サヌーキーへの帰還
『む〜し♪ む〜し♪』
「楽しそうだな、アクシア?」
二人はエゾーリアを離れ、ツッツガル海峡の上空にいた。
──今から数時間前。
「アクシアと一緒にですか?」
西山博士からの依頼でサヌーキーの国防軍基地への救援物資の輸送、及び被害にあった戦闘機の代替機の護衛を頼まれたのだ。
この際、国防軍とNHI社の関係は余り気にしないようにしようと隼勢は思った。勿論、軍属でもNHI社の社員でも無い、ただの高校生の隼勢に関わる義務は無い。しかしサヌーキーの被害調査も含まれているとならば、隼勢も参加せざるをえなかった。
『今日は凄く良い天気じゃない』
アクシアが気を使っていることは隼勢にもすぐに解っていた。
『飛んでて気持ちいいわぁ。海の水面も煌めいてて、見て見て隼勢!…… ウフォッ!』
「どうしたの…… うわっ、眩しッ!!」
良く晴れた陽の光を反射して海水面がキラキラと輝いていた事は隼勢も知っていた。しかし、反射した光がこれ程まで強烈だったとは隼勢はおろかアクシアも予想外だったらしい。カメラを海面に全振りしてしまった為、まともに”目潰し”を喰らってしまった。
『ウヒヒィーッ!目がァ!目がぁぁぁ!』
「前が見えねぇ!うぉっ!ア、アクシアっ!
揺れてる、揺れてるぞぉー 」
大きく上下左右に機体が揺れる。隼勢はあの”海面ダイブ”の恐怖が脳裏に再び浮かんだ。
『嫌っ、嫌ぁ!』
「ヒィィイ…… 落ちたくないー!」
隼勢の背中越しの内部からゴツゴツと何かが暴れている音が響いている。それは中で苦しみ悶えるアクシアが、のたうち回っている音なのだが隼勢には気付く余裕が無い。隼勢も目潰しされた状態で、必死に両肩のシートベルトを握り締めている。
その時だった。無線回線が開き、呆れ声の女性の声が響く。
「ちょっとあんた達、ふざけてないでちゃんと飛びなさい。アクシア、いい加減オートパイロット使いなさいよ」
途端に制御不能だった機体が姿勢を取り戻し、何事も無かったかのように元の高度へ復帰する。
「おっ…… オートパイロット?」
『だってコレ(オートパイロット)気持ち悪いんだもん!』
この機にも座標を設定すれば、後は勝手に目的地まで飛んでくれるオートパイロットは勿論装備されている。しかしアクシアは『自分で操縦する』と譲らないらしい。
だがアクシアと隔離されている隼勢にとっては大迷惑な話だった。彼女の操縦も結局見えないのでオートパイロットと変わりない。
つまり前触れ無く挙動が変わるアクシアの操縦より遊園地の絶叫マシンのほうがずっとマシだと思ったのだ。
「ご、ごめんね、明日香さん」
「…………」
隼勢はサヌーキーまで共に向かう事になった彼女達に謝った。彼女達とは弐号機のパイロット・藤井 明日香と、弐号機に搭乗するAIのヨアン・エイリングだ。
『隼勢さん、気にしないで下さい。明日香さんは本当は早く貴方と仲直りしたがってるんですよ』
「ちょっと!ヨアン」
「本当ですか、明日香さん」
「明・日・香! ……呼び捨てにしてって言ってるでしょ」
「は、はい。あ、明日香。仲直りしてくれるって本当?」
「ふん…… おあいにくさま。別に仲直りなんてする程、仲良くなんか無かったよね」
『隼勢さん、うちのツンデレラがすいません』
「いえいえ」
「だっ、誰がツンデレラよっ!」
『気にしな〜い、気にしな〜い』
「五月蝿い、アクシア!元はと言えば貴女のせいじゃないの!」
『にゃにお〜う!』
「ふん、受けて立つわよ」
「二人共止めろって」
隼勢はどっと疲れが溜まった気がした。この二人は事ある毎に張り合おうとするので、周りは振り回されっぱなしなのだ。
今回任務に当たっているのは、隼勢・アクシア組の一号機と、明日香・ヨアン組の弐号機の二機である。サヌーキーまでの護衛を一号機が担当。弐号機は国防軍基地へ向かう輸送機と代換機五機をデータ・リンクによって操縦し送り届ける事が任務だ。
──このデータ・リンクは国防軍と共通で使われる物であり、無人戦闘機や無人輸送機ばかりでなく、その他の火器統制システムとも情報のやり取りや遠隔操作が可能である。
ただし国防軍のデータ・リンクシステムは本来、国防軍のみで使用されている物であり、他国のそれとは互換性は無い。今回の件も被害を受けた戦闘機の代わりを送り届ける為の特別措置となっている。
「でも凄いよなぁ。ヨアンが後ろの奴を全部引き連れているんだよね」
『いえいえ、大した事有りませんよ。僕はこれが限界ですけど、噂では国防軍で使われているデータ・リンクシステムは最大、十機程の作戦行動が可能だそうですよ』
謙遜するヨアンの弐号機を見ながら、戦闘機五機に輸送機一機を従えるヨアンも充分凄いと隼勢は思った。
「ふぁああ…… 」
『なぁに、隼勢。 眠いの? 』
「最近色々有りすぎて、なかなか寝付けないんだよ」
『ふぅん。じゃ寝てて良いよ。サヌーキー迄の空域は国防軍が制空権を握っているから安全だし、隼勢はお客さんだからね』
「ちょっと言い方に棘が有るけどさ…… まあ、確かに何も出来ないしな」
『春になるまで葉っぱの下でお眠りなさい』
「冬眠しねぇよ!……じゃ、お言葉に甘えて。サヌーキーに近づいたら起こしてよ」
『はいはい………… 』
しばらく寝不足気味だった事を自覚する隼勢は、アクシアに促され束の間の眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます