読んでいて何より心地よかったのは、平仮名の多さ。
「あるく」「あなた」など、本来なら漢字で書かれそうな単語の多くが平仮名で表記されている。
子供っぽさの表れとして使われるやり方でしょうけれど、ここでは温もりや優しさ、幻想的で取り留めのないふわふわした心地よさを演出しています。
煙草であったり刺青であったり、日本においては「アウトロー」「不良的」とみなされがちなアイテムを持っていながら、その人となりや社会的身分は文句なく、まさしく神や仏のような包容力を持つキャラクター。
そして彼岸花のように不安定で、うっすらとした怖さを持っていて、しかしとても美しいキャラクター。
この二人のコントラストが美しい。
雪の降る山荘、青や緑に囲まれた大地が雪によってその境界線を見失うように、桃色の彼と琥珀色の彼女は一つに溶け合う。
この物語はまさしく幻想によって彩られたものだけれど、しかし常に現実がその側に寄り添い、息を潜めている。
蝶の呼ぶ方へ誘われたら、彼女は本当の意味で純粋な白に染まり、美しい死を全うできる事だろう。
しかし蝶は語りかけてはくれない。呼んでいるのは自分の方で、単に自らの願望を蝶という象徴的な存在に投影しているだけなのだ。
全ては鏡写しのようで、そこには何もなく、ただ「私」と「私が見る私以外の何か」があるだけで、私が思う形、望む形、願う形になるよう景色を歪めているだけなのかもしれない。
それでも、生きてゆくのだから。
生きてゆくしかないから。
生きて逝き、その先に何があるかも分からないなら。
彼女はきっと、寒さに震えながらも。
暗闇に取り残され泣きながらも。
蝶の音なき声に縋りながらも。
生きてゆくのだろうと思う。
悲しいことに。侘しいことに。
彼女の春が訪れる日を願いながら、この素敵な物語に栞を挟み目を閉じる事とします。
僕だけの蝶、その音色を探しに、幻想の舞台へ。