第2話
翌朝はやくから地上に降りると、少年は規則正しい寝息をたてていた。
「まだ寝てんのかい」
ひとりでツッコミを入れるが、誰も反応してくれない。ミクしかいないのだから。風呂敷は点々と血が付いていた。あーあ、と声をこぼす。すると、少年は小さくうなって寝返りを打つべくもぞもぞと動き出した。しかし、傷口が痛んですぐに顔をしかめる。
「今日はうるさいのか」
――作業の邪魔にならないといいなあ。
少年も少年で大変だろうに。すぐに死ねない苦痛を、まだ小さい体で受け止めるなんて。
そう思うと、ミクはすこしずつ少年を心配するようになった。地べたは石だから木造の長椅子に寝かせ、毛布を持ち込み、潰れたクッションを何枚か頭の下に敷かせた。すると日に日に少年は穏やかな表情を浮かべるようになり、ミクの卒業制作も完成へと近づいていっている。
一週間が経つと、もうそこにミクが訪れることはなかった。
大陸をおさめる王国からの救援隊が村へと足を踏み入れ、教会の扉を開けたその先に広がるメルヘンチックな空間に、隊員たちはみな息をのんだ。
天井から差し込むあたたかな日差しに照らされるステンドガラス――と、その下で少年が発見された。彼の周りには薔薇やヒマワリの花びらがまかれ、まるで眠る天使のようだった、と、隊長は語っていたらしい。
一命を取り留めた少年は、今、王国の孤児院で同じ被害にあった同年代の子どもらとともにひっそりと暮らしているという。
そのような知らせを小鳥たちから教えてもらったミクはひそかに笑った。
教会は、救援隊の救助が終わった直後に崩れた。だから、ミクの卒業制作はまた一から作り直さなければならない。
「まずは場所探し、かあ」
ため息をついて、ミクは少年を想う。そして、また、口元に笑みを浮かべた。
ヴェール 愛川きむら @soraga35
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