6 「銀幕デビュー!」3/12

お題『犬・猿・キジ』

指定→1000文字以上・60分以内

実際→2151文字・65分

タイトル「銀幕デビュー!」


○古民家・前

古びた古民家。


○同・中

囲炉裏を、おじいさん(68)とおばあさん(65)が囲み、暖を取っている。

引き戸がノックされる。

 若者の声「しっ、失礼しますっ!」

 おじいさん「どうぞ」

引き戸が開き、外には若者(27)の姿。

若者、緊張した様子で立っている。

 おばあさん「おかけください」

若者、不思議そうに室内を見渡す。

 若者「えっと、失礼ですが……どこに座れば?」

 おじいさん「どこって、ここに決まってるでしょうが」

おじいさん、自分の座っている横のスペースをポンポンと叩く。

 若者「えっ!?……はぁ、失礼します」

若者、戸惑いながらも指定された場所に座る。

 おばあさん「桃太郎役って事でね、アットホームな面接にしたいのよ」

 若者「あっ、だから面接官も役者の方が」

 おじいさん「そうそう、斬新でしょ?」

若者、ぎこちない笑みを浮かべる。

 おじいさん「それで、志望のきっかけは?」

 若者「あっ、はい!国民の多くが知っている桃太郎という作品に関わる事で」

 おばあさん「うんうん」

 若者「多くのメディアに注目されたいと感じたためです!」

 おじいさん「出たよ、仮面ライダー理論」

 若者「えっ?」

おじいさん、あぐらをかく。

 おじいさん「多いんだよね。役を自分の活躍のチャンスとしか捉えられないイケメン崩れがさぁ」

 若者「……」

 おじいさん「ちょっと顔が良いからイケメン枠でイケるだろ、的な?」

おじいさん、若者を睨む。

 おじいさん「役者なめんじゃねぇぞ」

 おばあさん「(おじいさんの方を向き)ちょっと!」

 若者「な、舐めてないです!」

若者、立ち上がる。

 若者「だって、わからないんですもん!どうやったら俳優として成功できるか、なんて……」

 おばあさん「……」

 若者「大学卒業してから、必死にアルバイトして、必死に演技の勉強しましたよ!」

若者、拳を握りしめる。

 若者「でも、オーディションの結果は、いつも同じ不採用!」

 おじいさん「……」

 若者「……大学の友達は、みんな社会人として前に進んでるんです」

 若者「それなのに僕は……。僕は、バカみたいに夢に縋り付いて……」

若者、俯く。

 若者「……今日落ちたら、諦めようと思ってます。……夢には、期限がありますから」

おじいさんとおばあさん、顔を見合わせる。

 若者「……すみません、取り乱して」

 おじいさん「(息を吐き)……じゃ、期限が切れるのは、もう少し先だな」

 若者「えっ?」

 おばあさん「ふふっ、合格ってことよ。……というより、元から決まっていたのだけれどね」

若者、顔が急に明るくなる。

 若者「えっ?……えっ?合格!?決まってた?嘘ぉ!?」

おじいさん、おばあさん笑顔で見守っている。

 若者「やっと……!やっと俺にもチャンスが!銀幕デビューから主役なんて!」

 おじいさん・おばあさん「え?」

 若者「……え?」

 おじいさん「主役ではないよ?」

 若者「え」

 おばあさん「桃太郎なのは間違いないんだけど、端役よ?」

 若者「え、だって桃太郎の作品なら桃太郎は主役じゃ……」

 おじいさん「今回は、犬と猿とキジが主役なの。ちゃんと説明読んだの?」

若者、慌ててスマホを取り出し、読んでいる。

 若者「謀殺された桃太郎の仇を取るために、犬と猿とキジが力を合わせる、新感覚復讐劇?」

 若者「えっ、僕死ぬんですか!?」

 おばあさん「開始1分くらいでね」

 若者「短っ!」

 若者「えっ、ちなみに猿と犬とキジはその、リアルな動物が?」

 おじいさん「いや、実写じゃないよ。冒頭以外はアニメーション」

 若者「それ、冒頭が実写の意味あります!?」

 おばあさん「文句なら監督にどうぞ?」

 若者「うぅ……」

若者、頭を抱えてうずくまる。

その様子を眺める2人。

 おじいさん「まぁまぁ、そう落胆しなさんな」

おじいさん、若者の方に手を置く。

 おじいさん「開始5秒しか映らないワシらよりマシだろ?」

 おばあさん「そうよ、あなたは、セリフもいっぱいあるじゃない?」

 若者「……」

 おじいさん「どんな役でも関係ない。大切なのは、自分の演技で映画を引き立たせることだ」

若者、おじいさんを見つめる。

 おばあさん「さっきの「夢の期限」の話、おじいさんも若い頃にしてたわ」

若者、はっとする。

 おじいさん「……期限切れって思う度に役がきて、いつの間にかこの歳じゃ」

おじいさん、笑う

 おばあさん「(若者を見て)1分の間に演技を見せつけましょ?」

 若者「そう、ですね!」

若者、立ち上がる。

 若者「憧れの銀幕デビューは端役だったけど、精一杯がんばります!」

 若者「だから、よろしくお願いします!」

若者、2人に頭を下げる。

2人、微笑んでいる。

 若者ナレーション「その後、やはり冒頭の実写は必要ないと判断した監督が、実写パートをばっさりカット」

 若者ナレーション「結局、僕の銀幕デビューはしばらく先になったのでした」

(終)

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