第六章
第六章
リャマに引っ張られた荷車で、移動していく杉三とてん、かぴばら。
かぴばら「ぶっ通しで一日走れば、北端につくはずです。まんどころ大瀧とは、正反対の方向です。」
と、いっても、平坦な道路はすぐに抜けてしまい、坂道ばかりの街道を走るようになるので、いくら走ってもスピードは出ない。
道が極めて狭く、大きな荷車は通れないので、のっている荷車も、ずいぶん小さなものであった。
杉三と、てんは、正座の状態で乗っている。
かぴばら「大都督、本当は横になって乗ったほうがよかったんですけどね、申し訳ありません。」
てん「いえ、わたくしは、大丈夫です。とにかく、急いでいきましょう。この狭い道を、大掛かりな荷車では、移動できませんから。」
杉三「でも、スピードは、出ないのか。」
てん「わたくしが、元服する前は、歩いていくのが当たり前だったんですから、贅沢はいいません。」
杉三「確かに、贅沢ではないな。」
少しせき込むてん。
杉三「大丈夫か?」
てん「ええ、大丈夫です。行きましょう。」
と、言っておきながらもせき込んでしまう。
杉三「ほらほら、もう疲れてるんじゃない?」
てん「大丈夫ですよ。そのまま走ってくだされば。」
そういっても、せき込んでとまらない。
杉三「結局だめじゃないか!どっかに茶店でもないかなあ。休ませてもらわなきゃだめだ。」
かぴばら「そ、そうじゃなくて、ここは早く出たほうがいいですよね。そうでしょう?」
杉三「なんでだ?」
てん「ここから、もう少し先へいくと、かつては歓楽街だったからですよ。」
杉三「歓楽街?吉原のようなところがここにも?」
かぴばら「ま、まあ、よしわらという名称ではないのですが、この地域はもともと遊郭のあった地域でした。」
てん「ええ、わたくしは訪れたことはなかったのですが、わたくしの父や先代が、よくこの地域の事をよく話題にはしておりました。わたくしが、元服する以前に、この地域で梅毒が蔓延したことがあり、先代は、この地域の者をすべてほかの地域に追放し、遊郭をすべて焼却処分しようと、考えていたようですが、、、。」
一度せき込むが、再び続ける。
てん「父まつぞうはそれを不憫に考えたようで、遊郭としての営業をとりやめにして、旅館などに転生させれば、営業を継続させることを認めると決定したようです。」
杉三「なるほどねえ。僕らで言うところの、吉原遊郭が、こっちにもあったのね。確かに、そういう地域は、気持ち悪いなあ。」
かぴばら「で、でも、ここを通り抜けないと、たどり着けないのも確かなので、とにかく、早急に通り抜けてしまいましょう。もしかしたら、客引きにあう可能性もありますし。」
杉三「確かに、まだ青線が残っているかもしれないし、ソープがあるかもしれないもんね。僕も、気持ち悪いから、早く通り抜けてしまいたいや。よし、急ごう。」
かぴばら「は、はい、言われなくてもそうしたいですよ。僕だって。」
もうしばらくすると、開けた土地へ出る。確かに大きな建物がいくつかあって、「りょかん」と平仮名で書かれた看板もあるが、いわゆる東京の吉原ソープ街のような、ぎんぎらぎんのネオンが灯った建物は全く見られない。まだ、時間が早いせいか、客引きをする女性も見当たらなかった。
かぴばら「ま、まだ昼間だからいいんですけどね。こ、このうちに通り過ぎてしまわないと、この辺りは、怖いですから。そうですね。」
返事はない。かわりにせき込む声しか返ってこなくなった。
杉三「しっかりしてくれ、本当に君という人は!」
かぴばら「ど、どっかで、止まったほうがいいですかね。あの、桜の木のあたりで止まりますよ。」
側に合った桜の大木の下につくと、リャマの尻を叩いて止めさせる。
杉三「ああ、もう!しっかりしてよ!ここで、遊女に騙されて、大金でも取られる可能性もあるんだからね!そうなったら一体どうするんだ!本来の目的地まで行けなくなっちゃうじゃないか!」
てんは、せき込むのに精いっぱいで、返答するどころではないらしい。
かぴばら「こ、このあたり、空気が悪いというか、ほこりっぽいんですよね。ど、どうも、空っ風ばっかり吹いてくる地域で、向こうの工場の煙がもろに来ちゃうんで、、、。」
そうしているうちに、日が暮れてくる。
杉三「どうするんだよ!もうじきぽん引きが始まるぜ。きっと、水穂さんには絶対訪れられないところだろうな、、、。」
てんは、やっと落ち着いたらしく、せき込む回数が減る。
杉三「よし、行こうぜ!とにかく僕は、この気持ち悪い地域から早く出て、安全なところへ行きたい。」
かぴばら「い、いや、もう無理ですよ。そ、それに真夜中の道を走っていくと、かえって危ないかもしれませんから、どこかに泊めてもらったほうがいいでしょう。」
杉三「じゃあ、超高級店にしよう。あんまり大衆的すぎちゃうと、かえって変なことされちゃうかもしれないから、怖いよ。少なくとも、外で客をとって、それで何とかっていうところは避けようぜ。ぽん引きをするようなところはぜったいだめ。例えていえば、高級クラブみたいななんというのかな、、、。」
てん「ごめんなさい、、、。わたくしが、責任を取りますから、本日はどこかに、、、。」
かぴばら「わ、わかりました。僕も、急ぎすぎてしまったかもしれません。どこかによさそうなところが、、、。」
周りを見渡すと、いわゆる仲居さんと思われる女性たちが、建物を出たり入ったりし始めた。中には、芸者と思われる、着飾った女性たちもいる。
杉三「わかった!よし、あそこにしよう!」
と、前方にあった、一つの建物を指さす。確かにその建物は他と違って、玄関前に女性たちが立っていなかった。
かぴばら「わ、わかりました。じゃあ、行ってみましょうか。」
と、リャマの尻を叩いて再び前へ進ませて、その建物の近くに行ってみる。
玄関前にやってくると、普通の旅館とたいして変わらず、遊郭によくあった、遊女の逃亡をふさぐ設備のがあるとか、閉鎖的な雰囲気はなかった。
かぴばら「そ、そうですね。こ、ここであれば、少し落ち着いているようです。」
杉三「すみません!すみません!」
がらりと戸が開いて、たぶん経営者と思われる、高齢の女性が現れる。
女性「はい、何でしょう?」
杉三「あのね、僕らを一晩泊めてくれる?そして、僕らの居室には絶対に人をよこさないでね。」
女性「ああ、いいですよ。部屋もあいてますし、どうぞお入りくださいませ。」
物腰は柔らかく、とても忘八、つまり遊女屋の経営者には見えなかった。
杉三「じゃあ、一泊だけよろしく。」
女性「ハイどうぞ。いらしてください。」
てん「お邪魔します。」
軽く一礼する。
杉三「じゃあでよう。」
かぴばらが、杉三とてんをそれぞれ荷車からおろす。杉三は自ら車いすで、てんはかぴばらに背負ってもらって、店の中に入った。
店の中に入って、廊下を移動すると、何人かの女性たちとすれ違ったが、背の高いものと低い者、その中間の者がいて、三部族から集められたものだろうと思われた。しかし、遊女特有の、派手な着物などを、身に着けているものは誰もおらず、通常通りの仲居さんという感じの女性たちであった。
経営者の女性が、杉三たちを、居室に連れて行った。
女性「はい、お部屋へどうぞ。」
杉三「僕が開ける!」
と、乱暴に指定された部屋のふすまを開ける。中は、通常の畳の部屋で、中心に机が置かれていて、周りに座椅子と座布団があり、とても遊郭の座敷とは思えない。
女性「どうぞ、お入りください。しばらくしたら、お食事を持ってこさせますから、ゆったりと、寛いでくださいませ。」
杉三「わかったよ。忘八さん。ご飯は、食堂で食べるのか?」
女性「忘八さんではありませんよ。体を使うようなことは一切しませんから。それにうちでは、食堂というものではなく、お部屋でいただいていただくことになります。」
杉三「それでは困るよ。」
女性「困りますと言っても、この地域での旅館では、みんなそうなっているんですよ。」
杉三「そうなのか。じゃあ、忘八さん、ご飯は持ってきてくれてもいいが、部屋の玄関前で止めてくれ。あとの事は僕らでするからいいからね。僕らは歩けないけれど、自分のことくらいは自分でできるから、手伝い人はいらないよ。それと、食べ終わるまでの、お話し相手をする人もいらないから、新造さんもいらないよ。禿さんだって必要ないから。僕らは、単に泊めてもらえさえすればそれでいいので、花魁さんのお世話になりに来たわけではありませんから、後生ですから決して、覗かずに!」
女性「お客さんは、昔のことをよく知っていらっしゃるのね。でも、私は、忘八さんではないし、ここにいるのは普通の仲居さんで、花魁さんはもちろんのこと、新造さんとか、禿さんは、どこにもいませんよ。お客さんが、そういうんなら、その通りにさせますから、安心してお泊りになってくださいね。」
杉三「頼みますよ。これを破ったら、僕たち、二度とこの地域には来ませんから。よろしくね、忘八さん!」
女性「ですから、何度も申しますが、忘八さんではございません。まあ、ゆっくりなさってくださいませ。」
と、軽く座礼して、部屋を出て、静かに戸を閉める。
杉三「あーあ、疲れた。忘八さんを追い出すのは、テクニックというもんが必要になるんだな。おい、布団を一枚出して、てんを横にさせろ。僕らは忘八さんが、次の刺客を送り出してくるのを待ってようぜ。」
かぴばら「わ、わかりました。す、杉ちゃんって、意外に口がうまいんですね。」
杉三「ほめている間があれば、次の手を考えなくちゃ。」
かぴばらは、一度てんを椅子の上におろしてやり、急いで押し入れを開けて、布団を取り出して素早く敷き、てんをそこへ寝かせてやった。
てん「申し訳ないですね。わたくしが、本当はここを取り仕切るべきでしたけど。」
杉三「しゃべらないでじっとしてろよ。やっぱり、この高級な布団と言い、ただの旅館とは違うぞ。」
確かに、一般的なせんべい布団とは違い、ふわふわしたものであった。
かぴばら「そ、そうかもしれない、、、。」
杉三「だろ?だから騙されないように、何とかして乗り切らねば、、、。」
と、戸を叩く音。
杉三「なんですか、忘八さん。覗くなと言ったでしょ!」
声「ち、違いますよ。お食事ができたので、持ってきたのです。」
杉三「へえ。もうできたの?悪いけど、もうちょっと後でもいいや。」
声「でも、もう、運んできてしまいました。ここでは、お食事の時間は一律なんです。」
杉三「どうする?」
かぴばら「た、食べないのも難なので。」
杉三「じゃあ、食べるか。今開ける。」
と、乱暴に戸を開ける。
外には、一人の女性が漬物の入った食器の乗った盆を前において、座っている。先ほどの、経営者を思わせる女性ではない。
杉三「今度は、新造さんの出迎えか。ご飯ならそこに置いておいてくれ。食べ終わったらまた呼び出すから、取りにきてくれ。」
女性「いえ、お手伝いいたします。」
杉三「いらないよ。僕は確かに馬鹿だけど、食事まで介助はいらないからね。」
女性「もっていくのが、大変でしょうから。」
杉三「そんなの、この力持ちが、やればいいことじゃないか。そうだろう?」
かぴばらもやってきて、女性の前にある盆を勝手にもっていって、テーブルに運んでしまう。
杉三「そうそう。で、あと、ご飯というか、お食事の食器は、いくつあるんだよ。」
女性「あと、主菜であります鯉の洗いと、みそ汁とご飯がございます。」
杉三「お米の?」
女性「はい。」
杉三「贅沢だね。僕らはすいとんしか食べたことないのにね。まあ、お米のご飯もたまにはいいや。この辺でお米なんか食べることほとんどないからさ。ちなみに僕たちの日本では、毎日のようにお米を食べていたもんだった。ここのお米と果たしてどう違うのか、すごく興味があるんだよな。日本のお米は、一粒一粒が小さくて、あっためて炊くと、ちょっと粘りがあって、もっちりした感じだったぜ。」
杉三が話している間、かぴばらは、素早く廊下に出て、みそ汁の入った茶碗が乗った盆と、鯉の洗いがのった大皿をどんどん中に運んでしまった。
杉三「こっちも、橘が農業してた時は、お米を少し作っていたようだが、それは、記念日のような特別な日じゃないと食べることは許されなかったよ。こっちのお米ってさ、なんか粒が長くて、パサついててまずいよね。まあ、カレーなんかにしたらうまいんだろうが。で、ここでもそういうお米なんだろうか?ちょっとそこにあるお櫃の中、拝見させてもらえない?」
女性「わかりました。皆さんのご飯だけは盛り付けて差し上げますから。」
杉三「ああ、そんな手伝いはいらないよ。ご飯の盛り付けくらい、僕ができるよ。おい、そこにあるお櫃を取って、中に入れてくれ。」
かぴばら「は、はい。わかりました。」
女性「いいえ、仲居である私が、何かしなければいけませんし。」
杉三「忘八さんには、覗くなと言ったはずだけど?」
女性「忘八さんではなく、女将さんです。女将さんはせめてお客さんにそのくらいは奉仕しなさいと言ってましたから。」
杉三「奉仕ねえ。君の言う奉仕というのは、体を売って、僕らから金を巻き上げる、花魁さんを連れてくることだろう。悪いけど、その手はお見通しだ。新造さんよ、給仕人のふりをして、入ろうとする手は、とっくに知ってらあ。」
女性「な、なにを言うんです!私は、女将さんが行ったことをそのままやってるだけで。」
杉三「違うだろ。女将さんというのは忘八さんだ。新造さんであるってことは、その顔の厚化粧と、その衣紋の抜き方からわかるよ。忘八さんにこういってくれ。覗くなという規律を破ったから、僕らが使えている主君に、すぐに伝えて、後で取り潰しにしてもらおうかと考えているって。僕らを歩けないからって、馬鹿にしちゃいけないよ。じゃあ、さっさと出て行って、ご飯が食べ終わるのを待ってな。おい、てん、せっかく鯉の洗いを持ってきてくれたから、遠慮なく食べるか。鯉は労咳の薬と聞いたことがあるからな。」
女性「てん、、、?も、もしかして!」
杉三「そうだよそうだよ!おい、てん、起きれれば起きてさ、顔見せてやって。」
てん「あ、はい。わかりました。」
と、布団に座って、初めて女性と目を合わす。
女性「ごめんなさい!ごめんなさい!本当は、この仕事に就いてはいけないことは、いけないとわかっていたのですが、申し訳ございません!」
と、手をついて謝罪する。
女性「ただ、私を捕縛するのはかまいませんから、どうかほかのものを捕縛して、この店を潰すのはやめてください!」
杉三「へえ、なんで?遊郭は違法だぜ!」
女性「だ、だって、こんなに確実にお金を稼げる方法はありませんもの!確かに、体を商売にするのは、お偉い方にとっては、違法かもしれませんが、私たちのような下層市民にとっては、神様みたいな商売でもあるのです!」
杉三「新造さんよ、体を売るのが、そんなに魅力的か?絶対違うと思うけど?」
女性「だったら、捕縛して処刑するのは私だけにしてください!ほかの子たちが、安心して生活していくためにも、ここを潰してしまうのはどうか、やめてください!お願いします!お願いします!」
杉三「はあ、おかしな遊女もいるもんだなあ、、、。人身売買されて、やくざとか、汚い男を相手にして、つまんない人生を送るのが、安心した生活と解釈するなんて。」
てん「杉ちゃん、少し彼女の事情を聞いてみることいたしましょう。何か深いわけがあるのだと思います。」
杉三「なんで?もともと遊郭を違法にしたのは、てんじゃないのか?それを破った遊女に同情しても仕方ないよ。」
てん「いえ、確かに、厚化粧で誤魔化してはいますけど、あなた、もともと新造になるにはふさわしくないお歳ですね。失礼ですけど、すでに三十を越しているでしょう。新造は、そのような歳の方が就く職業ではございません。」
杉三「へ?もう、そんな年?」
てん「ええ、そのような歳で、若い新造の着物を身に着けているのですから、かえって不自然に見えたのです。もしかして、既婚者なのでは?一生懸命年齢詐称をしているようですが。」
杉三「ど、どういう事なんだ!」
かぴばら「す、杉ちゃん、少し黙っていたほうがいいよ。か、彼女にしゃべらせよう。」
女性「ごめんなさい!私は、売春禁止違反だけでなく、年齢詐称でも、捕縛されなければならなければならないのですね。」
てん「いいえ、まず、あなたの事情をお話し下さい。捕縛するかしないかは、わたくしが決めます。」
女性「お話いたしましょう。」
てん「何なりと。」
女性「ご察しの通り、私は既婚者です。一人の娘の母でもあります。そして、年齢は、実を言ってしまえば、もう40をとうに越してしまっているのです。」
杉三「ええ!もう、40を過ぎてる?」
てん「お続けください。」
女性「はい。女将さん、つまり、忘八さんは、それでも私を雇ってくれて、私が取ったお客さんが払ってくれたお金も、私にくれます。だから、定期的に、娘にも送り届けてあげられます。」
杉三「でもさ、40を越しているんだったら、娘さんだって、元服しているんじゃないの?元服すれば、どっかの工場で働いてたり、商売やったりできるんでしょ?だから、自分の方くらい、自分でできるでしょ?」
女性「ええ、一般的に言ったらそうなりますが、娘はそれができなくなってしまいました。元服してすぐに、工場で働きだしたのですけれども、そこで、たまたまあった、窃盗事件の犯人と間違えられて、ひどくいじめられてしまったようで、それから、人が怖いと言い、外に出られなくなってしまったのです。ですから、40を過ぎた私が、働きに出たのですが、40を過ぎたものを雇ってくれるところなど何もありません!だから、仕方なくここに身売りさせてもらいました!」
杉三「つまり、対人恐怖か。お父様は?」
女性「主人は、娘が閉じこもって働けなくなったので、代わりに生活資金を得るために働いていたのですが、過労のために亡くなってしまいました。女である私の賃金では、生活していくことはできなかったので、こうして、体を売るしか方法が見つからなかったのです。この事情を抱えているのは、私だけではありません。ここで、働いている新造さんたちのほとんどが、そういうお子さんを持っている方々です。忘八さんは、そのような母親をここに集めて、確かに体を売らせるのは本当にいけないことかもしれないけど、その代り男の人たちからいただいたお金の一部を、家族に送ることを許可してくれました。だから、私を捕縛するのは、全くかまいませんが、他の新造さんたちも一緒に捕縛して、ここを取り潰しにしてしまうのは、やめてください!そうしたら、他の新造さんたちの息子さんや娘さんたちが、生活できなくなってしまうのです!もちろん、売春は違法ではありますし、年齢詐称も違法であることは確かですが、そうしなければ生活できない方々と言いますのは、信じられないほどたくさんいるんです!」
杉三「なるほどねえ。そう考えると、忘八さんではあるけれど、忘八さんとは言えないのかもしれないね、、、。」
てん「捕縛は致しません。しかし、一つだけ条件がある。ここを遊郭ではなく、旅館として営業を変えること。わたくしが、遊郭を違法としたのは、この地域が梅毒で汚染されていたからですから。梅毒は、残念ながら治療も不可能ですから、一度かかってしまえば、皆さんの命が失われることになります。それでは危険だと思ったので、わたくしたちは、遊郭を違法としたのですから。」
杉三「梅毒か。ここでは、治せるもんじゃないんだね。確かに、あれにかかってしまうと、非常に怖いと聞いたことがある。」
女性「そうですけれども、これ以外の職業で、働けない娘をどうやって養って行けましょうか?ほかにここまで収入が得られる職種など、どこを探してもありませんでした!そのような悠長なことを言っている暇はどこにもないのですよ!確かに親は期限付きとか、そういう事を教えていくことは必要なのかもしれないけど、娘にはそれが通じることはないのです!いくら教えても、外へ出る気配は全くございません!近隣の方々も、ただ、批判するのみで、私を助けてくれるようなことは全くないのです!ですから、私が何かしないで、どうします!」
てん「いいえ、一度でもかかれば、あなた自身が、娘さんを養っていくこともできなくなるのですから、わたくしは、合法化することは認めません。忘八さんは、忘八以上の徳を持っている方だと思いますから、それを遊郭ではなく、他のものとして使うべきでしょう。彼女も、そこまでお情けの深い方であれば、遊郭という形をとらなくても、あなた方を雇用してくださる能力もあるはずですよ。それをお伝えさえしていただければ、わたくしは、今回、捕縛することは免除いたしましょう。」
女性「わ、わかりました、、、。ありがとうございます!今回は、本当に申し訳ないことをしました!」
てん「いいえ、お気に召さず。わたくしたちも、皆さんの現状を把握することができましたから、よかったと。わたくしは、あなたが訴えた言葉を、忘れずにいたいと思いますから。」
女性「本当に、もったいなきお言葉をありがとうございます!ほかの新造さんたちに伝えたら、皆さんも喜ぶと思います!」
杉三「だからもう、新造とは違うんだぞ。さて、鯉の洗いがまずくなるから、食べようぜ!いただきまあす!」
と、箸を取り、鯉を口に運ぶ。
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