第11話 実家
運が良かったのか、それもと最初から計られたことだったのか。
多少の苦労はしたが、12時間ほど歩き詰めた結果、俺は実家に到着した。
外から見た様子では、もうとっくに葬儀は終わっていたらしく、確かなことはわからないが、自分の生前——死ぬ直前のおぼろげな記憶を踏まえて考えると、この世界は俺の死後1ヶ月ほどが経過しているようだ。
そう、ここは……確かに俺がいた世界なんだ。
だが。
「……ねぇ、押さないの?」
「え? あ……いや」
目の前の家――そのインターホン。
俺は、自分の家を前にして……そこに踏み出す勇気を出せずにいた。
しかし。
くぅ……。
「あぅ……」
ふよふよと浮遊する妖精のお腹から蚊の鳴くような空腹音が聞こえてくる。
「うっ……あぁっ――ご、ごめんなさいマスター! 私、そんなつもりではっ」
「いや、君は悪くないって。それに、俺だってお腹は空いてるし……」
そして、申し訳なさそうにお腹を押さえる彼女の様子を見て、俺は覚悟を決めた。
はずだったのだが……。
ドシャッ――。
スーパーの安っぽい袋が、内容物に擦られながら地面に落ちる音が聞こえる。
条件反射で、俺達は音の下方向へと振り向いてしまった。
「あんた……まさか――」
まさしく、幽霊でも見たような表情。
どこかやつれた様子の母が、そこには立っていた。
「あっ――いや、ごめんなさいね。なんだか、いえ……とてもうちの息子に似ていたものだから――」
母は、ありえない、と……そんな言葉でも吐くかのように言い、落ちた袋を拾おうとする。
けど――。
「……母さん」
俺が、叱られた後に……沈んだ気持ちで……いつものように母を呼ぶと。
母さんの目から、涙がこぼれてしまった。
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