11 「深夜のからあげ」3/18
お題『コンビニ・店員・からあげ』
タイトル「深夜のからあげ」
2185文字・65分
○コンビニ・前(深夜)
青を基調としたデザインのコンビニエンスストア。
○同・中
誰もいない店内で、店内アナウンスだけが響いている。
店員の姿も見えない。
自動ドアが開き、フルフェイスヘルメットを被った男(以下、男)が入店。
チャイムが響き渡る。
男「……」
男、自動ドアのところで立ち止まり、店内を見回す。
FF器内は電気が落ちており、商品は並んでいない。
男、右折し、ゴミ箱の方へ。
ゴミ箱のすぐ近くに「事務室」と書かれたプレート。
男、事務室に近づき、プレートをじっと見つめている。
○同・事務室・中
落ち着かない様子で、1人監視カメラを見つめている結城喜久(23)の姿。
喜久はコンビニ制服を着ている。
喜久「なんだよこいつ……普通、ヘルメット脱ぐだろ……」
喜久、事務室の机の上の固定電話に目をやる。
固定電話には「SECOM」の文字と番号。
喜久「(ブツブツと呟いて)……SECOMって、いつ呼べばいいんだろ」
喜久「もし仮に、いや、仮にアイツが強盗だったとしてね?」
喜久「どのタイミングで呼ぶわけ?」
喜久、声のトーンが段々と大きくなる。
喜久「怪しいと思った時?それなら、もう呼ぶべきなのかなぁ……」
喜久、固定電話のボタンに手を伸ばす。
……が、ふと手を止める。
喜久「……いや、それはSECOMに迷惑じゃね?」
喜久、体制を戻す。
喜久「じゃあ、襲われた時?……いやいやいや!」
喜久、自分で言って自分で軽く笑う。
喜久「それじゃ遅いっ━━━」
言い終わらないうちに、事務室の扉が激しくノックされる。
喜久「いぃッ!!!」
喜久、ノックの音に驚いて飛び上がる。
ドアのノックが止まることなく、何度も聞こえてくる。
喜久、怯えながら監視カメラを見つめる。
(監視カメラに、一心不乱にドアを叩き続ける男の姿が映っている)
喜久「な、なんだよこいつ……頭おかしいんじゃねぇか?」
未だ鳴り止まないノックの音。
喜久、固定電話を見つめる。
視線の先には「SECOM」の文字。
喜久、一瞬躊躇うが電話へ手を伸ばす。
男「すみません!!!」
喜久、伸ばした手を急いで戻し、思わず立ち上がる。
喜久「(声を上ずらせて)は、はいぃ!」
男、声を発しない。
ドアのノックも鳴りやむ。
喜久「?」
喜久、不思議そうに監視カメラを覗き込む。
(監視カメラに、レジの前で立っている男の姿)
喜久「ちょっと変わってる客なのかな……?まぁ、何か買ったら帰ってくれるだろ」
喜久、立ち上がってレジへ向かおうとするが、何気なく監視カメラを見つめる。
(監視カメラに映る男性、フルフェイスヘルメットを装着し、手に何か細長い棒状のモノを持っている)
喜久「う、うわぁぁ!」
喜久、思わずその場に崩れ落ちる。
喜久「な、何か持ってる!包丁か何か持ってる!」
喜久、机にしがみつきながら必死に立ち上がり、固定電話に手を伸ばす。
その瞬間、再び事務所のドアがノックされる。
男「……」
喜久、ビクッとする。
喜久、ゆっくりと立ち上がり、事務所のドアに鍵をかける。
喜久「こ、これで、アイツは入ってこれない……」
喜久、胸をなでおろす。
喜久、鳴り止まないドアのノックに背を向けて固定電話に手を伸ばす。
喜久「えっと、SECOMの電話番号っと……」
ノックが再び響き渡る。
男「すみません!すみませーん!」
喜久、男の声を聞いて受話器を戻す。
喜久「な、なんでしょうか……?」
男「……あの、からあげクンを買いたいんですが、買えますでしょうか?」
喜久、壁時計を見つめると、午前3時。
喜久「えっと……すみません、お客様。深夜はフライヤーを取り扱わないことになっておりまして……」
男「それは……困りました」
両者、沈黙。
男「どうしても……どうしても、ダメですか?」
喜久「どうしてもって……いや、そこまでは……」
男「なら、お願いします!」
喜久、困惑し顔を歪める。
男「これで3軒目なんです!どうしても必要で!アレがないと……!アレがないとっ!」
喜久「(男の剣幕に押され)わ、わかりました……。でも、その、ヘルメットは外してくださいよ」
男「あぁ!どうりで視界が狭いわけだ!気づかなかった!ははは!」
男、豪快に笑い、ヘルメットを外す音が聞こえる。
喜久「そ、それから、手に持った……包丁も」
男「(不思議そうに)包丁?持ってませんよ」
喜久「い、いや、さっきレジで━━━」
男「あ、これですか?これは、太鼓のバチです」
喜久「……はい?」
男「ですから、太鼓のバチです」
喜久「な、なぜ、太鼓のバチを?」
男「えっと、お恥ずかしながら私、「太鼓の達人」を趣味としておりまして……」
喜久「はぁ……」
男「昼夜を問わずやっていると、どうしてもお腹が空くものでしてね」
男、豪快に笑いだす。
喜久「じゃあ、その、からあげを食べたい理由って……」
男「カロリーの摂取のためですね」
喜久「それは、他のものでも良いのでは?」
男「ですね!……でも、からあげが1番好きなんですよね」
喜久「しらねぇよ!」
(終)
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