ふわっと……してられない! コロナ禍緊急対談(2020.5.16)
第36話 コロナ禍(下)の緊急対談です
「皆さん……こんにちは。ミーネです」
「キッカです」
「アナよ」
「随分、お久しぶりです」
「あ、それ違うよ。ミーネ」
「キッカさんの言うとおりね。あたしたち視点でなら『久しぶり』だけど……」
「あっ、確かに。読者の人たちに、『ふわくら』で伝えられた最後のパーティが二年も前なのでつい……」
「お。ミーネ、それは更新が遅くてついに2年もビハインドくらった作者のことディスってる?」
「別にそういうわけでは……」
「いえ、最新クラブレポート小説のはずが、1年どころでなくシーンから遅れてたら、作者は言い訳不要だと思うわ」
「そうだよね。本当は最新パーティの話を物語にできていたら、ミーネが久しぶりだなんて言わないでもよかったんだもんね」
「そうね……この二年、話さないといけないパーティいっぱいあるんだけど」
「色々行ったよね」
「そうね。大きなものから小さなものまで」
「凄い大きなクラブにもいっぱいったよね」
「新木場のAgehaのことかな? マスターズ・アット・ワークなんて2年だから、
「小さいとこで、お酒美味しいとこもあったよね」
「代官山のdebrisかな? あそこは確かにお酒美味しかった。ハウスのパーティやってたけどパイオニアのシステム入ってて音も良かったし」
「……高円寺のもお酒美味しかったよね」
「薬酒Barね。UKガラージのイベントやってた」
「そう、それ。そういえば、ああいうベースブンブンいってる音楽もよく聞くようになったよね。そういう音楽の野外のおっきなイベントにも行ったし」
「EDCね。千葉マリンスタジアムとその近くの海岸つかった大イベントだったわね。天気もよくて素晴らしかった」
「海岸って言えば、島にも行ったよね」
「横須賀の猿島でのパーティね。一昨年はトロピカル・ディスコ、去年はグッド・ミュージック・パーティと名前を変えたけど、日本でこんな絶好の場所で——という、自然の気持ち良いヴァイブが流れるパーティだったわね」
「他のパーティにもいっぱい行ったよね」
「ええ、都内の様々なクラブ、Circus TokyoやContact Tokyoとか安心の居場所っていう感じだったかもね」
「うん、僕も、あそこいくと落ち着く感じだった。この前の年越しはお酒買えなくて大変だったけど」
「……ニューイヤーパーティでBen UFOの時ね。フロアの混雑はそれほどでもないのに、バーだけはとんでもない混雑で、飲み物買うのに三十分以上並ぶ羽目になってたわ」
「新年カウントダウンはClub Asiaだったんだけど、そっちも盛り上がってたね」
「そうね。日本の
「アニソンとかいっぱいかかってるの……秋葉原のMograとか……」
「Mograじゃなくても、あちこちのClubでアニソンは極々普通な光景になっていて、特にBassミュージックとの融合が……」
「あの——」
「「ん?」」
「アナさん、キッカも、話は尽きないと思いますが、今日の本題からどんどんずれてしまうと思うので……」
「確かに、そういえば、あたしたち、『今』がいつなのかさえもまだ言ってなかったわよね」
「というか、皆、こうやって僕ら三人がどこかのクラブに集まって馬鹿話してるんじゃないかと思ってるんじゃないかな」
「今までの行動からすればそう思われてもしかたないかと……」
「あれ、ミーネ、随分謙虚じゃん。クラブで『あの姉ちゃんやばい』とかこっそり語られているパーティモンスターに進化した……」
「はい——ちょっとまってね。ミーネさんの変貌ぶりはおいおい語るとしてね」
「いえ、変貌っていってもそんな大した話じゃないんですよ。誤解しないでくださいね」
「……そうかなあ。フロアではじけちゃった時のミーネは……今はもう……」
「はいはい——そういうエピソードは、そのうちね」
「(汗)はい、ともかく、話をもとに戻すと」
「ジャーン! 実は僕たち、実は、今、実際に会ってるわけじゃないんです」
「PCのモニター越しね」
「あ、僕はスマホだけど」
「まあキッカがPC持っってないまま大学生活乗り切ろうと思ってた蛮勇はこの際置いといて……」
「そうよね。あたし一足先に就職となったわけだけど、PC大学のときにもっとつかっておけば良かったとおのうことしきりよ」
「むむむむ……それなら僕も親のPC借りてきて………」
「はいはい。キッカが付け焼き刃のPC操作で、これ以上話が進まなくなっても困るので、スマホのままでよいから続けますね」
「ふえ〜い」
「……ではあらためまして、私達は今、リモートで緊急会議をしているのですが」
「もちろんみんな、あたしたちの状況わかるわよね」
「コロナ禍で外出自粛で実際に集まって話すのもできず」
「リモートで会議することにしたんだよ」
「……この頃のみなさんと同じです」
「大学はリモートになったよ」
「会社もリモートね」
「なんかやりはじめたら、リモートでもなんとかなることも多いのがわかってきたけれど、足りないことのもいろいろわかってきたわね」
「この話を聞いてくれてるみんなもそうですよね。リモートになったら通学や出勤ないので楽だなあと思う反面……どうしても会わないとできないことも多いなって思って来たと思います」
「あたしの就職した会社は結構リモート対応でやれること多かったけど、そもそもリモートが不可能で出社してる部門の人も多いからね」
「そのとおり! どうしても家にいると授業が身に入らないんだよね」
「キッカは、別に大学に行っても身に入ってないかも……」
「違うよ、僕は睡眠学習が得意なの!」
「まあまあ、キッカさんの特殊能力は置いといて……」
「「はい……」」
「また、話がずれていきそうなので……本題に戻ろうかしら」
「それでは……私たちの今日の議題は……」
「もちろんクラブのことだね」
「コロナで自粛要請受けて営業を停止してしまっているのだけど……この状況はどうなのかとか話そうと思ってZoomで遠隔集合中よ」
「ほんとひどいよね。僕たちの大事なクラブが、危ないよ! とかかな?」
「で……実際大変なみたいですね」
「そりゃ、そうだわよね。お客さんが来ないのだから」
「休んでたら、お金が入ってこない! ってことだよね、それに……」
「クラブに限らずに自粛で大騒ぎですが……休業しててもお金はかかるんですよね。それじゃ大変ですよね。私は大学に行かなくても、ワンルームマンションの賃料はかかりますが、同じ用にビルの部屋の賃貸料金はかかりますよね」
「そうね。中にはビルオーナーがクラブ経営してるようなところもあるかもしれないけど……まず、普通は部屋の賃料払わないと行けないわよね」
「それはそうだ。でも、電気代はかからないよね」
「使わなくても基本料はかかるのでは」
「そう。もちろんクラブが営業してて、使うよりはかからないけど、家庭と違って大きな電力容量で契約しているだろうからその基本料も馬鹿にできないと思う。クラブってPAとかの音響設備の他、照明、エアコン……相当電気つかわないといけないから」
「確かに、でっかいエアコン何個もついてるね」
「人数いっぱいの時はそれでも暑かったりしますから、フル回転でも大丈夫な電力の契約必要なのは分かります」
「ええ。クラブの大きさによって違うだろうけど……それって、水道代なんかも同じね。クラブが営業しないと、電気も水も、ほとんど使わないかもしれないけど、基本料はかかる。他にも、スピーカーとか、バーの設備とか、自前の資産でなくレンタルにしてるにもあるかもしれないし……ともかく営業してないからといってお金がかからないわけではないわ。でも、大きいのは……」
「やっぱりビル代?」
「あとは人でしょうか?」
「そうね、人——雇ってる人には給料を払わないといけないから、クラブの運営コストとしては大きな要素だと思うわ」
「でもコロナで給料もらえない人がおおさわぎになってじゃん? 人のお金はかからなくなるのじゃ?」
「でも……働かないなら、給料払わなくて良いのでしょうか?」
「……日本では、まず、正社員になってる人を休業しているからって簡単に首にしたりはできないのよ。後は、雇用形態によるけれど、派遣の人も一ヶ月とか三ヶ月とかの期間を保証して契約している場合もあるし」
「そうなの? 僕は一日単位のアルバイトしかしたことないので、仕事がないんなら給料はこないのかと思ってた」
「私は一ヶ月契約でアルバイトしたことがあります。仕事があってなくて……途中やめたくなってもやめれなかったのきつかったですが」
「うん。就職してみて……安定してお賃金もらえることの安心もあるけど、簡単にはやめられないことの大変さをかみしめているけど……ともかく、クラブが開いてなくても人件費はかかるということ。もちろん一日単位とか、月単位でも、契約の切れ目で休業したら、アルバイトの賃金は払わなくてよいけれど。——クラブに限らず、会社のオーナーの人たちって他人を食わせてるって言う自負と責任感があることが多いから、アルバイトの人たちへ給料出せないのもつらいはずよ。できれば、できるかぎり給与を払えないなんていう事態にはなりたくないと思ってるはずよ」
「そうかな? 僕が前に働いたバイト先で、金の亡者みたいなオーナーいたけどな。カフェだったんだけど、少し要領悪いバイト入ってくると、すぐに『首だ!』って騒ぎ出して……」
「私はそういうオーナーさんにあたったことはないですね。みんな働く人のこと考えてくれる良い人でした。もちろん仕事には厳しかったりもしましたが」
「結局、オーナーもいろんな人がいる——以上の結論はいえないと思うけど、やっぱり、日本の法律では解雇が難しいのに加えて、人情的なところを考えれば、人件費をがんがん削減するなんてことはなかなかできないことなんだと思うわ」
「まあそうだね。その性悪オーナーも、時には自分の言ってしまったことをひどく悔やんでる時もあったし」
「確かに、自分のせいで人が苦しむのを見るのは大抵の人は嫌だと思います。そのせいで従業員のリストラもできないまま潰れてしまう店だってあるような気がします」
「そうね。まあ、なんにしても、言いたいのは、休業したからといって、人件費というのはそれなりにかかっていくということ」
「たいへんだ……お給料も払って、お客さんもいない。ビルの賃料もはらう……」
「確かに大変だと思いますが……この今の状況って、これ以上どうにもならないのでしょうか」
「コロナが収束するまでのあいだってこと? 大きくは無理だと思う、最後の手使わないと」
「最後の手?」
「何かあるのですか」
「……最後の手っていっても……クラブを廃業するくらいしかないだろうってことだけど……あたしが思いつくくらいでは」
「だめじゃん」
「それじゃ意味ないですね……」
「あたしたちみたいな、クラブを利用させてもらってる方からすると、それじゃ意味ない……つぶさないでなんとかしてくれ……と思うけど、経営してる方からすると、このまま支出がかさんで行くだけだと思ってしまったら、ここで見切りをつけるしかないってなってしまうというのも理解できるかな」
「んんん。なんとか頑張れないのかな?」
「私も各クラブにはこの苦境を乗り切って欲しいと思いますが、営業再開できなくて、借金が膨らんでしまうと思えば、早めに決断しなきゃと思う人がいるのも理解できますが……でも……」
「うん。あたしも、普段行かないようなとこも含めて、クラブには全部生き残ってもらいたいと思ってる……でも、クラブも含めた、人が密集して集まるような業務形態の商売は、どちらにしても一度廃業するのがもっとも合理的な判断と言ってる人も多いようね」
「ええ、それじゃクラブなくなっちゃうの!」
「全部ってわけじゃないですよね」
「それはそうだと思うわ。今の所は。各クラブなんとか生き残ろうと頑張ってるから。でも……」
「今の所?」
「今後はわからないってことですか?」
「今の所……クラブとかライブハウスとかは公的支援やクラウドファウンディングを行ったりして、この急場をしのごうとしてるわよね」
「あ、クラウドファウンディングやったよ」
「でもどのクラブにも支援するのはさすがに……」
「そうなのよね。支援ばかりで、ずっとはクラブを支えられないでしょ。
「急場でなくなれば?」
「この状態が急場でなく、ずっと続いたらということでしょうか」
「そう。そもそも、この状態がどれだけ続くのか——それでクラブの今後が変わってくると思う」
「あれ? 自粛要請ってもうすぐ終わるんじゃないのかな? 東京と近県はまだだけど、日本中のかなりが解除されたよね」
「東京も状況によっては早めに解除になると聞いてます。これなら、再度の自粛要請はもうない……と思いたいのですが」
「あたしもそう思いたいな。あ……この会話5月中旬のものね」
「メタ発言おつかれさまです」
「(メタの件はおいといて……)どちらにしても、少しの前後あるにしても、このままなら、6月には緊急事態宣言が終わるのではないでしょうか」
「そうね、思ったよりも緊急事態宣言が終わるのが早いかもとは思うけど、でも非常事態宣言が解けたとしても、即クラブが元通りとはとても思えないのね」
「なんで? 自粛解除されるんだよね」
「もちろん濃厚接触対策などはしないといけないと思いますが、もう東京近辺でも、飲食店などがなし崩し的に営業を再開しているのをみると、少しづつかもしれませんが元通りになるのではないでしょうか」
「そうね……完全に禁止されるというのは、さすがにないと思うので、クラブの営業は再開される方向に向かう思う……。でも、まず、いくら大丈夫だと言われても、不安は残るわよね」
「クラブに行くことの?」
「まだコロナ伝染るんじゃないか……という不安でしょうか」
「そう。一足先にコロナ封じ込め成功して通常の生活が戻ったはずの韓国で再パンデミックが起きたでしょ」
「あ、ゲイクラブでってやつだ」
「たまたまゲイってことで、その後のクラスタ追跡などでへんな話になってるようですが……同じように、どのクラブでも起きることだと思います」
「お客さんの方でも、クラブ=密だと思うなら、少なくとも行くことへの心理的障害にはなるわよね?」
「不安か、不安じゃないかというと……不安か。やっぱり……」
「正直、行くか行かないかまよっていたようなパーティだと……」
「……行かないかもしれないよね。もし、みんなそういう気持ちだったら、クラブ来る人の数は減っちゃうよね」
「迷ってる人の数ってそんな多いかな……」
「パーティに行くかどうかでなく、クラブというものに行くかどうか迷ってた人が来ないというものあると思います」
「そう。それもあると思う。クラブの他に娯楽はいくらでもあるわけだし、いままでクラブに来てた人がすべてクラブが何よりも一番好きで来てたわけじゃないんだと思う」
「……ううむ。クラブ行くか寝るか迷う時は確かにあるな」
「(寝るのと比べてる人のことはおいといて)あえて危険と思われるとこに行く必要がないと思うのはわかります。クラブの他に、変わる楽しみがあるのなら、来る人は減るかもしれません」
「もし、来る人がガラガラで、でも電気代とか水道代とか、そういうのがかかったら?」
「赤字かな?」
「……DJのギャラとかもありますしね」
「大物海外DJなんか呼んで大箱満杯なんてしばらく無理そうよね。そもそも欧米からだ渡航禁止解けるのそうとうかかりそうだけど。それに、人件費だって、やっぱり正社員以外で回しているクラブも多いだろうし開店したら、それもかかってしまう……サウンドエンジニアとか外注もあるだろうし。そのコストも発生する。パーティをやればやったコストに見合うだけの集客が必要になる……」
「……ううん。こまった」
「いったいいつになったら、クラブが元に戻るんでしょうか」
「……今の所、あたしは、その答えを持っていないけど、少なくとも緊急事態宣言が終わればすぐとはならないと思う。特に大箱で海外DJを呼んでなんていうのが復活するのはいつになるか……」
「でも……日本在住のDJのパーティなら復活できるかな」
「大箱での海外DJの大パーティも復活してほしいですが、日本人DJのパーティも楽しみにしていたのいっぱいあります」
「ええ。まったくパーティが復活しないってことはないと思うけど、最初のうちはみんな恐る恐るになるだろうし、またコロナ感染復活なんて話が出たらいつ自粛閉業に追い込まれるかもわからないし……100年前のパンデミック——スペイン風邪の時は収束に2年かかったと言うから年単位の長期戦になるかもしれないと思う」
「……でも来年オリンピックやるんじゃ? さすがに、そこまでにはなんとかなってるんじゃないか?」
「オリンピックも、できると確信持って言ってる人はほとんどいないんじゃないでしょうか」
「オリンピックは、日本だけがコロナ収束してもだめで世界中が対処完了しなきゃだめなので……相当難しいんじゃないかな? まあ、あたしみたいなのが軽々と語ることじゃないけど……」
「ともかく、クラブ完全復活までは相当時間がかかるかも……か……」
「でも、それで大丈夫でしょうか? クラブで、すでに廃業してしまったところがいっぱいありますが、さらに……」
「……増えるかもしれないわね。当座5月までは乗り切ったけれど、それ以降継続するためのビジネスプランができていないクラブが、今後、潰れてしまうようなことは十分に考えられる……と将来を思えば、もう廃業を選択して負債をなるべく小さくしようと考えるところもでてくるのはわかる、たとえば……」
「Lounge Neoはびっくりしたね」
「ClubAsia本体を残すための苦渋の選択なのだと思いますが、良いパーティがいっぱい開かれた居心地の良い箱が無くなるのはすごく悲しいです」
「Neoは、ベースミュージックのパーティとか一杯いったよね。Aia系列で、同じように今回閉まるGladやvuenosとかも結構行ってたし」
「ライブとかも見た」
「日本の若手の殿堂という感じでしたね。Asiaだけでなく系列のクラブも使って、フロア移動しながら行われるイベントはとても幸せ——祝祭感ありました」
「ほんと、道玄坂の週末のお祭り騒ぎはいろんなクラブがあってのものと、あたしも思う……」
「なんか寂しいかも……次に行く時に閉まっているクラブのビルの前を通ったら……」
「なんか……(涙ぐむミーネ)……うっ、悲しくなってきました」
「まあ、まあ。今、あたしらが悲しんだり暗くなっていてもなんにも進まないから。もっと元気だしていきましょ」
「オーケー。ポジティブにだね! そういうの僕得意だよ。悪いこと全部、忘れて明るく行こう!」
「私も……キッカみたいに考えれれば良いですが……」
「……考え方も、性格も人それぞれ。ミーネさんは、ミーネさんのやり方で行けば良いと思うわ。ただ、悲しんでだけいてもしょうがないということで……」
「ミーネ元気出せよ」
「……いえ。大丈夫です。なんかすみません」
「正直、クラブのお客なだけの、あたしたちに今できることは少ないわ。さっきも話になったけど、支援にも限界あるし。今は、クラブの復活を希望を持って待つことが、あたしたちにできる一番のことだと思う。復活した時にクラブカルチャーが消えていたなんてことのないように」
「でも、ほんとなんとかならないのかな? 政府とか支援するべきじゃないか」
「確かに、クラブも、文化として公的な補助がもらえありしないのでしょうか?」
「ああ、確かに、クラバー的にはそう思う——あたしも、そう思うけど……
「でも、クラブ文化がなくなると、僕は困るな」
「困る人いっぱいいれば、政府に陳情したりできないでしょうか」
「じっさいDJ Nobuとか公的支援を求める行動をとってくれたりもしたし、そういう動きをすることはクラブシーンとして行うべきだと思う。でも、自分たちが他に比べて救われるべきだという選民思想のようなもの持ってしまうとだめ。そういう人本当にいたかはわからないけど、和牛券を馬鹿にしておいて、その口でクラブは大事な文化なので救うべきだともし言ったら単なる傲慢になってしまうでしょ」
「う、僕は和牛も守りたいな……美味しいから……」
「もし、守るべきものが多数決で決められたら、和牛を守って欲しい人の方が多いし……牧場も多い私の田舎ではたぶんそういう人のほうが大勢だと思います」
「和牛も、世界に誇る部品加工をする中小企業も、守るべき日本の文化であり、経済なんだと思う。もちろん、クラブもそのうちの一つで、自分の所属する、守りたい文化が高尚なのではなく、全て守らなければならない文化なんだと思う」
「でも、中小企業向け政府の補助は出てるんだよね? クラブもそれで助かるんじゃないの?」
「でも……補助が十分でない、政府のコロナ対策予算は諸外国に比べて全然足りないとよく聞きます」
「諸外国……と日本は国の状況も違うし、経済政策の動向を正確に語れる知識ないから、あたしにはどれが正解とは語れないけど……現在の補助だけでは十分ではなくて廃業してしまうクラブが出ていっている現状というのは間違いないわね。まあ、これは飲食店やカフェなんかもそうだけど」
「そういや、僕の家の近所の定食屋さん店閉めるってでてたよ」
「私の行きつけのカフェも6月で店を開かないで廃業のところあります」
「結局、そういう風に、日本全体で新型コロナの影響で辞めざるをえない店がいっぱい出てきてしまって、経済全体が落ち込んだら、そもそもクラブを楽しむような文化的余裕もなくなってしまう……クラブだけは他に比べて救えというのを単純に考え無しで主張するのはうかつになってしまうと思う」
「そうだよね。でも、やっぱりクラブの未来が心配だ。和牛も心配だけど」
「他は救われたけど、クラブはだめというこはないでしょうか?」
「うん。あたしが心配してるのもそれ。他にも、クラブだけじゃなくて、ライブハウスや、スポーツイベントとかの、密集して、人との距離近かったり、接触の多い業態——ジムとかも、器具通して濃厚接触起きたりして、コロナ禍の初期に随分と騒がれたから同じように危ないかもしれないけど——ともかく、コロナの前と後ではその位置づけが全く変わってしまった業種って、果たして同じ様な状況に戻れるのか? 戻るのも時間がかかるのでは? と思う」
「戻るのに時間がかかると……」
「元のように経営できるまで時間がかかりますね……クラブ廃業の可能性も多くなる……」
「だからって、クラブみたいな業種により多く補助を行うべきだと主張できるような状況には無いと思うけど……でも……」
「でも?」
「何かあるのでしょうか」
「あたしたちにできること……キッカさんも、ミーネさんも……クラブは、クラブミュージックはクラブカルチャーは好きよね」
「もちろん」
「アナさんと会うまでは、こんなに自分の生活の一部になるとは思えませんでしたが……今は無くてはならないものです」
「……じゃあそのまま好きでいましょう」
「え」
「それだけで良いのですか?」
「それ
「僕はわすれないよ」
「私も、そのつもりです」
「うん、もしかしたら、このコロナ禍というものは、この後、クラブに限らず、人間の生活を変えるほどのインパクトがある事件なのかもしれない。人が集合して会社で仕事するとか、すし詰めの電車で通勤することが是とされないような時代になるかもしれない。そしたらクラブというものは、今の形態では存在できないようになるかもしれない」
「でも、僕はクラブ好きだよ」
「どんな形態でも、私もクラブが好きです」
「実は、来年くらいにはあっさり新型コロナのワクチンができたとか、インフルエンザと同じように、弱毒化したり抗体を持ってる人が多くなったりで、予防は必要だけどロックダウンまでして警戒するほどの病気ではなくなるかもしれない」
「お、そしたらクラブも元通りかな」
「そうなれば良いと思います」
「でも、今度は別のウィルスが同じように猛威を振るうかもしれない。結局、この何十年家で緊密なグローバル化がされた地球はあっという間に世界中にウィルスが広まってしまう状況になってしまっているのだから、第二、第三のコロナが現れるかもしれない。そのときには同じようにクラブの存続が危機にになるのであれば、クラブというものを作り維持するというのはあまりにリスクのある経済活動となるかもしれない……」
「まじ?」
「そうなってしまうと……やはりクラブはなくなってしまのでしょうか」
「もう一度聞くね。クラブは、クラブミュージックはクラブカルチャーは好き?」
「むろん!」
「もちろんです」
「正直、私は、2,3年したらそういえばコロナってあったよなといような状態になっていて、クラブとかも元通り担ってるんじゃないかなって、なんの根拠もなく思っているんだけど。そうならないにしても、いえ、逆ね……そうなるためには、クラブを単なる場所としてでなく、本気で思い焦がれる……そんな人たちがいることが重要だと思うの」
「僕はそうだよ」
「私もです」
「あたしも……だから今は、あわてず騒がす、じっと待ち——もしかして、世の中が変わろうとも、その変わった世界に向けて、この恋い焦がれたクラブへの気持ちをぶつけるべきだと思うの。そうすれば……」
「クラブは復活!」
「できるのでしょうか?」
「……クラブというものが今のクラブと同じものではなくなる可能性はあると思うけど……あたしたち望むなら……」
「きっと、それがクラブなんだね」
「今は、それがどんなものかわからないけど……」
「ええ、きっとそれは……」
「……」
「……」
*
と言うわけで、『ふわクラ』特別編、その後は単なるリモート飲み会になっていく三人組の会話はこのくらいで終わりとしたいとおもいます。
コロナの患者数はだいぶ少なくなってきたとはいえ、この後も余談を許さぬ状況が続くと思いますが、この後また本編でのクラブレポートが復活する日を期待して本日は物語は終わる……
ふわクラ〜ふわっとクラブカルチャー体験 時野マモ @plus8
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ふわクラ〜ふわっとクラブカルチャー体験の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます