第11話 DJをやってみよう

「じゃあ、ちょっとやってみるね……」


 そう言うとアナは、リンビングの奥のDJ機材一式のところまで歩いていく。

 次々に電源を入れ、


「どうせならヴァイナルでやっちゃうか」


「ヴァイナル?」


「ああ、ヴァイナルは——ビニールで……レコードのことよ」


「レコード……CDができる前にそれで音楽聞いてたんですよね。親の部屋に何枚かあったかも……かける機械はもう持ってなかったみたいだけど」


 キッカが古代の遺物のことでも語るような表情で言う。


「うちの田舎の実家には親のステレオがありました。子供の頃はそれで昔のヒット曲のレコード聞かせてもらったこともあったけど……レコードプレイヤー壊れてから——もうずっと使ってなくてただの飾りになってました」


「うん。僕も、小さいとき、親がDJ用の音楽かける時以外は、確かにレコードなんて聴いたことなかったかもしれなかったけど……今じゃCDもろくに買う時ないわね」


「ネットのダウンロード販売だけで十分ですよね。音楽聴くのなら」


「そうね。実際、今じゃDJだってネットのダウンロードで十分にできちゃうみたいだしね。あえてヴァイナル——レコードを使わなければならないことはほとんどないいみたいだわ。デジタルデータでもコンピュータつかったり、CDに焼いたり、USBに入れたりすればDJミックスは普通にやることができる。むしろ、そっちの方が操作性とか良いかもしれないわね。今となっては。それでも……」


 アナは、近くの棚から何枚かのレコードを取り出しながら言う。


「レコード選択するDJは今でも根強く残っているの。その理由は……」


 アナは、レコードをターンテーブル——レコードプレイヤーの上に乗せる。

 

「……家で出せる音量じゃわかりにくいかもしれないけど、まず音色の違いってのはあるわ」


「そういえば、レコードの方が音が良いとか言ってる人をネットで見たことがあります」


「ううん……良いか悪いかっていうのは、主観の問題だったり、定義の問題だったりするけど……安易に良いって言うのは危険だと僕は思う」


「なぜですか?」


「元の音の再現できる音量や高低のさや細やかさとか測定すれば、明らかにレコードみたいなアナログ音源よりデジタル音源の方が良い結果がでるのよ。もし良い音っていうのが再現度の高さっていうのなら、レコードよりデジタル音源の方が良いってことになるわ」


「じゃあ、デジタル音源の方が良いってことですか?」


「……そう安易に言ってしまうのも危険かな……」


「「……?」」


「まあ、聴いてみればわかるよ。じゃあDJミックスの前に同じ曲一度聴き比べてみようか」


 と言うと、アナは横の棚からCDフォルダーを取り出すと、パラパラとめくり、


「……あった。あった。まずはCDの方からきいてみるわね」


 CDを机の上のCDJ——DJ用のCDプレイヤーの中に入れる。


 そして、スイッチを何個か押し、ミキサーのヴォリュームをあげると流れ始める音楽。甘く、アダルトな感じのハウスミュージック。


「これ、なんて曲ですが?」


 ミーネがかかった曲に興味を示す。


「Blue Sixっていう人のPureって曲よ」


「あ、こう言うの私好きかも」


「大人っぽい……なんかしびれる憧れる」


 なんかうっとりとした顔になるミーネに、ちょっとネットスラングの使い方間違っている感じのキッカ。


 そして、なんにせよ、二人ともかけた曲を気に入ってくれて嬉しそうなアナ。


「うん。もう二十年もたった、私たちが生まれたか、生まれる前かって頃の曲だけど……今でも色褪せない……名曲よね」


 首肯するミーネとキッカ。


「でも……今やりたいのはこの曲をずっと鑑賞することじゃなくて……」


 CDJを操作して音を止めるアナ。そして今度はターンテーブルのスイッチを押して針をレコードに落とす。ミキサーを操作して……また流れ出す音。


「かけたのは同じ曲よ。Blue SixのPure。今度はヴァイナル——レコードで聴いてみて」


「あれ?」


「ん?」


 なんだか難しげな顔になるミーネとキッカ。


 何か違いに気が付いたようだ。


「どう……」


「なんかちょっと違いますね……レコードの方は音が柔らかいと言うか……」


「でも、音はちょっとぼんやりしているかもしれない……聴き比べないとわからないかもだけど……」


「うん。やっぱわかるよね。レコードとCD、アナログとデジタルの違い。でもどっちが良い音って言われて答えられる?」


「私は……どうだろ、レコードの方がまろやかで良い音のような気がするけど……」


「僕はCDの方が音がくっきりしてて好きだな……」


 意見が分かれた二人。それに気づき、見つめあって……ちょっと困ったような顔になる。


 アナが、微妙な感じになってしまった二人に向かって言う。


「そう、そんな風に分かれてあたりまえなのよ。人の感覚なんて十人十色。好きだ嫌いだは、当人からしたら間違えようがない真実だけど、それが一般的な良い悪いを保証するわけじゃないのよね。むりやり人に好き嫌いを押し通そうとすると、それって、結局信仰の問題だから、宗教戦争なっちゃうわよね。今も、二人の意見別れたわけだけど、相手の言うこと納得できる?」


「え!」


「ん!」


 なんか微妙な表情となる二人。


「おっと……あたしは二人に喧嘩してほしいわけじゃないからね。そんな風に人の感覚は曖昧だけど、ある意味鋭敏で、同じものに様々な感想を持つ人がいて、とても一般化なんてできない……ってことをまずは覚えておいて」


「「はい」」


「じゃあ、次にミックス……曲をつないでみるね。同じBlue SixのMusic & Wine がいいかな」


 アナはもう一枚のレコードを持つと、もう一台のターンテーブル——レコードプレーヤーにのせ針を落とす。その後、ヘッドフォンを肩にかけ片方だけ耳にあて、レコードを何回か手でこすったあと、体で少しリズムをとりながら、ターンテーブルのスライダー、レコードの中心の溝がない部分——レーベル面に触ったりする。


「今、何をやってるんですか?」


 興味深そうな顔で尋ねるミーネ。


「ピッチを合わせてるの」


「……?」


 ピッチといきなり言われてもと言う様子のミーネ。


「音楽の速さのことね。マラソンとかで『ピッチをあげて』とか聞いたことない?」


「あ、そうですね! 受験勉強の追い込みの時、塾の先生に『このあと、ピッチ上げていくぞ』とかいわれました」


「うん。ピッチというのは走ってる時の足の動きみたいな、繰り返されるものの間隔が短くなることを上げてくとかいうのね……音楽もそうでしょ」


「このドン、ドン、ドンみたいな?」


 キッカが音楽に合わせて手を動かしながら言う。


「そう。このドンドン行ってるバスドラム……ビートの繰り返しが早くなれば……」


 アナは、そう言いながら、今かかっているレコードの乗るターンテーブルのスライダーを引く。


「あれ……早くなった」


「ドンドンドンの間隔みじかくなりましたね」


「ハウスミュージックはピッチの変化わかりやすいよね。このドン——っていってるのはバスドラムなんだけど、基本的には一小節を四分割して叩かれていて……」


 今度はターンテーブルのスライダーを押して真ん中に合わせる。


「あ、今度は遅くなりましたね」


「ね。ピッチ——スピードがわかりやすいでしょ。スピードがわかりやすいってことはリズムも取りやすいってことで……そのせいかは断言しないけど、四分割したビートだから4つ打ちとか呼ばれてる、こういうリズムがクラブミュージックでは最大勢力なのは間違いないわ」


 なるほどと、納得したような顔のミーネとキッカ。


 その様子を見て、


「……次にね、そのピッチのあわせ方を見せるわ」


 アナは今度は別のターンテーブルのスライダーを適当な感じで少し動かす。


「この状態で、ミックスしちゃうとね……」


「あれ」


「ドタ、ドタ、ドタっていってるね」


 アナがミキサーで二つのターンテーブルの音を混ぜだのだが、二つの曲のビートが混ざらずにぐちゃぐちゃになる。バタバタとまったくリズムが取れていないような音がスピーカーから出てきてしまっている。とてもミックスと呼べるの物ではない。


「……一度こっち止めるね」


 アナが、後でかけた方のターンテーブルを止める。


「こっちの曲はあえてピッチずらしてたんだけど、合わせていくね。本当はこっちのレコードの音は消音して出さないでやるんだけど……今日は出したままにするね」


 アナは一度止めたターンテーブルをスタートさせると、すぐにレコードに直接触って回転を止め、そのあと逆に回して音が途切れたところでとめる。


「こうやってレコード逆回転させたりして、頭出しできる場所探すのよ。頭出し——音の出だしがわかりやすい場所から曲をスタートさせるの。それは曲の頭なことが多いけど、必要に応じて曲の途中にしたりするわ」


「あ、今度はうまく混ざった……」


 アナがレコードのビートのタイミングをうまく合わせてスタートさせたら、二つの曲のリズムが同期して、一つの曲のように聞こえた。


 ミックス成功?


「ん、ずれてきたような……」


 と、思ったらすぐにまたビートがドタバタとなる。


「今はまだ、二つの曲のピッチ——スピードがあっていない状態なのね。なので、この調整が必要」


 アナはあとにかけた方のレコードから針を上げ、もう一度曲の先頭に落とし再度レコードを手でこすりながら頭出しをもう一回行い、手を離す。


 再度かかり始めた曲は、最初はうまくビートがあっていたがすぐにずれ始める。


 しかし今度はアナはターンテーブルのその右手前のスライダーを上下させたり、レコードに軽く触れたりしているうちにビートのずれは収まる。


「あ、すごい!」


「ドタバタがおさまった!」


「こうやってピッチあわせてビートがあうんだけど……」


 微妙にリズムがバタバタし始める。


 またスライダー(正式な名前はピッチコントローラー)をいじったり、レコードに触ったり、レコードを差し込んでいる軸をつまんでくるっと回して見たり……


 いつの間にか二つの曲のビートはシンクロし始める。


「これで大丈夫かな……しばらくは」


「しばらく? ですか?」


「アナログって、どうしてもピッチがブレていくのよね。特にこのテクニクスのSL1200は定番ターンテーブルだけど比較的ブレが大きい方ね。ほら……」


 また少し、バタバタし始めるリズム。


「もちろん、僕のピッチ合わせの腕が悪いのでまだ微妙にずれていたってのもあるかもしれないのだけれど……どんな上手い人がミックスしても機械の方で少しずつピッチが揺らいじゃうので……調整が必要」


 アナは、話しながら、また、片方のターンテーブルのレコードを差し込んでいる軸をつまみ回す。


「それ、何やってるんですか?」


「こっちのレコードの方がビート遅れてたから、レコード回しているモータの回転を手で回して早めてやって、曲を進めたのよ」


「?」


「こうやっても良いけど……」


 今度はレコードの中心側の曲名が書いた紙が貼ってあるところ——レーベル面を回転方向に合わせて軽く撫でるアナ。


「あ、そうやってもらえればわかります! 回転方向に力を加えて一瞬、回転速度をはやめるんですね」


「……そう。そうすると遅れてた曲のビートが追いついてくれるんだよ。一瞬押しただけだから、力が加わる——早くなるのはその時だけで、そのあとはまた自然にずれてくるまでは二つの曲のビートはシンクロしたままになる」


「逆に早くなってる曲の方を遅くしたければ、軸を回転と逆方向に回すか、レコードに逆方向の力が加わるおうに撫でる……」


 そう言いながら、今さっき触ったのとは別のレコードに触るアナ。すると、またちょっとずれかけていた、二つの曲は綺麗にシンクロし始める。


「しょっちゅう触らないとビートが合わない場合は、機械の揺らぎのせいじゃなく、まだピッチずれている可能性高いからこのスライダー……ピッチコントロールで微調整……」


 アナが、またスライダーに触ったあと、今度はしばらくはビートのシンクロが続く。回る二枚のレコードを見て、満足そうに首肯するアナ。彼女としてもうまくいった方のピッチ合わせのようだった。


 ただ、DJはピッチを合わせれば良いというものではない。


「じゃあ、今のをDJミックスとしてやるときにどうなるかを見せるわね」


 そういうと、後にかけた方Blue SixのMusic & Wineのレコードを止めるアナ。

 そしてDJミキサーの縦に動くフェーダーの一つ、ヴォリュームの調整する為のスライダーを一番手前まで引く。


「これで、こっちの……今止めた方のレコードの音はでないの……」


 そう言うと、止めたレコードを再スタートするアナ。


 確かに、言う通り、そちらのレコードの音はスピーカーからは聞こえてこない。


 でも、


「そうしたらどうやって……ピッチ? でしたっけ——を合わせるんですか?」


 と疑問に思ったミーネが聞く。


「そうよね。音が聞こえてないのに、音をずれなく合わせられたら超能力者よね……その秘密は……ほら……」


 アナが肩にかけていたヘッドフォンをミーネの耳に押し当てる。


「あ!」


「何? 何?」


「キッカさんも……ほら……」

 

 今度はキッカの耳に押し当てるアナ。


「曲が聞こえる!」


 キッカも合点がてんがいったような顔。


「DJはこうやって次の曲をヘッドフォンでモニターしながらピッチを合わせていくの。そうすれば音を混ぜる途中の針を落とす音とか、乱れたピッチの音とかフロアで踊っている人たちには聞かせないで済むでしょ。であとは……」


 アナは、DJミキサーのフェーダーや回転ダイヤルなどを様々に触る。


「……こうやって低音とか、高音とかうまく両方のレコードから抜き差しして、音を次第に混ぜていって……」


 次第に一枚目のレコードの音は消えていき、二枚目のレコードの音がで始める。


 二つの曲は、スムースに、自然な感じで混ざり合い、そしていつのまにか完全に一枚目のレコードの音は消える。


「はい。これでつなぎは完成……ミックスが終わって、次の曲に映った状態よ」


 スピーカから流れているのは後にかけた曲、Music & Wineのみになる。


「「おおお!」」


 立ち上がりスタンディングオベーションをするミーネとキッカ。

 

「すごいです。アナさんはDJもできたんですか!」


「行くよ。アナさんのってるクラブに行くよ!」


 クラバーの先輩だと思ってたアナがDJでもあると思って興奮している後輩二人。


「いやいや……あたしなんて……DJの真似事って言ったじゃない……友達のごく小さなパーティでらさしてもらったことはあるけど……まあDJと呼ばれるほどの腕を持ってるわけではないよ……」


「「……」」


 アナにきっぱりと否定されて、興奮がおさまる、というかちょっと肩透かし気味になって、黙ってしまうミーネとキッカ。


 まあ、実は、子供のころから親のDJ機材を触って遊んでいたアナは、クラブに出ても恥ずかしくないくらいの腕は持っていたのだが、クラブ初心者の二人にそれがわかるわけもない。


「まあ、それよりも、さっきも言ったように……二人もミックス実際にやってみない? そしたら聞いてるだけよりもよくわかると思うよ」


「えっ……無理です、無理、無理」


 焦って拒否するミーネ。


「無駄! 無駄! 無駄!」


 相変わらずネットスラングのおかしいキッカ。というか、ジ●ジ●ファンなのだろうか?


「大丈夫。こっちでやってもらうから……」


 ミキサーの奥にたてかけられていたタブレット端末を持つアナ。


「?」


「iPad?」


「そう、今時、これでもDJミックスできるの……」


 そう言いながらDJアプリをを立ち上げるアナ。


「ミキサーには接続済だから、これでもう音がでるわよ」


そう言いながらミキサーのフェーダーを触るアナ。いままで0レベルになっていた入力のヴォリュームをあげた——iPadからの音をスピーカら出力できるようにしたのだった。


 その後、アナがiPadのアプリの操作をして音が出始める。曲はさっきと同じBlue SixのPureとMusic & Wine。その二つは、アナが画面にちょこちょこ触るたびに滑らかに混じっていく。


「あ、さっきと変わらずミックスできましたね、アナさんすごいです!」


「いやだから……僕なんて真似事だって……とまあ、それはおいといて」


 アナは残りの二人にiPadの画面を見せながら言う。


こっち・・・はさっき苦労して合わせたピッチは機械の方で勝手に合わせてくれるから、その分は楽だけど、その後の混ぜたりする為にヴょリュームの上げ下げなんかをちゃんとタイミングよくやらないといけないのは一緒なのだけど、二人がDJミックス体験して見るにはこっちの方が良いかも」


「ただその前に……」


「「……?」」


「……このiPadでのミックスはどうだった? さっきレコードでのミックスに比べて?」


「あ、あんまり違いに気づかなかったのが本音ですが……さっき話題に出た音色以外での話ですよね」


 首肯するアナ。


「……こっちの方がかっちりと音が混ざったような気がして……音色と同じで……レコードの方があったかいというか、人間的というか……」


「あ、僕はこのかっちりした感じで曲が混ざる方が好きかも」


 また意見が別れたミーネとキッカ。


 でも、今度は、


「……どっちが正解というわけではないんですよね」


 ミーネの発言に嬉しそうに微笑むアナ。


「そうよ。もちろん不安定なヴァイナル——レコードでのミックスでターンテーブルの揺らぎに乗りながら曲を繋いでいく、その独特のグルーブを今も続けているDJは尊敬するし、そんなミックスは僕も好きだけど……そればかりが正しいとおもっちゃいけないってことね」


 首肯するミーネとキッカ。


「デジタルでは、ピッチも正確に、音圧もダイナミックレンジも大きい……小さな音から大きな音までしっかりと出るし、そんなデジタルでのミックスはレコードとは違う意味で質の高いミックスが可能になるわ。リズムやグルーブをDJが正確にコントロールできるようになってよりDJの意思通りのミックスが行えるようになる……そういう意味ではアナログの方が普通は人間的な音とか言われているけれど……デジタルの方が……それがデジタルに人間がコントロールされてるのでなければ——デジタルをコントロールしているのが人間の方なのならば……意思をより正確に出せるデジタルの方がより人間的とだって言っても過言ではなく……これってデジタル技術の発展で他の分野でも見られる現象で……結局人間的と言うのは何なのかって……アナログの操作性をデジタルに移行できるまでの過渡期の機械っぽさがデジタルの特性と誤解されたり……結局デジタルも最後はアナログなこの世を揺らしているわけだし……」


「「……」」


「ん?」


 クラブミュージック初心者の二人に、ちょっと饒舌に語りすぎて黙られてしまったことに気づくアナ。


「あ……ごほん。それじゃ、二人ともDJやってみようか……」


 というわけで、昼に江ノ島まで遠出した体も、目の前に新しいおもちゃを出された子猫のようにワクワクとなれば、さすが若い三人、あっという間に疲れも忘れる。


 三人でああだこうだといいながらミックスをしたり、休んでお茶を飲んだり。昼に持っていった酒が残っていてもったいないからとキッカが酒を飲んだり、アナの親の秘蔵のお菓子を食べたり、それをつまみにキッカが酒を飲んだり……意味もなくキッカが酒を飲んだり……


 そして、そうやって、三人が和やかで楽しい時間を過ごしていたら、いつの間にか日も変わり、夜もふけて、そろそろ寝ようかなという時間になったものの……


「なんか目が冴えちゃって、眠れる気がしません……」


「電車で爆睡してしまったので……まだ眠くないかも……」


 いろいろ楽しくて眠る気がしなくなったミーネとキッカのようであった。

 

 でも、それならば、


「じゃあね、眠れないなら……良いことしましょうか」


「……良いこと?」


「え、女どうしで!」


 なんか興奮して顔が赤くなっているキッカ。


 しかし、アナの良いこととは、どうやらキッカの思っているようなことではないようだ。向かい合う二人の顔を悪戯っぽい顔で見つめながら、彼女は言う。


「そうね、良いこと……このまま夜のパーティに行って見ましょうか!」


 と。

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