第二十三章

第二十三章

翌日。

眞砂子「また来ましたよ。会長。」

千鶴子「また来たって誰が?」

眞砂子「あの、イノシシ村の者です。」

千鶴子「しつこいわね。私が、追い返してくるわ。」

千鶴子は、玄関先へもう一度歩いて行った。

玄関の土間には、むらが立っていたが、頭には粉雪が少しばかり付着していて、一晩中そこにいたことを示していた。

千鶴子「あら、おかえりにならなかったのですか?」

むら「ええ。だって、最後まで用件を伝えてないんですから、帰るわけにいきませんので。」

千鶴子「何を言ったって、イノシシの駆除は続けますからね。それだけは変わりませんよ。」

むら「ですけど、大事なことをこっちも伝えておりません。」

千鶴子「この寒さで、一晩そこにいては、体も堪えるでしょうから、おかえりになったら?」

むら「ご心配なく。イノシシと格闘するときは、もっと体力が必要ですから、これくらいの寒さなど、平気で過ごせます。」

千鶴子「馬鹿は風邪をひかないと誰かが言っていたけど、本当なのね。」

むら「まあ、そう解釈してもいいですよ。それよりも、用件を早くおつたえしたいのですけれども?」

千鶴子「わかったわ。早く言いなさい。」

むら「じゃあいう。私たちは、橘の住民をああするようにと命じられて、確かにその通りにしてきましたが、お礼を一度も言われたこともないばかりか、契約内容にあった、私たちの生活を保障するという作業はどこへ行ってしまったのでしょうか。もし、契約内容に従ってくれるのであれば、私たちの伝統的なイノシシ狩りを再開してもよろしいのではないですか?」

千鶴子「ちょっと待ちなさい。確かに、お願いはしたのは確かよ。それに、お礼として、絹と、金を出したはずよ。」

むら「そうですけどね、使い方も何も知らないのですから、私たちはもらっても仕方ないですよ。それよりも、私たちの必要なものは、イノシシを捕まえて食料を得るほうが大切です。ですから、物品をもらうよりも、そっちを充実させてもらいたいのですけどね。保障するというのは、そういうことじゃありませんか?それなら、まさしく契約違反ですよ、会長!」

千鶴子「金だって、あなたたちが首に巻いているものの、材料になるんだから、同じことじゃないんですか?絹は、着てみればわかるでしょうけど、非常に便利な布になるわよ。」

むら「説明も何もなくそういう物を送られても、ただぬか漬けになるだけで、何も意味がないんです。」

千鶴子「じゃあ、説明書を書きましょうか?」

むら「幸い、私たちは、文字という物は信用しておりません。文字より声のほうが大切です。文字はいくらでも虚偽の情報をかけますが、声ではそうはいきませんから、これを大切にしております。」

千鶴子「でも、口で言うより、記録として残せるし、口は災いの素とも言いますし。」

むら「そういう格言は、文字があるからそうなるのであって、必然的に口でしゃべるだけにすれば、誰も虚偽の情報は持てなくなると確信しております。」

千鶴子「あなたたちは、イノシシだけが食料を得る手段ではないでしょう?小規模ながら、畑もあるはずなのでは?それだけでいいじゃない!」

むら「はい。確かに、うちの住民の中でも畑は持たせております。まあ、それは確かです。」

千鶴子「じゃあ、畑をイノシシがだめにすることもあり得るのではないの?」

むら「ありますよ。だからこそ、食用として使うことにしているし、非常に貴重な栄養源です。」

千鶴子「まあ、それでは、畑で食料を得ることに専念すればいいでしょう。ここにいる住民の皆さんは、そうしてるわよ。」

むら「やっぱりわかってないんですね、会長は。よく私たちの住んでいるところを考えてくださいよ。畑なんて作っても、年に二度も三度も、野分に見舞われて、大体鉄砲水か何かで、やられるのが常ですよ。そうなれば、何十日の間、食べ物が得られないことになりますから、その間はどうしてもほかのものを使うしかないじゃありませんか。ですから、畑だけでは無理なんですよ。そう考えると、イノシシを一頭捕まえてきたほうが、多量の肉が一度に得られますので、よっぽど合理的です。こんな説明を、なんで中央政権にしなければならないんですかね。少なくとも、まつぞう様のころは、しっかり理解してくれましたけどね。」

千鶴子「じゃあ、他に何か副業をすれば?」

むら「いや、それもどうかと思いますね。先祖代々、こうして暮らしてきた住民が、いきなり何か仕事に就くのは無理じゃないかなと思います。」

千鶴子「それでは、野分の比較的少ない、このあたりの地域に移住することを考えないのかしら?不便なところでわざわざ暮らすほうが、よほど不合理だと思うけど?」

むら「本当に女という物は、損得ばかりで見てしまうから困ります。だれでもそうじゃないですか。住んでるところを離れると、悲しくなったり寂しかったりするでしょう?それと同じなんですよ。会長、この組織の名称、「めとき」の語源は、あなたが散茶まで昇格した時の源氏名に勝手に当て字を付けたものだと聞きましたが、やっぱり、そういう屈辱的なことを、組織名に使ってしまう組織は、何も良い働きはしないなと思いますね。」

千鶴子「おかしなことを言うもんじゃないわ!一体何を言いたいのよ!」

むら「そういう、損をしたときの名を、組織として挙げるような団体は、代々役に立たないということです。人間、得をしたときのほうが印象に残るわけですから、損をしたときの印象のほうが強い人間と言いますのは、決して良い方向に物事をもっていくのには長けておりません。確かに政治という物は多少損を考えることもありますけれども、本来はそのために動かす者ではありませんからね。」

千鶴子「どうしてそういう事を知ったのよ!この会に名を付けたのは私だけど、そんな汚い名前から、取ったわけではないのよ!」

むら「はい。文字に頼らないで生活した結果、そういうことになっております。私たちは、目時と言われてもどのように字を書くのか全く知らないわけですから、どういう語源で来ている言葉なのか、調べて当たり前でしょうが。」

千鶴子「そんな余分なことまで調べる必要があったのかしら。でも、どこで、そのような情報を、手に入れたのよ?」

むら「はい。北方の方で、ある書物がはやっているようで、それに赤裸々につづられているそうです。もちろん、私たちは全く文字が読めないので、書物は読めませんが、その書物に基づいた楽曲は多数つくられていますので、そこから類推することができました。」

千鶴子「どんなもの?」

むら「知りませんよ。題名も知りません。しかし、私は北方でそのようなものが流行っていると聞いて、私たちへの契約違反と、あなた方が住民にしていることの残虐さを目の当たりにしました。ですから、こうして抗議に来たわけです。それに、イノシシが満足に獲れないと、生活が成り立ちませんので。」

千鶴子「ああ、それだけは間違いだわ。残虐でもなんでもないのよ。私たちは、社会を円滑にさせていくために、そういう手段に出たんですからね。だって、この世から、おかしな暴力を排除しなければ、女性も誰も、安全には暮らせないわ。」

むら「そうですけどね。こっちの立場から言わせてもらうと、あなた方が社会を円滑にしていくためにイノシシを駆除するので、こちらは、貴重な食料が全くなくなって、困っております。」

千鶴子「昨日も言いましたけど、少数の集団のために多数の集団が、考えを変える必要はありませんのよ。どうしてそうなるのか、私たちのほうが納得する理由がほしいわ。きっと多数派を少数派が動かすことのほうがよほど難しいのでは?」

むら「はい。答えは簡単です。私たちは桜です。私たちは、生活をしていくためにイノシシを獲っています。会長だって、出身は松野でしょう。いくら髪型を変えてごまかそうと思ってもわかりますよ。松野は松野ならではの、誇りという物があるんじゃないですか?それと一緒ですよ。」

千鶴子「おあいにくさま。私たちは、確かにそうかもしれないけど、今は、三部族共存の時代になったのよ。それに文句言うなら、私ではなく、橘に文句を言いに行ったらどうなの?」

むら「三部族共存ね。本当は違うでしょう?会長。会長は、民族関係ないと言いますけれども、そんな社会絶対できるわけないですよ。それぞれ歴史があって、それなりに文化があって、それがまじりあって社会ができるわけですから。あなた方がやっているのは、ただ、同じ考えを持つものを集めて、違うものを大量に殺害する。これじゃないですか。そんなものに共感なんて、どうしてもできませんね。」

千鶴子「だったら、こうしましょう。イノシシが出て、確かにこっちは非常に困っているわけですから、捕獲したイノシシをそちらに供出しましょうか?」

むら「やっぱりわかっておりませんね。いいですか、イノシシを捕まえることが、どれだけ長い間大事にされてきたのか、よく考えてから言ってくださいね。もちろん、栄養価としてイノシシの肉を食べるということは必要なんですけれども、それだけではいけません。獲るという行為にも意味があるのです。それは、」

千鶴子「もういい加減にして!そんな面倒なことをして一体何になるというのよ!イノシシがそれほど必要なら、イノシシを加工するなりして、保存しておくとか、そういうやり方を探すことも必要なんじゃありませんの?それをしないでただとるだけでは、古くて不便なやり方をそのまま押し付けているだけじゃない!そんなんだから、いつまでも進歩なんかしないのよ。」

むら「いりませんねそんなもの!私たちは進歩なんてこれっぽっちも望んではいないのです。大事なことは、私たちが、昔ながらの伝統的なやり方で、平和に生活していけること、これじゃないですか。これ以外求めていくものは何もありません。新しい技術も文字も何もいらないんです!それよりも、平和に生活していくことを望むのはなぜいけないのですかな?」

千鶴子「でも、時代が変わったら、少しばかり捨てることも必要なんじゃないですか?」

むら「会長、そういうことをやって、うちの先祖もひどい目に会ったのに、また同じ目に会わせるつもりですか。多数派の意見に少数派が従ったほうが楽になれるという、会長の意見が正しいのはよくわかりますけれども、それによって、他の動物にも影響が出たらどうします?」

千鶴子「イノシシはこれからも増え続けていくわよ。あれほど繁殖力の強い動物はいないでしょう?」

むら「いや、どうですかね。ネズミのほうがまた強いのではないですかね。イノシシは、そこまで強くはありません。それに、古くから文字文化を有しているのであれば、私たちにとって、大切な動物が、なぜ絶滅したのか、理由がわかるでしょうが。たぶんですけど、勝利の記録として残っているんじゃないでしょうか。」

千鶴子「知らないわよ、そんなこと!」

むら「本当に知らないのですか?」

千鶴子「ええ、知りません!政治家階級ではなかったのだし、、、。」

むら「階級に関わらず、歴史的なことは知っておいた方がいいのではありませんか?もしかしたら、イノシシとバビルサの違いすら知らないでしょう!」

千鶴子「ばびるさ?」

むら「これではだめだ。話に来ただけ無駄だった。」

大きなため息をついて、むらはがっくりと落ち込んだ。

むら「会長。もっと、住民や少数民の事を知ってから政権を取るべきでしたね。」

千鶴子「必要ないわよ。そんなこと!とにかく、イノシシが、私たちの畑を荒らしたり、果実を食べたりしてダメにすることは確かなんだから、これまで通り、駆除は続けさせてもらいます!あなたたちの事は、あなたたちで考えなさい!私たちが手を出すことではない!」

と言って、ピシャン!と戸を閉めてしまった。

むら「あ、ちょっと、会長!」

しかし戸が開くことはない。

仕方なく、ため息をついて引き返していくむら。


同じころ。北方にある、あおいの屋敷。

庭を掃除していた杉三と明美の下へ、しんぺいが飛び込んでくる。

しんぺい「大変です!大変です!」

明美「どうしたんです?」

杉三「しんぺいさんは、何かあるとすぐに大変大変と言って、こっちへ飛び込んでくるんだな。」

しんぺい「いや、本当に大変なんです。あの本の出版を取りやめるようにと命令が!」

杉三「ついに出たか?」

しんぺい「はい!貸本屋衆も、所持していればすぐに燃やしてしまうようにと命令が出たそうですよ!」

杉三「ある男の一生が、か?ひろし君が一生懸命描いたのに!」

しんぺい「そうですよ!これでは、手も足も出ないじゃありませんか!うちの印刷屋がまた、操業できなくなってしまう、、、。」

杉三「ほかの書物があるだろ。」

しんぺい「でも、売上の八割は、あの本で得ていましたからな。」

杉三「いいじゃないか。生活を替えればそれで!」

明美「そういう事がすぐにできるのは、杉ちゃんだけだと思う。」

しんぺい「そうですよ!あーあ、こうやって、何か乗り出そうとしても、すぐに止めが出ちゃうのが人生という物ですが、頭の中ではそうなるものだとわかっても、再度気合を入れてやり直しをしようとするほど、人間は強くありませんよ!」

明美「でも、本はすでに、ここでは大量に売れたわけですから、少しばかり世論も変わっているのではないですかね。」

杉三「ちょっと待て。命令が出たんだろ?それは、誰が出したんだろ?」

しんぺい「目時の会長でしょう。」

杉三「目時女帝が、読んだのかなあ。」

明美「考えられませんね。僕が使えてきた中で、会長が書物から何か学ぼうという姿勢を見せたのは、一度もありません。」

杉三「じゃあ、誰がほんの存在を教えたんだろうね?」

明美「この中の誰かとはまず考えられませんね。おそらく外部の人じゃないですか?」

杉三「そういう人たちの中で、誰か味方になってくれる人はいないかな?」

明美「どうでしょうか?まだ、目時会は会員の数が減ったわけではないようですよ。」

杉三「じゃあ、誰か、会長の姿勢に不満を持っている人はいないのかな。」

明美「まずないでしょうね。そういう人はとっくに刑務所にいるんじゃないですか。」

杉三「じゃあ、例えば、さんかとか、勧進のような人もいないのか?」

明美「なんですか。それって、日本独自の言葉で、こちらでは使いませんよ。」

杉三「ああ、ごめんごめん!つまり定住することもなく、仕事を求めて移動して、戸籍なんかには登録されていない人の事をそう言っていたんだよ。」

明美「僕も、よく知らないですね、、、。」

杉三「やっぱりだめか。」

明美「でもそういう人を味方につけてどうするんです?」

杉三「力をつけるにはそうするしかないじゃない?」

明美「そうかもしれないけれど、そういう人が、僕らの事を信じてくれるかどうかが問題だと思いますが、、、。」

杉三「じゃあ、見方になってくれる人は、誰もいないわけね!」

しんぺい「じゃあ、うちの印刷屋もおしまいか、、、。」

杉三「それではいけない!ここはみんなで相談したほうがいいんじゃないか。みんなで集まってさあ。」

明美「そうですね、そうしたほうがいいかもしれませんね。」

しんぺい「何はともあれ、うちの印刷屋が、やっと商売が軌道に乗ってきたと思ったのに、取り潰しになることだけは、何とか回避したいのですが。」

杉三「それにさ、会長が、その本について、どこで情報を手に入れたのか、その提供者はだれなのか、それも知りたいところだぜ!」

しんぺい「はい、それは、たぶん会員であった方が、本を読んで、会長に伝えたんだと思いますが。」

杉三「まあ、その説は最も有力かもしれないね。でも、ちょっと違う気もするよ。」

明美「そうですね。告発者が出て、改易を命じたなどの事例は、今まで出ておりません。確かに会長であれば、完全に告発者を生かしておくことはまずしないと思います。まず、真実を知っても、告発者が生きていたら、また新たな謀反を起こすきっかけになるかもしれないし、それに、自分が不利になりそうになると、徹底的にやってしまうのが、会長のやりかたでしたし。」

杉三「そうだろう。そういう情報は、君の下には入ってないんだよね?」

明美「まあ、新しい人が現れて、僕が不要品になったわけでもありますからねえ。」

杉三「今は、容姿のことじゃないよ。」

秀子たちも話を聞きつけて、杉三たちの方へやってくる。

秀子「もしかしたらかもだけど、杉ちゃんのいう通りかもよ。明美さん。」

明美「どういうことですか。」

秀子「私は、杉ちゃんの、誰かを味方にするのは賛成。そういう時は、目時への不満を持っている人を探しに行くのがいいと思う。」

明美「実際に存在するんですかね。」

淑子「例えば、ビーバーさんたち?みわさんの話では、もうこなごな島へ行ってしまったようよ。」

杉三「きっとね、僕は、その不満を持っている人たちが、あの本の紹介を目時女帝にしたんじゃないかなと考えているんだよね。だから、その人たちと、話してみたいわけ。そうなれば強い味方ができる!」

みわ「聞いたことありますよ!」

杉三「あるの?」

みわ「ええ。と言っても、私が聞いたのは、先代のまつぞう様が生きていたころですから、あまり、あてになるかどうかわかりませんが、、、。」

杉三「大昔でも、今に通じているかもしれないよ。」

みわ「みなさんも知らないかもしれないけれど、この松の国の南方、まんどころ大瀧の付近には、まだ、私たちに帰属していない、少数派の部族が、わずかばかりいるそうですから。一応、松の国の構成民族は三部族いますけど、実際には、このどれにも当てはまることを望まず、孤立した生活を送り続けた部族も少なからずおります。少なくとも100人、多くても五百人に満たないほどの小さな集団は、南方のほうに行けば、いくつか今でも残っているようです。彼らであれば、もしかしたら、目時の制度には順応しないかもしないから、こちらの主張を受け入れることも可能かもしれない。」

杉三「やった!強い味方だ!」

みわ「そうなんですけど、それはまだ先のことで、そういう部族が、果たしてどのあたりにいるのかということは、私には、わからなくて、すみません。」

声「知っていますよ。」

全員後ろを振り向く。

かぴばらに背負われた、てんがいる。

杉三「馬鹿!寝てなくちゃダメじゃないか!」

かぴばら「す、すみません。ど、どうしても、こっちへ行きたいと言って、聞かなかったのです。」

杉三「それで寿命が縮まるのに全く気が付いていない。」

てん「わたくしが、幼いころに、父から聞いた話ですが。」

杉三「無視か。」

てん「確かに南方には、松野にも、わたくしたちにも従わなかった部族は現在でも存在しており、父はそこに調査に行ったりもしておりました。わたくしが聞いた限りではの話ですが、その中で一番有力な部族はおそらく桜でしょう。桜、というのは当て字で、さくらという自称は、完璧という意味なのだそうです。彼らは、文字の文化を拒否し、わたくしたちと一切交流しないで生活していたそうなのです。父が、観察した限りでは、簡素な畑と狩猟を併用して生活している民族であり、イノシシと戦うことを何よりの美徳とし、イノシシを一人で退治できないと、元服したとは認められない文化を有していると言います。」

杉三「イノシシ!」

慶紀「半狩猟採集民族というわけですか。」

杉三「しかし、なんでイノシシなんだ?例えば熊とかさ、もっと怖い動物に勝利したのなら、すごいのかもしれないが、、、。」

てん「ええ、かつてはこの国にもいろいろな動物がいて、イノシシも一種だけではありませんで、単なるイノシシだけではなく、バビルサという動物がいたそうです。」

杉三「あ、自分の死を見つめる動物ね!」

てん「ええ、そのバビルサの強烈な牙に打ち勝つことが、桜の重大な元服式の式典の一つだったようですね。つまり、バビルサを、一人で退治できると、一人前の大人として、認められるのでしょう。」

慶紀「確かに、バビルサの名は、多くの楽曲にも登場します。しかし、そのような動物が、この国にいたとは、信じられません。近年、あれが出没したという記録は全くないですよね?」

ひろし「確か、僕が視力を失う前に家族から聞いた話では、通常のイノシシよりも大きな牙を持ち、その牙は、顔にささって死ぬこともあるほどの巨大であると聞きましたよ。それをもつ動物を退治するということは、死を恐れるなという事なのかもしれないですね。」

慶紀「ところが、実物を見た例は全くないですよね。」

てん「ええ。もう、一頭もここには生存していませんね。松野が、ここに侵入してきた際、桜が、それを阻止しようとしたのに腹を立てた松野の帝が、桜の象徴である、バビルサをことごとく殺して全滅させましたから。その代りに、イノシシを元服の道具として使わせたことで、桜は全滅を免れたそうなのです。他にも、松野が侵入してきた際に、南方には多くの少数の部族がいましたが、ほとんど松野にやられて壊滅しています。生き残った部族は本当にわずかしかないでしょう。」

明美「しかし、イノシシは、最近数が増えすぎて、農作物を食い荒らすとして、会長は徹底的に駆除しようと、罠を仕掛けさせたりしていますが、そういう風にみなす部族がまだいるのなら、イノシシがいなくなったら困るわけですから、きっと何か抗議してくるかもしれないですよね。」

杉三「なるほど!そういうトリックだったわけね!つまりもともと、バビルサを元服の道具として使っていたが、それをすべて盗られてしまったばかりか、代わりに与えられたイノシシでさえも、そういう風にして盗られてしまうのであれば、こりゃあ、不満を募らせるだろうよ。よし、強い味方だ!」

てん「ひとつ問題があって。」

みわ「なんですか。」

てん「彼らは、そのような歴史から、外部からの要請を拒み続け、交流を一切してこなかったんですね。それを、今更求めても、信用してくれるかどうか、、、。」

杉三「いや、必需品がなくなれば、抗議してくるだろう。すでにしているかもしれないよ。」

てん「そうかもしれませんが、彼らは文字を持つことを徹底的に嫌います。文字は、いくらでも虚偽を描ける、だから信用しないと言い張ります。それを変えることなど、どうやってできるでしょうか。」

慶紀「そうですね。私たちは、当たり前のように文字を使っているし、橘族であっても、平仮名をほとんどの人が読めるでしょう。」

てん「ええ。ですから、嘆願書を書いても信用されはしませんよ。」

杉三「よし、僕が行く!」

秀子「杉ちゃんが?」

杉三「僕も読み書きはできないし、一生かかってもできないだろうから。それなら、分かり合えるんじゃないのかなあ。」

とし子「でも、危なすぎるわ。」

杉三「いや、僕が嘆願してくるよ!それしかないだろ!文字があるのを信用されないのなら、書ける人が行ってどうするの。それだったら、いよいよ馬鹿の出番ですよ。みわさんに手伝ってもらえば移動時間も短くて済む。それに、てんではさらに危なすぎる。」

慶紀「でも、杉三さんとみわさんの二人では、いざとなったときに困りますからね。二人は、自身を守るすべがないので、、、。」

かぴばら「わ、わかりました。ぼ、僕が行きます!体力と根性なら自信があるので!」

とも子「かぴばらさんが?」

かぴばら「い、いえ、吃音と体力は違います!」

杉三「よし、目時帝国崩壊のために、また三度目の脱藩をやらかしてやるか!」






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