第二十七章

第二十七章

慶紀「一体どういうことですか?鉄砲水が武器になるとは?」

てん「ええ、そのうちに冬も終わります。そうなれば必ず一度は野分がやってくるでしょう。春が来るとはそういうことですから。」

ひろし「そんなの、まだまだ先なのでは?」

てん「いいえ、わたくしも、昨日初めて気がついたのですが、いつのまにかこの屋敷にかかっていた氷柱がなくなっておりました。ですから、そのうちに大規模な野分がやってくると思います。そうなれば、目時が本拠地を構えているあたりも、鉄砲水で壊滅するでしょう。目時は、おそらく災害に関しては疎いはずですから。基本的に、贅沢な生活をすればするほど、災害には疎くなりますからね。」

淑子「そうですけど、災害は悪い人ばかりを集中的にやっつけてはくれません。誰でも平等に破壊します。目時の本拠地も壊滅しますが、同時にこちらも壊滅するでしょう。それでは、こちらが、手も足もでなくなりますよ。」

てん「わたくしは、壊滅したとは思いません。思うか思わないかは、本人の自由です。」

明美「わかりました。それでは、野分により、ある程度目時が弱体化したら、僕が目時の本部に乗り込んでいきましょう。」

とも子「それはちょっと危険すぎるのでは?武器も兵力もないのだし。」

明美「そうですけど、目時壊滅には、やっぱりこうするしかないんじゃないかなあと思いますね。確かに災害は破壊物ではありますが、逆に大きな好日にもなりますしね。」

てん「ええ、よく仰いますね。まさしく其の通りですよ。」

秀子「てん様は、何か大きな賭けに出ているような気がするんですが。」

とし子「それ、私も感じてた。」

秀子「そうやって、気負われると、お体が心配です。」

とし子「そうですよ、それに、災害が起これば、不衛生にもなりますから、ただでさえ、その体なのに。」

てん「いえ、心配はいりません。ただ、先は見えてはいますけどね。」

ひろし「杉ちゃんたち、はやく帰ってきてくれないかな。」

てん「わたくしたちも、あおいさまに礼をして、こちらから出なければ。」

慶紀「焦らなくてよいと思います、と、言うよりかむしろ、焦ってはなりません。」

てん「ええ、それはわかります。ですから、十分に計画を練りましょう。」


目時会本部にある六角形の建物。

布団に座っている水穂。

咳をすると、また少し血が、その手を汚した。

入り口の戸が開いて、千鶴子が入ってくる。

千鶴子「さあ、かっぱ巻きができたわよ。思いっきり食べてちょうだい。」

後ろを振り向く水穂。

指には血がついている。

千鶴子「嫌だわ、どうしたの!」

水穂「大したことないですよ。」

千鶴子「だって、この二三日は、ずっとよかったのに、なんでまた!」

水穂「ああ、季節の変わり目だからですかね。」

といってまた咳をすると、今度は本当に血が出るようになる。

千鶴子「だ、大丈夫?悪くなったなら、すぐいうようにと、あれほど伝えておいたのに、何で何も言ってくれなかったのよ!」

と、持っていたかっぱ巻きの皿を置き、彼の背をたたく。

千鶴子「薬、出しましょうか?」

返事どころではないらしい。

千鶴子はたちあがり、引き出しの中から粉薬を一つとりだし、水穂に渡した。水穂は渡された水と一緒にそれを飲み込んだ。

千鶴子「これで数分後には楽になるわ。」

其の通り、数分すると、血は出なくなった。

水穂「すみませんでした。」

千鶴子「謝らなくていいから、よかったわ。食べられたら食べて元気をつけた方がいいわよ。かっぱ巻き、食べられる?」

水穂「結構ですよ。」

千鶴子「そんなこと言わないで食べた方がいいわよ。ほら、一つだけでも。」

水穂「はい。」

と、かっぱ巻きを口にする。

千鶴子「よかったわ、ほら、もう一つ。」

水穂「会長。」

千鶴子「なに?」

水穂「なぜ、僕にはここまでご親切に色々してくれるのですか?」

千鶴子「へ?」

水穂「いえ、建物疎開を指示したのに、その一方で僕にはここまでとなりますと、なにか不自然な気がしまして。」

千鶴子「どうしてそう思うの?」

水穂「事実、そうだからです。」

千鶴子「大事な人に、手厚くするのはいけないことかしら?」

水穂「そう来ましたか。」

千鶴子「その、どこがいけないのよ!」

水穂「会長も変わりましたね。何か特別な感情が、出たようにみえます。」

千鶴子「私が?散茶までいったのに、そこまではならないわ。」

水穂「誰でも、人間ならそうはなりますよ。」

千鶴子「まあいいわ。とりあえず血は止まったから。それより近いうちにすごい嵐がくるみたいだから、気を付けて頂戴ね。」

水穂「あ、野分ですか。」

千鶴子「そういう言い方はよして。これからは私たちの時代なのよ、古い時代のいいかたは、どんどんやめるべきでしょう。」

水穂「そうなるとまた、鉄砲水が来るんですかね。」

千鶴子「来ないように建物疎開もさせたでしょ。あの付近にすんでいる住民は全員建物疎開と、集団疎開させたから、被害はでないわ。」

水穂「集団疎開って、どこへですか?」

千鶴子「川の近辺に住む人はみんな、村の中心部に移動してもらった。」

水穂「でも、前にこっちへ来たときは、この辺りもみんな壊滅しましたよ。」

千鶴子「まあ、川の近辺よりはましでしょう。それよりも、野分が来たときは、ここから出ないでちょうだいよ。幸い、この建物は、比較的高台だから、やられる確率は少ないから安心してね。」

水穂「いや、僕は住民の皆さんの方が心配です。疎開した皆さんともとの住民とのいさかいは必ず生じます。それだけでなく、」

千鶴子「あら、あなたは、ご自身が殺られることは心配しないの?」

水穂「しませんよ。僕みたいな憎まれ口を叩かれるような存在は、いてもいなくても大して変わりませんよ。それより、住民の皆さんの方が大切だと思いますね。歴史に名を残すのは、偉い人かも知れませんが、大人数の民間人の力がなければ、動かないということをお忘れなく。」

千鶴子「変な人ね!じゃあ、あなたが好きという私の気持ちはどこへいくのよ。」

水穂「それは個人的な感情でしょう?それのせいで住民に悪影響を出したら、もう政治家としては、失格ですよ。」

千鶴子「まあ、本当に冷たい人ね、私がこれだけ、あなたのことが心配で仕方ないのに、何も受け取ってはくださらないのね。」

水穂「当たり前じゃないですか。政治というのは、個人的な感情こそ、一番要らないんですよ。世襲制が失敗するのはそういうことでしょう。それがないように、共和制というのが作られたわけですけれども、そうなっても私情に流されたら、国が弱体化する原因になりますよ。」

千鶴子「そうなの?」

水穂「はい、過去の歴史でもそうなってます。」

千鶴子「私はそうはならないわ。個人的な感情と、業務的な感情は違うっていうのは、散茶時代によく習ってきたから。」

水穂「まあ、そうなんですけどね。確かに女郎というのは、ある程度度胸がないとなれない職業ではありますけれども、同時に危険もありますよね。」

千鶴子「確かに、梅毒にかかることはあるかもしれないけど、それを恐れていたら何も始まらないわよ。女性ってのはね、ある意味、危険を感じないでもやって行けちゃうところもあるのよ。その典型例が、出産というのかしら。それより、あなたも、女郎としか見てはくれないの?私の事。」

水穂「どういう事ですか?」

千鶴子「どうって、そのままじゃない。まあ確かに、そういう事を今まで仕事としてやってきたから、というのも理由になるかもしれないけど、誰か一人でいいから、ただの女郎ではなくて、私の、本当のことを見てくれる人がいたらなあって、いつも思っていたのよね。」

水穂「まあ、確かに劣等感は持ちますね。吉原炎上という演劇を以前見たことがありましたが、登場してきた女郎さんたちは皆そうでした。そもそも、おかしな事が商売になると僕は思っていましたけどね。でも、確かに世界最古の職業とも言いますよね。」

千鶴子「よく知ってるわね。やっぱり、ただ相手にするだけの人とは違うわ。」

水穂「目時を立ち上げたのは、女郎ゆえの劣等感もあったのでしょうね。だって、あなたは、結婚したわけでもなければ、子供を持ったわけでもないのだし。それを、逆手にとって、大事業にしたというのは確かにすごいとは思いますよ。」

千鶴子「本当?」

水穂「でも、テロ組織にまで発展させたのは、まずいとは思いますけどね。」

千鶴子「そんなことないわ。そんな住民を壊滅させようとか、撲滅しようという気持ちは毛頭ないのよ。でも、私は、これまでにひどいことしかされてこなかったわ。だから、それが二度と起こらないように、こうして対策を打ち出しているだけよ。だって、暴力に女性が服従しなければならないなんて、どう見てもおかしいもの。それを根絶したいだけなのに。」

水穂「そうですか。それをもっと、強調してくれたら、テロ組織にはならなかったかもしれないですね。」

千鶴子「だから、そんな危険なところにはしたくないわ。」

と、外から、唸るような強い風が吹いてくる。

千鶴子「風が出てきたわ。もしかしたら、今夜来るかもしれない。お願いだから、この部屋からはぜったいに出ないでよ。」

水穂「はい。わかりました。」

千鶴子「返事ばかりじゃなくて。」

水穂「と、いうより、野分が出たら、誰でも外には出ないと思いますけどね。本当に、鉄砲水が出ないかどうかが心配ですね。」

千鶴子「私は、大事な人を亡くす方がつらいわ。」

やがて、どこからか雨の音が聞こえてきた。はじめはぽつぽつと降っていたが、そのうち風と一緒になって、横殴りの大降りになった。木造の建物が、風でガタガタと揺れ、雨が、チャンバラをするように建物に打ち付けた。


北方にある、あおいの屋敷。

雨戸を閉めた、真っ暗な部屋に、てんを中心として全員集まってくる。

慶紀「いよいよ来ましたね。もしかしたら床上浸水するかもしれないので、皆さんこの奥の間にいてくださいよ。」

秀子「わかりました。それより、怖いから、外へは出れません。」

ひろし「この辺りは、川もさほどないのですが、村の方はどうなっているのでしょう。僕には見ることができませんが。」

とし子「あら、またこの野分の著述ができるかも?」

淑子「茶化さないでよ、とし子ちゃん。冗談を言えるほどの、災害じゃないのよ。」

てん「いいんじゃないですか。災害は年に必ずやってくるわけですから、冗談の種にできるほど明るいほうが、かえって楽ですよ。」

あおい「本当は、これのせいで、私たちは進展してこなかったわけですからね。それが、私たちの伝統の一つでもあったわけですし。そう考えると、災害も、忘れていたことが復活するよいきっかけなのかもしれないですね。」

とも子「そう考えられるって、ある意味素晴らしいわ。」

てん「それはね、皆さんが歴史上の教訓を無視しすぎたせいですよ。」

とも子「やっぱり、そう考えるのが、私たちは無難なのかもしれない。」

慶紀「だから、あってもなくてもいいものはないほうがいいという言葉は、名言なんですね。そうでしょう。」

明美「それにしてもすごい雨ですね。本当に、鉄砲水が出そうな気がする。雪解けということもあり、さらに被害はすごいことになりそうです。あんまり住民に被害がでないといいんですけどね。」

あおい「あることを、再認識するきっかけにもなりますよ。」

明美「あること?」

あおい「ええ。まあ、お若い方には、難しいかもしれないけど、、、。」

慶紀「ああ、そうかもしれないですね。」

あおい「本当に大切なものは、何か確認できるきっかけになるかもしれないですしね。」

慶紀「気が付けるということは、もう、私も年寄りになったのかもしれないですね。」

明美「それよりも、村のほうに被害が出ないかが、心配だ、、、。」

慶紀「明美さんは、まだ若いですね。年を取ると、自分のことを守ることに終始するのが一番いいという結論が出ちゃうし、いろんな人や物のパターンが、ある程度予測できてしまうから、つまらないですよ。」

そんなことを話しているうちに、雨はさらに強くなり、この屋敷もガタガタと揺れる羽目になった。

とも子「だ、大丈夫ですかね、この建物、、、。」

とし子「天井の梁が揺れているわ。」

てんは、静かに合掌し、念仏を唱えた。

そのまま長い時間がたった。大雨はしばらく、屋敷の周りで、大暴れを続けたが、次第に風が弱まってきて、雨の音も消えた。

明美「さあ、出てみましょう。怖いことはありません。」

てん「わたくしも参ります。」

淑子「てん様は待っていたほうがいいです。とりあえず、明美さんに行ってもらいましょう。」

てん「しかし、」

淑子「いや、待っていたほうがいいですってば。」

てん「そうですか、すみません。」

明美「じゃあ、僕が行ってみます。」

と、玄関の方へ行き、静かに戸を開けた。

庭は、まるで浅いため池のようになっていたが、幸い建物は何も壊れていなかったし、かろうじて人が一人立てるくらいの狭さの道があった。明美が、外へ出てみると、周りに立っている家々では、伝統にのっとれば直ちに土砂を撤去する作業を開始するのであるが、今回の災害では、開始されていなかった。

そこへしんぺいが、駆け込んできた。

しんぺい「明美さん!」

明美「しんぺいさん!」

しんぺい「みなさんは中に?」

明美「ええ。おかげさまで全員無事でした。しんぺいさんのところはどうでしたか?」

しんぺい「はい、うちの従業員も、全員連絡がとれました。建物は大丈夫でしたけど、店の看板をやられました。まあ、それだけだったからよかったです。でもですよ、建物疎開なんて大嘘じゃないですか。だって、建物疎開をして道を作り、そこを通って避難しようと試みた住民のほとんどが流されたと聞きましたよ!」

明美「そうなんですか?建物を壊すのは、道を広くするためではなかったのでは?」

しんぺい「そうなんですけど、皮肉なものですな。その道路に土砂が流れ込んで、逃げようとした住民のほとんどを流したそうです。」

明美「なるほど。それではまるで正反対だったわけですか。まあ、建物疎開の対象になった建物は、ほとんど誤解や偏見から選ばれており、目時が掲げる障碍者排斥政策の一つでしたから、取り壊しただけでは意味がないですよね。」

しんぺい「そうですね!きっとうちの印刷屋が選ばれたのも、立地条件が悪いのではなく、そのせいでしょう!」

明美「はい。しんぺいさん、中にいる皆さんも会いたがっていると思いますので、ご挨拶いかがですか?」

しんぺい「いや、早く土砂を撤去しなければ。これこそ、橘の伝統行事ですからな!」

明美「ありがとうございます!忘れないでいてくれて。きっと、皆さんも喜びます。」

しんぺい「はい。やっぱり、自然には勝てませんから、昔ながらの橘の暮らしぶりのほうがよっぽどよかったということに今気が付きました。これからも、橘らしい暮らし方を続けていきますよ!」

明美「ありがとうございます!これからも、よろしくお願いしますね!」

しんぺい「言われないでも、私たちはそう致します。ですから、大丈夫です。皆さんにもよろしくお伝えくださいよ。では土砂の撤去作業がありますので、これで失礼します。」

丁寧に敬礼して、かえっていくしんぺい。

明美「まだ、ああして伝統を残してくれている住民もいたんですね。」

ほっと溜息が出る。


一方、会議場の付近。

こちらも大雨で壊滅的な被害を受けていた。殆どの建物は床上浸水し、畑も水田も土砂に覆われてまるで使えないものになった。それと対照的に立ち並んでいた工場は、紙をすく道具などが破壊されなかったため、操業を続けることができたし、学校も無事であったため、すぐに授業が再開された。

ところがである。

一つの紙工場でいつも通り作業が行われていると、

従業員「あれ、火が出ている!」

と気が付いた時には、すでに火は天井近くまで到達していた。


会議場の裏にある六角形の建物では、水穂と千鶴子が一夜を過ごしていた。大雨による湿気の倍増で、水穂の手は真っ赤に染まっていた。千鶴子は、より強い薬を出すように蔵へ行きたかったが、大雨のせいで危険すぎるとされ、行く事ができなかった。

と、いきなり乱暴に戸を叩く音がした。

声「会長!来てください!」

声の主は眞砂子だ。

千鶴子「何よ!こちらも大変なのよ!」

バタアンと乱暴に戸が開いて、眞砂子が入ってきた。

眞砂子「それどころじゃないですよ!紙工場に、火炎瓶が投げ込まれて、消化作業をしている間に、製造された紙が持っていかれたそうです!」

千鶴子「そんなこと知らないわ!単に誤って誰かが火をつけたのではないの!」

眞砂子「違いますよ!工場にわざわざ火をつけるわけないでしょうが。それに、従業員の一人が、火の玉が落ちたと述べてますよ!」

千鶴子「火の玉?」

眞砂子「それが、実際には火炎瓶なんですよ、会長!」

そのような問答をしている間に、女中の一人が駆け込んできた。

女中「申し上げます!今度はまた別の紙工場に火がつけられて、また製造した紙が持ち去られているようです!」

眞砂子「いったいどういうつもりなの!」

女中「知りませんよ、私!」

水穂「たぶん、こういう事だと思います。昨日の大雨のせいで、鉄砲水があったのでしょう。それで、食料がほとんどなくなっているから、略奪があったのではないですか。あるいは、紙を食べ物と引き換えに使うつもりなのかもしれませんね。」

千鶴子「あなたは黙ってて!」

眞砂子「いえ、会長、まさしくその通りでしょう。早く対策をたてないと、こちらも、大変なことになります!」

千鶴子「なら、早く韮を出して!」

眞砂子「韮を出して何にするんです?」

千鶴子「この人に出すのよ!」

眞砂子「そんなことより、暴動を止めることが先でしょう!」

千鶴子「いいから早く!蔵にあったはずよ。」

女中「それが、昨日の大雨で蔵には流木が衝突し、蔵はつぶれてしまいました。早くお伝えすべきだったのですが、他の建物も、ほとんどがつぶれていて、無残な姿になってしまったので、、、。」

千鶴子「そんなのあるわけが、、、。」

眞砂子「会長が自分で確かめてくれば!」

千鶴子「でも、この人を放置してはおけないわ!それぐらい、眞砂子も知っているでしょうに!」

眞砂子「会長は乱心になってしまったんでしょうかね。いま一番大事なことが何なのか、何もわかってないじゃないですか!もう、ご自身で確かめてくるのが一番ですよ。会長が、これ以上、この人にひいきを続けるようでは、もう、私も何も言いません!」

眞砂子は戸をガン!と蹴飛ばし、つかつかと外へ出て行ってしまった。

水穂「行ってみましょう!自分のせいで、国政が乱れてしまうのは一番つらい。」

千鶴子「でも、」

水穂「いえ、かまいません。」

千鶴子「わかったわ。」

二人、立ち上がって建物の外へ出る。

会議場は、すぐ近くにあった。それだけははっきりしている。しかし、周りにあった建物は、一日前とは明らかに違っていた。あの、豪勢な木造の建物の連なりは、影も形もなく、屋根は風ではがされているし、床には大量の土砂がたまっており、中には傾いたり、柱が折れて完全に倒壊した建物もある。元の形をとどめている建物はほんの一握りしかなく、ほとんどの建物は、無残に倒壊していた。周りには、鉄砲水と一緒に流れてきた流木があふれていた。

さすがの千鶴子も何も言うことができなかった。これでは、先ほどのような暴動が起きても納得できた。

水穂が、立ったまませき込んで、千鶴子はようやく我に返ったが、こうつぶやくしかなかぅった。

千鶴子「そうか、私たちも、もはや終わりね。」


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