第二十四章

第二十四章

南方へ向かう道。杉三は車いすで、みわとかぴばらは歩いて移動している。

杉三「みわさんの魔法で、割と早く来れたけどさ。そ、それよりも寒いなあ、やっぱり。」

みわ「寒いのは苦手なの?」

杉三「馬鹿は風邪ひかないというけれど風邪をひくんだよ。」

かぴばら「こ、このあたりのはずなんですけどね。」

杉三「何が?」

かぴばら「ま、まんどころ大瀧です。」

杉三「そうか、遂に事件現場か!」

みわ「水の音がする。」

三人、立ち止まって聞いてみる。

みわ「こっちです。」

杉三「どこだって?」

自動的に、その音の方へ移動してしまう杉三。

かぴばら「あ、近づかないほうがいいですよ。」

しかし、杉三は振り返らない。

かぴばら「ど、どこに行くんですか!」

みわ「変ね。香料でも炊いてあるのかしら。」

かぴばら「こ、香料って何でしょう。」

みわ「おかしいのよ。これは、桃の香りでしょう。この時期に桃の花なんか咲くはずがないわ。」

かぴばら「あ、そういえばそうだ。」

みわ「だけど、ここに桃はあったかしら。隣のこなごな島には生えていたと聞いたけど、ここは松ばかりで、、、。」

かぴばら「だ、誰かが意図的に植えたのでしょうかね。」

なおも、その香の中を移動してしまう杉三。

みわ「そっちは方向が違うわよ!どこに行くの!」

聞こえていないらしい。

まもなく、小さな流れが見えてきた。その水は、どこの水よりも澄んでいて、川の奥底まで全部がはっきり見えてしまうほどきれいだった。川のそこには、勢いよく水が湧き出ていた。

桃の香りは、一層強くなる。

杉三「なんだか、実物こそないが、桃花源に迷い込んだようだな。」

かぴばら「あ、わかった、これ!」

杉三「どうしたのかぴばらさん。」

かぴばら「こ、これ、罠ですよ!僕たちというか、これまでまんどころ大瀧に飛び込んだ人は、みんなこれに引っかかって、二度と帰ってこなかったんですね!」

みわ「どういうこと?かぴばらさん。」

かぴばら「はい。か、香りでおびき寄せて、この川をさかのぼって歩かせると、いかにもこの先に、理想郷でもあるかのように見せかけて、滝壺に近づける。そして、滝壺に到着すると、、、。」

みわ「どうなるの?」

かぴばら「き、きっと、墓場のような光景が待ってるんだと思います。そして、その衝撃でみんな飛び込んでしまうという罠ですよ。」

杉三「行ってみようぜ!」

かぴばら「だ、だって、たぶんこれから先は、待っているのは滝壺しかありませんよ。」

杉三「馬鹿にはそのような衝撃は起こらないよ。行ってみよう!」

みわ「これ、たぶんきっと、香料だわ。本当の桃ではないと思う。」

杉三「そうだろう。だからこそいくんだろ!」

かぴばら「す、杉ちゃん、やられてしまったのだろうか?」

みわ「杉ちゃん、これは私たちをおびき寄せるための、、、。」

杉三「静かに!」

かぴばら「い、いきなりなんですか!」

杉三「誰か来る。」

三人が後ろを振り向くと、確かに人が歩いてくる音がする。

やがて、一人の若い女性が現れた。女性といっても、学校から上がったばかりと思われる、まだ子供の一面を残している女性のように見えた。体こそ、橘族の大人と変わらないけれど、その目は、完全な子供の目で、まだ、幼いということがはっきりとわかった。

杉三「やい!」

みわ「そんな言い方はないでしょう。」

杉三「どこへ行くんだ!」

女性「どこへって、、、。」

杉三「質問に答えろよ。」

女性「でも、、、。」

杉三「ははあ、他言してはならないとでも言われたな。それ、誰に言われたんだ?」

女性「私、、、。」

杉三「言い逃れはできないぜ。一体どうやってこっちまで来て、なんの目的でどこに行こうとしているのか教えろ!」

女性「皆さんも一緒にいくんですか?」

杉三「行かない。僕は、人をだまして、滝壺に落っことすような馬鹿な真似はしたくないからね。いいかい姉ちゃん、君が望んでいるところは、おそらく、この道をずっと先にあると君は信じ切っているのだと思うが、ただ、桃の香りだけが流れて、この川をさかのぼっても、何にも見つからないよ。いつまでたっても見つからず、しまいには君は苛立ってくるだろう。

そして、最終的にものすごく大きな瀧の前にたどり着くんだ。それしかないとわかったとき、君は今までなぜ歩いてきたのだろうと、憂鬱になるだろう。そして、何も意味がなかったことを知るだろうよ。そして、何もないとわかって絶望し、滝壺に飛び込んでしまうというわけ。どうだ、そういうトリックだ!こんな馬鹿なことを求めるよりも、家の中でご飯を食べて、誰かとしゃべっているほうがよっぽど幸せだ。それに早く気が付いてさっさと帰んな!」

女性「そうかしら。きっと、ここに住んでいてもろくなことはないわ。私なんて、いらない人だと思うの。だから、消えちゃった方がよっぽど楽よ。」

杉三「あのねえ、桃花源なんてどこにもないんだよ。トマス・モアのユートピアだって、二度と役に立つことはなかったよ。だから、そんなものを求めるよりも、さっさと俗社会に帰りなよ。そのほうがよっぽど楽しいし、よっぽど暮らしやすいよ。君はまだ、元服もしてないんだろ?それなら、おとうさんもお母さんもいるわけでしょう。その人たちが、どれくらい悲しい思いをするか、想像してご覧。それを考えて、今君が何をすべきなのか、考えてみてよ。」

女性「ううん、いいの。私は、もう、生きていないほうが、みんなにとって、いいんだってことも知ってるもの。きっと、ただでさえお金がないのに、働かないで好きな物ばっかり食べて、好きな買い物ばかりして、そういう人間を、誰もよい人間と思うはずはないわ。だからもう、二度と迷惑をかけないように、こうしてこっちまで来たんじゃない。それに親もお金も期限つきということも知っているんだから、早く死んだほうが、最終期限を目撃する必要もなくなるわ。最終期限が来た時は、お父さんもお母さんも、老人になって二度と働けなくなって、もう、お金を得ることだってできなくなれるわけだし。そして、私まで働けなくなったら、一家心中するしか道はないって、皆声をそろえて言うわ。だから、そうなる前に、対策をしっかり立てておかなくちゃ。今できる、対策というのは、死ぬしかできないじゃない。だから、そのほうがいいの。私なんて、いてもいなくても、社会が大きく変化するわけではないし、人が一人かけたって、国家が崩壊することもないでしょうよ。それに私だって、働く義務を放棄しているのに、それで生きているなんて、おかしいわよね。絶対良い評価を得ることはないでしょう。だから、そうなる前に死んでいって何が悪いの?」

杉三「悪いに決まってら!一番大切な物を、自分で捨てようとするのは、一番いけないことだぞ!」

女性「そうかしら。でも、捨てたほうが楽になれる人間もこうしているんだから、そうさせてくれていいんじゃない?私は、この世に順応できなかったと自分で自覚する事が出来たなら、もう、自分でおわりにしてもいいと思ってるわ。」

かぴばら「そ、それは、そうですけど、勝手に終わっても、遺体の処理なんかは、他の人がやることになるんですから、やっぱり、同じことですよ。迷惑をかけるだけです。」

女性「それでいいのよ。人のうわさも七十五日、きっとすぐに私の事は忘れるわよ。みな、自分を守るだけで精いっぱいなんだから。それしか、ないんだから。逆を言えば、私だって、自分を守ることに専念する能力があったら、こんな風に終わらなくてもよかったのかもしれないわ。でも、私にはできなかったから。そのせいで私は、周りの人に、迷惑をかける存在に変貌してしまったの。私自身だって、自分の事を、どうしても操作できないし、それで他人に迷惑かけているのに、その償いをすることだってできない。親は、愚痴を言いながらも私が壊したものを片付けてくれたりしたけれど、私にはできないから。その愚痴を言うときこそ、真実を言ってくれているのだと思うわ。これまで笑顔で接してくれた家族が、うんと悲しそうに、そういうから。だから、二度とそういう想いをさせたくない。だから、私が消えるのが一番いい方法なのよ。」

杉三「いや、それは違うね。やっぱり、人間は、はじめから終わりまでしっかりと生き抜く義務があると思う。もし、妥当な人生が与えられなかったのかとしてもだ!」

女性「そうかしら。きっと、そんなことはないわ。だって、私は何も得られなかったのよ。学校で真剣に勉強したいと望んでも得られなかったし、その苦しみを本気で聞いてくれる人を望んでも得られなかった。では、ほかのことで、何かしようと思っても、階級や経済力に邪魔されて実現はできないわ。せめて自分に自信をつけようとして、始めた裁縫でも、結局邪魔が入って、何ひとつ認めてなんかはもらえない。私の人生なんてそんなもの。そんな人生、生きていたって仕方ない。それでは、もう逝ったほうがよっぽどいい。」

杉三「具体的に何か、目指していたものでもあったのか?確かに具体的に動けば具体的な答えは出るときいたことはあるよ。」

女性「そうでしょう。答えは、いつもそう。「お前はだめである」だけよ。私なんて。だって、そういう人生しか得られなかったんだから。おかげで私は、架空の人でないと助けてはもらえないの。だって、それ以外にわたしを肯定してくれる人は誰もいないから。みな、女中にするか、踏み台にするか、いじめの対象にするかのいずれかよ。それをしない人なんてどこにだっていないわよ。私を、そっと励ましてくれる人がほしかったけど、そういう事はできない人たちしか私の周りにはいなかった。自分で何とかしろって言われたこともあったけど、私はできなかったから、やっぱり能力がないなってことを突き付けられただけだったわ。だから、もういいの。終わりにしたいの。終わりにさせてほしいの。この道の先、何があったっていい。あなたが言うように、実在しなくていい。私、無いものをあるものにするのはすごく得意だからね。頭だけで、無いのにあるように見せかけて、寂しさとか紛らわしてきたんだし。だから、きっとこの道の先は、綺麗な場所ではなくて、ただ、身投げをするための場所しか残っていないほうがいい。理想を求めて生きてれば、ろくなことがないってことは、私、何回も思い知らされたから、もういいわ。だから、生きているより死んでいったほうがはるかに楽。それにね、あなたが、一生懸命やめろやめろと言ってくれても、私には、またこの苦しい生活を続けていかなければならないってことを宣告されているようなもの。そんなもの、もう打ち切らせてよ。私を、これ以上つらい思いをさせないでよ。私、もう、疲れたわ。楽になりたい。」

全員、黙ってしまう。みわは、両手で顔を覆ってすすり泣く。

杉三「やっぱり僕は、行かせたくないな。君が、どんなに、辛い人生であったとしても、そこから学ぶことは必ず何かあるんじゃないかなあと思うので。」

女性「ううん、もう、答えはすでに出ているわ。」

杉三「君、本当はいくつ?」

女性「十三歳。」

杉三「なんだ、まだ、元服の年齢にも達してないのね。それではまだまだ早ずぎる。」

女性「じゃあ、どうしたらいいの?なぜ、みんな楽しそうなのに、私だけがこんなに苦しいの?そして、どうしたら、私もほかの子みたいに楽しくなれるの?」

杉三「知らないよ!そんなこと!」

女性「でしょう。その次の答えはもう知っている。自分で見つけろとか、そういう事を言うんでしょう?でもね、それって私にとっては、無責任さを表しているだけしか見えない。だって、そうでしょう。さんざん生きろ生きろと言っておきながら、じゃあ、具体的にどうしたら、そうなれるのか、と私が聞くと、答えなんて誰も教えてはくれない。私は、学校で教わってきた以外のやり方で、成功した人を全く見たことはない。それができなければ、今すぐここで死んでしまえと言われたことさえあったわ。その通りにしているだけなのに、そうしようとすれば、死ぬなと脅されて、またそれもできなくさせられるのよ。どちらにいっても、私には答えが見つけられない。だから、きっとそういう能力がないんだと思うのよね。それか、この世に生まれてくるべきじゃなかったとか、生まれてくるところを間違えてしまったか。」

杉三「元服したら、また変わってくるかもしれないよ。」

女性「そうかしら。そんなことあるかしら。時間なんて、何も変わらないで、ただ流れていくだけじゃない。今年なんて、去年の繰り返しよ。大きく変わるわけでもない。」

杉三「まあ、それは確かにそうだけど、去年の繰り返しができるということが、いかに素晴らしいか、まるでわかってはいないな。」

女性「とにかく、私は、一番最後に聞かされるはずの結論を最初に聞かされてしまったの。そして、それが実現できなかったら、生きていけないことも知っているの。だから、その通りにしようとしてるのに、いざとなると邪魔をする。その通りにしているのだから、本来は喜んでくれるはずなのに。少なくとも、目時の人たちは、そういう考えができる人たちでしょう。あれが、もっと、私たちの村に早くから浸透していれば、もう少しこの社会も腐敗しないで生きられたかもしれないわ。今のような、あいまいな社会より、ああして磔にかかることがわかっていれば、もう少しいい人間が増えたんじゃないかしら。今はそう思ってる。」

杉三「そうか。わかった。それを本当にするのなら、僕らを倒してから逝け!それさえもできないのに、勝手にそういう理論を作るのはいけないことだと思うから!」

みわ「何を言っているんです!杉ちゃんは、大事な役目があるでしょうが!」

かぴばら「そ、それに、ことの発端をつくったのは、杉ちゃんなんですよ。」

女性「いいわ。私もやってあげる。だって、この世界、本当に喜びなんて一つもなく、怒りだけだったもの。それを集めれば、何だってできるはずよ。あの、またはちという人も、きっとそうだったんだと思う。」

と、懐から、一本の懐剣を取り出し、それを抜いて、杉三にとびかかる。かぴばらが、負けずに彼女に体当たりして彼女を抑え込み、刃物を持った手を押さえつける。思わず彼女が、刃物を落とすと、かぴばらはこれでもかとばかり、豪快に彼女を背負い投げして、地面に叩きつける。

かぴばら「ど、どうだ、痛いだろ!わ、わからないときは、体で教えるのが一番いい。ま、まだ、十三年しか生きていない君が、もう終わりにしたいというのは、わがまますぎる!」

しかし、反応はない。

杉三「おい、大丈夫か?」

かぴばら「ええ。すぐに戻りますよ。格闘技の技を使っただけですから。」

杉三「格闘技かあ。好きなんだなね。」

かぴばら「は、はい。か、格闘技しか、はけ口がない時期があったので。」

みわ「吃音者だったから?」

かぴばら「そ、そうかもしれません。ど、どっちみち、ダメな一生しかないと思ってたから、悪い人を直接手にかける、格闘技にすごく憧れて。」

と、女性の手が、ひくひくと動く。

かぴばら「だ、大丈夫ですか?」

女性「私、、、。」

かぴばら「す、すみません。す、少し、やりすぎましたかね。ぼ、僕、怒りで思わず思いっきり投げてしまって、は、恥ずかしい限りです。」

女性「そんなに私の事?」

かぴばら「そんなにって、何がです?」

女性「気にかけてくれたの?」

かぴばら「え、ええ。ぼ、僕も、すでにわかると思うけど、吃音者だから、どっちにしろ、いい人生は得られません。お、お話を聞いて、じれったくて仕方なかったんです。」

女性「じゃあ、受けとってくれたの?私の気持ち。」

かぴばら「う、受け取れたのかはわかりません。そ、それよりも、じれったいほうが多かったです。」

杉三「本当は、思いっきり「違うよ!」と言ってくれる人が、ほしかったんじゃないのか?だって、悪い事実を受け取って、その通りに生きていくことほど、人間にとって苦しいことはないもんな。」

みわ「かぴばらさん、何かヒントを出してあげたら?」

かぴばら「は、はい。き、吃音者であるゆえに、いじめられたり、馬鹿にされたことは何度もありましたよ。し、しかしですね、これのおかげで、尊敬すべき主君にも会えたし、こういう友達にも会えました。だ、だから、できなかったことというか、弱いところというのは、時にすごい働きをすることもあるんです。そ、それしか言えませんよ。」

杉三「塞翁が馬、か。」

かぴばら「そ、そういう言葉は知らないけど、まあ、悪いことのおかげで、今に通じていることもあるので、それだけは忘れないでいただきたいなと思います。」

杉三「な、生きててよかったろ。そういう事もあるんだから、たった13年で滝壺に飛び込んでしまおうという考えは、どっかに捨てちゃいな!そして、これまで以上に、いい人生を、作ってあげてよ。君のためにさ。」

女性「そうですね。確かに、そうなのかもしれない、、、。」

杉三「まあ、人生に無駄なことはないってことだ。それがわかれば大勝利。また、どっかで会おうな。」

みわ「そうか。先を急がないといけないわ。」

女性「どこへ行くんですか?」

杉三「さくらというさんかを探している。」

女性「さんかという言葉は、私は知らないけれど、さくらと名乗る首に金の輪を付けた人は聞いたことがあります。」

杉三「え、知っている?どこにいるの?」

女性「ええ、この川を少しさかのぼると、小さな湖があって、そこの周りに金の輪を付けた人たちが住んでいるそうです。」

杉三「よし、行ってみようぜ!」

かぴばら「い、いいことを聞きましたね。」

みわ「どうもありがとうございます。じゃあ、急ぎましょう。」

杉三「ありがとうね。僕らもこうしていいことを聞けたんだから、この時間は決して無駄にはならなかったよ。人生、無駄なものは何一つないんだよ。それを忘れないで、しっかりやってくれ!」

女性「はい、わかりました。ありがとうございます。」

杉三「じゃあ、充実した、毎日をね。またな!」

と手の甲を向けてバイバイし、少しずつ前進していく。みわとかぴばらも敬礼して、杉三の後を歩き始める。

女性「ありがとうございます!」

三人の姿が見えなくなるまでいつまでも見送る。


再び、川に沿って、歩いて聞く杉三たち。

かぴばら「す、杉ちゃん、てっきり、惑わされたのかと思いましたよ。」

杉三「あんまり強烈だと、かえっておかしいと思うもんよ。それより、さんかはどこにいるんだろうね?」

みわ「まあ、湖を見つけるまでは、見当がつかないわ。」

かぴばら「あ、あれ!」

と、前方を指さす。

確かにそれまで松の木の連続だった周りの景色が突然途切れている。そして、きらきらと光と乱反射している、水面が見える。

杉三「すごい、まさしくこれが湖?」

みわ「という事なのでしょうか?」

もう少し近づいてみると、湖の向こう側に、何軒か家が建っているのが見える。

みわ「湖をまわってみましょうか?」

かぴばら「そ、そうですね、、、。」

三人、湖の周りを静かに移動してみる。

用意された道は一本しかなく、周りは、草ぼうぼう。そこを外れたら、二度と帰ってくれないのではないかと思われるほどであった。草と木々のせいでほとんど周の景色は確認できないので、湖のどのあたりを歩いているのかは見当がつかなかった。

杉三「蚊がいっぱいいそうだな。」

ところが蚊のようなものは飛んでいなかった。それどころか、他の昆虫も見当たらない。

みわ「なるほど。あまり虫が少ないのね。草が多い割に。」

杉三「と、いう事は。」

みわ「ええ、だから狩猟に頼るのかもしれないわね。虫が少なかったら、農業には向かないわ。」

かぴばら「そ、そうか!実をつけるのには受粉が必要ですね。そ、それを媒介する虫がいない。人間がやればいいのかもしれませんが、それだけじゃ追いつかないのかもしれない。」

と、そこへ声がした。

声「どうやってたどり着いた!北の世界の者たち!」



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