5 「タッチの差」 3/11

お題『海・食べ物・思い出話』

指定→1000文字以上・60分以内

実際→1400文字・57分

タイトル「タッチの差」


○海水浴場・前

遠くに荒れた海が見える。

手袋を付けた国元雪(16)と、コンビニ袋を持った国元舞(16)が立っている。

雪、はあっと白い息を吐く。

 舞「いやー……まぁ、そうだよねぇ」

 雪「そりゃあ、12月だからねぇ」

 舞、コンビニ袋から肉まんを2つ取り出す。

 舞「(雪に片方を突き出して)ん」

 雪「おっ、サンキュー」

2人、その場に立ち尽くしながら肉まんを食べ始める。


○インサート、病棟・中

ベッドに、生命維持装置に繋がれたら国元梓(35)が仰向けになっている。


○場面戻る

 舞「お母さん、大丈夫かな?」

 雪「……知らない、あんな人」

舞、雪の顔を見つめる。

 舞「……そっか」

雪、鼻をすする。

2人、黙々と肉まんを食べ続ける。

 雪「……んまい」

 舞「うん」

 雪「……コンビニの肉まんを、初めて食べたのってさ」

 舞「うん」

 雪「小学生高学年くらいの時だっけ?」

 舞「……そうだねぇ、お母さんが買ってきた奴を食べたねぇ」

 雪「(肉まんを食べるのをやめて)……」

 舞「雪があんまりにも懐かないもんだから、懐柔策としてね」

舞、ふふっと笑う。

雪、顔をしかめる。

 雪「むしろ舞の方がおかしいんだよ。いきなり他人が「お母さん」って名乗ってくるんだよ?反発するのが自然だって」

 舞「いや、反発してたよ?雪には違って見えてたってだけ」

 雪「うっわ、あの頃から腹黒だったってわけ?こわいわー!」

 舞「言い方!」

舞、肉まんの皮がついた紙を丁寧に指で取りながら。

 舞「いや、一応あたしの方がおねぇちゃんだからね。一緒になって露骨に反発するってわけにもいかないっしょ」

 雪「まーた、おねぇちゃんぶって。タッチの差なのにさ」

 舞「陸上と同じよ。タッチの差が命運を分ける」

 雪「うっわ、損したぁ」

2人、笑い出す。

 雪「……あたしさ、全然あの人と話したことないんだよね」

 舞「(微笑みながら)……うん」

 雪「顔見ると、なんかすっごく不愉快な気持ちになってね」

 舞「うん」

 雪「……あたしたちを置いて出て行ったお母さんの事とか、ほとんど関わってこないオヤジの事とか、色んなモヤモヤが溢れてくんの」

 舞「……」

 雪「でも、考えてみたらさ」

 舞「うん」

 雪「……あの人は、悪くないよね。それなのに反発してばっかりで」

舞、予想外の言葉に口を開ける。

 雪「(だんだん小声になりながら)……なんか、もうちょっと優しく接してあげてもよかったかも、なんて」

舞、立ち上がる。

 舞「まだ遅くないよ」

雪、残り一口分の肉まんを物憂げに見つめる。

 雪「……遅いよ、だって、もう……意識ないじゃん」

舞、雪の方へ歩いていき、肉まんを雪の口へ無理やり押し込む。

 雪「むぐっ!?」

 舞「(真顔で)もう後悔したくない、でしょ?」

雪、眉間にしわを寄せながら肉まんを頬張る。

雪、肉まんを飲み込む。

 雪「……強引」

 舞「おねぇちゃんだからね」

 雪「タッチの差のくせに」

 舞「そのタッチの差が運命を分けるの。……久しぶりの対面が遺体で良いの?」

雪、舞を突き飛ばす。

 舞「うわっ、何!?」

雪、舞を置いて走り出す。

 雪「(走りながら)病院まで競争!今度はあたしの方が先だから!」

舞、微笑んだ後に雪を追いかける。

(終)

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