10 「ゴン、お前だったのか」 3/17
お題『カラオケ・持ち曲・点数』
2338文字・75分
タイトル「ゴン、お前だったのか」
○カラオケルーム・中
薄暗いカラオケルームに、真新しいブレザーを着てピアスを開けた幸村康隆(15)が座っている。
幸村、スマホを弄りながら手を伸ばし、「DAM」と書かれたデンモクを掴む。
幸村「よっ、と」
幸村、デンモクを近くに寄せ、タッチペンで操作を始める。
(画面表示「曲選択」)
幸村、ふとタッチペンを持った手を止め、スマホを取り出す。
幸村「……」
(画面表示「LINE」→グループ「1年3組」)
幸村、画面をしばらくスクロールしている。
(スマホ画面が映し出される)
のぞみ「クラス会の会場は、カラオケを予定しています!」
幸村、大きくため息をついて俯く。
幸村モノローグ(以下、M)「俺はいわゆる高校デビュー男」
○回想・桜木谷中学校・前
テロップ「1年前」
校門に書かれた「桜木谷中学校」の文字
○回想・同・3年A組・前
教室のドアについた「3年A組」の文字
○回想・同・同・中
いかにも冴えない格好をした幸村と、2人の冴えない男たち、木村権蔵(14)、飯田智巳(14)がはしゃいでいる。
木村「やっぱり、今季の覇権は『俺コイ』一択でござる!」
飯田「何を言いますか!『俺コイ』は既にオワコン化しています!」
幸村も会話に加わり、会話がヒートアップしていく。
ドアが開き、女子が3人現れる。
その中に、一際目立つ少女、杉崎奈々(14)の姿。
幸村「(奈々に気づき)……」
幸村、杉崎を見てボーッとしている。
女子1「(小声で)うっわ、オタク達がなんか喋ってるよ」
木村「(女子の声を無視して)……であれば、お主は何が覇権だと思っているのでござるか!?」
女子2、木村の言葉に思わず吹き出す。
女子2「(小声で)ござるか、だって!キッモ!」
女子1、2がクスクスと笑い、杉崎も困ったように笑う。
幸村、その会話を聞き、顔を真っ赤にして俯く。
飯田、俯いている幸村に気づく。
飯田「どうしたんですか、幸村殿!?らしくないじゃありませんか!」
幸村「ちょ、声大きいって……」
木村「何を恥ずかしがっているでござるか!昨日のカラオケでは、あんなに豪快に歌っていたのに!」
女子達、クスクスと笑っている。
幸村「何言ってんだよ。クラスではそういう会話はやめとけって」
飯田「いーや、決してやめません!……そうだ、今日も幸村殿の完璧な振り付け歌唱を拝見したいですなぁ!」
木村「それはいい!是非とも『おねシン』を……」
女子2人、爆笑。杉崎も笑っている。
幸村「……ほ、ホントいい加減にしろよ!俺がいつそんな曲を歌ったっていうんだよ!」
男2人、戸惑う。
木村「え?いや、昨日……」
幸村「歌ってねぇよ!」
幸村、怒鳴りつける。
飯田「いや、ダンスまで完璧に……普段から自分の持ち歌だって……」
幸村「う、うぐ……」
木村「そ、そうでござる!しかもすごく上手で、いっつも90点代を……」
幸村、ちらりと杉崎を見る。
杉崎は会話を聞いて笑っている。
幸村「(思わず赤くなって)う、うるせぇ!」
幸村、木村にビンタをかます。
(回想終了)
○カラオケルーム・中
幸村M「あれから俺はオタ友と縁を切り、クラスで孤立した」
幸村M「高校では絶対にオタバレを避けたい。クラス会では普通のJーPOPを歌わねば……」
幸村、タッチペンで入力し始める。
幸村M「とりあえず、最近流行っていた曲は押さえておこう」
幸村、送信ボタンを押す
テレビ画面に、星野 源「恋」と表示され、イントロが流れだす。
幸村M「そして……これだ!」
幸村、デンモクを操作し、画面に「採点」と表示される。
幸村M「高得点をさらっと叩き出し、高スペック男子ってところを見せつけよう。今日はそのための予行演習だ」
幸村、ニヤリと笑いながらマイクを手にする。
幸村M「よし。……いくぞ!」
テロップ「5分後」
画面に大きく表示される65点の文字。
幸村、信じられないといった表情で画面を見つめる。
幸村「(ブツブツと)ひっく……。採点狂ってんじゃねぇのか?」
幸村、再美タッチペンで入力をし、送信ボタンを押す。
テレビ画面に、星野 源『SUN』の文字が表示され、イントロが流れる。
幸村M「よし、もう1回……」
幸村、マイクを手にする。
幸村M「いくぞ!」
テロップ「5分後」
画面に大きく表示される67点の文字。
幸村「(俯きながら)なんでだよ……」
幸村、渋い顔でタッチペンを操作する。
幸村、操作している手を止める。画面には『お願いシンデレラ』の文字。
幸村M「持ち歌の『おねシン』なら……でも」
幸村、悩んだ末に送信ボタンを押し、マイクを手にとる。
流れだすイントロ。
テロップ「5分後」
画面位大きく表示される75点の文字。
幸村「クソッ!やっぱり壊れて……」
幸村、やつあたりで机を叩こうとするが、ふと画面が目に入り、動きを止める。
幸村「……8000ー01?……あいつらとのカラオケは8000ー02だったはず。何が違うんだろ?」
幸村、不思議そうな顔でChromeを起動する。
幸村「(入力しながら)カラオケ 8000-02っと」
幸村、検索結果を見て驚く。
スマホ画面には、「接待モード」の文字が並んでいる。
幸村「(読み上げて)接待モードとは、90点以下が出なくなる……」
(インサート 木村「そ、そうでござる!しかもすごく上手で、いっつも90点代を……」)
幸村、スマホを落とす。
幸村「あいつら、歌が下手な俺のために……。なのに、俺は……」
幸村、その場に泣き崩れる。
(終)
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