9 『キュレルちゃん、マジ天使!』3/16

お題『天使・お仕事・天国』

2550文字・80分


タイトル「キュレルちゃん、マジ天使!」


○住易荘・前

 今にも壊れそうなボロアパート。

 ブロック塀に、「住易荘」の文字。


○同・102号室・前

 古くなった木板に手書きで「102」の文字。

 腰の曲がった老婆がドアを激しく叩きながら叫んでいる。

老婆「秋元さん!秋元康生さん!居るんでしょ!さっさと開けなさい!」


○同・同・中

 ドアを挟んだ所で、秋元康生(27)が地面に伏している。横には大量のゴミ袋。

  (以後、ドアで画面を分割して両方の様子を見せる)

老婆「さっき帰ってくる所は見ましたから!今月も滞納なら出てってもらいますよ!」

 秋元、じっと息を潜めて目をつぶっている。

 老婆、激しくノック。

 秋元、匍匐前進しながら小汚い布団に潜り込む。

老婆「無視ですか!いいでしょう!それならマスターキーで強制的に開けますから!」

 老婆、不敵に笑って踵を返し、精一杯の速さで自分の部屋へ。

  (画面が102号室・中のみに切り替わる)

 秋元、恐る恐る布団から出ながら。

秋元「……あのババァ!ついに強硬策に出やがった。どうしよう、なんとか鉢合わせは避けないと……」

 と言いながら、ドアの方へ視線を移すと、スーツ姿の女性が立っている。

秋元「……って、うわぁぁぁ!!!」

 秋元、思わず飛び上がる。

女性「あ、大丈夫ですよー。私、怪しい者ではありませんからっ!」

 女性、スーツのポケットから一枚の紙を出す。

 秋元、恐る恐る紙を手に取る。

秋元「えっと、天国……送別、サービス?」

 女性、満面の笑みを浮かべる。

女性「はいっ!私、いわゆる、天使をやらせて頂いておりますっ!キュレルですっ!」

  (以後、女性からキュレルへ呼称変更)

秋元「て、天使……?」

キュレル「えぇ!」

 そういって黙る女性と秋山。

秋山「……」

キュレル「(笑顔で)……」

 秋山、壁にかかった日めくりカレンダーを見つめる。「2月21日」

秋山「エイプリルフールには早いんですけど……?」

キュレル「ですねっ!……あ、今日は3月16日ですけどねっ!ダメですよぉ、毎日変えないとっ!」

 キュレル、壁の日めくりカレンダーを指差す。

秋山「あ、すみません」

キュレル「せっかくだから、変えちゃいますねっ!」

 キュレル、カレンダーの所までトコトコ歩いていき、雑に破り捨てていく。

秋山「あ、どうも……」

キュレル「(破り捨てながら)お安い御用ですっ!」

 秋山、呆気にとられ、口を開けながらキュレルを見ている。

 キュレル、楽しそうにカレンダーをめくり続ける。

秋山「(我にかえり)じゃなくて!」

 秋山、つかつかとキュレルに詰め寄る。

秋山「意味わかんないんすけど!?天使!?なんですか!?なんの御用ですか!?」

 秋山、まくし立てた後、はっとなる。

秋山「俺、死ぬんすか!?そうなんすか!?」

 キュレル、笑顔を崩さない。

キュレル「まぁまぁ、落ち着いてくださいっ」

秋山「落ち着けるわけないでしょ!」

キュレル「じゃ、落ち着かせますっ。……えいっ☆」

 キュレル、拳を握りしめて秋山の鳩尾へ叩き込む。

秋山「かはッ!」

 秋山、腹を抑える間もなくその場に崩れ落ちる。

キュレル「(満面の笑みで)これで、ちゃんと説明できますねっ!」

 秋山、顔面蒼白になり、嘔吐する。

 鍵が差し込まれる音がした後、ドアがゆっくりと開いていく。

キュレル「(ドアの方を振り向き)おっ、来ましたっ!」

 ドアが完全に開き、老婆が現れる。

老婆「今日こそ年貢の、いや、家賃の収めどきですよ!あきや━━━」

 老婆、キュレルと目があう。

キュレル「(満面の笑みで)どうもっ!」

 キュレル、ぴょこんとお辞儀する。

老婆「(キュレルに面食らいながら)え?……あぁ、どうも……?」

 老婆、おずおずと会釈をし、足元で嘔吐している秋山に気づく。

老婆「キャァァァ!」

 老婆、その場にへたり込む。

キュレル「あ、ごめんなさいっ!驚かせるつもりはなかったんですっ!」

 老婆、怯えた目でキュレルを見つめる。

老婆「……た、たすけて」

キュレル「(満面の笑みで)なんですかぁ、そんなに怯えてっ!」

 キュレル、老婆に手を差し出す。

老婆「(後ずさり)ひっ!」

 老婆、腰を抜かしながら必死に出口の方へ這っていく。

キュレル「あっ、逃げないでくださいっ!」

 キュレル、ヒールで老婆の足を勢いよく踏みつける。

老婆「(目を見開き)ウッ、ギャアァァァァ!」

 キュレル、耳を抑える。

キュレル「(頬を膨らまし)もうっ、うるさいですよっ!」

 キュレル、老婆の足を片手で掴み、宙吊りにする。

キュレル「(満面の笑みで)近所迷惑になりますからっ。……えいっ☆」

 キュレル、老婆を201号室の壁に投げつける。

 老婆、勢いよく壁に叩きつけられ、痙攣する。

キュレル「あ、また手荒くなっちゃった☆」

 キュレル、頭にコツンと拳を当て、舌を出す。

キュレル「(笑顔で)さてと、お仕事、お仕事っ!」

 キュレル、地面に手をつき、ブツブツとつぶやく。

 紫色の光と共に、血で濡れた釘バットが出てくる。

キュレル「いっけな〜い、掃除忘れてましたっ!でも、いっか!」

 キュレル、後ろを振り向き、ドアノブに手をかける。

キュレル「騒音対策、しないとねっ!」

秋山「……」

 キュレル、足元に転がっている、吐瀉物まみれの秋山を一瞥する。

キュレル「本来であれば、送別の対象じゃないんですけど……」

秋山「……」

 秋山、キュレルを力なく見上げる。

キュレル「(満面の笑みで)ま、いっか☆」

 キュレル、釘バットを高く振りかぶり━━━。

キュレル「おまけ、ですっ☆」

 勢いよく振り下ろす。

  (インサート、ジッパーに入れられた肉を叩き潰す映像)

キュレル「うふふっ!キュレルちゃんっ、よくできましたっ!」

 キュレル、返り血にまみれて嬉しそうに笑い、ドアの方へ振り返る。

キュレル「あ」

 外には腰を抜かして動けない通行人が1人いる。

 キュレルの口角が徐々に上がっていく。

   (暗転)

キュレルの声「……見ましたぁ?」

 (終)

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