7 「お前の知らない、計算された失敗」 3/14

お題『学校・課題・期限』


タイトル「お前の知らない、計算された失敗」


指定→800字以上・60分

実際→1900字・80分


○結城家・前(深夜)

 新築の一軒家の表札に「結城」の文字。


○同・正義の部屋・前(深夜)

 綺麗なプレートに「まさゆき」の文字


○同・同・中(深夜)

 壁にかけられたカレンダーは8月31日が赤くマークされている。

 ベットに置かれたデジタル時計には、23時45分の表示。

 そのすぐそばで、結城正義(17)が眠っている。


○吉井家・前(深夜)

 テロップ『同時刻』

 今時珍しい、トタン屋根の古びた家がある。


○同・中(深夜)

 吉井和樹(35)、吉井悠子(32)、吉井正樹(17)、吉井真美(7)が布団で寝ている。

 そのうち、悠子と真美は同じ布団で眠っている。

正樹「……」

 正樹、苦しそうに寝返りを打つ。


○結城家・正義の部屋・中(深夜)

 テロップ『5分後』

 正義が寝返りを打つ。

 その際、僅かに寝心地が悪そうな表情をする正義。

 しかし、すぐに表情は元に戻り、正義のいびきが室内に響く。


○吉井家・中(深夜)

 テロップ『同時刻』

 正樹、寝苦しそうな表情で寝返りを打つ。

 薄い枕は正樹の頭の形に沿って潰れている。

 和樹のいびきが室内に響いている。


○結城家・正義の部屋・中(深夜)

 テロップ『10分後』

 けたたましく鳴り響くアラーム。

 しかし、正義は起きる気配がない。


○吉井家・中(深夜)

 テロップ『同時刻』

 急に目を見開く正樹。

 そのまま立ち上がり、あたりを見回してから部屋の隅へ歩いていく。


○結城家・正義の部屋・中(深夜)

 テロップ『10分後』

 先程と変わらず、アラームが室内でけたたましく鳴り響いている。

 一向に目覚める気配のない正義。

 アラームに混じって、ドアをノックする音が聞こえる。


○吉井家・中(深夜)

 テロップ『同時刻』

 和樹、悠子、真美が寝ているが、正樹の姿がない。


○結城家・正義の部屋・中(深夜)

 テロップ『15分後』

 ドアが開けられる。

 部屋の中に、結城涼子(42)が入ってくる。

 涼子、ベッドの方を見つめ、近寄っていく。

涼子「……正義?」

 涼子、ベッドに手をかけ、毛布をめくる。


○公園(深夜)

 誰もいない深夜の公園。

 ベンチに正樹が1人腰かけている。

 その手には、1枚の紙。

 足元に大きな黒いケースが置いてある。


○結城家・正義の部屋・中(深夜)

 涼子の目の前には、誰も寝ていないベッド。

 涼子、慌てて部屋を出る。

 枕元には、先程とは異なる柔らかそうな高反発枕があった。


○公園・(深夜)

 ベンチに座っている正樹が、手元の紙を読んでいる。

 メガネをかけた神経質そうな表情の正樹。

 足音が聞こえ、ふと顔をあげる正樹。

 視線の先には、コンビニ袋を手にした正義の姿。

正義「悪りぃな、どこも売ってなくてよ!」

正樹「深夜だからな。そんなことより早く仕上げよう」

 正樹、手元の紙を正義に見せる。

正義「天体観察の課題?そんなもん、あとでいいだろ」

正樹「今日が提出日だ!俺が起こしに行くまで普通に寝ていられるって、どんな神経してんだ」

正樹「いや、約束に備えてはいたぞ」

 正義、コンビニ袋から肉まんを取り出し、正樹に差し出す。

正樹「望遠鏡を用意したのはわかる。ただ、何故それを枕にしていたのかが分からん」

 正樹、足元の黒いケースを見つめながら、差し出された肉まんを受け取る。

正義「寝過ごすのを防ごうとしてたんだ」

正樹「……だからって枕にした意味がわからない。そもそも寝過ごしていただろ」

 正義、正樹の言葉を無視し、コンビニ袋からあんまんを取り出す。

正義「ぅあっつ!」

 正義、あんまんを地面に落としてしまう。

正樹「もったいない……」

正義「大丈夫、食える食える」

 正義、あんまんを拾おうと屈む。

 正樹、ため息をつき、手にしていた肉まんを2つに割って差し出す。

正樹「……これなら、清潔なものを食えるし、課題にも早く取りかかれるだろ」

 正義、照れ臭そうに笑い、肉まんを受け取って正樹の隣に座る。

正樹「早く終わらせて、早く帰ろう。お前の家は深夜の外出禁止だろ?」

正義「(小声で)……早くは終わらせたくねぇ」

正樹「?何故だ、早いほうがいいだろ?」

 正義、俯いている。

正樹「?正義、どうした、腹でも痛いのか?」

 正義、豪快に笑い始める。

正義「……いや、大丈夫だ!早く終わらせようぜ!」

正樹「当然だ」

 2人、それぞれの手元の肉まんへ同時に齧り付く。

(終)

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