第十二章
第十二章
山道。
一台の荷車が先頭を切り、後に、慶紀をはじめとして、素顔同盟の会員が続いて、歩いていく。
杉三「全く、すごい発想だよ。もう一回脱藩して、今度はまんどころ大瀧まで行こうなんて。それ、どこから思いついたんだ?」
てん「わたくしが、先ほどの抗議を聞いて、思いつきました。」
杉三「もう少し、体を休めたほうがよくないか?」
てん「いいえ、ぐずぐずしている暇はないと思いましたので。」
秀子「大丈夫ですよ。そのために、花梨のはちみつ漬けを、たくさん背負っていますから。松野は、力持ちです!」
つづらを背負っている彼女は、まるで薬屋の様だった。
杉三「すまんね。頼むよ。」
秀子「ええ、任せてください。」
杉三「ひろし君、歩くのつらくないか?」
ひろし「いえ、大丈夫です。目が見えなくても、小鳥が泣いているのも聞けますし、風が吹くのもわかりますから、位置さえわかれば歩き続けられます。」
ひろしは、とも子に手を握ってもらっていた。
杉三「うれしいこと言ってくれるじゃん。」
慶紀「それにしても、本来脱藩というものは、こんなに堂々と歩けるものではないのですから、まるで、脱藩していることを、見せびらかしているような感じですね。」
てん「そうかもしれませんね。まあ、主君を裏切ってどこかに出ていくわけではなく、わたくしがお願いしたことですので、脱藩には当たらないと思います。」
杉三「でも、脱藩してどこに行くんだ、行き先もないじゃないか。僕たち。」
てん「ええ、少し遠回りして、まんどころ大瀧へ。その途中にも、人が住んでいる地域はたくさんありますので、、、。」
杉三「そこへ立ち寄るの?」
てん「ええ。音楽を武器にすれば、慰問できるのではないかなと思うのです。」
杉三「だから、どこへ行くんだよ。具体的にさ。」
てん「このあたりは、辺境ですから、かなり大掛かりな更生施設が多くあるんですよ。そこへ慰問させてもらう形で侵入し、そこで行われている不正を是正していきましょう。」
杉三「でも、そういうところってあるのかな。」
慶紀「あると思いますよ。こういうご時世ですし、それに、できない人はすぐに排除という種族もありますから。」
てん「ええ。その証拠が、まんどころ大瀧への集団自決でしょう。」
杉三「だけどさ、、、。」
てん「どうしたんです?」
杉三「僕は、てんのほうが心配なんだ。」
てん「わたくしは、ご覧の通り、達者でおります。だから、心配する必要はありません。」
杉三「そうなんだけどね、、、。」
てん「もはや、誰もこのことを是正しない時代になってしまった以上、わたくしが是正をしなければならないでしょう。自分の者だけがよくて、他人のものはどうなろうかと全くかまわないという世情は、決してあってはならないことです。わたくしの父が、そのような世情が広まってしまったら、文字通り、松の国は壊滅すると言っていたことがありました。」
杉三「わかったよ、、、。」
かぴばら「す、杉ちゃん、これができるのは、きっと、他の人にはできないのではないかなと、思いますよ。」
杉三「そうだね。確かにそうだ。ビーバーさんたちには絶対できないや。」
てんを見て、ため息をつく杉三。
とも子「でも、不思議です。あたしたちは、いままで社会から出て行ってくれと言われるのが当たり前だったのに、それが世の中の不正を直すなんて。」
てん「いいですか、不要品とか、必要ないという言葉は、決して使用してはなりません。」
とし子「わかりました。あたし、一生の誓いとして肝に銘じておきますから!」
ひろし「やっぱり、こういう方は、強いなあ、、、。強いというか、当たり前なんだけどなあ。」
かぴばら「ま、また雪が降ってきた、、、。」
杉三「本当だ。」
かぴばら「む、向こうに茶店があるから、そこで休ませてもらいましょうか。」
杉三「よし、そうしよう。このまま寒い中歩いていったら、本当に心配なので、、、。」
全員、茶店まで近づいていく。
店の中。
お茶を飲みほす杉三。
杉三「あったかいな。寒いときにお茶は救済だ。おい、もう一杯くれ。」
女中「は、はい。ちょ、ちょっと待ってくださいね。」
かぴばら「よ、よく飲むんですね。も、もうお代わりですか。よ、四杯目ですよ。」
杉三「いいんだろ、客なんだから、いくら飲んだって。それに、注文が多ければ多いほど、もうかるんだからそれでいいじゃん。」
慶紀「そうですけど、供給の限界も考えてください。」
杉三「限界?なんだ、客の注文になんでも出すのが店ってもんじゃないの?」
慶紀「正直に言わせてあげたらどうですか。」
杉三「は?」
女中「申し訳ありません。もう、お茶の葉がなくなってしまって、、、。」
杉三「そんな、準備をしておくのが店の役割じゃないの?」
店の店主と思われる中年の男性がやってきて、
店主「申し訳ありませんが、こんなにたくさんのお客様が、一度に来られたのは初めてで、私たちもどうしたらいいのか、戸惑ってしまいまして、用意していたお茶を全部出してしまい、全く残ってないのです。」
杉三「なんだ、そういう事か。もともと繁盛してなかったのね。」
店主「こんな辺境ですから、お客様も一日に一人か二人現れればまだよいほうだったのです。それが、一度にこんなにたくさんですと、対応のしようがありませんで、、、。」
てん「一つ聞きますが、わたくしの称号のせいではありませんね。」
店主「と、とんでもございません!ただ、お茶を用意していなかっただけのことです!それだけのことであって、不正を働いたとか、そのようなことは一切していませんから!本当に、ここまで大量にお客様が見えたのは初めてで、」
てん「いいえ、わたくしは、称号を用いてほかの皆さんとは違う特別な扱いをしろと命じているのではございません。それだけははっきりしています。きっと、わたくしたちが、この地域に来訪することなど、想定外だったと思いますから、対応をしろと命じるほうが不当でしょう。それよりも、この茶店が、何かわけがあってこの場所に立っていることのほうが問題です。理由をお聞かせ願えますね。まず第一に、一日に一人か二人しか来店しないのであれば、彼の言った通り、繁盛は致しません。それなのに、店を続けているのですから、何か事情があるのでしょう。」
店主「ああ、すみません、すみません!た、確かに、このような場所で、茶店をするというのは、確かに、皆さんにとっては、おかしなことかもしれないですよね!と、取り潰しに見えても不思議はございませんよね!」
杉三「だから、僕らは取り潰しに来たんじゃないんだよ。なんでみんな取り潰しに来たと勘違いするんだろ。」
女中「お父ちゃん、いや、お父様、この際ですから、言ってしまうほうがいいですよ。どっちにしろ、この店が、もうだめなのは、この方たちがやってきた時点でもうわかるじゃないですか。」
杉三「だからさあ、そういうために来てるんじゃないんだって、どうしてわかってくれないんだろうか。」
慶紀「いいえ、権力者というものは、そうなります。いつの時代も同じですよ。」
杉三「だから僕、政治家というものは好きじゃないんだ。でも、大事なことはね、それを善と取るか悪と取るかは、本人次第なんだ。」
店主「お話いたしましょう。」
杉三「変に、飾ったり、見栄を張ったりしなくていいからな!僕らは、悪人でもないんだからな。」
店主「私たちは、はじめのころは、村で茶店をやっておりました。今でこそ、娘と二人の茶店ですが、当時は、妻もいて、もう一人の娘もいました。」
杉三「なるほど、移転したというわけか。」
店主「ええ。そのころは、もっとたくさんのお客様がいて、店も結構にぎわっておりましたので、かなりの売り上げもありましたから、二人の娘には学校へ行ってもらうことができました。私たちには絶対できない世界だと思っていましたので、もう、天にも昇る気持ちで通わせておりました。しかし、上の子のほうが、私たちも何があったのか、わからなかったのですが、ある日、突然学校に行かなくなってしまって、それから、私たちには、地獄の日々が待っていました。」
杉三「あーあ、やっぱり、、、。学校は百害あって一利なしか!」
かぴばら「な、何か対策というものは、取らなかったのですか?」
店主「何も知識がなかったので、とりあえず、お役人様に相談に行きましたが、何も対策はなく、ただ、閉じ込めておくだけしかないといわれて、その通りにするしかありませんでした。でも、、、。」
杉三「でも、なんだ!」
店主「問題はここからでした。何しろ、出してくれ出してくれと一日中叫んで大暴れして、、、。ものは壊すし、妻や下の子には殴りかかる。もう、殺されるのではないかと思いました。ご近所にも迷惑が掛かって、いろいろ苦情が来たものですから、この場所に店を移転せざるを得なかったというわけです。妻は、私の責任だと言って、出ていきました。」
杉三「女は、そうやって、逃げられるんだよね。女は弱いという概念もあり、いろいろ援助もあるが、男にはそれがないからね。」
店主「はい。三人で店をやっていましたが、他のお客さんにも、この社会が、いけないんだと言って、殴りかかったりして、もうどうしようもない状態だったので、、、。」
かぴばら「で、その娘さんはどうしたのです?」
店主「は、はい、、、。そ、それがですね、、、。」
杉三「ま、まさかと思うけど、殺害したわけでは、、、。」
一瞬、全員の顔が凍り付く。
店主「すみません!すみません!本当はやってはいけないということはわかっていたのですが、あの状態では、そうするしかなかったのです!斬首でもなんでもしてください!」
女中「いいえ。違います!父は、姉を殺害したわけではありません。あたしは、法的にはそうなったかもしれないけど、この店を守るためであれば、仕方なかったと思いますから、それをむやみに斬首してしまうのは、まずいと思い、父に、出頭を止めさせました!そのままこの場所で茶店をやって、現在に至るわけですが、私たちが生きるためにこの店を開くことが、どうして偉い方々にとっては、悪人とされてしまうのか、理由を聞かせていただきたいものです!私たちも、生きようと思っていいはずです。もし、父が姉をやったことが、悪事となるのなら、私たちは、生きようとしてはならないと言ってることと、おなじことになります!なぜ、発狂した人間が一人の人間として守られるのなら、その家族は人間として生活してはいけないということになりましょう?」
杉三「うん。確かにそうだ。僕も馬鹿だから、そういう事はわかる。」
秀子「あたしも、親にそういう文句を言われたことがあるわ。」
とも子「そうね。わたしも、お前が出て行ってくれてうちは本当に楽になったと、家族から葉書をもらったことがあります。」
杉三「どっちもどっちなんだよね。楽になりたいって、思うよね。それだけなのにねえ。」
慶紀「でも、おかしいですね。」
杉三「は、何がおかしいんだ?」
慶紀「もし、死亡したとしたら、遺体をどうしたのでしょう?」
杉三「そうか。火葬するとか、いろいろあるよなあ。」
かぴばら「そ、そうですね、死亡届を出すとか、葬儀を申し込むとか、、、。も、もし死亡したら、そうしなくちゃいけないという規律になっていますから。」
ひろし「それに、不法なやり方で死亡したのではないかと疑われるのを避けるため、このような場合は葬儀をきちんとして、誤魔化すことのほうが多いのではないかと思いますけど。」
杉三「それさえもしないで、川に流したとかないだろうな!」
かぴばら「ど、どんな事情がありましても、遺体を川に捨てるといいますのは、やっぱり、人権侵害ですよ。」
店主「はい、そのようなことはしておりません。」
慶紀「でも、葬儀をしたのなら、仏壇がないですね。それもまた、おかしいとおもいませんか?」
かぴばら「じゃ、じゃあ、やっぱり、川に捨てたですか!し、死体遺棄で、捕縛になりますよ!」
女中「違います!」
杉三「違うってなんだ!」
店主「言ってはいけないと言われたじゃないか!偉い方には、絶対にって!」
杉三「もう一度いってみろ!」
女中「はい、あたしたちは、生活していくために、姉をある施設に預けただけで、殺してはおりません!」
杉三「精神科ってここら辺にあった?」
てん「いえ、わたくしはこの地域に、命じたことはありません。そういう施設をたてるなら、届け出が必要です。」
杉三「ここら辺は、違法施設の温床なんだねえ。」
てん「そうみたいですね。届け出を受けたことはありませんでしたから。では、質問を変えましょう。そこは、誰が企画していて、どこに立地しているのですか?」
店主「はい、この茶店から一里ほどいきますと、」
女中「お伝えしなければならないのなら、あたしは今ここで、死んでも構いません!」
女中はいつのまにか手に庖丁を持っている。
女中「あたしたちは、そこの人たちが来てくれて、やっと平和な、いつも通りの生活が取り戻せたのです。それを継続したいと願うことが、なぜいけないのですか?また、人権侵害といって、姉をこの店に連れ戻してくるのなら、あたしはしんだほうがましです!他にも、そう思っていらっしゃる家族は、たくさんいますから、あそこをお取り潰しするのなら、あたしたちは、今ここで、集団自決します!てん様は、他人に弊害を加える狂人の方が大切で、私たちのような正常な人間の苦しみはなんにもわかってくれないのなら、私たちは、そのような方々に従う気持ちはありません!」
慶紀「生憎ですが、青銅の包丁は、刃物として役にはたちませんね。自決をするなら、鉄の刃物でないと、まずできませんね。」
店主「鉄の刃物は持っていると、所持禁止物として、捕縛されるんだぞ!お前まで捕縛されたらどうするんだ!」
女中「あたしは、正常に、自分の人生をいきたいだけです!それまで奪われなきゃいけないなんて、あたしは、どうして生まれてこなければならなかったんですか!言っておきますが、おんなじ悩みを持っているのは、あたしたちだけでは、ありませんから!」
店主「お前、言って良いことと悪いことがあるぞ!生まれてきたことまで否定してはならない!」
女中「いいえ、社会の被害者は、精神障害者と言いますが、それは大間違いで、ほんとうに、苦しんでいるのはだれなのか、考え直してくださいませ!」
店主「この方々に向けて、そんなことを言ったらな!誰の責任になるかよく考えろ!」
女「うるさあああい!」
と、包丁を振り上げて、てんにとびかかるが、かぴばらが負けじと飛びついて女を押さえつけ、持っていた刃物を叩き落すことに成功する。
父親「何をやってるんだお前!そんなことをして、何になるんだ!」
女「こうしないと、わからないわよ!あたしたちの気持ちなんて!」
杉三「殉教者じゃないんだから、むやみに犯罪に走るもんじゃないよ!」
さらに強く押さえつけるかぴばら。
てんが、何か言おうと口を動かすが、それより先に激しくせき込んで、あっという間に赤い液体が口から、あふれ出した。
杉三「本当にしっかりしてくれよ!何回やったら気が済むの!」
と、その背を叩くが、
てん「いえ、いわせてあげてください。」
この一言に、全員黙りこくってしまう。音と言えば、てんが、咳をする音だけがしばらく流れた。
てん「もとはと言えば、わたくしが、お二人を窮地に陥れたようなものですから。」
と、後ろに倒れそうになるが、慶紀が、その背を支えた。
てん「かぴばらさん、もう、解放してあげてください。もし、わたくしの事を罵倒したいのであれば、どうぞ、お気が済むまで、、、。」
杉三「おい!逝くには早すぎるぞ!君には、まだやり残した職務が、、、。」
父親「すぐに、お前薬取って来い!引き出しの中に入っている、鎮血の薬だ。もし、持ってこなかったら、勘当だ、勘当!」
かぴばらが、女を押さえていた手を緩めると、女は、そっと立ち上がり、近くにあったタンスの引き出しを静かに開け、小さな紙袋に入った、粉剤を取り出して、てんに手渡した。
杉三「水がないと。」
女は黙ったまま、湯呑に水を入れて、てんの前に乱暴に突き出した。
てんは、静かにそれを受け取って、粉剤と一緒に飲み込んだ。
杉三「一言、足りないんじゃない?」
女「ごめんなさい。」
父親「それだけじゃないだろ!」
てん「いいえ、それだけでも十分です。」
杉三「こと切れたかと思ったよ!よかった、戻ってきてくれて!」
てん「そのようなことは致しません。謝罪をするのは、むしろわたくしのほうですから。」
杉三「なんでこんな狂女を放免するんだ?」
てん「ええ、事実だからです。」
杉三「そうだけど、怖くなかったの?ああして、殺害されそうになって、、、。」
てん「いいえ、政治家であれば、このようなことは十分あり得ますよ。それくらい、怖がってどうします?」
杉三「じゃあ、こうする!てんに代わって僕が聞く。先ほど、ある組織にお姉さんを預けたと言っていたね。それは、なんというところで、どこにあるんだ?」
店主「はい。目時会というところです。目に時と書いて目時。残念ながら支部しか行ったことはありません。とにかく、早く上の子を出してしまいたかったので、、、。」
慶紀「本部はどこにあるのか、ご存知ないのですか?」
店主「ええ、聞いた話では、まんどころ大瀧の近くにあると聞きましたが、行ったことはありません。」
慶紀「そういう団体は、きちんと主催者にお会いしてから決めたほうが良いですよ。」
女中「そんな、余裕なんてなかったんですよ。」
店主「お前は黙っていなさい!」
慶紀「で、それは、どのような趣向の団体なのでしょう。」
店主「はい。何でも、問題を抱えている子供を預かって、共同生活を通じて立ち直らせるところだそうです。何しろ大変な人気で、なかなか預けようにも預けられない人が続出しているような組織だそうです。」
てん「目時会。確かに、届け出は出ていますね。先代が存命であったころから知っています。しかし、その会は、確か、単なる、心理療法を研究する会として発足したと思います。」
杉三「もしかして、新興宗教みたいなものかな?それが武装化したとか。」
秀子「あたしたちの間でも、話題になったことがありますね。」
とも子「ええ。あたしたちも、聞いたことある名前です。私たちサンの間では、哲学を自主的に学ぶというのは、問題視される行為ではないので、よく団体があるのですが、その中でもかなり有名なところだったようです。」
とし子「私、知ってる!略して目時、目時と騒がれているところでしょ?ずっと前に、料亭で歌を歌う仕事していたときに、なんか変な評判を流されていましたよ。目時は洗脳教育であるから、絶対に行かせないほうがいいと。」
父親「そうですか、皆さん知っていたのですか。でも、このような辺境では、情報も何もなく、サンの皆さんのような、集まりが頻繁に行われているわけでもないので、ただ、ここに来たお客さんから聞くしかできなかったので。」
慶紀「で、娘さんを預けて、そこから連絡は?」
父親「ありません。というより、受けたくなかったので。」
慶紀「私的な感情もかなりあって、情報入手もしようと思わなかったとは思いますが、他にも、その会に行って、帰ってきた人はいるのでしょうか?」
父親「いや、知らないんですよ。親には何も知らされなかったので、、、。」
ひろし「あの、僕の直感なので、信用しなくてもいいのですが、もしかしたら、、、。」
杉三「もったいぶらないで言っちゃいなよ、ひろし君。」
ひろし「さっき、目時は、まんどころ大瀧の近くにあったとおっしゃいました。そして、十人もの集団自殺者が出たのはまんどころ大瀧です。も、もしかしたらですけど、そこへ飛び込むように指示を出したのは、その目時なのでは?」
かぴばら「な、なるほど!そ、それは十分あり得る話ですね!あ、あの事件を作り出したのは、め、目時!」
杉三「そうかもしれない!自主的に、みんながまんどころ大瀧に飛び込もうとしたとは思えない。あれは誰かが指示を出したのかもしれないと思っていたんだ。」
女性「私にとっては、目時と言いますのは、救いの団体だったのに、、、。」
杉三「そうなんだよね。当事者にとってはそう見えちゃうんだよね。まあ、ゆっくり洗脳から解けろ。」
かぴばら「で、でも、そこから先、どうやって、突き止めたらいいでしょう。」
てん「支部はどこにあるのですか?そこへ乗り込むのが早いでしょう。」
店主「はい、ここから一里ほど離れた、さほど遠くないところですよ。この辺りは、目時の世話になっている家庭が多いので、すぐに見つけることはできるでしょう。」
てん「わかりました。では、直ちに実行に移しましょう。」
店主「その前に、その顔と手を拭いていってください。ほら!」
と、娘に手ぬぐいを持ってくるように促す。
女中は、嫌そうな顔をするが、父親な顔を見ると、しぶしぶ手拭いを持ってきて、てんに手渡した。
店主「あの、この子に対する刑罰は、、、。」
てんは、静かにその手拭いで、顔と手を拭いた。
てん「いえ、いたしません。」
店主「そんな、とんでもないことをしでかした娘ですから、しっかりと、刑罰を与えないと懲りないのではないでしょうか。」
てん「いえ、彼女の言っていたことも、間違いではないからです。」
店主「だって、ご自身が標的にされてしまったのでは、」
てん「過去にも、そういう例はたくさんありますよ。それに、わたくし自身も、先が見えているのですから。」
杉三「先が見えてる?」
てん「ええ、わたくしはもう先が見えています。ですから、確実に職務を遂行していかなければならないでしょう。わたくしの職務というものは、悪行を繰り返す、組織を摘発し、壊滅させることなのです。」
その細い声は、今までとはどこか違い、弱弱しく、たどたどしいものであった。
てん「お二人は、これまでと同様、茶店を続けてくれて結構ですから、どうぞ、良い店にしてくださいね。おぞましいところをお見せしてしまったばかりか、長居をしてしまい本当にご迷惑をおかけしました。もし、この店に、不評が出てしまったら、多少何かお出しできると思いますので、お申しつけください。それでは、皆さん、参りましょう。」
全員、黙りこくってしまう。
慶紀が、てんをそっと持ち上げて抱き抱えた。
杉三「てん、何か変わったな。」
かぴばら「ぼ、僕はそれでも、お供していきますから!ど、どうもありがとうございます!」
店主と、娘による最敬礼が見守る中、杉三たちは、静かに店を出て行った。
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