、そこから成り上がるのに必死だった」


「それはそれは、お力になれず申し訳ない」


 朱二郎は成瀬に対して全く感情移入せず、適当に話しを聞き流していた。


「相変わらず適当だな君は、君が新潟にいる間、弟の『蒼二郎そうじろう』君は、立派に『蒼鬼あおおに』として組織に貢献しているよ」


「そのようで〜」


「実力だけで言うなら、当時の君と互角レベルだ」


「いや〜兄としては嬉しい限りですよ〜」


 朱二郎は早く話しが終わらないかと、気だるそうに自分の顎髭をいじっていた。


 成瀬は朱二郎の言動を見て察したのか、話しを本題に持ち込んだ。


「早速で申し訳ないが、君に仕事を頼みたい」


 そう言うと、成瀬はデスクの引き出しから資料が入ったファイルを朱二郎に渡し、説明を続ける。


「その女を殺してほしい。実は依頼人がうちの『お得意さん』でね、いい加減に出来ないのだよ。詳しくは資料の中身を見てくれたまえ」


「りょ〜かい」


 朱二郎はやっと話しが終わったと思い、社長室から出ようとすると、外の方からドアをコンコンとノックする音が聞こえた。


 ドアの音に反応した成瀬が対応する。


「来たか、入りたまえ」


 成瀬がそう言うと、ガチャとドアが開かれる。


「失礼します」


 ドアから出て来た人間は、明らかに堅気ではなかった。

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