第二十二章

第二十二章

刑務所の中。庭で、剪定をしている蘭と懍。

蘭「全く、目時の会長も、こんな仕事をさせるなんてどうかしてるよ。本当に。なんで歩けない僕らが、刑務所の掃除なんかしなければならないんですか。ねえ教授。」

懍「まあ、仕事があるだけいいんじゃないですか。何もしないで座敷牢にいるよりはずっとましでしょう。」

蘭「そうですけど、囚人の話を聞くのも、嫌になってきますよ。」

懍「そうですね。ここでは、本来逮捕されるべきではない人たちが、平気で逮捕されてますからね。本当の目的は、障碍者排斥なんだと思いますが。」

蘭「逮捕されるねえ。ほんとですよね。障碍者をかくまっただけでも刑務所行きだもんな。生きてる心地もしないよね。」

懍「まあ、僕らがそう思えるのは幸せなことなんですよ。だって、刑務所に収監されている人たちは、洗脳教育を施されて、外へ出されるんですから。それが完了したということはすなわち、障碍者排斥主義者になって帰っていくということを意味しますからね。」

蘭「そうか。そういうことか。」

近くの建物で、囚人たちの更生教育が行われている。

懍「きっと、そういう事を言われているのだと思いますよ。あの人たち。」

蘭「聞きたくもないな。」

懍「まあ、それを聞かせることによって、僕らも、自分たちの方向へ転ばせようというのが目時の狙いですよね。きっと、聞きたくないから、他へ移してくれとか、いうのを待っているんじゃないのかなあ。」

蘭「ああ、そういう事ですか。でも教授、どうしてそうやって、相手が考えていることをみんな読めるんですか。」

懍「なんででしょうね。長く生きていることと、発展途上国に行って、何回も捕まったことがあるからじゃないかなあ。」

蘭「発展途上国?」

懍「はい。鉄のまだ普及していない民族を訪問した時には、野蛮人として捕まったことは何回もありましたからね。そういうときは、相手が何を求めているのかを的確に掴むことが、助かる道なんです。予め、その民族がどんな特徴があって、どんな傾向があって、どんな弱点があるのかを知っておくことも必要なんですけど、それは役に立たないことのほうが多いから。」

蘭「そうなんですか。じゃあ、石器時代とほぼ変わらない人もいるんですかね。この時代になっても。」

懍「いますいます。センチネル族とか訪問したことありますよ。あの時は、石を頭にぶつけられて、命からがら逃げかえってきました。鉄のない部族というのは、そういう危険な目に会うこともまれではありませんから。そうなれば、何をほしがるかで勝負するしかないじゃないですか。まあ、人間とはそういうもんですよ。それでほとんどやり取りできちゃうってわかったら、本当に、ただの歳より。」

蘭「そうですか、、、。なんか、その原理がわかっちゃったら、人生はつまらないな。」

懍「まあ、そうかもしれませんね。長生きをすると、夢がなくなりますからね。ある島を訪問した時に日本人は長生きしすぎて逆につまらなくないかと聞かれたことがあったけど、答えが出なくて、困ってしまったことがありましたよ。」

蘭「なるほど。つまらない。ですか。」

懍「ええ。逆になぜつまらないか聞いてみたところ、後継者に望みを託す喜びがないから、だそうです。」

蘭「なるほどねえ、、、。」

懍「まあ、脱線はやめましょう。あんまり話していると、僕らも投獄されることになりますよ。」

蘭「はい。」


同じころ。

北方にある、あおいの屋敷。

てんを除いて全員で食事している杉三たち。

玄関の戸を叩く音。

杉三「誰だよ!こんな時に。」

声「みわです!」

杉三「みわ?あ、みわさんか!」

声「ええ、その通りです。どうしてもこちらに来たかったので、、、。悪いことをしてしまったというのは十分わかっているのですけれども、どうしても謝りたくて、、、。」

杉三「てんも喜ぶさ!おい、開けてやって。」

明美「は、はい。わかりました。」

と、立ち上がって、玄関の戸を開ける。

立っていたのは、まさしくみわその人であった。

みわ「初めまして、みわと申します。」

明美「は、はい。」

みわ「杉三さんたちがこちらに来ていると聞いたから。」

明美「いますけど。」

杉三「もったいぶってないで、さっさと入んなよ。寒いよ。」

明美「どうぞ、お入りください。」

みわ「ありがとうございます。」

と、下駄を脱ぎ、編み笠を脱いで、中に入った。明美は、急いで戸を閉めた。

みわ「あの、皆さんはどちらに?」

明美「こちらです。」

部屋に連れていく明美。

明美「どうぞ。」

障子を開ける。

みわ「みわです!」

杉三「よかった。よく戻ってきた!」

みわ「ええ、ずっと、女子刑務所にいたんですけど、やっぱり、外の空気のほうがいいですね。」

杉三「そうだろう?それは誰でもそうだ。そうじゃなければおかしいよ。」

みわ「ええ、その通りですね。もう、むさくるしくて仕方なかったです。まあ、壁抜けの魔法でいつでも脱走できたけど、そうなったら、見つかったときにもっと厳しい刑罰が待っているだろうし、それだったら、模範囚になって仮釈放まで我慢したの。毎日毎日、人を馬鹿にするように教育させられて、頭がおかしくなりそうだったわ。もう、ご勘弁だった!」

慶紀「ああ、思想犯を収監するようなところでは、洗脳教育もありますよね。」

みわ「本当ですよね。でも、杉三さんたちが、無事でいてくれて本当に良かったです!」

淑子「で、村の様子はどうなのですか?皆さんどうなっているのでしょう?」

みわ「私も、すぐに刑務所に送られてしまって、出た後すぐにこっちへ来てしまったので、詳しいことは知りません。」

杉三「ビーバーさんはどうしてる?」

みわ「こなごな島に帰りましたよ。聞いた話ですが。」

杉三「そうか、、、。つまらないな。」

みわ「でも、」

杉三「どうしたの?」

みわ「一人足りませんね。」

杉三「足りないって誰が。」

みわ「一緒に、こっちへ来たのでは?杉三さんと。」

杉三「てんは、横になってるよ。」

みわ「でも、食事されているときくらい、ご一緒なのではないですか?」

杉三「それが、、、。」

みわ「それがって、まさか?」

杉三「そうなの。」

みわ「まあ、どうしてそこまで!私、ご挨拶だけでもさせてもらうわけにはいかないかしら?」

杉三「どうする?」

慶紀「久しぶりに来てくれたわけですから、お会いしたほうがいいのではないですか?」

淑子「そうですね。もしかしたら、ってこともあったかもしれないですしね。」

杉三「わかったよ。こっちへ来てくれるかな?」

と、みわを連れて部屋を出る。


隣の部屋。

杉三「てん、おそらく君にとって、一番大事な人物が、刑務所から仮釈放になって、帰ってきてくれた。もし天井守りの余裕があったらな、顔を見てやってくれ。きっと、すごい喜ぶぜ。」

そう言って、杉三はふすまをがらりと開けた。

隣の部屋では、げっそりとやせ細ったてんが、布団の上で寝ていた。まさしく、頭上を見つめた、天井守りだった。

てん「みわさん。」

みわも、その変わり果てた姿に呆然としたらしい。

てん「やっぱり戻ってきてくれたんですか。」

みわ「ごめんなさい、、、。私、あんなひどいことを言ってしまって、、、。」

てん「いいんですよ。」

そこまで言うのがやっとの様であった。

みわ「謝罪できて、私もよかったです。」

彼女も、あふれ出す感情を一生懸命こらえているようである。

杉三「みんなのところへ戻ろうか。」

みわ「ええ。」

杉三「たぶん、十分すぎるほど伝わっているさ!」

みわ「ええ、そう、信じます。」

杉三は静かにふすまを閉めた。


再び、先ほどの部屋。

杉三が障子を開けると、すでに秀子がお茶を用意していた。

みわ「あ、ありがとうございます。」

杉三「まあ、適当に座ってくれ。」

みわは、杉三のとなりに用意された座布団に、正座で座った。

座布団の前に、ぽろんと涙が落ちた。

杉三「ダメですよ。泣いちゃ。これから目時帝国崩壊のため、一役買ってもらうんだから。」

みわ「そうですけど、、、。五分だけ待ってくれますか。」

慶紀「杉三さん、ここはそうさせてあげましょう。長年使えていた人がああなれば、誰だって、泣きたくなってもしかたないです。」

杉三「そうかな?」

慶紀「いいんじゃないですか?」

杉三「男はなくなだろ?」

慶紀「彼女は女性ですよ。」

杉三「そうだね、、、。」

みわは、両手で顔を覆ってしくしくと泣いた。

杉三「もし、そうしたいんなら、声出して泣いてくれちゃっていいんだぜ!」

慶紀「そういう吐き捨てるような言い方はやめたほうがいいですよ。ここでは。」

杉三「うん、それはわかるけどさ、おんなじ気持ちなのに、目の前でそれを実行されてしまうと、なんか怒りたくなってくるんだよね!」

みわ「ごめんなさい。本当に、今は泣くときではありません。人前で涙なんか出すものではありませんもの。泣くのは、時間と場所が許すときにします。」

と、袖で涙を拭き取る。


六角形の千鶴子の部屋。

布団に寝ている水穂。

千鶴子が入ってくる。

千鶴子「お体いかがですか?」

水穂「変わりありません。でも、いつまでも寝ているのは、よくないですよね。」

千鶴子「顔色、よくないわよ。まだ、ふさぎ込んでいるの?」

水穂「そうですか?別に何もないですけど?」

千鶴子「またかっぱ巻き作らせましょうか。」

水穂「いらないですよ。」

千鶴子「無理しないでいいのよ。食べたかったら言ってね。やたらに何かあげて、それ以上悪くされたら困るでしょうし。それより、今年は、いつまでもさむいわね。いつまでも、花が咲かなくて。」

水穂「ふゆは寒いのが当たり前ですけどね。あ、ところで、会長。」

千鶴子「会長と呼ばなくていいわ。」

水穂「ちょっと聞いてもいいですか?」

千鶴子「何?」

と、枕元に正座で座る。

水穂「ずっと前、皆さんが政権を取る前ですが、まんどころ大瀧に、十人の若い人が飛び込むという、事件がありましたよね。ご存知ないでしょうか?」

千鶴子「知っているわ。それをなぜいまさら聞くの?」

水穂「いや、ちょっと気になって。」

千鶴子「何が気になるの?」

水穂「あれ、誰が仕組んだ事件だったのか、未だにわからなかったんですよね。」

千鶴子「まあ、答えは、もうあなたならわかってるんじゃないかしら。でも、直接手がけたのは、わたしじゃないし、私が命じたわけでもないのよ。だから安心して。」

水穂「千鶴子さんの手ではない?」

千鶴子「そうよ。あれは、自殺を志願した、若い人が勝手にしただけの事よ。私たち目時は、働かせて使えないとわかったら、焼却炉へという刑罰はよくやったんだけど、自ら滝へ飛び込む人を邪魔したりはしないわ。彼らは、自らを社会的に役に立たないのだとしっかり知っているのだから、あえてそれを邪魔する必要はないじゃない。それに私たちの手を汚すような行為は、やりたいなんて思わないわ。そうでしょう?」

水穂「では、あれはやっぱり、彼らが自らの意思で、瀧に飛び込んだということでしょうかね?」

千鶴子「そうとしか思えないけど?私にとっては。」

水穂「そうですか。じゃあ、これ以上犠牲者は出ないという事でしょうか。」

千鶴子「まあ、あれだけ自殺者が出たら、誰もいきたがらなくなるのではないかしらね。」

水穂「そうですね。あの辺りは、住んでいる人もいないのですか?」

千鶴子「またなんでそんなことを聞くの?」

水穂「いや、事件の風評被害もすごい様な気がするんです。少なくても、僕たち日本では、大事件のあった現場からは、遠ざかろうとするのが当たり前なので。」

千鶴子「ああ、でも、あの辺りから、住民が転居してきた事例は、聞いたことがないわ。それに、南方では、また別の集団もあるからね。」

水穂「三部族だけではなくて、ですか?」

千鶴子「ええ。もっと小さな部族はまだあるみたいだし。」

水穂「それは僕も知りませんでした。すみません。てっきり、橘と松野と、サン族との三部族であると思っていたので。」

千鶴子「私は、素人だからわからないけど、三部族だけではなく、小さな集団はまだまだあるらしいわよ。ここでは。」

水穂「そうなんですね。」

千鶴子「ええ。まだ、識別されない人もいるのよね。」

水穂「ああ、なんだか中国みたいですね。」

千鶴子「それが何になるの?今ではそのような話は、しても仕方ないと思うわよ。だって、集団と言っても、人数は、500人にも満たないんだから、それを細かく部族分けしていたら、もう、きりがないと聞いたことがあるわ。」

水穂「でも、そういう人たちは、それなりの文化があって、しきたりもあって。そういう人こそ、自分たちの習慣を大切にしたい人がおおいと聞いたことがあるから、何かしら求めてくると思いますけどね。」

千鶴子「そうかもしれないけど、少数派なんだから、それを保持させるよりも、多数派の優れた文明を取り入れさせた方が、彼らにはいいのではないかしら?そうでしょう?」

水穂「でも、いう事を聞かないというか、従わない人もいると思います。文明に従うことは、負けることであると解釈している民族は、結構います。」

千鶴子「そうかしら。そんなことはないと思うわ。便利な物であって、生活が楽になれると考えれば、誰でも飛びついてくれると思うわよ。」

水穂「そうですかね、、、。そうは、ならないと思いますけどね。」

と、少しせき込んでしまう。

千鶴子「まだ、体調良くならないのね。それなら、もうしばらく横になっていたほうが、きっと楽ね。」

水穂「そんなことありませんよ。たって歩いたほうがよっぽど楽ですよ。」

千鶴子「いいえ、完全に良くなるまではここにいて。」

水穂「別の目的で、ここにいさせているのでは?」

千鶴子「そんなことは絶対にないわ!私の権限でこうさせているのだし。」

水穂「でも、一日中天井ばかり見ているのは、疲れますよ。」

千鶴子「仕方ないじゃない。治るまで、体を休めることが何よりも大事なのよ。」

水穂「そうですか。」

千鶴子「私も、少し横になるわ。」

と、いきなり立ち上がって、布団をタンスから出してきたので、水穂はびっくりしたが、

千鶴子「汚い真似はしないわよ。あれが一番私は嫌いだもの。まあ、散茶まで行ったから抵抗はないけど、でも、それを愛情と考えるのは、私は嫌いだわ。」

水穂「そうですか。」

と、ため息をつく。


翌日。

会議場に千鶴子が入ってくると、深刻な顔をして、眞砂子が入ってきた。

千鶴子「どうしたの?」

眞砂子「会長、協力した部族から、文句が出てきました。」

千鶴子「何とか言って、追い出しなさい。どうせ、高度な技術も何もなく、食べ物と住む場所があればいいという部族でしょうが。」

眞砂子「そうですけど、会長。そういうわけにもいかないんですよ!」

千鶴子「どういうこと?」

眞砂子「こっちに来てください!」

千鶴子「なんなのよ!」

眞砂子「いいから。」

眞砂子は、千鶴子を玄関先まで連れて行った。

玄関先では、橘よりさらに小さい、四尺にも満たないとても小さな男性が一人でたっている。

しかし、身長こそそこまでしかないのにかかわらず、その顔は、とても凛々しく、何かほこりさえ持っているような感じの顔である。

男性「会長、お久しぶりですな。」

声から判断すると、三十代の後半と考えられた。千鶴子も、この人物が誰なのかすぐにわかった。

千鶴子「ようこそ、桜のむら様。」

彼は、首に桜の花を彫刻した、金の首輪をつけていた。その首輪の豪華さのわりに、着ているきものが粗末である。

男性「以前は、敬称などつけなかったのに?」

千鶴子「ではなんとお呼びすればいいのですか?」

男性「以前、こちらを訪れた時は、とても私たちの事を馬鹿にしたような口ぶりで、敬称どころか、脅かすような口調でもありましたねえ。」

千鶴子「人を馬鹿にしているの?」

男性「ちゃんと名前を呼んでくれませんかね。私は、確かに桜の首領ではありますが、桜という漢字は、あなたたちが勝手につけたものですから、必要ありません。流行りの平仮名でさくらと表記する必要もないのです。ですから、私の名は、むらでしかないのです。」

千鶴子「今度は何がほしいのよ!」

むら「話題をそらさないでくれませんかな。もちろん、ほしいものがなかったらこちらには来ませんよ。でも、私たちの要求をしっかり受け取ってくれたと、しぐさでしっかり示していただけませんと、納得できませんのでね。小さな部族ですが、私たちはこれでも、自分たちの住場を与えられて暮らしており、他の部族にとられるようなことはしたくありませんので。」

千鶴子「契約がほしいなら、紙に書くなりすればいいでしょうに。」

むら「紙は、すぐになくなって、どこかへ行ってしまいますよ。それなら、しぐさであらわしてくれたほうが、よほどいいでしょう。」

千鶴子「わかったわ。先ほどはごめんなさい。」

と、軽く敬礼する。

むら「そう。そうしてくれれば納得できます。」

千鶴子「じゃあ、これでお互いさまということで、あなたたちが何をほしいのか、説明してくれるかしら!」

むら「はい。こういうことです。私たちの村落では、イノシシが貴重な食品になっております。ですから、あなたたちが、イノシシを駆除してしまいますと、私たちの食品が得られなくなりますから、やめていただきたい!」

千鶴子「どういうことですか。イノシシのせいで、キュウリが食い荒らされたら困ります。それに、そこまでの低身長でどうしてイノシシに執着するのか、それはあまりにも不条理といいますか、おかしいですわよ。イノシシなんて、農作物を食べるだけでなく、噛みついたり牙でひっかけたり、危険な動物じゃありませんか。それがどうして、そこまで大切にするんですか。」

むら「会長、私たちの住んでいるまんどころ大瀧の付近は、水がある場所と言えば瀧の周辺のあたりのみで、そこには鯉もおりませんし、他の家畜を飼育できるほどの余裕はありません。ですから、人間が肉を食べるにはイノシシを食用にするしかないのですよ。イノシシ一頭捕まえれば、かなり長期間食べ物には困らないで済みます。それでどれほど助かるか、会長も食べ物を食べるのであれば、わかるのではないですか。ですから、イノシシが現れてくれないと、食べ物がなくて困るのです。」

千鶴子「まあ、イノシシが食べられないのなら、他の動物の肉を食べればいいじゃない。他に、簡単に飼える動物はたくさんいるじゃないの。現地へ指導官を送らせて、指導に当たらせましょうか?」

むら「いや、むりですね。私たちは、イノシシを中心にした生活をしてきましたので、すぐになれるということはまずありません。」

千鶴子「しかし、あなたたちの中ではいくら貴重な動物と言っても、私たちにとっては迷惑な存在にすぎないし、あなたたちは、私たちの十分の一も人口は存在しないのよ。そのような人たちに、大勢の私たちが合わせていく必要はないと思うわ。そんな少数派のせいで、多数派の私たちが苦労するのなら、少数派が多数派に感化していくべきなのは、当然のことだと思うわよ。それもわからないなら、出直してきたほうがいいわ。これからもイノシシの駆除は続けていきますからね。」

むら「やっぱり、女性ですな。」

千鶴子「今、なんといったの!」

むら「いや、今、やっぱり女性ですなと言いました。だって、本当に、物事の奥深くを見ていない。」

千鶴子「見ていないって、、、。」

むら「会長。口がうまければなんでも通るのかということは、まずありません。私どもは、必要なことを申し上げに来たわけですから、口のうまさにはぐらかされて、その通りに従うつもりはありません。」

千鶴子「帰りなさい!今日は放免してあげるけれども、こうして、私たちのところに直談判するのは、本当は許されないことだということも覚えておきなさい!」

むら「ほら、そうしてすぐ権力を主張するのも女性です。」

千鶴子「これ以上逆らうと、、、。」

と、言いかけて、千恵子は明美が鉄づくりに失敗したことを思い出した。鉄でなければ、こういう部族の村を力でしたがわせることは無理である。

千鶴子「もういいわ。」

むら「じゃあ、これからも、イノシシを獲る生活をしてもよろしいでしょうか?」

千鶴子「帰りなさい!これ以上私たちの邪魔はしないで!」

むら「そうじゃなくて、イノシシを獲っていいか、答えを伺っておりません。」

千鶴子は、答えを出す前に、怒りで戸を閉めてしまった。

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