ドッグファイト①
重く湿った雲の中を潜り抜け、アクシアから放たれた二本のミサイルは瞬く間に超音速へと加速する。やがてアクシア達を追い回していた敵の二本のミサイルを捉えぐんぐんと距離を縮め……
「当れェェェ!」
二つの火の玉を確認、見事仕留める事に成功した。
「やったぁ」
『
全面がモニターへと代わっているキャノピーを埋め尽くす様に、хорошо!・хорошо!・хорошо!・хорошо!と文字が流れ始めた。赤文字で……
「うわぁぁぁ!! アクシア、怖いからやめてくれぇ!」
『えぇー! じゃあこれで 』
☆хорошо!!☆
☆хорошо!!☆
☆насекомое!!☆
☆хорошо!!☆
☆хорошо!!☆
☆хорошо!!☆
☆хорошо!!☆
☆хоро_
今度は画面の上面から縦に流れる様に、某SNS風のスタンプが……
「もうわかったから!ありがとう! ハラショー!、ハラショー!、ハラショーって……
あぁ! どさくさに紛れて『
『むぅ、何で隼勢がロシア語解るのぉ?』
「お前が言いそうな単語だけ調べておいたんだよ!」
『隼勢のくせに生意気ぃー』
油断をしていたと隼勢は思う。敵は味方にも居たのである!
しかしそれよりも目の前に流れている文字列が鬱陶しい。今から百年程前に流行った某SNS《リャイン》の《イイのぅ!》をパクったらしく、気狂いの様な勢いで流れるソレが(ウザすきる!)と思った。しかも時折 《昆虫》とか、しれっと混ぜているのも見逃せない。
隼勢はやれやれと、溜息をついた。
「はぁ…… リャインの真似事は止めろよ。あと悪口書くな!」
『真似事? これちゃんとコミュニケーション取れるんだよ。ほらっ……』
アクシアがそう言ったかと思うと、聞き慣れた電子音と共に別のスタンプが現れた。
明日香
《イイのぅ!》
「ブルータス! お前もかっ!!」
思わず隼勢は、歴史上の偉大な王よろしくツッコミを入れてしまった。
(てか、戦闘機でSNS出来るのかよ!この会社、変な所に力入ってるなっ!)
あと、明日香が妙にノリが良いのが以外だった。間髪入れずアクシアの
「いい加減スタンプは止めろ!前が見えねぇ」
『五月蝿い! 五月蝿い。操縦は私がしてるんだから外が見えなくたって関係ないでしょ。あっ…… 』
アクシアが何かに気付いたらしく、嵐の様な文字の羅列でスタンプ帳へと成り果てたモニターがクリアーな視界に復帰した。そして再び響き渡る警告音。
「今度は何だよ」
『どうやら、おふざけは終わりみたい。敵機の編隊とご対面よ』
「マジかっ!」
全方位モニターの一部分に別のウインドーが開く。そこには黒い
「アクシア、これは……」
『バビロニアの無人攻撃機、《コッファーシュ(コウモリ)》よ。この距離だと遭遇まであと二分足らずか。結構居るわね…… 八機かぁ。最近配備されたゴミ虫…… あっ、ごめんね、隼勢。じゃなくて虫けらって言うか雑魚なんだけど……』
「謝るな!地味に傷付くわっ」
『まあ、早い話が私にかかれば敵では無いってね…… えっ!? はあっ!? 信じられない!またミサイル攻撃!? 』
「いやいやいやいやっ、普通撃ってくるでしょ! 俺にだってわかるし!! どうするんだよ?」
アクシアの余りの危機感の無さに、隼勢はパニックになりそうな気持ちを抑える。
『こうなったら……』
「こうなったらっ!!」
いきなり機体の速度が上がり初めた。慣性力で身体がシートに押し付けられる。そしてぐぐぐ〜っと機首が上がり始め高度がみるみる上がって行く。眼下に広がっていた海が瞬く間に遠ざかったと思うと、何かの作動音が聞こえた。
それは再び撒かれたチャフと、熱源のデコイを放つフレアーの発射音だった。気が気でない隼勢を他所に更に上昇すると、機首が水平に戻り始め次第に高度が安定した。
『さぁて、行くわよォ。舌を噛まないでね』
「へっ? 痛っ!」
そしてガクンと機首を下げると、事もあろうにエンジン音が止まったではないか。
『ハイパーステルスモード・始動!』
機体がゆらゆらと陽炎の様に揺らめき出し、段々透明化されていくのが隼勢にも見えた。
「うひゃあ、しゅげぇ……」
舌を噛んで涙目になった隼勢が驚きを隠せず呟いた。そして次に目にしたものは……
『いい隼勢? こういうピンチの時にAI
「ちょっ、おまっ!? マジかよ…… おっ! おっ! イヤイヤイヤイヤ…………!! ぬおぉおおおおおお!!」
機首がガクンとお辞儀をし、猛烈な勢いで海面に滑空…… と言うより落ち始めた。
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