迷い子



 何処までも続く水平線を眺めていると、自分達が如何にちっぽけな存在か思い知らされる。無性に強烈な孤独感が押し寄せて来て、今にでも叫び出したくなるような焦りを伴って。

 何時しか眩しかった陽射しと抜けるような青空は、もう見る影も無く憂鬱な曇り空へと変わっていた。少年は思う。ああ、戻りたい…… 彼女等の元へと……


「おっ、おい、アクシア……」

『ふにゃあ………… 』

「『ふにゃあ』じゃねぇよ!何処だよ此処!? 」

『ありっ? 』

「明日香達も居ないじゃん! 」

 焦る隼勢。 無理も無い、周りをいくら見渡しても明日香達の弐号機と随行してきた輸送機や戦闘機群は全く見当たらなかったからだ。

『ごめん、寝てたぁ』

「寝てたぁ? じゃ、オートパイロットに…… 」

『うん、忘れてた』

「マジで!? どうするんだよ! 俺達は護衛役だよな」

『解ってるわよぅ…… 現在地は…… うわぁ、何それ、やっばぁーいかも』

 モニターに現在地が表示された。が、全く何も陸地の表示が無いということは、此処が大海原のど真ん中だということを表している。


「嘘だろ」

 隼勢が呆気にとられてモニターを見ていると、無線回線が開いたとメッセージが流れる。間もなく無線がつながり、焦った少女の叫びが聞こえた。

「隼勢、アクシア!聞こえる!? 応答してっ! 一号機、応答せよ! 一号機、応答せよ!」

『こちら一号機、磁気嵐に巻き込まれた様だわ』

「嘘おっしゃい!そんなもの起きてないわよ。…… 良かった、無事のようね」

 本気で心配してくれていたのだろう。隼勢の元にも緊迫していた空気がひしひしと伝わってきた。

「アクシアがオートパイロットも入れずに寝ていたらしい」

『ちょっと隼勢! しぃー しぃ〜 』

「そんなところだと思ったわ。応答もなくどんどん離脱していくんだもん。一時は本気で何かあったのかもって、心配したんだからねっ! 」

『ホントごめん、反省してます…… 寝不足だったから…… 』


 アクシアの謝罪の声にも覇気が無かった。AIが寝不足ってどうゆうこっちゃ? と隼勢は思ったが、自分はアクシアに任せっきりなのだから黙っていようと決めた。


 しかし、いったい何処まで離れてしまったのか隼勢には見当もつかなかった。ずっと陸地を捕捉しながら飛んでいたというのに、先程から見渡す限り大海原が続いている。ふと隼勢は出発前のミーティングで明日香が何から念押されていた事を思い出した。



 ──「いい? 今回の飛行ルートは制空域を飛ぶので安全だとはいえど、油断は禁物よ。あと、サヌーキーから北東側に向かったこの辺り、には近づいては駄目」


『此処には何があるの?』

 つまらなさそうにしていたアクシアが問いかける。

「この辺りは未だに制空権を取れていない、つまり戦闘空域のままなの。私達が進む飛行ルートからはかなり離れているけれど、念の為に…… ね。」


(あれっ!待てよ…… )

 嫌な胸騒ぎを覚えた。確か自分が休息を取ったのはツッツガル海峡の上空辺りだ。そしてサヌーキーは更に南下したパシフィック海に浮かぶ島に有る。エゾーリアから南下して、右手に陸地の存在を確認しながら飛行していたのにという事は……



「うぐっ!」

 その時だった。一号機がグググッと左に傾いて急旋回を始める。強めの横Gが隼勢の体を強ばらせる。間髪入れずにジェットエンジンのタービンが唸りを上げ、強烈な加速度Gが隼勢をシートに押しつけた。


 ほぼ同時に無線から明日香の悲痛な叫び声が。

「アクシア! 急いでその空域から離れて!

 」

『あはは…… ちょっと遅かったみたい』


 モニターの画面が赤くなった。そして間髪入れずにロックオンをされた事実を告げる緊急アラームがけたたましく鳴り響いた。まるであの時と同じ様に……



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