第23話 決戦の時

 夜が明ける前に、スミアはシルヴァに揺り起こされました。

 しかし、スミアは寝ぼけることもなく、すぐに状況を把握しました。光戦の民の服に身を包み、シルヴァからもらった光戦の民の短剣を腰に差しました。

 最後の作戦会議がとり行われました。

 明るい月の下で、地面に枯れ木でアルヴェが地図を書きました。

 スミアの役割は重要でした。

 彼女は、アルヴェが集めてきた枯れ草にくるまり、見張りに見つからないようにして、崖寄りの出入り口に近づかなければなりません。

 見張りが二人とも倒れた瞬間に、枯れ草を巣穴に放り込み、油と小さなランタンを投げ込むのです。

 少しでも手間取ったら、こちらの入り口からも土鬼が飛び出してきて、計画は失敗するでしょう。

 もう一方の入り口から、あわてふためいて出てくる土鬼たちを、シルヴァが槍で刺し殺し、逃した土鬼をアルヴェが弓で射殺すのです。

 矢を射た瞬間に、光戦の民たちもすばやく行動しなければ土鬼たちが大量に巣穴から出てしまい、手に負えなくなってしまいます。スミアにかまっている時間はありません。

 計画を説明し終えた時、アルヴェが心配そうにスミアを見つめました。

「大丈夫! あたし、きっとうまくやれるよ!」

 スミアは剣を抜いて、大きくうなずいて見せました。


 配置は完璧でした。

 崖近くの岩陰にアルヴェが弓を構えていました。反対側の木立の影には、スミアからはわかりませんが、シルヴァがいるはずでした。

 月が沈みかけ、あたりの景色を東の空の薄明が照らす中、スミアは枯れ草にくるまって前進しました。

 風が強い日は、このように枯れ草が塊になって、荒地を転がることがあります。しかし、今日は風もなく、他にこのような大きな枯れ草の山もありませんでした。自然を装うのは大変骨が折れました。

 自然を装うほかに、スミアにはもうひとつ気になることがありました。

 ランタンです。光戦の民が携帯する小さなランタンは、しっかりしたものでよほどのことがない限り、枯れ草に飛び火したりはしないでしょう。

 でも、もともとが灯りです。回りを黒く塗りつぶしたとはいえ、薄暗い中、光が漏れたら最後です。

 スミアは、枯れ草の間から土鬼の見張りを注意深く観察しながら、息を止めて進みました。

 一歩、一歩……また一歩。

 長年の夢だった復讐を、親と妹の仇を取るのだという思いを、スミアは噛みしめて進みました。

 あともう少しというところでした。

 見張りの土鬼がこちらを見たのにあわてて、スミアはランタンを落としてしまいました。火が消えてしまったら、おしまいです。

 夜明け前の青白い闇が、枯れ草をあたりの風景に溶け込ませていました。所々生えているしぶとい雑草に、すっかりなじんでいたのです。

 ランタンは消えることなく、土鬼もこちらに気がつくことはありませんでした。

 ほっとして、スミアはランタンを持ち直そうとしました。

「あつっ!」

 もち手をもち損ねてしまったのです。中で燃えている炎は、容赦なくスミアの指を傷つけました。

 見張りの土鬼が、こちらを振り向きました。

【誰だ!】

 土鬼の声が聞こえました。次の瞬間、スミアの目と土鬼の目が合いました。

 万事休す……。

 スミアがそう思った瞬間、信じられないことがおきました。

【なんだ、おまえか……。こんなところで何をしている? 早く巣穴に戻れ】

 土鬼の言葉が、はっきりとスミアには聞き取れました。

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