第27話 どこにいるのですか?
「ちぇっ……ちょっとくらい見せてくれても良いのにね」
会場に来ているらしい両親を見せるのを、アナが嫌がっているのに対して、ふてくされ気味のキッカであった。
でも……
自分もちょっと嫌かな?
って、田舎の両親のことを思い起こすミーネであった。
とはいえ、ミーネが自分の父母のことを恥ずかしく思ってるとかではない。
それどころか自慢の両親である。とミーネは思っていた。
親子仲も良く、一緒に観光地とか歩いていると、『良い家族ですね』とか年配の方に声をかけられたりすることもあり……むしろこの二人の間に生まれた自分を積極的にアピールしたい気持ちの方が大きかった。
でも、もしこのパーティ会場に二人が来たら? とか考えると、ナイナイ……って心の中で思いっきり首をふってしまうミーネであった。
だって、人の良さそうで、まじめそうなおじさんとおばさんが、地味な服を着てここに現れたら……? いやいや、クラブファッションみたいな派手な服を着てやってきたらそれこそ大惨事である。
両親のそんな姿を想像すれば——無言となって、背筋が寒くなってぶるっとふるえるミーネ。
「どしたの?」
それを見て、不思議そうな顔になるキッカであった。
「……あ、気にしないで。やっぱり、アナさんの気持ちもわからないでもないと言うか……」
「——? 親と会わせたく無いってこと?」
軽く首肯するミーネ。
「……まあ、僕も自分のママとかここに来たら浮いちゃうかなって思うけど……アナさんの両親だよ」
「確かに……」
アナの両親だったら自分の両親と違って、このハウスの大パーティに来ている年輩の人たちみたいに全然違和感無くとけ込んでいるのではないかな……とか思うミーネ。
もしかしたら、今見渡すこの会場のどこかに二人がいて……
「だ……だめ。とにかく……気にしなくて良いから」
「お姉さん? お母さんたち呼んでくればいいの?」
「ち……違うから!」
天然ちゃんである
「そんなことより……あたしの両親のことは、おいといて、まずはさっさと踊りましょう」
「いや……その前にお酒でしょ!」
「お姉ちゃん……お腹すいた」
いつもの、まとめ役のアナがあたふたしていると、なんか収集がつかない感じになりかけている三人娘+妹であったが、
「……私は会場ざっと見たいかも。知り合いが来てるかもしれなくて」
「……え? まさか男」
いきなり冷静になり、鋭くミーネのことを睨むキッカであった。人を殺せる奴の目はこういうものだろうというような冷ややかな眼差しであった。もちろん殺す相手はミーネでなく、その名も知らぬ泥棒猫であった。
「……なわけないでしょ……バイト先の店長で、素敵なお姉さんよ」
「へ……その人がここに来てるの?」
お姉さんと聞いて、一気に殺気の消えるキッカ。素敵と聞いて、少し口のはしがだらしなくなっている。
「……今日も途中まで店にいなきゃと言ってたから、来れるのは夕方かもしれないかもって言ってたけど……その店長がね……実はね……」
「……?」
「……アナさんのお母さんの知り合いみたいなの」
「——え!」
と言うわけで始まるのは、ミーネのバイト先の店長、
先にアナの母親が東京に行き、それを追うかのように仙台を後にした店長。
しかし、連絡の途切れた二人は、その後ずっと会うこともなく20年以上が経ってしまう。
でも、たまたまミーネの話で、アナの母親がBody & Soulにやってくることを知り、ならば久々に会いたいなと……
「次のシフトのバイトの先輩来ないと店から出れないって言ってたので……まだ来てないとは思います。後で電話入れてみますが……」
「う……!」
その時には、両親をちゃんと紹介してくれよ、と視線に圧力をかけるミーネだった。さすがに、20年ぶりの再開と言われれば、それを断るのは難しく、しぶしぶ覚悟を決めたような顔となるアナ。
「それなら……」
後ですぐに店長に案内できるように、まずはアナの両親を紹介してもらおうと言いかけるミーネ。
しかし、
「まあ、どっちにしても、店長さんまだ来てないのなら……まずはお酒を買いに行こうよ」
「そ、そうね……」
そろそろ、酒が切れてきて、そっちの確保の方が重要になって来たキッカ。
「お姉ちゃん、私あの辺で踊ってるから……後で、何か食べさせてね……」
そして、レイの方はもう踊るのが待ち切れなくなったようで、DJブースの前の人だかりの中に入って行く。
「……じゃあ、私たちもさっさとお酒買って踊るよ!」
「あ……はい」
「じゃあ、行こう!」
と言うわけで、なんとかごまかせた……と安堵するアナであった。
まあ、今だけだけどね。
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