第二十九章

第二十九章

北方にある、あおいの屋敷。

明美は、水穂を抱きかかえたまま、玄関先に立った。

水穂「いったい、どこへ行くんですか?」

明美「しばらく、ここにいてくれませんか?悪いようには皆さんしないと思います。」

と、言いながら戸を開ける。

明美「連れてまいりました。意外に、会長というか、哀れなる狂女から、連れ戻すのは簡単なことでした。」

中から、急いで走ってくる音が聞こえてきて、淑子と秀子が出迎える。

秀子「いや、本当に綺麗な人だ。そこまでがりがりに痩せてても、ほれぼれする。すごい!」

淑子「そんなこと言わないの。失礼でしょう。」

秀子「わかってるわよ。でも、一度は口にしたくなるほど綺麗な人だわ。とにかく、部屋に入ってください。」

淑子「歩けますか?」

水穂「ええ。何とか。」

明美は、そっと彼を玄関の床におろす。

水穂「あの、皆さんお揃いで?」

淑子「それが、杉ちゃんと、みわさん、かぴばらさんが、まだ南方に応援を頼みに行ったまま、帰ってこなくて。」

水穂「そうですか。南方は、ここよりさらに甚大な被害が出たと聞きました。もしかして、巻き込まれたりしないといいのですが。」

秀子「だ、大丈夫かな、、、。」

淑子「とにかく、中に入ってもらいましょう。まず、何か食べてもらわないと。」

水穂「でも、僕、普通の食事がほとんどできないので。」

慶紀「では、何なら食せますか、例えばこれなら?」

と、かごの中に、たくさんの野菜を入れて持ってくる。

秀子「なんですか、これ。」

慶紀「明日葉です。薬草として使っていました。」

水穂「それなら。」

慶紀「強靭な植物だから、すぐに育ってしまうんですね。先日の野分で全滅したと思われたけど、すぐにまた生えてきてくれました。」

水穂「そうですか。ずっと、かっぱ巻きばかり食べていたから、葉野菜は久しぶりです。」

慶紀「じゃあ、調理するまでの間、部屋でお待ちください。」

秀子「もう、質の悪いものばっかり食べてたら、その綺麗な顔が泣くわ。」

淑子「秀子ちゃん、また余分なことを言う。」

秀子「いいじゃない。あたしは、言ってみたいの!」

明美「僕が支えますよ。」

明美に肩を貸してもらって、水穂はとりあえず中の部屋に入った。部屋に入ると、崩れるように座り込み、ニ、三度咳をした。

とも子「相当疲れているみたいですね。」

とし子「そりゃそうでしょ。だって、あの女の相手をするなんて、並大抵の努力じゃできないわよ。まあ、とりあえず、ゆっくり休んで頂戴な。」

ひろし「でも、ここもきっとそのうち、会長に知られてしまうことになると思います。そうしたら、僕らはどうしたらいいでしょうか。」

明美「そうしたらって、逃げるしかないでしょう。どこかに隠れ家でも作って。」

ひろし「そうなれば、僕たちは、足手まといになりますね。」

とし子「ああ、ひろし君、それは発言禁止。もうね、障害があるとか、病気があるとか、それは初めからの設定であって、変えることができないから、そういう事をなじるのはやめること。それより、じゃあ、どうするのかを考えなきゃ。それに、あなたは、偉大な著述家なんだから。」

水穂「じゃあ、あの本の作者は、もしかして。」

ひろし「はい。僕ですが。」

水穂「そうですか。会長から聞いた話しか知らないのですが、なんだかものすごく表現力に優れた書物だったと聞いてますよ。」

ひろし「そうなると、つまり僕も捕まる可能性があったということですか!」

明美「印刷屋のしんぺいさんが、建物疎開を命じられたときに、そうだったのかも。」

ひろし「そうだったんですか。書かないほうがよかったかな。」

水穂「いえ、そういう意味ではありません。会長を激怒させるほど表現力に富んでいたという意味です。それはある意味すごいことだと思いますよ。人に感じさせるほどの文章力があるということですからね。人は、理論ではまず動きませんから。感情が生じないと、行動もないだけでなく、理論だって、感情がわかなければ生み出されないのです。」

秀子「すごい。綺麗だけでなく、そういう哲学的なことも知っている。」

淑子が秀子の袖をつつく。

慶紀「明日葉のみそ汁ができましたよ。具材は明日葉しかないけど、その代り大量に入れさせてもらいました。あく抜きもしっかりしております。」

と、盆をもって入ってきて、水穂の前に、茶碗を差し出す。水穂は、軽く敬礼してそれを受け取り、一気に飲み干した。

慶紀「どうですかな?味噌が少ししかなかったので、薄味になってしまいましたが。」

水穂「いえ、大丈夫です。あまり濃すぎると、また血が出るといけないので。」

秀子「何々、何か食べ物がきっかけでそうなるんですか?」

水穂「ええ。そうなってしまうのです。」

秀子「じゃあ、ご飯をたくさん食べたらいけないの?」

水穂「はい。食べられる食材も極めて限られていて、肉も魚も食せないのです。」

秀子「だから、かっぱ巻きだったのか。会長が、キュウリを強制した理由もわかったわ。」

水穂「ごめんなさい、負担の原因になって。」

秀子「いいのよ!綺麗な人だから、許してあげます!」

淑子「秀子ちゃん、また調子に乗らないの!」

秀子「はい。すみません。」

水穂「二人とも、息があっているから、漫才でもやったらどうですか。結構いいコンビになるかもしれませんよ。」

淑子「ほら、言われたでしょうが。」

と、苦い顔をするが、秀子は嬉しそうだ。

その時、手で這ってくる音がして、てんが来たことが分かった。

とし子が急いでふすまを開けると、てんは手で這って、中に入ってきた。

とも子「お体、大丈夫なんですか?」

てん「ええ、新しい戦力が見えたから、いてもたってもいられなかったので。」

水穂「お久しぶりです。」

と、丁寧に座礼する。

てん「いえ、ご挨拶は省きましょう。それよりも、彼もここへ来てくださったので、さらなる第一歩を踏み出すことができるでしょう。」

慶紀「第一歩とは、どのように駒を進めるのです?」

てん「身分を隠して、村に乗り込むのです。幸い、野分が来てくれたおかげで、いよいよわたくしたちが本領発揮していかなければならない時が来るのが、すぐそこまで来てくれたようです。」

慶紀「具体的に言いますと?」

てん「ええ、慰問という形で、村に乗り込んでいけばよいのです。きっと、瓦礫の撤去作業が行われていると思いますが、目時が洗脳したおかげで、能率はきっと上がらないはずです。なぜなら、わたくしたちが伝統的に行ってきた思想は、皆どこかに行ってしまったのは、もう目に見えているからです。」

とし子「能率が上がらない?」

てん「ええ。多分ですけれどもそうなっているでしょう。一度、贅沢を覚えてしまうと、そうなるものなんですよ。わたくしたちは、それをさせないように、贅沢をことごとくさせないようにしてきましたけれども、目時の理想では、そうではありませんから。」

ひろし「じゃあ、僕たちは、どうすれば?」

てん「ええ、歌を歌ったり、笛を吹いたり、あるいは、水穂さんが仰った、漫才をしてもいいかもしれない。」

ひろし「かぴばらさんたちがいてくれるとよかったですね。杉ちゃんや、かぴばらさんのほうが、音楽の才能はあったのに。」

てん「いいえ、無いものを数えてはなりません。あるもので何とかしようという考えをしなければ、実行はできませんよ。」

水穂「僕も、音楽学校に行ったから、ある程度作曲は可能ですよ。」

秀子「でも、水穂さんは、無理をしていたら。」

水穂「いいえ、僕も寝てばかりですと体が鈍ります。それではいけませんから、しっかりと勤めをしたほうがいい。」

秀子「わかりました!やっぱり素敵!」

てん「容姿のことはともかくとして、わたくしたちは、慰問として、撤去作業現場にすぐに移動する必要がありますね。もちろん、身分がばれたら、この作業は失敗に終わります。ですから、あおい様の着物を拝借させていただくようにお願いしてあります。幸い、古い着物をかなり所持していらっしゃる様でしたので、快く承諾してくださいました。」

慶紀「わかりました。それでは、そうしましょう。それを実行していきましょう!」

全員「はい!」


翌日。てんは髪をほどき、羽二重の着物ではなく木綿の着物を身に着けた。他の者たちも、ぐっと粗末な着物に着替えて、いかにも旅一座という風貌になった。

奥の間。

あおい「横になったまま、お返事を差し上げるのは、本当にお恥ずかしいことで、申し訳ありません。本来なら、なんとしてでも座礼をしようと思ったのですが、どうしてもできなかったので。」

てん「いえ、かまいません。わたくしも、歩けない身の上ですから、似たようなものです。本当に短い間でしたけど、匿っていただいて、ありがとうございました。」

全員、正座で座り、あおいの前に座礼する。

あおい「皆さんの健闘を祈ります。どうか、無理はなさらないでくださいよ。」

慶紀「ええ、それだけは、私たちも心得ておきます。」

ひろし「僕みたいな人間がいる限り、無理することはないでしょう。」

秀子「まあ、そういうひろし君こそ、一番活躍してくれるのかもよ。」

明美「今まで協力していただいて、ありがとうございました。僕も、これから、皆さんを支えていけるように頑張りますので。」

とも子「私も、教育者として、学ぶことも多かったわ。」

とし子「私はまだまだこれからよ!」

淑子「今まで無礼なふるまいをしてしまい、申し訳なかったです。」

秀子「そんな風に、悪い方へ行っちゃうのも、淑子ちゃんの悪いところ!」

てん「では、皆さん、参りましょうか。本当に、ありがとうございました。」

全員、改めて座礼し、一人ずつ立ち上がって外へ出て行った。あおいは、布団に横になったまま、この光景を見送った。

再び山道を降りていく、てんたち一行。てんと水穂は、リャマに引っ張らせた荷車に乗っている。

近くを小さな川が流れている。

淑子「水が引けば、なんてことのない小川なんですけどね。」

てん「いいえ、今回は鉄砲水が、目時の弱体化を実現させてくれたようなものなので、感謝すべきです。」

淑子「ご、ごめんなさい。」

しばらく行くと、かろうじて残った家の中で、土砂を撤去している住民たちの姿が見える。

慶紀が笛で一曲、あるメロディを吹く。

住民「お、いい音がするぜ。」

住民「疲れたから、聞かせてもらおうぜ。」

住民たちは、慶紀の周りに集まってくる。

住民「この作業が、楽になる曲を吹いてくれ。」

慶紀「よし来た、任せてください。」

と、軽快で明るいメロディを吹く。

住民たちはその曲の明るさに、手拍子したり、中にはリズムを取って体を振るものもいる。

吹き終わると、全員拍手をする。

慶紀「ありがとうございます。」

住民「すごいうまいな。どうやって身に着けたんだ?」

慶紀「ええ。独学ですから、大したうまさではありませんけどね。」

住民「ええ?そんなわけないだろ。絶対優秀な先生に就いたりとかしてる!」

慶紀「まあ、若いときはね。多少先生についたこともありましたけどね。」

住民「そういえば、うちの子も、笛をやりたいと言っていたことがあったなあ、、、。」

住民「そうか、そんなこと言ってたな。」

住民「でも、俺が、笛なんて役にたたんと激怒したせいで、すごく暴れる奴に変身しちゃったなあ、、、。おかげで俺は、目時会に更生をお願いしたが、もう、二度と帰らない人になったよ。」

てん「ああ、じゃあ、かえってお辛くさせてしまいましたね。申し訳なかったですか?」

住民「いや、いいんですよ。今は、あの会に預けてしまった俺が悪かったことにしています。誰のせいにもできないので。だから、そうやって笛を吹いてくれて、すごくうれしかったですよ。」

ひろし「余計につらくなるんじゃ?」

住民「いやいや、このようなことをしてくれますと、息子が戻ってきたような気がして、心がほっとしました。俺は、悪いことをしてしまったと、ずっと自分を責め続けながら生きなちゃなりませんので、笛は、俺自身を癒してもくれます。俺は、息子が亡くなって、やっと笛のすごいところがわかるようになりました。できれば、息子にやらしてやれなかった分、俺が笛を習いたいくらいだ。」

秀子「慶紀さんは、教えることもできますよ。」

住民「本当ですか!じゃあ、ぜひ、教えてもらいたい!」

住民「お前、笛は持ってるのか?」

住民「あるんだよ!それが!うちの息子から、取り上げたやつが!それだけは、今回、土砂にもっていかれなかったんだ!」

住民「お前は本当に運が強いなあ、、、。」

住民「そんなわけですから、ぜひ教えてくれませんかね。」

慶紀「いいですよ。それでは、どこか休むところを提供していただけないでしょうか。僕たちは、体のあまり強くない者もいるものでして。」

住民「わかりました。じゃあ、こちらに来てください。空き家もあるから。」

秀子「それだけは流されなかったの?」

住民「はい。いつもは、お偉い方々の羽を伸ばすときに使っていた建物なんですよ。それがまだ、壊れないで残っているのです。」

てん「じゃあ、そこへ滞在させてください。皆さんの土砂撤去作業能率を上げる音楽なら、彼らは天才的な才能を持っていますから。」

住民「はい、わかりました!じゃあ、きてください!」

一行は、住民に連れられて集落の中に入った。住民たちは、音楽家たちがやってきたと知らされると、彼らを心から歓迎した。

その日から、彼らは慰問活動を開始した。住民たちが、がれきを撤去する作業をしている間に、明るく陽気な曲を吹いたり、歌を歌ったりした。さらには休憩時間に笛を教えたりして、住民たちの瓦礫撤去の作業能率は、はるかに上がった。音楽を聞きながら、住民たちは、次のような言葉を漏らした。

住民「やっぱりさ、音楽ってものがあると、俺たちは、元気が出るもんだ。でも、なんで、それをうちの息子がやりたいって言いだした時、役に立たないものに手を出すなと、怒鳴ってしまったのだろうか。」

住民「そうだよなあ、ようちゃんの息子さんって、すごい笛がうまかったよなあ。俺たち、吹いていた時は、なんだあんなうるさい音と思っていたが、こうして聞かされると、いい音だなあと思うぜ。」

住民「うん。それに早く気が付いていれば、息子が慶紀先生のような立場になれたかもしれないぞ。五十を過ぎてから、習おうなんて考えても、やっぱり難しすぎるもの。それよりも、十代の、まだ、頭が柔らかいときから、習い始めないと笛ってのは覚えられないなあ。俺は、習い始めて、それがよくわかったよ。だから、それを息子から盗ってしまったというのは、いくら後悔しても足りないよ。」

住民「ようちゃんは悪くないわよ。あの時は仕方なかったの。ようちゃんは。だから、これからどう生きるかよ。きっと、後悔してくよくよ悩んでいるようちゃんより、明るく楽しく笛を吹いている、ようちゃんのほうが、息子さんだって成仏できるんじゃないの?あたしだって、娘を目時会に出して、未だに帰ってこないから、もう、この鉄砲水もあったし、あきらめてる。」

住民「娘さん、どうしてそうなったんだっけ?」

住民「知らない。なんか、寄宿制の学校にやったんだけど、ある日突然って感じで、一歩も外に出なくなっちゃった。そのあとは、地獄の日々だったわ。お医者さんに見せても何もわからないしさ。いろんな人に相談してもわからないしか答えはないし、そうしたら娘のほうが、私を殴るようになって、もう、目時会にやるしかなかった。」

住民「あの時は、救いの会みたいに見えたわね、目時会は。」

住民「本当だよ。俺たちも、出口の見えない生活だったからな。確かに息子が逝ってくれて、一時は解放されたのかと思ったが、笛だけが流されないで残ったというのが、息子の恨みというのか、なんというのか、うーんわからない。でも、息子が、いた時のほうが、少なくとも今のようなぽっかりと心に穴が開いたという感触はなかったぜ。俺は、親として失敗だったなというのが、今になってやっとよくわかるよ。この瓦礫の撤去作業だって、あいつがいてくれたら、もう少し、早く片付くなあってね。」

住民「そうそう。あたしたちも、もう、正確に言えば、おばあちゃんと呼ばれても不思議はない年よね。まあ、あたしたちには高望みかもしれないけど、おばあちゃんと呼ばれると、照れくさいけどうれしいもんなのよ。だって、子供が一人前になって、それが後継者を作ってくれたんだもん。生きていてくれれば、その可能性はまだあったよ。でも、それも亡くなっちゃったんだもんね。」

住民「まあ、後継者を望むというのは、今は確かに高望みになった時代なのかもしれないが、俺は、今考えると、息子がおかしくなって、それを矯正していくのは、親の使命だったのではないかと考えている。それを、放棄して楽をしようとしたあまり、息子は逝ってしまい、その元凶を作った、笛だけが残った。」

住民「へえ、ようちゃん哲学者になったね!よくそんなことが言えるようになったものだわ!」

住民「そうだなあ。ただの百姓に過ぎなかったようちゃんが、こんな偉大な哲学者になったとは、俺も信じられん。でも、ようちゃんのことが正しいのであれば、こう解釈することも可能だろう。子供をもつということは、道具を買いに行くのとはまた違う。道具は俺たちが思い通りに動かすことはできるが、子供という者はそうはいかない。」

住民「そうそう。子供ってものは道具ではないんだな。そして、道具ではないってことに気が付いてやれることが、一番の幸せなんだ!」

住民「おお!ようちゃん英雄!」

住民「本当だわ。」

住民「この頭がその証拠さ!」

と、ようちゃんは頭をがりがりと掻いた。髪は真っ白になっている。

慶紀「いいじゃないですか。白髪というのは、知恵の象徴です。まあ確かに苦労はしたのかもしれませんが、それでも一番大きな教訓が得られたと解釈すれば、そう悪いことではないのかもしれませんよ。」

住民「もったいないお言葉ですよ、慶紀先生!」

てん「お三方にお願いがあるのです。」

住民「な、何でしょう。」

てん「こういうことです。皆さんは、文字の読み書きは可能ですか?」

住民「平仮名くらいならなんとか、、、。」

てん「わかりました。では、この歌詞をご覧になって頂けませんか?」

と言って、てんはもっていた紙を三人に配った。

伝統的な石板印刷された紙に、平仮名で一つの歌詞が書かれていた。

住民「すごい難しい歌詞ですね。」

住民「いや、俺は、こう解釈していれば、もっと楽に生きられるような気がした。うちの息子にも、聞かせてやりたかった歌詞だ。俺、息子を亡くしてから、書物を読みふけるようになったが、その中にもよく登場してくる言葉だと思う。」

住民「ようちゃんが本を読むなんて、この世の終わりじゃないのかと、言われるくらい本は嫌いだったのにねえ、ようちゃんは。いつからそんな文学少年に変貌してしまったの?」

住民「うるさい!だって、誰かに話しても聞いてくれる奴なんていないんだから、自動的に書物に頼ることになるんだよ!」

てん「言い争いはここではやめましょう。彼の話は、間違いではございません。わたくしも、幼いときはそうでした。ですから、お気持ちは理解できます。だからこそ、わたくしたちの狙いに協力してほしいのです。」

住民「わかってくれるの?私たちの事。」

てん「ええ。わたくしも歩けないので、常に罪悪感をもって生きることを強いられた一人ですからね。」

住民「よし、俺たちもやってみよう!きっと、瓦礫の撤去作業を楽にしてくれる存在は二度と得られないし、それに、何よりも、子供を盗られた悲しみは、一生取れるはずもないだろうから、こういう事をして、紛らわすほかないだろう。」

住民「うん。私も賛成!確かに一日中瓦礫撤去を黙ってやっていたら疲れちゃう。」

住民「ほんとに、ようちゃんは、いつから英雄になったんだ?まあいい、俺も独り者に戻ってしまったし、家も何もなくなってしまったから、参加させてもらうよ!」

てん「ありがとうございます!じゃあ、協力、お願いいたします!」

住民「旅芸人としては、もったいないくらい、言葉が綺麗な人だなあ。なんだか、そういう人が、指導者でいてくれたらいいのにねえ。あんな目時の女よりも。まず第一に、足が悪いから、私情に流されて悪政をすることもないじゃないのか。」

ようちゃんにそういわれて、てんはひどく赤面した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る