第18話 まるで、まほうにかかったようにすんなりと

「スーパー……こっちじゃなかったのかな」


 ここがどこかもわからない……。


「足、痛いな……」


 あたしは、歩き疲れた足をさすりながら、道端に見つけた細長い椅子に腰かけていた。


 おかしい……周りにはたくさんの人がいるのに、世界でたった一人のような気がしてくる。

 誰でもいいから、とりあえず人の好さそうな人を見つけて「スーパーはどっちですか?」とか訊けばいいのにと思う一方で、それをする勇気が毛ほどもわいてこなかった。


「……こんなことなら、アリスについて来てもらえばよかった」


 アニメを見ている途中だったからと、遠慮してしまったのが運の尽きだ。

 …………。

 ……。


 たくさんの人が通り過ぎていくのを視界の端で捉えながら、あたしはどんどん顔をうつむけていく。

 終いにはだらりと背中が丸くなり、このままどこにも帰れないんじゃないか……そんな不安で胸の中がいっぱいになった。


 けど――。


「よかった……見つけた」


 息を切らしながら紡がれた、よく知る声。

 大嫌いなはずの声が聞こえると……あたしは、とても簡単に顔をあげてしまった。


「ゆき、ひと?」

「ああ……ふぅ……一緒に、帰るか?」


 あたしはすぐに彼から目線をそらし、ただ……黙って頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る