第2話 クラブってどんなとこ
さてさて、突然
「……なんで?」
で、ともかくキッカは、心に思ったそのままを言う。
「なんでっていうか……なんでだろ?」
でも、相手も同じく思ったままそのままで返してくる——というか深く考えていなささそう。
「知らないわよ——僕が知るわけないでしょ!」
「そりゃそうだけど。私もよくわからないんだ」
「…………」
少し呆れ顔なキッカ。
「少し変わったことしてみたいっていうか……思いついたんだけど」
「なにかきっかけとか?」
「しいていえば」
「……いえば?」
「なにもきっかけがないことかしら」
「はあ?」
キッカは、からかわれているとでも思ったのか、少し怒り顔。
「あ、冗談とか、からかってるとかじゃないのよ、私達マンネリだと思わない?」
「……? 何よマンネリって? 僕たち付き合ってるわけじゃないじゃない」
「ん? そういう意味じゃなくて……」
キッカの頬が少し赤くなっていたのを女どうしで何なんだと思いながら、ミーネは言う。あ、あとキッカ『僕』とか言ってるけど、男なわけじゃないからね。僕っ子なだけだからね。
「なんだかこの頃同じことばかりしていない?」
「?」
「……東京出てきた時には、この街には無限の可能性があると思ったんだけど……いえ、まだまだ自分がしてないこと、できてないこといっぱいあるんだと思うのだけれど、自分がやれる範囲で言うとやっぱりいつの間にか限界ができちゃって」
なるほど、という顔になるキッカ。さっきからさんざんそれっぽい前ふりをされたうえでの話なので、さすがにミーネがどんなことを思ってクラブに行きたいといいはじめたのかを察する。
つまりは、
「……で、クラブに行けば限界を突破できると思ってるってこと?」
「そこまで大げさな話じゃないんだけど……」
少しため息交じりに、なるほど、またか、といった感じで頷くキッカであった。
ミーネとは、知り合ってからの今までの一年で、何度もこういうことがあった。
突然意識高くなって英会話スクールやビジネスセミナーとかに行こうとしたり、日本人だからとか言い出して詩吟の教室に行って見たり、自分を鍛えるとか言ってジョギングを始めて見たり……。
いつも、何か物足りなく感じている自分の可能性を常に模索しているミーネ。もっとも、どれも長続きせずに尻すぼみになっているのだったが、
「で? そんな話を私にすると言うことは一緒に来て欲しいってこと?」
「——あ、それは別に考えてなかったけど」
「…………」
「でも、そうかも、いえ、絶対一緒に来て!」
またたく間に顔がぱあっと明るくなるミーネ。クラブ行きたいとか言ってみたものの、一人では不安だったのだろう。そして、そんな彼女の思いを無下にできるようなキッカでないので、一緒にクラブにいくことは決定である。
でも、
「……良いけど、大丈夫かな?」
「大丈夫って何が?」
「だってクラブよ」
キッカはどうも不安なようだ。
なぜなら、
「危なくない?」
「……? 何が?」
「パリピだよ」
「……?」
「クラブについて行くけど、僕はその後は着いてかないからね」
「後? 何に?」
「クラブってそういうとこじゃないの?」
「え?」
「ナンパとかされまくって持ち帰られたりして……まあ、一度人生経験のためになら行ってみてもいいけど。僕そういうのなしだから」
「はあ?」
「意外だね。ミーネって結構ビッチだったんだ……」
どうもキッカはクラブとはそういう場所——ナンパされるするための場所であると思っているようだ。
「待って、待って! そういうんじゃないから!」
なんか誤解されてると気づいて慌てるミーネ。
親友にビッチ認定なんてたまったもんじゃない。
「そういうんじゃない? じゃあ何しに行くの?」
「音楽、音楽聴きにいくに決まってるじゃない」
「——まあ確かにクラブって音楽かかってるんだろうけど……水音ってそんな音楽好きだっけ?」
「ま……まあ」
ちょっと目が泳ぐミーネ。いや、もちろん人並み以上に音楽は好きと思っている彼女であったが、正直クラブでかかるような音楽に詳しいわけでも、好んで聴いてるわけでもない。
今後は、詳しくなって——好きになろうと思っているけれど。
「それに、クラブって曲に合わせて踊ったりするんでしょ。踊り方知ってるの?」
「た……多少」
「ふーん……」
「何よ……」
疑わしげな目のキッカ。
「こういうのでしょ……できるの?」
なんだか手をパラパラと動かしてみるキッカ。
「……それはちょっと違うような」
「じゃあどういうのよ」
「ピョンピョンはねたり、地面で腕立て伏せみたいなのしてたような……動画で見たんだけど……」
「ブレイクダンスのこと言ってんの……それこそミーネできるのそれ?」
それは、ブレイクダンスでなく、ミーネが調べた動画で見たハウスダンスを説明したのであった。しかし、ダンスに詳しいわけでもないふたりからするとその区別はよくわからない。今の所は。
「できるかと言うと……だけど、練習頑張れば……」
「まあ、今はできないってことね」
「…………」
無言になることで、キッカの問いに答えるミーネであった。彼女は、自分がちゃんと踊れるのか不安になっているようであった。
無様な踊りをしてしまって周りからバカにされないかと心配になっていたのだった。
まあ、そもそもクラブにキレキレに踊れないと来ちゃいけないわけではない。踊れても踊れなくても、みんな思い思いの楽しみ方をすればよい場所なのあるが……
でも、クラブに行ったこともなくて、情報にうとく、ネットで検索するといろんな相反するような情報も溢れていて、混乱してしまっていたミーネ。クラブがどんな場所なのか、やはりよくわからないまま、色々語り始めてしまった二人なのであった。
で、そんな状態なので、二人きりで話せば話すほど不安は増えてしまう。何しろ、クラブのなんなのかが良くわからない同士で、想像であれこれと語り合っているのだ。ちょっとだけでも懸念があれば、それは彼女らの間を行き来して、たちまちの間に大事にまで膨らんでしまう。
「まあ、僕、行ってみても良いって言ったけど……」
「確かに、ちょっと不安な感じはするね」
少しでも懸念点があれば、やっぱり、クラブへはもうちょっと考えてから行ってみようかなんて——弱気の虫がどんどんと心の中にわき出してくる。
何しろ、クラブデビューなんて、必ずしも、今すぐやらないといけない事というわけではない。ならばもう少し心が固まってからでも良いのではないか? 今は他にもっとやるべきことがあるのではないだろうか? ——とかとか。
やらない理由はいくらでもあげることができる。今の日常に、何か根本的に改善しなきゃいけないことがあるわけでもないのだ。それならば、最適の行動は、新しいことをあえてやることもないとなるのが道理。リスクをあえておかす必要もない。
でも……
——いやいや! だめだめ!
ミーネは、そんな優柔不断な自分に心の中で喝をいれる。こうやって、中途半端で思いきれずにそのままにしていることって自分は結構多いなって、反省しながら、彼女は思う。
基本、怖がりで新しい物には及び腰、でもいつも現状には満足してない。やりたいけど怖い。怖いけどやりたい。この循環をグルグルといつまでも続けてしまう。ああ、英会話スクールの体験入学申し込むくらいで一体何週間悩んだことか。
今回も、このままでは、親友の黄歌のノリあまり良いとはいえず、悪く、きっと何週も悩んだ末にクラブデビューはできないままこの件は終了となってしまうのかも知れない。
——もし
しかし、
「今日はある人呼んでるの」
「……?」
「私たち二人だけじゃクラブのことよくわからないままで、きっかけがつかめずにそのままいかないで終わるんじゃないかと思って……」
ミーネは振り返り、カフェの入り口に立つ、クールな雰囲気の黒髪ショートカットの美人を見ながら言う。
「ああ、ちょうど着いたみたい。あの人が……私のゼミの先輩にしてクラバーの大先輩——
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