第十四章

第十四章

一方、杉三たちが、脱藩したあとの橘族の村。

会議場。

蘭「杉ちゃんもとんでもないことをしでかしてくれた。これまで僕を残していくことはなかったんだけどなあ、、、。」

ビーバー「これぞ、てん殿が出した答えというべきかもしれませんね。」

懍「仕方ありませんね。それよりも、住民たちをどう統制していくかに重点をおいたほうがいいでしょう。すでに、この一週間で、二人の住民の行方が分からなくなっていますからね。」

水穂「そうですね。下手をしたら、またまんどころ大瀧から、遺体が出る可能性もありますよ。」

そういう水穂は、ひどく疲れた顔をして、少し咳をした。

蘭「お前は横になっていたらどうだ?」

水穂「いや、みわさんの頼みだ。しっかり勤めを果たすようにするよ。」

蘭「そうだよな。みわさん、杉ちゃんたちがどっかに行ってしまってから、ふさぎ込むようになってしまったからな。」

女中「あの、会議中に申し訳ないのですが、」

ビーバー「なんでしょうか。」

女中「はい、みわ様の見舞いに来たという方々が、こちらに見えているのですが。」

蘭「みわさんの見舞い?」

水穂「誰なんでしょうね。」

女中「はい、目時会という任意団体の代表だそうです。」

蘭「め、めとき?なんだいそれ。」

ビーバー「ああ、目時ですか。確か、先代のぬるはち様がご存命であったころに設置された、任意団体の事ですね。」

懍「それは、どのような団体なのでしょうか?」

ビーバー「ええ、単に哲学を広めるための、任意団体と聞いていますよ。」

蘭「ああ、なるほどね、いわゆるサークルか。」

水穂「でも、安全性はあるのでしょうか。」

蘭「なんで?」

水穂「まあ、一応聞いてみただけだ。日本でもサークルと言って、無実の人をカモにして金銭を盗るとか、洗脳をして、犯罪をさせる団体も過去にあっただろ。」

蘭「でも、ここでは、日本ほど治安は悪くないと思うけどね。日本よりもずっとのんびりしているしさ。」

懍「蘭さん、平和ボケしてはなりません。ここでも危険なものは存在するのかもしれませんよ。」

ビーバー「で、目時の代表と言いますのは、何人いらしていますかな?」

女中「ええ、女性が二人と、男性が一人おります。」

ビーバー「それでは、お通ししてください。」

女中「はい、わかりました!しばらくお待ちください!」

一旦、玄関先へ戻っていく。

数分後。

女中「お連れ致しました。」

と、彼女の後を二人の女性と一人の男性がやってくる。三人は、ビーバーたちの前にやってくると、丁寧に座礼する。

蘭「へえ、今風の容姿だな。」

確かに、蘭たちにとってはそう見えるかもしれない。てんたちが奨励している容姿とは明らかに違っていた。確かに三人とも着ているものは着物であるが、いわゆる巻き毛を長く伸ばす、一般の住民たちと違い、女性であっても髪は短く、肩につく程度であった。それはどこか着物には合致せず、異様であった。女性の一人は背が六尺近くある松野であり、男性は背が五尺程度しかないので橘であり、もう一人の女性は、その中間の身長であったため、サン族であるとはわかったが、女性たち二人とも、それぞれの民族独自の特徴的な髪形や着物の柄などではないため、身長が同じであれば、民族の識別はできなかった。

松野の女性「初めまして。私たちは、目時会の者です。私は代表の千鶴子と申します。千の鶴に子と書いて千鶴子となります。そして、こちらは、正大師の明美です。明るいに美しいと書きまして明美です。」

男性が深々と礼をした。

懍「正大師?」

千鶴子「ええ。私たちは、序列をはっきりとすべくために、階級を設けております。」

ビーバー「しかも、橘でありながら、なぜ、漢字名を持っているのでしょう?」

千鶴子「はい、民族の平等性を示すためでございます。代表の私が、改名させております。彼女は、サンから来てくれた、正悟師の眞砂子です。真実の砂の子と書いて眞砂子です。」

もう一人の女性も最敬礼した。

懍「しかし、階級を設けた理由は何でしょう?」

千鶴子「ええ。二人とも、当初は一般会員だったのですが、ある程度更生していただけますと、このように階級を与えるようにしております。そのほうが、会員たちも自分に自信がつくのでうれしいと喜んでおります。」

懍「そうですか。では、各階級によって、与えられる役職は、違うわけですね。」

水穂「なんだか、軍隊みたいですね。」

千鶴子「いいえ。私たちは、こうして称号を与えて、役割を与えることによって、若者を立ち直らせることが目的ですから、軍隊とは同じようにしてほしくはありません。今の若者に一番足りないことは、自分に役割を持たせることだと、長年活動の中で、熟知しておりますので。」

蘭「で、用は何でしょう。ここで階級の長話をされても困ります。」

千鶴子「ああ、失礼いたしました。皆さんお忙しいのにすみません。正悟師の、眞砂子が、気分のふさぎ込みに非常に良く効く薬を開発いたしましたので、持参いたしました。」

眞砂子「はい、こちらでございます。」

と、巾着袋を差し出す。

蘭「なんですかこれは。」

眞砂子「ええ、麻黄から抽出した粉末です。これを水に溶かして熱し、その蒸気を吸うと、非常に気分が高揚し、意欲増強作用をもたらすことが判明しました。会員たちの間でも非常に好評でしたので、これはぜひ、同じ女性として、みわ様にも、使っていただきたいと思い、持ってまいりました。」

水穂「同じ女性として?」

眞砂子「ええ、私たちは、女性を救済することも目的としていますから、みわ様が主君に裏切られて、伏せていらっしゃると聞き、黙っていられずにこちらへはせ参じた次第なのです。」

懍「しかし、なぜ、麻黄からこのような薬物を作る必要が出たのです?」

眞砂子「私たち目時会は、もともと障害を持つ子供を持つ親御さんを救済するために結成した会ですから、親御さんの言いつけに子供を従わせるためには、こういう薬物を作ることもいとわなかったのです。」

懍「なるほど、どのような子供さんでしょうか?」

千鶴子「ええ、忘れ物が多いとか、いつまでも動き回って落ち着かないとか、そのせいで感情の制御ができず、いきなり怒り出して、他人に危害を出すとか、そのような道徳心のない子供です。」

懍「ああなるほどね。注意散漫多動症ですか。僕らの世界では、坂本龍馬とか、レオナルド・ダビンチとか、トーマス・エジソンのように、有名になったものもいました。」

千鶴子「まあ、お宅の世界では、有名人にさせるほど、上手な教育が可能なんて羨ましい限りですわ。私たちの間では、他の者に迷惑をかけるので、非常に困った存在になっていますのに。そして、親御さんたちが、うまくそれに対応できなくなると、社会に対して一方的に恨み、犯罪を起こす可能性だってあるんです。そうする前に、何とかしておくのが賢明ではありませんか。それを可能にしたのが、正悟師が発明したこの物質だったのです。」

水穂「しかし、矛盾してますね。ふさぎ込んでいるみわさんに持ってきたのに、その正反対の落ち着きのない子供にも効果があるとは。」

眞砂子「ええ、この物質は、相反する二つの状態に効能を発揮することが証明されています。」

懍「ああ、覚醒剤ですね。それ。あいにくですが、危険すぎるので受け取ることはできません。」

ビーバー「どのような危険が?」

懍「おそらく、麻黄から抽出したエフェドリンを、他の何かと合成させて完成したと思うのですが、僕らの間では、アンフェタミンと呼ばれております。確かに、治療薬として、注意散漫多動症に用いる国はございますし、中枢刺激薬ですから、落ち込んだときに興奮する作用もありますよ。しかしですね、長期にわたって使い続けますと、すぐに耐性を獲得し、依存症というものが待っている。そうなったら、幻覚が見えるとか、妄想なども引き起こし、さらに他人に危害を出すことになるでしょう。それでは困りますから、皆さんのご好意は、生憎ですが、受け取れませんね。」

水穂「確かに、覚醒剤をめぐっての犯罪は、僕らの世界でもよくありますよね。それで亡くなった人も数多くいます。そのようなものを国家の重要な機軸を持つものに投与させることはできないでしょう。」

ビーバー「ここは、水穂さんや懍さんの指示に従ったほうがいいですね。みわさんは、これからも、国政に関わりますから、彼女を傷つけてしまうのは止めたほうがいい。お三方には、今日は帰っていただきましょうか。」

千鶴子「まあ、驚いた。皆さんこれから、つらい日々が待っているかもしれないのに、よく対策を取ろうとか、考えもしないで平気で過ごしていられますね。」

ビーバー「つらいなんて、考えている暇はありませんよ。」

眞砂子「でも、一人でも、そういう者が出てしまうと、一気に崩壊していきますよ。そのうち、本人が、部屋に閉じこもり、何もしないで指示ばかり出すようになり、それが次第に常識から外れて、皆さんも手が付けられなくなりますから。下手をしたら、殴るけるの暴力に発展していくかもしれない。私たち目時会は、そうなってしまった者を更生させる事業もしていますけど、一人を更生させるには、少なくともいままで生きてきた人生の倍はかかると思ってください。その間に、どれだけの時間が失われると思いますか?そうなる前に、何とかしようと思ってくださらねば。」

水穂「そうですか。でも、僕たちは、皆さんのお世話になるほどではないと思います。」

千鶴子「そんなことないでしょう。現実にこの村でも、まんどころ大瀧で十人の若者が集団自決していると聞きました。そのような危機的な事態なのに、てん様が、北方へ静養にいかれて、皆さんが苦労しているとも聞きました。なぜ、もっと早く私たちに援助を申請してこなかったのか、てん様の頑固さにも、あきれていたほどです。」

眞砂子「どうでしょう、ビーバー様、私たちも、これから、この村に講師を派遣し、問題を抱えるものを更生するすべを伝授させるとか、援助をしようと思っているのですが、いかがですか?」

懍「いいえ、結構です。そのような危険物を制作する組織に、住民をゆだねるわけにはいきません。」

千鶴子「危険物って、私たちの臨床例では、先ほどおっしゃったような妄想やら幻覚というおかしな状態に陥った子供は一人もおりませんよ。それは、正大師である明美が、調査しております。そうですよね。」

それまで黙りこくっていた明美の肩を叩いた。

明美「ええ、確かにそうですね。」

懍「本当にそうですか?」

明美「まあ、確かに、親御さんたちの相談事を受け付ける役目は担っていますけど。」

水穂「きっと、杉ちゃんであれば、どうも頼りないなとか、そういうでしょうね。何か、調査結果を記した書物のようなものはないでしょうか。口だけではいくらでもとりつくろえるから。」

明美「ええ、ございますよ。私が、これまでの更生事例をまとめたものです。」

そう言って、一冊の和装本のような本をビーバーの前に手渡す。

懍「ちょっと、拝見させていただきましょうか。」

それを受け取り、ぱらぱらとページをめくる。

水穂「ほとんど平仮名で書いてあるんですね。」

明美「ええ、橘の皆さんには、まだ、文字というものはさほど普及していないのは知っていますので。」

ビーバー「わかりました。それではその書物、しばらく拝借させていただきましょうか。そして、皆さんをここで登用するかどうか、決定いたしましょう。」

千鶴子「わかりました。私たちもそれを楽しみに待っています。とりあえず、今日は本部へ戻りましょう。」

と、二人の部下に、帰るように促す。

千鶴子「これから私たち目時会と、皆さんの共同統治が実現できますことを祈っております。では、ごめんあそばせ。失礼いたします。」

三人は最敬礼して立ち上がり、玄関へむかって歩いて行った。

蘭「な、なんだか変な感じの集団だったなあ。」

懍「しかし、僕はそれよりも、この世界で覚醒剤を合成できる集団が発足したことのほうが、問題だと思います。以前、僕が主宰した製鉄所にも、覚醒剤乱用者が現れたことがありましたが、非常に重大な中毒症状を示して、てんやてんやの大騒ぎになっていましたからね。」

水穂「そうですね。覚醒剤は、人の頭をおかしくするだけで、何もいいことはありません。彼女たちが持ってきたこの薬物、捨ててしまったほうがいいのでは?」

ビーバー「そうですね。そうしましょう。」

懍「そして、彼女たちが政権に参加するという申し出は、きっぱりと断ったほうがいいでしょうね。彼女たちが参加したら、この村に覚醒剤が蔓延する可能性もないとは言えないですからね。」

ビーバー「では、この書物はどうします?」

蘭「読んでも仕方ないと思います。そういうところって、良いことしか書かないで、裏ではひどいことをしているほうが大半ですから。」

懍「はい、大方そんなもんですよ。日本でも不動塾とか、風の子学園のように、実際に事件を起こした更生施設もあります。そのような施設に預けても、そこで行われていた重圧に耐えられなくて、かえって悪化した事例だってありますし。きっと、目時会という組織もそういうところなんじゃないですか。もしかしたら、新興宗教に近いところかもしれませんね。正大師とか、正悟師とか、そういう階級を設けているところなど、その路線が濃いですよ。」

ビーバー「わかりました。では、捨ててしまいましょう。」

水穂「またやってくると思いますが、しっかりと追い返す技術も必要ですね。」

蘭「あーあ、遂に、この国にもそういう悪質集団が出たのかあ。杉ちゃんはどうしているだろう。そういう集団に引っかかったりしなければいいが、、、。あ、また雪が降ってきましたよ。」

ビーバー「そうですね。今年はよく降りますよ。北方では、もっとすごい豪雪地帯ですし、安全に過ごせるといいのですが。」


あおいの屋敷。

廊下で、笛を吹いている慶紀。

杉三「へくしょい!」

かぴばら「どうしたの杉ちゃん。」

杉三「おかしいねえ。馬鹿は風邪ひかないっていう定義があるんだけどなあ、、、。それにしても、この雪が止んでくれない限り、先へ進めないので、イライラするんだけど!」

慶紀「まあ、しばらくご辛抱ですよ。確かにあおい様の言った通り、この雪の中を移動するのは、危険すぎますし。」

と言って、再び笛を吹く。

あおいは、大雪の中を移動するのは危険なので、ニ、三日屋敷への滞在を許可したのである。

一方、あおいの居室では、本人と、てんが話し込んでいた。

あおい「個性的な音色ですな。」

てん「うるさいようなら、すぐに辞めさせましょうか?」

あおい「いいえ、そのようなことを言ってはおりません。」

てん「もし、差しさわりなかったら、目時会の事をもう少し詳しくお聞かせ願えないでしょうか?」

あおい「いいですよ。何をお話すればいいのでしょう?」

てん「ええ。どのような活動をしてきたのかについてです。」

あおい「はい、発足した当初は、障害のある子供の親を集めて互いの悩みを聞きあったり、講師を派遣して、そのような子供への接し方を伝授する程度でした。」

てん「ええ、それは聞きました。今度はその組織内の構造を話してほしいのです。代表者の経歴などがわかれば、」

あおい「ああ、会長は千鶴子という松野の女性ですよ。それだけははっきりしています。その下に、いわば副代表と言える正大師がおり、次いで、全会員のまとめ役となる正悟師が存在していますが、二人の立場の優越は、どちらなのかはあいまいなようです。いずれにしても、幹部にあたるものは、ほとんどが女性ということになっていますが、一人だけ男性の幹部もいるようです。すべての会員は民族の違いを超越するため、漢字名が与えられるようになっております。ただ、男性が幹部に上がるということは、きわめてまれです。会員の中でも、正会員と準会員がおり、親御さんたちは正会員となり、若い人は準会員としてみなされますが、女性であれば、正会員への昇格や、幹部への昇格は比較的容易に可能なようです。そして、ここからが、不可解な部分なのですが。」

てん「なんでしょうか。」

あおい「ええ、私も、現場を何回か見かけましたが、若い会員たちは、その上の会員たちの世話をすることが義務付けられるのです。具体的には、料理をしたり、掃除をしたり、会員の着物を縫うなどです。この程度で有れば、まだ合法的かもしれませんが、少しでも仕事を怠れば、体罰がみとめられており、木刀や竹刀などで殴るなど直接的なことだけでなく、食事を与えない、病んでも療養がみとめられないなどの罰則もある様です。会員の識別は非常に簡単で、高位の会員であれば布製の着物の着用がみとめられますが、そうでない者はすべて紙の着物を身に着けることで区別できます。他にも、髪を肩より先まで伸ばしてはいけない、前髪で眉を隠してはいけない、巻布や羽織などの防寒着の着用を認めないなどの規制も課せられます。」

てん「では、従者となり、労働することで、報酬のようなものは得られるのでしょうか?」

あおい「ありません。目時の主張では、親は子供に無報酬でそういうことをしているということへのありがたみをわからせるため、そのようなものは一切与えないようにと規定しています。」

てん「しかし、仮に病んでしまって、労働ができないという事態が発生したら、、、。」

あおい「ええ、そうなれば直ちに殺害され、遺体はごみ焼き場に連れていかれますね。目時では、上の会員が下の会員を殺すことは公式に認められていますので。」

てん「殺害を認めている?」

あおい「そうですよ。それこそ、親のありがたみを教える最高の手段だと目時の会長が言っていたことがありました。最近では、目時に入会する最初の面接で、聞かされた目時の方針に従おうとしない者や、あまりにも親に対してひどい暴言を吐いた者は、預かると言っておきながらすぐに殺害されてしまうこともある様です。つまり、死の道ですね。」

てん「それでは、預けた会員の家族は、自分の愛した息子や娘が殺害された場合、ひどく悲しんだりするのではないですか?」

あおい「いえ、そのような事例は全くと言っていいほどないですね。私が、目撃したところでは、特に、若い会員の兄弟に多いのですが、死んでくれてありがとう、殺してくれてありがとうと丁重に礼を言うことがほとんどです。みな、口をそろえて言います。これでやっと、自分たちの時間が取り戻せたと。」

てん「せめて遺体だけは帰ってくるのでしょうか?」

あおい「先ほどもお伝えしましたが、遺体はごみ焼き場にて焼却され、灰にされます。それだって、ご家族のもとに帰ることもありません。会員のご家族で、遺体を引き取りたい、葬儀をしたいと言ったご家族を、私は目撃したことはありませんね。私の妹が灰になったときは、別でしたけど。」

てん「恐ろしい!そのような組織が、なぜ、君臨することができたのか、わたくしは不思議でならないほどです。妹様が、そうされてしまったとき、あなたがお怒りになるほうが正常ですよ。」

あおい「そうかもしれませんが、長年暴力を振るわれて暮らしてきた住民には、そのような感情を持つこともできなくなっているのでしょう。彼らにとって、子供を灰としたというのは、ある意味では勝利したのと同じことです。」

てん「そうですか、、、。しかし、容易に命まで奪うことを公式に認めているようでは、わたくしはやはり存続させておくわけにはいきません。例え、ひどい人間と罵られても、わたくしたちは、生きていかねばならないでしょう。わたくしの父が、この世はすべて安泰に生きるために作られていて、もし、欠陥を与えられてしまったのなら、それは、安泰に生きるためにそうなったのだと言っていたことがありました。もし、苦しみがあれば、それは、安泰に生きる道を見つけるための、模索の過程であり、無駄になることはないと。しかし、今のお話では、その可能性まで目時は消し去ろうとしていることになりますね。」

あおい「そうですね。そのような道を見つけるまで、待っていられない住民が増えたのでしょうかね。」

てん「最後にもう一つだけ教えてください。目時の中で、誰か、会長の制度に、不満を持つものはおりませんでしょうか。」

あおい「そうですね、、、。どうだろう、、、。もしかしたらいるのかもしれませんが、そうなる前に殺害してしまうのが、目時ですからな。」

てん「そうですよね。その路線は諦めます。」

あおい「いずれにしても、この地域の住民は、目時のやり方に疑問を持ったり、反抗したりする者は一人もおりません。いたら、すでに灰になっているかと思います。あ、、、。」

てん「どうなさったのです?」

あおい「い、いえ、何でもございません。ただ、彼女に、瓶をもってきていただくように言っていただきたい、、、。」

てん「ああ、わかりました。わたくしも、長居をしてしまい、申し訳ないです。ただ、わたくしの手で、目時は必ず壊滅させるという気持ちだけはありますので。」

てんは、静かにふすまを開けて、軽く敬礼した。














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